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<東京怪談ウェブゲーム 神聖都学園>


いもうとごっこ
------<オープニング>--------------------------------------
「子供が、学校に入り込んでくるのね」
「ええ」
 学園の教師である響カスミの前に立つ、高等部の女生徒2人。
「幼稚園から紛れ込んだ子じゃないの?」
 顔を見合わせる、少女2人。その視線は、躊躇いと、不安。それに…怯え?
「…、」
 1人が口を開きかけて、閉じる。
「山根さんの…妹だって言ってます」
「…それって、この間の事故のマユリさんのこと?」
「はい。…お姉ちゃんに会いに来たって…」
 何故、躊躇うのか。語尾を濁しつつ、何かを伺うように上目遣いで。
「妹なんていない筈なのに。…あたしたちのせいなのかな…全部」
 小声のつもりか、それとも聞いて欲しかったのか。それ以上は聞き出せず、2人は授業があるからと逃げるように走り去ってしまった。


「手伝ってくれない?子供が1人紛れ込んでるだけだと思うんだけど。全く、保護者は何やってるのかしらね」
 響がそう言って差し出したのは、一枚のメモ。それに、生徒から聞いた話を付け加える。
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・相談者は神聖都学園高等部2年D組女子数人。代表の2人に話を聞く。

相談内容
・高等部校舎に出没する幼児の正体を明かし、再び来ることのないよう諭すこと。

補足
・D組の生徒「山根マユリ」の妹と名乗っているらしいが、当人に姉妹はいない(名簿の家族構成で確認済み)
・名乗られた当人は現在怪我で入院中のため、直接のコンタクトは取れず。
・今までの出没時間は主に放課後。場所は、D組の教室、廊下、階段、物置等。夜間はそもそも生徒がいないので未確認。
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「それじゃあ、宜しくね」


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・巡回
 集まった3人にそう言い、さりげなく立ち去ろうとするカスミ。
「カスミ、駄目だよー」
 がし。
「…おい。生徒にお願いして自分は高みの見物…とは言わないよな?」
 にっこり。
 無邪気な、と言っていいだろうか。内心はともかく、実にあどけない笑みを浮かべた不城鋼がカスミの手を掴む。
「あ、あら。ちゃぁんとやるつもりよ、でも先生忙しいから、ね?」
「元々先生が相談されたんだ。先生も調査に参加するのがスジだろう?
 カスミが目で何か訴えているようにも見えるが、無視。もう片方の手は海原みあおがにこにこ笑いながら掴んでいる。
「じゃ、いこうか」
「あ、あのね、先生はね…」
 半ば強制的に引きずられながら、どうにかして手を解こうと説得を続けるものの。2人がそれに耳を傾ける筈もない。
 病院に行くつもりらしい柚木シリルが複雑な笑みを浮かべ、引きずられて行くカスミを見送ってくるりと踵を返した。

 まずは、とみあおが2つ提案した。ひとつは、カスミにマユリの両親から妹の存在の有無を確認してもらう事。もうひとつは、カスミに相談した生徒2人…どちらか1人でもいいのだが、彼女達から直に話を聞くこと。
「勝手に帰ったら怒るからね?」
 にこにこと。
 両方から笑いかけられたカスミが苦笑いしながら、「わかったわかった」と答えて相談者の名を2人に教え、後でね、とひらひら手を振りながら足取り軽く去って行く。
「逃げられてないよね?」
「大丈夫だろ。俺が逃がすもんか」
 差し当たって逃げられそうで困るのは、教室に残っているかもしれない話題の少女達。
 ――が…。
「いねえか。…分からないでもないが…」
 僅かに残ったクラスの生徒に聞くと、授業が終わった途端その2人を含む数人が逃げるように帰って行ってしまったらしい。
「マユリが怪我しちゃったから、怯えきってるんだろうね」
 んー、困ったなぁ、と呟きながらみあおがため息を付き、
「しょうがない。見回りに徹しよ」
「だな」
 同意し、カスミが戻るまで教室近くで待機することにした。

「あ、此処にいたの」
 電話が終わったかカスミが現れ、やっぱりいないわ、と続ける。
「ん、確認取れればそれでいいや。さー、それじゃ見回りに行こうかー」
「うん、そうだね。はいカスミ、手」
 …しぶしぶながら、カスミが出した手をみあおはしっかりと握り締めた。

 ――カタン。

 廊下を歩いていた3人の後ろで音がする。びくぅっと竦み上がったのは情けない事に年長のカスミで。
「な、なななんの音?」
「さあな――」
 後ろを振り返った鋼が目にしたのは、廊下の向こうに消えた人影のようなもの。
 まだ暗くなるには少し間があるとは言え、校舎内に残る生徒はほとんど居ない筈で。なんだろう?と首を伸ばす鋼。
――ガタタンッッ!

「ひぃっっっっっ!!!!」
 次に音がしたのは、すぐ近くの教室の中だった。後ろに注意が行っていた鋼も驚いたが、それよりも激しい反応をしたのは当然のことながら――カスミ。
「あっ、駄目だよカスミ、こんな所で寝ちゃ」
「…寝てねえよ。あちゃー…やっちまったか」
 みあおに軽いツッコミを入れてから、くたくたっと床の上に倒れたカスミをため息を付きながら見下ろす。全く怪我のないような倒れっぷりもあの音だけで気絶するガラスの心にも感心しつつ、音のした教室を覗き込む。と。
「なっ、何!?」
 ほぼ同時に扉が開き、部活で残っていたらしいジャージ姿の生徒が怯えた顔で飛び出してきた。
「…悪かった。なんでもない。見回り中にでかい音がしたんで…まあ、このとおりだ」
 2人と1人が、廊下に横になって目を回しているカスミを見、あーあ、と言う顔で思い切りため息を付いた。

 ――くす。くすくす。

「しょうがねえな…俺、響を保健室に寝かせてくるわ。この時期に廊下じゃ風邪引いちまう」
「ん、分かった。みあおは見回り続けてるね。何かあれば大声で呼ぶから」
「おっけ。まあ、D組周辺うろついてりゃいいからさ…俺も直ぐ行くよ」
「はーい」
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・出現
「えーと。毛布毛布と。…これでいいか」
 保健医はまだ帰っていないらしく、開いていた保健室のベッドに寝かせて毛布を被せる。何かうなされているらしい声が聞こえるが、これ以上どうしようもないしそれよりも大事な用が自分達にはある。
「ごめんな響。用が済んだら直ぐ戻ってくるから大人しく寝ててくれよ」
 そう言い、反応のない相手にしゅた、と手を上げて急ぎ足でD組へ向かう。

 ――たん。

 小さな、足音が耳に届いた。
 急いで振り返る。
「あ」
 階段の傍から、鋼を不思議そうに覗いている、小さな人影。
「あれか?」
 生徒がうろつくには不自然な時間だ。ましてや、あの位の背の子供なら尚更。
 ――ててててて。
 鋼が行き会うより前に、小さな足音が遠ざかる。が、それとほぼ同時に、背後でも靴音がする。
「みあおか?」
 鋼の問いに答える声はなく。とんとん、と足踏みのように聞こえた音に振り返ると、其処には誰もいなかった。
 ――何か…厭な感じだな。
 鍛えている身には感じるのか。
 変、としか言いようのない、何かが校舎の中に居る、と感じる。
 少なくとも、自分には判断の付かない何かが。
 急ぐか。
 先程の人影を追うことを諦め、D組へ向かう事を最優先にして足を急がせた。
「――っと」
 教室近くで、此方に走ってきたみあおに危うくぶつかりそうになり慌てて足を止める。
「っあ、ごめん。今変なのが見えて…音がしたから走ってきたんだけど。見てない?」
 返した懐中電灯で辺りを見回しているみあお。だが、何の痕跡もなく、ため息を付く。
「俺も見たぞ、変なのを」
「鋼も?」
「ああ」
 みあおの見たものは、どうみても幼児ではない人影。
 鋼の見たものは、この時間に居ること自体おかしい小さな人影。
「――2人居るの?」
「…かもしれないな」
 でなければ、2方向から聞こえた音の説明が付かないと鋼は言う。
「それじゃ、どうやって探せばいいのよ…って、あれ!」
 みあおの言葉に慌てて指差す方向を見ると。
 廊下の真ん中に、2人の…少年と、少女が、鋼達を見つめて立っていた。少年は生きている人間のようにはっきりと…隣の少女はゆらゆら揺らめきながら。
「おねえちゃん、じゃ、ないんだねー。ざんねーん」
 楽しそうに少年が口を開いた。のんびりとした声が、好奇心でかきらきらと輝く目と相まって不思議な印象を与えてくる。
「やっぱり、ちがうよねぇ。どうする?」
 少年は何か訊ねているらしい。やがて顔を上げ、にっこりと笑いかけると、
「それじゃあ、おにいちゃんたちでもいいや。――あそぼうよ。おにごっこねー」
 実に楽しそうにそう告げて、そのまま、ふぅっと2人の目の前から消えた。それに合わせてか少女もゆらっと揺らめくと、こちらはぱたぱたと軽い足音を立てながら廊下の向こうへ走って行く。
「あっ、ま、待ってよ」
 この事態に付いていけなかったみあおがようやく声を出し、鋼と2人で少女の後を追いかける。
 廊下を走り、角を曲がり、階段を上下し。
「――っく、捕まえられねえよこんなのっ」
 少年は、走らずに、行く先々で現れては消える。少女は、向こう側が透けて見える身体で楽しそうに走っている。
「あはっ。たのしいねー」
「こら待てっっ」
「…あ…来たみたいだよー?」
 少年が何か言いながら少女と足を止め、外に向かって顔を向けた。つられて鋼たちが外を見ると、この時間に誰だろうか、校舎へ入ってきたのが見えた。
「よーし、行こうか。…んっ?まってるの?…うん。わかった。それじゃあ、あとでね」
「えっ?」
 言った先から少年の姿はふっと消えてしまう。
「どっちを追う?」
「…入ってきたのが誰か知らないけど、そっちに行った方がいいんじゃないか?『あいつ』が何するかわからないんだから」
「そうだね…」
 今度は階段を降りなければならない。散々走ってきた2人がふぅぅっとため息を付いて顔を見合わせた。


 シリルが、松葉杖を突いた少女を伴って来ていたのに気付いて足を早める。さっきの少年は何処にいるのか、とにかく急がなくては。
「待てーっ」
 シリル達が中に入るのも、追いかけている少年も。
 そう言いながら駆け寄った、が。
「――きゃはっ」
 突然現れた少年に、2人が立ち竦む。当然だろう。
「――くすくすくす」
 いかにも楽しげに笑うその少年。
 そして、走る2人を見てからシリル達に向き直り、
「あ、やっぱりおねえちゃんだ。きょうしつに、おいでよ」
 そのまま壁に向かって駆け出し――するりと壁の向こうへと消えてしまう。
「消えたか――全く、何なんだあれは」
 ちぃっ、と鋼が舌打ちして、そしてマユリに気付きシリルにどうして?と目で問い掛ける。
「彼女が呼ばれてるんでしょう?」
 それに対するは、明確な答え。

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・いもうと
 D組の前で足を止め、躊躇いを見せるマユリ。
「大丈夫だよ。みあおたちもついてるし」
 とん、と自分の胸を叩く少女。
「あ――でも、ひとつ忘れないで。気をしっかり持つことが大事だからね。決して、同情したりしないで…マユリが、 呼んだんだから、ちゃんと帰してあげて」
「うん」
 相手が小学生位に見えるせいか…いや、だからこそ、みあおの姿が異質なものと見えるのか。素直に頷いて、中に入る。
 そこに、
 嬉しそうに開けた教室内でかけまわる少女の姿があった。他に人影は、見当たらない。
『もーいーよ』
 高々と積み上げ、組み合わせた机の影に隠れ、くすくすと笑う少女の…半透明な少女の影。その隙を逃さず、みあおが用意していたデジカメのシャッターを切っているのを上手いもんだ、と眺める。流石に音で気付いたか、少女が動きを止める。

『――おねえちゃん?』
 一歩。マユリが、きっと表情を固くして踏み出す。
「違うよ…あたしには、妹なんていないの」
『…でも…呼んだよ?』
「あれはっ」
 シリルがマユリの傍で、しっかりと応援するように見守っている。それをちらっと見て安心したか、マユリがすうっと息を吸い込んで、
「…あれは、遊びだったの。本当は、いないの…あの場に、妹なんていないの。何処にも」

『――いない…の?』

 ゆら、と少女の影がゆらめく。
 先程まではあれだけしっかりと皆の目に映っていた輪郭が、じわりと室内に溶けて行く。

「そう。いないのよ。いないの――だから、だから!お願い…消えて…っ!!」

『――――』
 影は、黙っていた。ただじっとマユリの顔を見つめ、そしてゆっくりと…ゆっくりと、頷き。
『うん』
 顔も、もう表情の判別がつかない。
 それなのに、その影は…確かに笑い。
『呼ばれたけど、いらないなら帰るね』
「――っ」
 マユリが小さく、息を呑む。それは、恐怖とは違う、別の感情が表に出てこようとしたためか…だが、その場にいる者達の視線に、きゅっと唇を噛んで頷いた。
 少女が、くるりと周りを見渡す。もやのようにしか見えない今でも、そのくらいの動きなら分かる。何か思うことがあるのか、しみじみとした様子でゆっくりと教室を見てから一人一人の顔を見るように位置を変えながら止まり。

『あそんでくれて…ありがとう』

 ぺこり、と。
 頭を下げて挨拶する様子だけはかろうじて目に入った。
『おにいちゃんも』
 その言葉は誰に対してなのか…あらぬ方向を向いたまま。
 そのまま、空気に溶けて行く。まるで何もなかったかのように。

「あれー?さっきの子はー?」
 突如。
 現れた少年が、机の上にちょこんと座ってきょろきょろと辺りを見回した。
「消えたよ。…それはいい。お前誰だ?」
 訝しげな鋼の言葉にも警戒することなく、机の上で足をぶらぶらさせながら楽しそうににっこりと笑いかけ、
「かーくんは、かーくんだよ。お兄ちゃんたちは、だーれ?」
 見た目に合わない幼さに、皆が戸惑いを見せながら何を言おうかと顔を見合わせる。その様子を上から眺めていた少年が、「ん〜?」と言いながらゆっくりと首を傾け、そして外を見て、
「あ。かーくん、帰らないと。じゃーねー」
「え?あ、ちょっと待って…」
 みあおの言葉が届く前に、少年は机からぴょこんと飛び降り…そして、すぅっと宙に溶けて消える。先程までの動きと全く同じだった。
「………」
 唖然。
 何も言えないまま、数分が過ぎた。
 ようやく気を取り直したシリルが、現在の時間を確かめて声を上げるまで。

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・呑気なのは…
「ありがとう…その…」
 マユリが3人を前にして困ったような、泣きそうな…そして、小さな笑みを見せる。
「ごめんね…」
 最後の言葉は、皆に…そして、何もいなくなった場所に。
「ま、コレに懲りたら変な遊びはしない事だな。アレみたいなのがまた寄って来たら厭だろ?」
「…うん」
「ほらほら。山根はまだ入院中なんだから帰った帰った」
 重い空気を払拭するように、鋼がことさら明るい声を出す。それを聞いてみあおが顔を思い切りしかめ。
「ええっ、この机の山どうすんのよ。あたしたちだけでやれっての?」
 みあおの抗議に鋼が肩を竦め、其れを睨む。
「当たり前だろ」
 見事なまでに絡み合った机の団子。それが、教室のど真ん中に鎮座している。
「さっきの子じゃないでしょ?」
「違うだろうな。『まだ』あれは力も何も無かったし。せいぜいが声で人の気を引いたり少し服を引張ったりってところだ。いくらなんでも…相手を突き落としたりは出来ねえよ。まあ…もう1人のやつ、だな」

 病院の検診時間が来る前に、心残りのありそうなマユリと別れ、シリル達がため息を付きながらせっせと机玉の解体を始める。病院を抜け出した事が知れたら怒られるのもそうだが、此方も朝までになんとかしておかなければこの場に居る3人が…特に高等部に所属している鋼が怒られる。だからこそ、真剣に急いでやっているわけで。
「おわらね―――っ」
 時々泣きを入れながら。

 くすくすくす。
 どこかで、少年の笑い声が聞こえたような、気がした。

「――あいつ…今度見かけたら只じゃおかねえぞ。保護者呼んで直談判してやる」
「…存在すればいいけどねえ」
 みあおのツッコミに、シリルがくすっと笑ってがたんと机の一つを引っ張り出した。幸いというか、椅子は微動だにしていなかったので机の配置に困る事もなく、ただ中身が違うのだけは勘弁してもらおうと適当に椅子のある場所に机を並べていく。
 全て終わった頃には辺りは夕暮れを通り越して夜の域に入っていた。


 ちなみに。
 途中で気を失ったカスミは何をしていたかと言うと。

「――先生。起きろって」
「ん〜…あと五分〜」

 ――ようやく帰り際に思い出した鋼たちが迎えに行くまで、しっかりと眠っていた。
 途中寒さで目を覚ましたのか、毛布を何枚も体の上に追加して。

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・エピローグ
「えええええ!?集団ヒステリー!?」
 鋼の大声になんだなんだと視線が集まってくる。しぃ、とカスミが咎める様な顔で唇に指を当て、
「そうよ。だって結局見つからなかったんでしょ?私の場所に連れて来なかったってことはそうよね?」
「いや、だってそれは…」
 見る前に気絶したの先生だし。
「何か言った?…まあいいわ。結局ね、あれは只の幻覚だったのよ。その証拠に、『妹さん』に会った事のある子って 例の悪戯に加わった子だけだったんでしょ?」
 軽く睨みを聞かせたカスミの言葉には、確かに一理ある。――あくまで、『生徒』としての理屈なら。
「でもみあおも見えてたよ?」
「だからっ、あなたは当事者達の話を聞いたでしょ?その子たちの感情を受けたんでしょ?…見えたっておかしくないわよ。ほら。何の不思議もないじゃない」
 どうやら、理屈だけでどうにか結論付けようとしているようで。
「…センセー、もしかして幽霊は信じなくても超能力は信じるタイプ?」
「っ、と、とにかくっ。そういうことで、ほら、もう出なくなったんだし、ねっ!?解決ってことで、ねっねっ!?」
 どうにかして解決した事にしたいらしい。3人が目を見合わせ、肩を竦める。

「それじゃ、コレは見せなくてよかったのかもね」
 カスミと別れ、校舎を出た3人。みあおがプリントアウトした写真をひらひらと手の中で振る。
「…いやー、これだって観たってシミだって言い張るよ。あの調子じゃ。でも絶対保管しようとしないし、今晩寝れないだろ。今だって本心から納得してるとは思えねえもん」
「あははっ、ホント」
 みあおが可愛らしい笑い声を立てる。その手に握る、『証拠』を見ながら。シリルもくすっと笑いながら、写真を覗きこむ。

 ぼぅ、と…かろうじて人の姿に見えなくもない、酷く歪んだ影が。
 放課後の教室…机の影に隠れるようにして、こっちを見ている小さな影が、写っていた。
「一番良く撮れたのでコレだもんなぁ。んー、もっと枚数撮っておけば良かった」

「…で、こっちは誰よ?」
「そんなの聞かれたって分かんないよ。かーくんだっけ?そう言ってたけど…」
「みあおと同じ位の歳に見えたのになぁ」
 むー、とみあおが膨れた顔をして鋼を見上げ、ぷい、と横を向く。
「みあお、全国の小学生と知り合いじゃないもん。いくら歳が近く見えるからって」
「あーあー、悪かったって。拗ねるなよ」
 別の場所で写した影。それは、少年の姿。現れたところを写したのか消えるところだったのか、身体の線が奇妙なブレを見せて所々透けている。もう1人の『妹』とは全く異質な写り方をしている。
「笑ってたよね。それだけは覚えてる」
「――そうだな…楽しそうだった」
 鋼の言葉を聞いてシリルがゆっくりと頷いた。彼女の前に突如現れた少年は、全く罪のない顔をしながら、あれだけの事をしてのけたのだから。
「あ、そう言えばマユリどうしてる?」
「大人しく寝てますよ。本当ならもう退院しててもおかしくない筈だったんですけど…」
 あの後、急いで帰ろうと焦ったお陰で、途中で階段から滑り落ちたのだとか。言いながらシリルが顔を曇らせる。
「完治していない状態の山根さんを1人で帰してしまって…後悔してます」
 今日もこれから見舞いに行くのだと言うシリル。それじゃ、一緒に行こうかと同じ方向に歩き始める2人。

 …ちらちらと、吐く息よりも白いものが音もなく舞い降りて、地面に触れ、やがて消えた。



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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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【整理番号 / PC名 / 性別 / 年齢 / 職業】

【1415/海原・みあお/女性/13/小学生          】
【2036/御崎・神楽 /男性/12/小学生          】
【2239/不城・鋼  /男性/17/元総番(現在普通の高校生)】
【2409/柚木・シリル/女性/15/高校生          】

NPC
山根マユリ

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■         ライター通信          ■
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お待たせしました。「いもうとごっこ」をお届けします。
今回は時間の関係もあり、4人で締め切らせていただきました。

そして、参加してくださった皆様ありがとうございました。
今回のお話では、行動をほぼ共にしている海原さんと不城さんの2人がほぼ共通の内容になっており、柚木さんは途中から、御崎さんに到ってはほとんど独立した話になっています。
参考にさせて頂いた各プレイングから、この様な作りになりましたが、どうでしたでしょうか。
楽しんでいただければ幸いです。

それでは、ご縁があればまた別の場所、別の時間でお会いしましょう。