コミュニティトップへ
高峰心霊学研究所トップへ 最新レポート クリエーター別で見る 商品別一覧 ゲームノベル・ゲームコミックを見る 前のページへ

<東京怪談ウェブゲーム 草間興信所>


心傷

●オープニング

 冬真っ盛り。
 吐く息は白く、地面に霜が見え初め、吹く風は寒いというより、どちらかといえば痛いという感覚に近い。
「……外なら、納得できるんだけどな」
 言って、草間は身を縮こまらせる。不運というか、整備不良だか使いすぎだかで、興信所のエアコンが止まってしまったのだ。
 自分ではハードボイルドを気取っている身としては、こたつで丸々のはできるだけ遠慮したい。というわけで。
「その……受けてもらえるでしょうか?」
 目の前にいるのは、見た目20代後半のなかなかの美女。この辺りでは多少有名な資産家の秘書だとか。
「……お家騒動、ねぇ」
 何でも、彼女の仕えている資産家に、隠し子がいることが判明したらしい。それだけでも大変なことなのだが――
「その娘、本当にその――人間じゃない、のか?」
「……わかりません。普段はとても純朴で、礼儀正しくて、気立てもいい。これといって欠点などない娘さんなのですが」
「たまに、怪現象を引き起こす、と」
 そうなのだ。なんでもその娘、稀に夜寝る時にうなされ、心配になって誰かが近づこうとすると、辺りにある物が飛んできて、近づいた人を攻撃するらしい。
「ええ。どうしたものかと思っていたら、ここの話を聞いたので……その、こういう話があまり好きではないのは承知なのですが……」
 確かに、興信所には『怪奇ノ類 禁止!!』等の張り紙がしてある。
「ふ〜む……」
「報酬の方は、前金でいくらかは。後、解決したらその倍、程度で――」
 言われ、草間はチラっとエアコンを見る。しばらく動かしていないせいか、埃がたまっていた。
「……わかった。その依頼、受けよう」
「本当ですか! よかった……では、屋敷でお待ちしています」
 言って、秘書は興信所を出ていく。
「お兄さん、お話終わりましたか?」
 秘書と入れ替わるように、少女――零が入ってくる。
「ああ。またあっち系の依頼だ。電話、頼む。それと……どうも、当たらない俺の勘だと、今回妖怪とかは関係ないような気がする」
「え? なら……」
「いや、あくまで勘だ勘。んじゃ、頼むな」
 言って、草間は部屋の隅っこの窓から最も離れた場所でタバコを吸う。
 その姿は、どう見てもハードボイルドではなかった。  

●エアコンのない興信所

「こんにち――寒い!」
 中に入って開口一番、文句を言ったのは海原・みあお。
 どう見てもそうとは見えないが、一応年は13らしい。
「ごめんなさいね。武彦さんが暖房壊しちゃったみたいなのよ」 
 ため息をつきながら、シュライン・エマが言う。
 彼女もここに来て結構たつが、こういうケースはあまりなかった。別にケースという程すごいものでもないが。
 とりあえず、今年のクリスマスは期待できそうにない。
「全く、何で妾がこんな寒い所に……」
 ぷくっと頬を膨らませながら、椿・茶々。
 その頬が膨らんでいるのは、怒っている――だけではなく、鯛焼きを頬張ってるからだろう。
「お前らな……俺が悪いんじゃない! 悪いのは壊れた機械だ! 何で皆して俺を責める!?」
 バンバンと机を叩きながら、草間が声を張り上げる。
 それを聞き3人はチラっと視線を交わし、
「……だって」
「……ねぇ?」
「……じゃのう」
 何かを納得したらしく、同時に頷く。
「何だそれ! どういうことだ!?」
 草間が立ち上がろうとした所で、ガチャっとドアが開き、一人の青年――芹沢・青が姿を現す。
「バイト先の紹介で来たんだが……ここ、本当に室内か? ヘタしたら外より寒いんだが」
「ごめんなさいね、武彦さんが――」
「それはもういい!」
 皆まで言わせず、草間が声を荒げる。
「ともかく――これで全員だな。じゃ、早速依頼主んとこに行くか」
「行くって、まだ内容を聞いてないんだが……」
 いそいそと準備を始める草間に、青が声をかける。
「ま、その辺りの事情はいきながら説明する。ほれ、行くぞ。いつまでもこんな寒いとこいたくないしな」
 何だかんだと言いながら、草間自身もこの寒さは結構応えているらしかった。

●やたら豪華な屋敷

 草間に連れられてやってきた屋敷は、確かに凄いものだった。見た目は古風だが、広さが半端ではない。恐らく、一周しようとしたら10分程度かかるのではなかろうか。
 と、その屋敷の入り口に、女性が一人。
「彼女が今回の依頼人だ。まぁ、詳しい事はあっちに聞いた方がいいな。んじゃ、俺はエアコン探しに行くから」
「いや、依頼受けた本人がいなくなっていいのか……」
 青が呟くが、どうやら草間は聞こえなかったらしい。あるいは、聞こえていて無視したのか――とにかく、さっさとその場からいなくなる。
「とりあえずは挨拶ね。行きましょう」
 こういう反応には慣れているのか、シュラインはさっさと女性に近づく。皆も、その後に続き、
「お待ちしておりました。あなた方が……?」
「うん、そうだよ〜♪」
 やたらと元気に、みあおが返事をする。
「そうなのじゃ。さっさと中に入れて欲しいのじゃ。鯛焼きが冷めてしまうのじゃ」
 いつの間に手に入れたのか、茶々はその手に紙袋を持っていた。言葉通りなら、中身は鯛焼きだろう。
 子供二人に挨拶され、女性は何やら困ったような表情をする。
「あ、と……今回依頼を受けることになりました、芹沢青です」
 反応を見て、慌てて青が挨拶をする。
「あ……どうも、私この家の主人の秘書をしています、中沢と言います」
 ようやっとまともに話せそうだと思ったのか、中沢はほっとため息をつく。
「ま、こんな所で立ち話もなんだし……中に通してもらってもいいかしら?」
「あ、はい、そうですね。え〜っと……」
「シュライン・エマよ。さ、行きましょう」
 シュラインが言うと、中沢は「こちらです」と言いながら先に進んで行くのだった。
 
●物静かな少女

 5分程歩いただろうか。着いた所は広々とした畳部屋。何やらいかにも高そうな壷やら掛け軸やらが置いてある。
「さて……何か、聞きたい事はありますか?」 
 中沢の言葉に、まず声をあげたのは青。
「そもそも、彼女はどういう経緯で隠し子だってわかったんですか? それと、以前は一体どこに?」
「ご主人様が言ったのです。あの子は私の娘だ、と。それ以前は、施設で生活していたようですね。あまりいい環境ではなかったようです」
「どういうとこだったの?」
 みあおが首を傾げる。
「その……そこは、両親がいない子供達が預けられる場所でして。つまり……何をしても、咎められることはなかったのではないか、と」
「……最悪だな」
 青が眉間に皺を寄せる。
 彼自身も、決して楽ではない子供時代を過ごしてきたのだ。あまり人事とも思えない。
「とにかく、本人に会って話がしてみたいのじゃ。夜ならともかく、昼間なら話せるのじゃろう?」
「……わかりました。お嬢様に聞いてみます」
 茶々に言われ、襖を閉め中沢が出ていく。
「……これはRSPK……かしらね」
 それまで黙っていたシュラインが、顎に手を当てながら言う。
「あーるえすぴーけー?」
 聞き慣れない言葉に、みあおが棒読みで質問する。
「要は、ストレスが溜まって、力を暴発させているって事。思春期の子供は、特にストレスを溜めやすいから。まして、過去も現在もこれじゃあ、ね」
「ストレス……皆大変なんじゃのぉ」
 しみじみとしながら、茶々。確かに、彼女はストレスとはかなり無縁だろう。
「失礼します」
 その時襖が開き、一人の少女が姿を現す。年は十代半ばで、美人というわけではないが、優しそうな雰囲気がある。
「あなたが、ここのお嬢さん?」
「はい、美紀と言います」
 みあおに聞かれ、美紀がペコリと頭を下げる。なるほど、確かに気立ての良さそうな少女だ。
 ただ、緊張しているのか、動きが堅い。このまま質問しても、余計にストレスを溜めるだけかもしれない。と言って、呼び出した手前、何もしないわけにもいかないのだが。
「え〜と、美紀さん? その、怪現象を起こしてる時の記憶とか、いつ頃起きてるか、とか。わかりますか?」
 青が丁寧に質問する。が、
「え、えと、あの……」
 やはり現状ではちゃんとした答えは得られそうにない。ここは時間を置くべきか―― 
 青がチラっとそんな事を考えた時。
「まずいのじゃ〜!」
 いきなり、茶々が大声をあげる。どうやら鯛焼きを食べていたらしいのだが……餡の色が普通ではない。
「間違えて抹茶味を買ってしまったのじゃ〜。はぅ〜」
 何とも言いようがなく、場に沈黙が落ちる。その時、少女がクスッと笑った。
 そして、茶々の食べていた鯛焼きを少しちぎり、口へ。
「おいしいですよ。ちょっと苦いですけど」
「……本当かぇ?」
「ええ。ほら、あ〜んして」
 言われた通り、茶々は口を大きく開ける。
「……やっぱりおいしくないのじゃ……」
「そうですか? それじゃ、今度おいしい鯛焼きをたくさんあげますよ」
 ニッコリと微笑みながら、少女。それを聞き、茶々の顔も輝く。
「……とりあえず、緊張は解けたみたいね」
 どこか、呆気にとられつつシュライン。その言葉に青が頷く。
「それじゃ、改めて……さっきの質問、答えてもらえますか?」
「えと……記憶は、ないです。いつ頃起きてるかは……周期、とかはないみたいです。強いて言うなら夜、ですけど……」
「なるほど」
 青が言って、ふむ、と唸る。
「夢でうなされるって、何か理由があると思うんだけれど……心当たりとか、ある?」
 みあおが聞くと、美紀は下を向き、考える。
 その様子は、思いつかない、というわけではなく、何か知っているが言えない、もしくは言いたくない、という風に見える。
「……心当たり、かはわからないですけど……夢を見る時は、いつも怖いんです。誰かが近づいて来るんです。それで……だと思います」
「誰かって……誰か、わかる?」
 続けてのみあおの質問に、少女は口を開きかけ、また閉じ。そしてまた開きかけ――
「いいわ、とりあえず質問を変えましょう。あなた、お父さんの事と、ここの周りの人、後――お母さんの事、どう思ってるのかしら?」 
「お父さんは……嫌いです。周りの大人達も……中沢さんだけは、私に優しいですけれど、他の人は――」
 悲しそうに言う。どこか、何かを諦めているように。
「お母さんの事は、覚えてません。でも、優しかったと思います」
 それだけは、嬉しそうに言う。
「そう……わかったわ」
 シュラインは、頷き言葉を切る。
「……妾は難しい事はわからぬが、言いたい事をハッキリと言えば、自ずと道は開けるものじゃぞ?」
「そう……かもしれませんね。心に留めておきます」
 茶々の言葉に、美紀は弱々しく微笑んだのだった。

●トラップ

 夕方。美紀を部屋に返し、一行はこれからの方針を考えていた。
「何か黙ってたよね。絶対」
 みあおが難しそうな顔をしながら言う。
「そうね……本人は理由をわかってるんでしょう。ただ、言いたくないのね」
 シュラインもどうしたものか、と思案する。
 こういったものは焦ってどうこうするのが一番悪い。ゆっくり時間をかけて治すべきだ。
 しかし、何が原因でこうなっているのか。それがわからない事には、治す以前の問題である。
「何か言ってもらわぬ事にはのぅ……」
「ああ。こっちとしてもお手上げ、か」
 茶々と青も口々に言う。 
「口篭もったのは、夢で出てくる誰かの事を聞いた時だったよね」
 みあおが言い、全員が頷く。
「それはつまり、知ってる人だったんじゃないかな? それが誰かはわからないけれど」
「……あの口ぶりだと、お母さんでは無いようね」
 となると、残っているのは父親か、周りの大人達か……
 この屋敷に何人の人がいるかは知らないが、その犯人を絞り込むには相当時間がかかるだろう。
「可能性はある……か」
 突然、青がポツリと呟く。
「何のことじゃ?」
「一種の賭けで、もしかしたら荒療治かもしれない。でも、現状ではそこそこいい案だと思う」
 そう前置きして、青は話を始めた。

●最後の光景

 夜。一人の男が、屋敷の廊下を歩いている。歩みを進めるその度に、ギシ、ギシ、と小さな音が響く。
 男は、目的の部屋に来たのだろう。足を止め、そっと襖を開ける。部屋には、静かに寝息を立てる少女が一人。足音を立てないように細心の注意を払い、近づく。
「今日でしばらくはお預け、か……」
「いいえ、永遠に、ね」
 いきなりの女の声に、振り向く。立っていたのはシュライン。
「どうやらビンゴ、か」
 続いて姿を現したのは青。
「な……何故お前らが……帰ったはずでは……」
「そういう事にしておいたんだよ。そっちのが油断しやすいでしょ?」
 次の声は、布団から聞こえた。ハっとして再び振り向くと、そこにはみあおがいた。
「ふう、せまいのじゃ」
 更に、押し入れの中から茶々が現れる。その横には、美紀がいる。
「お父さん……」
「違う! これは……」
「夜ごとに襲おうとしては、彼女の能力に撃退されてたわけね」
「とんだ資産家だな。ま、こういう事になっちゃただじゃ済まないだろうが」
 連続で言われ、美紀の父は言葉を失う。
「何故……わかった」
「なんとなく、かな。美紀が嫌い、って言ったからね。はっきりそう言うのは、ちょっと意外だった、それだけだよ」
「さて。それじゃ捕まってもらおうかのぉ……」
 茶々が言うと同時に、彼は逃げ出そうとする。が、
「逃がすか!」
 瞬間、青の瞳の色が変わり、雷が落ちる。
「――!」
 何か言ったのだろう。しかし、その音は消され、後に残ったのは動かない資産家のみ。
「……殺した……の?」
「まさか。気を失ってるだけだ」
 かくて、事件は一応の解決を迎えたのだった。

●エンディング

「あ、遅いのじゃ〜」
「すみません、結構、忙しいもので……」
 茶々に声をかけたのは美紀。走ってきたためだろう、その息は弾んでいる。
 あの事件から数日後、美紀は屋敷の当主となり、いろいろ忙しく働いているらしい。
「まぁ、いいのじゃ。で、どこにあるのかぇ?」
「えっと、ですね、こっちです」
 言いつつ美紀が案内すると、そこには――鯛焼きの屋台があった。
「すみません、鯛焼き二つくださ〜い」
「あいよっ」
 言葉と共に、屋台の親父が鯛焼きを焼き始める。
 その様子を、茶々はそわそわしながら見つめる。
「茶々さん、本当に鯛焼きが好きなんですねぇ……」
「大好きじゃ! あと酒があれば文句ないんじゃがのぅ」
「お酒って、茶々さんまだ子供なのに」
「何言ってるのじゃ、妾は――」
「あいよっ、出来たよ」
 茶々が言おうとした時、親父が紙袋に包まれた鯛焼きを差し出す。
 美紀がお金を払い、一つを茶々に、もう一つは自分で手にする。
「おお、なかなかなのじゃ。おいしいのじゃ〜」
「気にいってもらえたならよかったです。さて、次はどこ行きましょうか」
「とりあえず寒くないとこがいいのじゃ。外は寒いのじゃ」
「それじゃ、とりあえずどこかに入りましょうか」
 笑いながら、手を差し出す。茶々はその手を握り返し、一緒に歩き始める。
 その姿は、まるで姉妹のようだった。


<終>    

□■■■■■■□■■■■■■■■■■■■■■■■■■□
■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
□■■■■■■□■■■■■■■■■■■■■■■■■■□
【整理番号 / PC名 / 性別 / 年齢 / 職業】

 0086 /シュライン・エマ / 女性 /26歳 /翻訳家&幽霊作家+草間興信所事務員
 1415 /海原・みあお   / 女性 /13歳 /小学生
 1745 /椿・茶々     / 女性 /950歳/座敷童子
 2259 /芹沢・青     / 男性 /16歳 /高校生/半鬼/便利屋のバイト

□■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■□
■         ライター通信          ■
□■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■□

 皆さんご参加ありがとうございます。この度話を書かせて頂いた高橋葉と言います。
 今回は皆さん方向性が一緒&キャラの書きわけがしやすかったので、楽しく書けました。
 これからも、是非よろしくお願いします。以下個別です〜。

>椿・茶々様

 初めまして。新人の高橋葉です。
 今回のお話、気にいって頂けたでしょうか?
 茶々ちゃん(言いにくい)はいわゆるムードメーカーっぽく書かせてもらいました。可愛くて萌――もとい、素敵なキャラですね。
 これからも、是非よろしくお願いします。でわ〜。