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<東京怪談ウェブゲーム 草間興信所>


巡る命

●仕事はなくとも大盛況?

 その日も、草間興信所は賑やかであった。
 まずは言わずと知れた草間興信所の主、草間武彦。草間興信所事務員であるシュライン・エマ。仕事探しと暇つぶしに顔を出した海原みなも。仕事を探して興信所に顔を出したW・1106ことバルガー。人間勉強でちょくちょく草間興信所に顔を見せている石神月弥。それから台所でお茶を用意している草間零。
 総勢六名。珍しい人数ではないが、だがたいして広くもない部屋はずいぶんと狭く感じられた。
「今日も仕事はないのか……そのうち潰れるんじゃないか?」
「煩い」
 バルガーのある種適確な指摘を、武彦は一言のもとに一蹴した。
「そんなことはないですよ。仕事を選ばなければそれなりに依頼は来てると思いますよ」
 みなもの言うことも正しいが、ここ数日はその『選ばない仕事』も来てないわけで。
「草間さーん、次はなにやればいーい?」
「なかなか優秀ねえ、石神くん」
 シュラインを手伝ってファイリング作業をしていた月弥が元気な声をあげた。どうやら作業が終わったらしい。
「そうだな、次は…」
 言いかけた時、ガチャリと玄関の扉が開いた。
「こんにちわ、草間さん。お仕事のお話があるんです」
 ニッコリ笑って亜真知は、傍らの少女を示した。


●姿なき声

 草間武彦は、少女――飯田香澄と名乗った少女の依頼にこっそりと溜息をついた。もちろん、飯田香澄には気づかれないように。
 現在の彼氏と付き合うようになってから、香澄はおかしな声を聴くようになったという。
 その声が告げるのは「オマエがいるから」「オマエのせいで」「オマエさえいなければ」とそんな内容ばかりで。最初は病院に行った香澄だったが、異常はなし。
 精神科を紹介されるに至って、だが自分は断じて精神異常などではないと言い、そして。彼女はこの草間興信所にやってきたのだ。怪奇事件を解決してくれると言う噂を聞きつけて……。
 不安げに武彦を見つめる香澄の話を要約するとまあこんなところだ。
「はい、どうぞ」
 一通り話が一段落ついたところを見計らって、亜真知はお土産の焼き芋をお茶請けに、台所で淹れてきたお茶を出した。
「私、恐くて…でも、恨まれるようなことをした覚えはないし」
 俯いたままの香澄は、出されたお茶には手をつけずにそう呟いた。
「だいじょーぶだいじょーぶっ。俺たちに任せておいてよ」
 ポンっと香澄の腕に手を置いて、月弥が下から――背丈の都合でどうしてもこうなってしまうのだ――香澄の顔をの覗きこんだ。
 香澄が、少しだけほっとしたように微笑む。
「大丈夫大丈夫。一緒に聞こえる声の原因掴みましょ」
 エマが、香澄を安心させるように背中をぽむぽむと叩いた。
「相思相愛な二人の邪魔をするような人は馬に蹴られて星になるのが当然ですっ!」
 みなもが、妙に勢い込んで宣言した。


●まずは調査から

 何も心当たりはないという香澄の言葉。香澄を邪魔だと言う、複数の声。まだ彼には相談していないらしいが、時期的にも彼氏の方に原因がある可能性が高いという結論に至った一行は、それぞれ別れて調査をすることとなった。
 一目ボレにしたって、衆目はばからずの告白は石の自分から見ても怪しいし。もしかして、彼氏には他に言い寄っている誰かがいて、それを断るのも兼ねてそんな告白をしたとか…?
 そう考えた月弥は、彼の周辺からあたってみることにした。
 と、言ってもだ。月弥の言う『周辺』とは、彼のクラスメイトだとか近所の人間のことではない。その辺は他の人たちに任せておいて。
 月弥は、まず学校付近の電信柱と校内のレンガに狙いを定めて聞き込みを開始したのだ。石のつくも神である月弥は、鉱物やそこから作り出された物の声を聞くことが出来るのだ。
 香澄から借り受けた写真を片手に――名前で聞いても理解してもらえないだろうという配慮からである――月弥は、香澄の彼氏について聞いて回った。
「うーん、これと言った手掛かりがないなあ」
 まあ、学校なんて何百人という人間が通っているのだ。よほど印象が強い相手でもない限り、特定の人間を覚えている物などいない。
 しかし、だからといってそう簡単に諦めるわけにはいかない。
「ねえねえ、ちょっと聞きたいんだけどいいかな?」
 学校の隅にある小さな池の周りを囲う石たちに、月弥はにっこりと笑いかけた。
『なぁにー?』
 人には聞こえぬ声で、石たちの返事がかえってくる。
 これまでの事情を話して聞かせると、
『知ってるよー』
『最近騒いでるんだよね』
『なんか、仲間が死んじゃうって』
 石たちは口々にそう答えた。
「仲間が死んじゃう?」
「それはどういうことかしら?」
 降ってきた声に後ろを見ると、そこにはシュラインが立っていた。
「彼がよくここの魚たちの世話をしてたって聞いて、見に来たの。石神くんは?」
「俺は向こうから順に聞きこみしてきたんだ」
 月弥は校庭の逆端を指差した。
「それで…さっきの死んじゃうって、どういうこと?」
「あ、そーだ。ねえ、誰の仲間が死んでしまうの?」
『言ってるのはここの魚たちだから、魚の仲間じゃないのかなあ?』
 月弥の問いに、石たちは至極軽い調子でそう答えた。


●魚の恋路

 再度草間興信所に集合した一行は、それぞれが調査した内容を統合し、声の正体は学校の池の魚たちではないかという結論に達した。
 彼氏が、学校の池の魚の世話をしていたという情報と、そこの魚に香澄が襲われたという情報と。
「でも話を聞いてみると、恋人が出来たから世話を怠っているってわけではないみたいなのよね」
 シュラインが首を傾げて呟いた。
「そうかもしれないけど、でも香澄さんと彼氏が付き合ったことで、池の魚たちの誰かが死んでしまうような事態になってはいるんじゃないかなあ?」
 月弥は、石たちから聞いた――魚たちが、このままでは仲間が死んでしまうと騒いでいる――情報を元に腕を組む。
「全員でそこに行ってみます?」
「彼氏のほうにはまだ誰も話を聞いていないんだろう? そっちを先に行かないか?」
 みなもの提案に、バルガーが答えを返した。
「そうですね…。それでは、彼氏に会いに行って、それでもわからなかったらもう一度池のほうから調べなおしましょう」
 亜真知の言葉に全員が頷き、そして一行は、彼氏のアパートへと足を向けた。

 チャイムを鳴らすと、今度はもう帰ってきていたらしい。
 見慣れない者たちの突然の訪問に、彼はびっくりしたように目を丸くしていた。
「突然すみません、少しばかりお聞きしたいことがありまして」
「飯田香澄さんに相談を受けてね、そのことで貴方にも聞きたいことがあるの」
 香澄の名前が出た事で、彼は怪訝そうながらも話を聞く態勢になってくれた。
 話が進むにつれ、彼の顔色があからさまに変わって行く。
「心当たりがあるのか?」
 バルガーの問いに、彼は俯いた。
「教えてください。彼女が危険なめに遭っているんです。このまま放っておいて良いんですか?」
 みなもの真剣な言葉を聞くに至って、彼は俯いたままゆっくりと視線を逸らす。
「ここには――いえ、貴方と会ってはっきりしました。貴方からは、魔術の気配が感じられます。一体、何をしたのですか?」
 しっかりと見据える亜真知の瞳に射貫かれて、彼はとうとう顔を上げた。
「僕は、本当は人間ではないんです。陸に住む者ですらない。でも、香澄と一緒にいたくて……」
「魔術で人間の姿に変身したのね?」
 問い返すシュラインに、彼がこくりと頷く。
 人間ではなく、陸に住む者でもない――魚たちの、仲間……?
「もしかして、人魚、ですか?」
 ゆっくりと確かめるように問い掛けたみなもに、彼は再度。頷いた。
「ええ……このままだと長くは保たないと思います。あそこの魚たちはそれを心配してくれてるんです。でも、いいんです。短い時間でも、彼女と一緒に過ごせればそれで」
「貴方はそれで良くても、遺された方はどうするんですかっ?」
「うんうん。俺も同感だよ」
 勢いよく即答したみなもの後で、月弥がうんうんと首を縦に振る。
「…何か方法はないかしら?」
 主語のないその問い掛けは、どちらかと言えばみなもに対して投げ掛けられていた。
 同じ人魚――といっても彼はどうやら純血の人魚であるらしい。末裔であるみなもはむしろ人間の姿でいることの方が普通であるわけだから、全く同じには考えられないが。
「うーん……お姉様に相談するくらいしか思いつかないんですけど…」
 魔術が扱えるわけでもなく。水の操作を得意とするみなもには、残念ながら彼の命を地上で永らえさせる方法には心当たりはなかった。
「一応武彦さんにも聞いてみようかしら? 顔はそれなりに広いし、何か良い案が入ってくるかも」
 みなもの姉も人魚であるが、だからと言って絶対に良い方法があるはと限らないと思っての提案であった。
「すぐにお返事が返って来るわけではないのですよね? でしたらそれまでの間のことも考えませんと」
「しばらく海に帰るのが手っ取り早いんじゃないか?」
「陸にずっといると肉体的に消耗するってことだよね…? それなら、少しだったら俺の力で回復できるよ」
 それぞれの案を口にして、一行は、いつの間にやら話の外になってしまっていた彼の方へと視線を戻した。
 トントンと進んで行く話に半ば茫然としていた彼は、視線を向けられて、戸惑ったような表情を見せた。
「がんばりましょう。お二人が幸せになれるように!」
 みなもの勢いに圧されたように、彼はコクコクと頷いたのだった。

 ――そして、数日の後。
 香澄が、笑顔で興信所を訪れた。
 おかしな声は聞こえなくなり、彼氏と楽しい日々を過ごしていると言う。

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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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整理番号|PC名|性別|年齢|職業

0086|シュライン・エマ|女| 26|翻訳家&幽霊作家+草間興信所事務員
1593|榊船亜真知   |女|999|超高位次元知的生命体・・・神さま!?
1252|海原みなも   |女| 13|中学生
2407|W・1106  |男|446|戦闘用ゴーレム
2269|石神月弥    |男|100|つくも神

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■         ライター通信          ■
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 こんにちわ、日向 葵です。
 このたびは依頼にご参加頂きありがとうございました。
 実は当初はアンハッピーエンドにするつもりでしたが(をい)、人魚の方がいらっしゃったので、少し予定を変更してみました。
 お楽しみ頂ければ幸いです。