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<東京怪談ウェブゲーム アトラス編集部>


『人形師の思惑は永久に』

 なぜ、一人だけこの時この瞬間に生まれたのだろう?
 俺はキミをとても愛していた。
 狂おしいほどに・・・
 胸が張り裂けるぐらいに・・・
 ただ、キミの笑顔を見ていられるだけで俺は幸せだったし・・・
 キミの心に触れられる度に俺は俺である事も・・・
 俺が生きているという事も感じられた・・・
 俺はキミの中に俺の存在意義とか幸せとか、俺が俺であるための色んな物を見ていたんだ・・・。
 だからこの時この瞬間にいる俺は片翼の鳥のように飛ぶこともできない。
 何よりも触れたいのはキミの心。
 キミの肌。
 見つけたいキミを。
 見つけて欲しい、キミに。
 抱きしめたい。
 抱きしめられたい。
 いつか、俺はキミに出会える?
 そう、その日その瞬間が俺が本当の俺になれる日。なれる瞬間。
 まだ、未熟な心は今もどうしようもないほどにまだ出逢えぬキミを求めて泣いている。

 痛いよ、キミに出逢えないから・・・片翼の羽ばたけぬ心が・・・

chapitre0 電話
「う〜ん、編集長…お願いします。没はやめてください。経費が足りません。えっ、取材費を自費だなんて…」
 などと三下忠雄が仕事にはシビアな美貌の女上司である碇麗香の悪夢にうなされていると、突然携帯が鳴り響いた。
「……は、はい…って、あ、おはようございます。編集長。…へ? パソコン」
 パソコンを起動させる。言われた通りネットに繋ぎ…
「**美術館から、人形師海道薫の最後の人形が盗まれる、って…これって編集長……」
『ええ、そうよ。江戸末期に活躍した天才人形師海道薫、最後の人形のテーマは永遠に動き続ける人形。そのために彼はその人形にある魔性の細工をした。それはその人形が絶えずさ迷う人の魂を呼び寄せ、そのボディーにその呼び寄せた人の魂を宿らせるということ。そしてその目論見は成功した。人形には人の魂が宿り、人形は動き出した。そう、その魂の体となった。そして色んな事件を引き起こしたわよね。想いを遂げて人形に宿っていた魂が成仏しても、次の魂がまるで順番を待っていたかのように空席となったその人形に即座に宿るから…永久に動き続ける人形…海道薫の願いは叶った』
 三下は魂が群がる人形を想像して、ぞくっと鳥肌がたって、椅子の上で体を丸めた。実は彼は先々月号の時にこの数十年ぶりにある素封家の蔵で発見されたその人形(人形には呪符によって封印がされていた)の取材をしたのだ。(その時に人形に怒り、憎悪、悲しみ、喜びなどがブレンドされたような異様な雰囲気を感じて気絶してしまったのは碇には秘密だ)
「だ、だけど、この人形が消えたって…まさかW大学の大月教授がナンセンスだって呪符を剥がしたせいで人形に魂が宿って…それで人形がって言うかその人が想いを成就させるために消えた……?」
『ええ、そうね。そうかもしれないし、そうじゃないかもしれない。とにかく面白いネタには違いないわよ、三下君。さっそくこの現世に蘇った魂が宿る人形が紡ぐ物語を調査してちょうだい』

chapitreT 喫茶店の彼女
 俺がその喫茶店に入ったのはまったくの偶然だった。
 俺としてはなんか喉が渇いたな、っていう感覚ぐらいでその喫茶店に入ったに過ぎない。しかしその彼女が人形である事ってのは俺には一目瞭然だった。
 なぜなら俺は前世からの影響で陰陽道にも精通するし、それに傀儡師でもあったりするから。
「しっかしなー・・・」
 人形の彼女。だけど普通の人間にしてみれば本当に彼女はただのごくごく普通の女子大生にしか見えない。
 俺は髪をくしゃくしゃと掻きながらアイスコーヒーをストローを使わずにいっき飲みして、ついでに氷も口に入れて噛み砕いた。だけどそれで俺が今感じている喉の渇きってのは拭えない。明らかに彼女の影響だ。今のところは霊感などのセンスを持たない人間には影響を及ぼさないだろうが、しかしいずれは彼女は悪霊なりなんらかになって何かしらの影響を与えるはずだ。そうなる前に・・・
「うーん、だけどなー・・・」
 テーブルに頬杖ついて彼女を眺める俺は通りがかったウエイターさんにアイスコーヒーのおかわりを頼んで、
 そして相変わらず窓側の席に座って、周りのカップルをにこにこと見つめている彼女を眺める。
「なんだかとても楽しそうだしな。それにあれって、やっぱりあの人形だよな」
 彼女のボディーとなっている人形は、傀儡師の世界では有名である海道薫の作り出した人の魂を糧として動く人形だ。
 その人形が糧とするのは報われぬ人の魂で、そしてその報われぬ魂ってのは抱えている無念を晴らせば成仏できるそうなんだが。しかし・・・
「さてと、取れる道は二つ。一つは強制的に天国に行ってもらう道。もう一つは彼女が成仏するまで見守る道。だけどなー」
 前髪をくしゃくしゃと掻きあげて、そして俺は運ばれてきたアイスコーヒーをいっき飲みした。
 やはり、それで俺が抱える喉の渇きってのは拭えなかった。

ChapitreU 彼女の奇行
 結局、俺が選んだ道ってのは後者だった。
 そして俺はあれから一週間、せっかくの夏休みだってのに、この喫茶店に通い詰めている。飛んでいく金と、流れていく時間。
「あーあ、せっかくの夏休みだってのに、何やってんだよ、俺?」
 俺は顔を鷲掴んで大きなため息を吐いた。
 だけど一番何をやっているのかわからないのはあの人形に宿っている女だ。
 彼女は毎日、この店に通っている。しかも毎日、その格好ってのは変わっているんだ。清楚なお嬢様だったり、ヤンキー風だったり、OL風だったり、ゴスロリだったりって。
 そしてそんな風に毎日、服装を変えて喫茶店にやって来て、何をしているかと思えばただ彼女は周りのカップルを見つめている。カップルを見つめている彼女を俺は見つめている。ほんと、俺はいったい何をしているんだろうか?
 喫茶店に来る彼女の理由ってのは何なんだろうか?
 喫茶店は何をしに来るところか?
「そりゃあ、ジュースやコーヒーを飲みに来る所だ」
 後は、
「待ち合わせや打ち合わせ」
 断じてカップルを見物に来る場所じゃないし、カップルを見物してる人形を見物する場所でもない。
「ったくよ」
 俺は悪態をついた。

ChapitreV 彼女の真実
「ねえ、あなたってストーカーなの?」
 俺の前の席に座って、にこりと笑った彼女に果たしてそう言われた俺が浮かべた表情ってのはどんなだったんだろう?
 彼女は俺の顔を見て、作り物のはずなのにしかしそのくせ妙に艶っぽい唇に手をあててけたけたと笑った。
「なんて顔をしてんのよ? まあ、ストーカーってのは誰も自分がストーカーだって自覚してやってんのはいないでしょうしね。って言うか、恋は盲目。冷静な時は馬鹿じゃないの? 人の気持ちってのを考えなさいよって怒ってるのに、いざ、自分が恋にはまってしまうと、冷静な判断ができなくなっちゃうのよね。それでストーカーに突っ込んでた事を自分でもしちゃうのよ。だからまあ、私もそこら辺の切ない恋心ってのはわかっているから、あなたをストーカー規正法で訴えるってことはしないでいてあげるわ」
「っつーうか、あんた、死んでるだろう? その体だって人形だしさ」
 彼女は小生意気そうに微笑んでいた顔に思いっきり驚いたような表情を浮かべて見せた。だけどそれでストーカーと呼ばれた俺の気は晴れない。だって、そうだろう? いったいこの一週間にどれだけ俺がこの店で散財したと想っているんだ。ったくよ。
 両目を大きく見開いていた彼女は、次の瞬間にけたけたと大きく笑い出した。
「すごい。すごい。よくわかったわね。私が人形だって」
「こっちはそれが仕事なんでね」
「拗ねないでよ。ごめん、謝るわ。あなたをストーカーと呼んだこと」
「じゃあ、俺の疑問に答えてくれよ。あんたはいったいこの一週間、なぜにこの喫茶店に通ってるんだよ?」
 彼女はあー、と頷いて、そしてにこりと笑う。とても意地の悪い表情で。
「どうしてだと想う?」
「わかんねーから訊いてるんだよ」
「んー、癇癪持ち?」
「強制的に成仏させてやろうか?」
 半分以上本気だった。
 彼女は中途半端に両手をあげて、
「まーまー。落ち着いて。えっと、どうして私がこの店に通っていたかよね?」
 俺は頷く。
 そして彼女はどこか悲しげに微笑んで、
「待ってるのよ、彼を。この店が待ち合わせ場所なの」
 って・・・
「だけどよ、あんた、毎日、服装が違っていたじゃん。あれじゃ、彼が来たって・・・」
 かえって彼を惑わすだけだろう?
 だけど彼女はそこでとても綺麗な微笑を浮かべた。とても純真無垢で、この世の何者も敵わないようなそんな微笑を。
「あなたは気づかないの? とても好きな人がほんのちょっと姿を変えたぐらいで気づけないの?」
 俺の脳裏に浮かんだのは前世で愛した彼女の微笑み。
 俺は彼女を今でもとても愛していて、心の奥底から会いたくって。
 だから俺は愛しい彼女に巡り逢う為に探して彷徨って。
 もう一度会ってこんなにも彼女の事を愛している事を伝えたくって、伝えられたらそんなにも幸せなことはなくって。
 そんな想いを抱きながら毎日、彼女を探している。
「ああ、わかるよ、その気持ち。俺も会いたい人がいるから。その人を探しているから。この世界のどこにいても、どんな格好をしていても俺は彼女を見つける自信はあるから」
 そう言うと彼女は俺をとても眩しそうに見つめた。
「会えるといいね、あなたもその人に」
「ありがとう。あんたも来てくれるといいな。その彼氏」

ChapitreW 涙
「今日が最後。今日が最後なの。今日、彼が来てくれなかったら最後にするから・・・」
「それで俺に話し掛けた?」
「うん。だって、明日から私が突然来なくなったら、あなたが寂しがるかと想って」
「あのな、俺はストーカーじゃなくって」
「わかってる。だから話し掛けたの。きっと、私は自分では納得して逝けないから、だからもしも彼が来なくって私の賭けが失敗しちゃったら、そしたらお願い。あなたが私を成仏させて」
「わかった」
 そして俺は彼女と一緒に彼を待ち続けた。彼よ、来てくれと心の奥底から願いながら。
「あ・・・」
 彼女が声をあげた。
 震える彼女の体。
 俺はそれで悟る。彼女の彼氏が来たのだと。だけど・・・
 彼女の視線が追う彼は、しかし彼女の横を素通りしていった。
 そして聞こえてきたのは・・・
「ったく。なんでこの店なんだよ?」
「嫌がらせ。だって、おまえ、俺がずっと狙っていた女と付き合っちゃうんだもん」
「はっ。それは俺がイイ男だからだよ。最初から勝ち目のねー、勝負さ」
「くっくっく。一ヶ月前にこの店で約束無視されたのはどこの誰よ?」
「だー、言うなよ、それを。今思い出してもムカツクぜ。ったく、あいつ、来てくれなかったら自殺するとかって言うから、店に来たのに、いねーでいやがるの」
「だけどその女、イイ女だったんだろう?」
「ああ、顔は美人だったよ。体のスタイルもすごくよくってよ。俺がしろって言った服装は何でもしたし。だからさ逆に、あんまり従順すぎてつまんなかった。だー、やっぱ、ヤメヤメ。こんな店、出て行こうぜ」
 そう言って彼らは出て行った。
 俺は我慢できなくって、席を立ってやつらを追いかけようとするが、しかしその俺の服を彼女が掴んだ。
「だって、あいつらぁ」
 だけど彼女は顔を横に振って、
 ・・・
 そしてとても哀しそうな・・・泣き出す寸前の子どものような表情をした。
「あのね、あの日・・・彼が言ってた日ね、私、彼をこの店に呼び出したの。その前の日に彼が他の人と付き合ってるって聞いて・・・だけど、私、それを信じたくなくって・・・だって、彼が好きだったから・・・。それで賭けをしたの。彼がこの店に来てくれたら、そしたらそれは私を大事にしてくれているって事だから・・・だから彼を信じようって・・・。だけどこの店に来る前に私、車に轢かれてしまって・・・」
「・・・」
「私が毎日してた服装はすべて彼が私にしてくれって言った格好だったの。私は彼の事が好きだったから、だから彼にもっと好きになってもらうために彼の言う事はなんでも聞いて。別に都合がいい女でもよかった。だけど、だけど本当は・・・本当は私だけを見ていてもらいたくって、私を見つけてもらいたくって・・・だから彼が私を見つけられるようにって彼の好きな格好をして・・・」
 そこでくしゃくしゃだった顔を彼女は綻ばせた。
「今日の私の服装が本当の私なの。それでも彼は・・・ううん、だからこそ彼は私を見つけてくれると想ったのに・・・」
 声にならない声で泣く彼女。
 俺は顔を両手で覆って泣く彼女の頭をただ手で撫でる。まるで幼い子どもを宥めるように。俺はそんな事しかできなくって。
 だからそれは俺はとても嫌で、そして彼女のためならば何でもしてやりたくって、そしてだから彼女が泣き止んで、無理やり俺に向けてあげた顔に笑みを浮かべた彼女に訊いたんだ。
「俺の手が必要かい?」
 もしも俺に何かできる事があるなら、そしたら俺は絶対に何が何でもそれをしてみせるから。
 そしたら彼女はとても綺麗に微笑んで・・・そう、まるでこの世の善なる物すべてを寄せ集めた物を前にしているかのように微笑んで、そして言ったんだ。
「うん、あなたにお願いがあるの」
「なに?」
「お願い。あなたは彼女を見つけてあげて。彼女はあなたを待っているから」

 ああ、彼女は・・・

「ああ、わかった。誓うよ。俺は彼女を見つける」
「ありがとう」
 とても綺麗に笑った彼女は、その後に人形に戻った。
 俺は人形に戻った彼女を抱きしめて、周りの人間の目なんか気にせずに泣いた。

 どうか天国へと逝けたあなたが、そこで心の奥底から笑えているように。
 そして見ていてください。俺は絶対に彼女を見つけてみせるから。



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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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【整理番号 / PC名 / 性別 / 年齢 / 職業】

 1953/ 御巫傀都/男性/17歳/傀儡師


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■         ライター通信          ■
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こんにちは、はじめまして。御巫傀都さま。
この度、担当させていただいたライターの草摩一護です。

今回、およせいただいたプレイングからとても優しく切ない感じが読み取れて、
そしてこの物語で一番引き出させるのは傀都さんの彼女を一途に想う気持ち・・・だからこのような内容の物語にさせてもらいました。
どうでしょうか、今回の物語、お気に召していただけましたでしょうか?
もしもお気に召していただけたのでしたら、作者冥利に尽きます。^^

さてさて、それにしてもちょっとしんみりとしすぎる物語になってしまいすぎてしまったでしょうか?
だけど前世での恋人を現世で探し続ける彼の想いとか、優しさは充分に引き出せたと想うので、とても満足できる作品とできました。
本当にお客様にも満足していただけていると嬉しいのですが。^^

今回は傀都さんの他の設定を扱えなかったので、もしもまた書かせていただける機会がありましたら、今度はそちらを引き出せるバトル系のお話を書きたいなと想います。
もしもよろしければまた、書かせてください。その時は誠心誠意がんばらせていただきます。
『ドリームコーディネート』『悪夢のように暗鬱なる世界への扉』
この二つで情報を載せておりますので、もしもよろしければお暇がある時に覗いてやってください。
それでは本当にありがとうございました。