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<東京怪談ウェブゲーム 草間興信所>


鍋をしよう・ヘキサ
●オープニング【0】
 12月――師走・草間興信所。
「当たりました!」
 草間零は先程届いたばかりの宅配便荷物を抱え、嬉しそうに草間武彦に報告していた。ふと応募した懸賞に、何と零は当選したのだ。
「へえ、そりゃよかった。で、何が当たったんだ?」
 草間も零が懸賞に応募したことは知っていた。希望賞品が選択出来ない形態だったが、それは些細な問題である。
「ええっと、伝票に『陶器』と書かれています。あ、『われもの注意』のシールも」
「なら茶碗セットか何かか。にしては……箱がやや平べったいな。零、開けてみろ」
「はい」
 草間に促され、中身を確認する零。そして中から出てきた物は……。
「わあ、立派ですね」
「…………」
 出てきた物をしげしげと見つめる零。対照的に、草間はその『ブツ』から無言で視線を外した。
「草間さん見てください。立派な土鍋ですよ」
「……そうきたか……」
 草間が深い深い溜息を吐いた。
「今日はお鍋ですね」
 手にした土鍋をじっと見て、零がつぶやく。
「お鍋は大勢が楽しいんですよね」
 噂の鍋パーティーが……またやってきた。

●鍋に入れていい食材とは?【4】
「やっぱり寒い時期にはお鍋ね……」
 いつものように机に向かっていた草間の前に立ち、コートを羽織ったままの巳主神冴那はぼそりと話しかけた。後方のソファでは、真名神慶悟がテーブルの上に置かれた日本酒をしげしげと見つめていた。
「普通の鍋、だな」
 苦笑しながら補足する草間。その言葉が聞こえたのか、慶悟も同意とばかりに頷いていた。
「でも私、未だにどんな食材を入れたらよいのか解らなくて……」
「難しいか? 結構鍋は融通効く料理だと思うけどな。……ああ、それでも合わない奴はあるか」
 遠い目をする草間。過去の惨劇が、今の言葉を裏付けていた。
「……これはお鍋には入れない方がいいのよね……?」
 と言い、冴那がタッパーに入った食材を草間に見せた。それは程よい色合いの焼豚であった。
「入れるな。というか、皿に盛ってそのまま食え」
 間髪入れずに草間が答えた。
「そうなの……。ラーメンには入れるのに……不思議よね……?」
「ラーメンはラーメン、鍋は鍋だ。でもこれ、市販のじゃないよな。自家製か?」
「ええ。全部自家製……」
 小さく頷く冴那。意味深な言葉のように聞こえたのは、気のせいだろうか?
「こんにちは」
 そこへまた新たな参加者がやってきた。海原みそのだ。
「…………」
 玄関の方を見た草間の目が点になる。慶悟も一瞬『えっ?』という表情を見せていた。平然とした表情なのは冴那のみ。
「……何か?」
 気配を感じ取ったのか、みそのが草間に尋ねた。
「いや、その格好は……何だ?」
「パーティとお聞きしたのですが?」
 静かに答えるみその。その服装は、漆黒のカクテルドレス。おめかししてきたことは、よーく分かる格好だ。確かにいわゆる一般的なパーティなら相応しい格好ではあるのだが……。
「俺の連絡の仕方が悪かったのかなあ……」
 首を傾げる草間。恐らく妹のみなも経由で話を聞いたのだと思うが、さてどこでこうなったのだろう?
 みそのはそんな草間に構わず、すたすたと中へ入ってくる。手にはクーラーボックスを携えていた。
「何が入っているの……?」
 冴那に問われると、みそのは無言で蓋を開けた。クーラーボックスの中には、秋鮭にイクラ、それから根昆布を含む昆布や海草などがぎっしりと詰まっていた。
「義務ではないそうですが、一応材料を」
「助かるな、こりゃ。鮭だと味噌仕立ての方が合うか……」
「深層塩も多めに」
 そう言い、隅の方から深層塩の入った袋をを取り出すみその。すると草間が台所を指差して言った。
「ああ、だったらシュラインに持ってってやってくれるか。おにぎり作るって言ってたからな」
「分かりました。では、そのように」
 草間に促され、台所へと向かうみその。深層塩で握ったおにぎり、これだけでも旨そうである。秋鮭やイクラを少し流用して、おにぎりの具にするのもいいかもしれない。
「鮭は……魚よね……」
 何か言いたそうな冴那の様子に気付き、草間が声をかけた。
「どうした?」
「ふぐ鍋やたら鍋はあるのに、マグロの刺身は入れてはダメなのかしら?」
「ダメってことはないが、それをやるならネギマ鍋だろ? 少し切身を炙ってから入れた方が旨いんだよな、あれは」
「ぐちゃぐちゃに潰して固めたら……」
「そりゃつみれだろ」
 冴那が皆まで言う前に、草間が答えた。
「そう……だったわね」
「つみれは鰯がいいんだ。小骨があるのもまたいいんだよなあ……」
 草間はうんうんと、1人納得するように頷いた。

●鍋パーティの始まり【8】
 事務所の隅で、ひそひそと話している男女の姿が1組ある――草間とシュライン・エマだ。
「はい、これで全部。……ちゃんと覚えたわね、武彦さん?」
「ああ」
 草間はぶすっとした表情を浮かべ、シュラインの言葉に頷いた。救急箱や洗面器、さらには保険証の場所まで、しつこいくらいに頭に叩き込まれたのである。
「電話もそこにあるから、何かあったら相応の場所へ連絡お願いね」
「……ああ」
 ぶすっとしたまま答える草間。子供じゃないのだから、1度言えば分かるといった様子である。
「そろそろ始めませんかー?」
 そんな2人の背後から、零の呼び声が聞こえてきた。鍋の方も、ちょうどいい具合に煮えてきたようだ。
 そそくさと自分の席へつく2人。これで今回の鍋パーティ参加者13人全員が、テーブルについたことになる。
 上座にはもちろん草間が座っていた。草間から見て右側には草間から近い順に、シュライン、志神みかね、天薙撫子、ヴィエ・フィエン、綾和泉汐耶、榊竜也という並びで座っている。反対の左側には同じく、零、真名神慶悟、守崎啓斗、巳主神冴那、海原みその、そして守崎北斗という並びで座っていた。
 で、肝心の鍋はというと、草間に近い方から寄せ鍋、水炊き、石狩鍋といった並びになっていた。ちなみに零が当てた土鍋は、水炊きに使われていた。
 ぱっと見た感じでの豪華さは、石狩鍋だろうか。汐耶が持ってきた石狩鍋セットをベースに、みそのが持ってきた秋鮭やイクラまで入っているのだ。これを豪華と言わずして、何と言うのか。
 しかし、他の2つの鍋が決して劣っている訳ではない。その証拠に、他の2つの鍋には撫子が持ってきた小振りの伊勢海老が入って、ぐつぐつと煮られているのだから。きっといい出汁が出ているに違いない。
 美味しそうな湯気を放つそんな鍋を、板チョコをくわえたヴィエがじーっと見つめている。見た所6、7歳くらいの女の子のようだから、鍋が煮える様子に興味津々であるのだろう。もっとも、むーっとした表情のため、楽しんでいるのかどうかは見ただけでは分かりにくいが。
 飲み物も充実……とまでは今回はいかないが、十分用意されていた。ビール、ジュース、お茶、汐耶持参の『久保田』、撫子持参の名酒数本……普通に飲むのなら、これで問題はないだろう。
 やがて各自に何がしかの飲み物が行き渡ったのを見計らい、ビールの入ったコップを手に草間が口を開いた。
「よーし、皆いいな? 忘年会にはほんの少し早いが……ともあれ、乾杯!」
「かんぱーい!!」
 草間の挨拶とともに、あちこちからコップのぶつかり合う音が聞こえてきた。そして鍋の中へと箸が伸びてゆく。
「か〜っ、うめぇな〜っ!!」
 一息に飲み干したのか、竜也が空になったコップをテーブルにドンと置いた。
「やぁっぱ、日本はいいよな〜。こう、冷えたビールがちゃ〜んと出てきてさ〜」
 堪らないといった様子で、しみじみと言う竜也。
「……どこに居たんです?」
 汐耶が怪訝そうに竜也に尋ねた。まあ冷えたビールが出てこない所というと……やっぱり海外か?
「私、他にお料理作ってきますね!」
 鍋を少し食べた後、エプロンをつけたままのみかねがすくっと立ち上がった。そしてすぐに台所へと消えていった。
 今日のみかねは料理に燃えているらしい。そういえば、台所では火にかけられた寸胴鍋があったはず。いったい何が作られているのだろう?

●鍋の食べ方(初級編)【9】
 さて、和やかな雰囲気で始まった鍋パーティ。だがよく見ると、少し妙な格好をしている参加者が2人。冴那とみそのだ。
 冴那が妙なのは、今から鍋を食べるというのにまだコートを羽織っていたことだ。着膨れでもしているのか、中がもこもことしている。
 みそのの方は、また違った意味で妙だった。漆黒のカクテルドレスに身を包んでいるのである。似合ってる似合ってないで言うなら、十分すぎる程に似合っている。が、場違いであるということは否めない。
「『なべ』のマナーは……どのようになっているのでしょう」
 そんなみその、鍋を食べたことがないのか、回りの参加者に尋ねていた。
「マナーって言われてもな〜。こう、煮えた具を器に取って食べてくだけで」
 ひょいひょいと、煮えた具を自分の器にてんこ盛りにしてゆく北斗。そして、熱々の具をはふはふと口の中へ運んでいった。
「あひっ……けど、旨いっ……!」
「煮えた具を……こう……」
 みそのは見よう見まねで、同じように煮えた具を自らの器に取っていった。てんこ盛りで。
「それは真似しなくていいの」
 冷静に突っ込みを入れる汐耶。自分の食べる分だけ取ればいいのだ、鍋は。
「暑くないのか?」
 一方冴那には、隣でもぐもぐと目の前の鍋に舌鼓を打っていた啓斗が話しかけていた。冴那は平然と熱々の鍋の具に箸を伸ばしている。
「この子が……まだ寒いって言うから」
 空いている方の手で、着ているコートに触れる冴那。それから器を手にし、取った具を入れようとした瞬間――。
「!?」
 啓斗は一瞬目を疑った。何とコートの隙間から赤い舌が飛び出し、ぺろりと箸で摘んでいた具を食べてしまったのである。
「まあ。お行儀が悪いでしょう……?」
 コートの中へ向かって冴那が話しかけると、コートの中で何かがもそもそと動いていた。ひょっとして、中に居るのは錦蛇ですか……?
「鍋、鍋と……」
 啓斗は再び目の前の鍋に意識を戻した。ただ淡々と黙々と、鍋を堪能するために。

●言えば言う程に【10】
「はい、どうぞ。熱いから気を付けて」
 撫子は水炊きからちょうどいい頃合に煮えた具を器に盛り、ヴィエの前に置いてあげた。白菜の柔らかい部分が、ポン酢の色に染まっていた。
 しかし、ヴィエはそれに手を伸ばそうとはせず、板チョコを食べ続けていた。といっても、残り1/3程度しかないのだが。
「チョコの残りは、後で食べましょ。ねえ、一旦預かってこっちへ渡してくれる、それ?」
 シュラインはヴィエに話しかけた後、撫子に食べかけのチョコを預かるよう頼んだ。
「あ、はい。いい子だから、ご飯の後で食べましょうね」
 言われた通り、ヴィエのチョコを預かろうとする撫子。けれども、ヴィエはしっかと握ったまま放そうとしない。そして不意に手をパンと叩いた。
「くしゅん!」
 その時、突然くしゃみをする撫子。2度、3度となかなか止まらない。当然、ヴィエのチョコから手が離れる。
「……もう少しでチョコも食べ終わるんだろ。だったらそれまで放っておいた方がいいんじゃないか」
 それまで様子を見守っていた草間が口を挟んだ。その途端、撫子のくしゃみがぴたっと止まった。
「草間さん、子供には甘いんですね」
 零が意外そうに言った。そこにシュラインがぼそりと言葉を被せた。
「どこかで隠し子でも居るからなのね、やっぱり……」
 シュラインの横には、空になった缶ビールが2本転がっていた。いったいいつの間に飲み干したのやら。
「そういえば、そういう話もあったな」
 冷や酒の入ったコップを片手に、頷く慶悟。ええ、ありましたとも、隠し子騒動。
「だから、隠し子は居ないって何度言えば分かるんだよ……」
 草間が頭を抱えた。何というか、言えば言う程に深みにはまっているのは気のせいだろうか――。

●KOMEKOME WAR【11A】
 しばらくして、テーブルの上にはみかねの作った料理が盛られた皿が加わっていた。けれどもそれは……。
「何で米料理ばっかりなんだ?」
 疑問の声を上げる草間。テーブルの上には、リゾットやピラフ、それから炒飯などが加わっていたからである。鍋の場に様々な米料理……ちょっとヘビーになってきたかも。
「今日はやけにテンション高いわねえ……」
 台所を覗き見るシュライン。台所では、鼻歌混じりで料理を続けるみかねの姿があった。今度は何を作って出してくるのか。
「出された食べ物は残すことなく食べるように! 俺が行った国ではなー、食べるものもなくて飢えて死ぬ子供だってたくさん居たんだぞ〜」
 皆にそう言いながら、リゾットの皿に手を伸ばす竜也。このくらい、全く問題ではないらしい。
「もとより、残す気はない」
 きっぱりと言い、慶悟が炒飯へ手を伸ばした。そして小皿に食べる分を盛り付ける。
「あっ、兄貴! ピラフこっちに回してくんない?」
 北斗が手を上げて啓斗に頼んだ。啓斗が箸を止め、ピラフの皿を北斗へ手渡した。ちなみに挽き肉が入っていたため、啓斗は手を出さなかったのだ。
「おなべに〜いれる〜♪」
 その間にも、チョコを食べ終え、鍋も食べ始めたヴィエが、自作の歌を歌いながら大皿に盛られていた具をぽいぽいと鍋に放り込んでいた。
 今の所、別段妙な食材は鍋に入り込んでいない。まあ隣で撫子が警戒しているから、たぶん大丈夫だと思われるが。
「だから、石狩鍋の具にポン酢をつけるのはおかしくて……」
「でも、どちらも『なべ』なのでは?」
 反対側の隣では、汐耶が向かいのみそのに鍋の食べ方をまだレクチャーしていた。石狩鍋の具をポン酢につけて食べようとしていたので、止めていたのだ。
「面白い……食感ね」
 口の中の物をごくんと飲み込んで、冴那がつぶやいた。そして器の中にあった、今飲み込んだのと同じ具を箸で摘まみ上げる。
 それは麩だった。しかし普通の麩ではなく、色がついている。よく見れば、大皿に残っている麩は色とりどりである。
「そのお麩? 金沢から届いたんだけど」
 冴那のつぶやきに気付いたシュラインが答えた。
「もちもち……ひてまふね」
 口をもごもごと動かしながら、零が感想を口にした。まさに今、口の中に麩が入っているらしい。
 何にせよ、鍋パーティはここまで和やかに、平穏に進んでいた。

●まったりと時間は流れ【12A】
 時間が経つにつれ談笑の割合が増え、席の移動が始まっていた。
 汐耶が慶悟の隣に行き、ともに『久保田』を飲み交わしていた。2人に酌をするのはみそのである。
 撫子や冴那はといえば、他の参加者に鍋の具を取り分けていたりする。ただ冴那の取り分けた方は、ちょっと野菜が固かったりするのだが、まあご愛嬌。
 みかねはといえば、台所とテーブルを行ったり来たり。食べるより、どうも作る方に熱中しているようである。台所に居る時間の方が長かった。
 啓斗や北斗はといえば、黙々ともぐもぐと鍋などを食べ、栄養補給に務めていた。十分に栄養は補給されたことだろう。
 ヴィエはといえば、台所から持ってきたのかおたまを手に、あっちの鍋を掻き混ぜ、こっちの鍋を掻き混ぜなど、うろうろとしていた。自分も料理をしている気分になっているのだろう。
 で、竜也はといえば――。
「ま、ま、1杯!」
 そう言って、シュラインの隣に座って空のコップに缶ビールを注いでいた。十分に飲み食いしたせいか、かなりご機嫌な様子である。
「あ……どうも」
「いや〜、美人さんだな〜」
 じーっとシュラインの横顔を見て、褒める竜也。
「それはどうも……」
 ぺこりと頭を下げるシュライン。褒められて、人間悪い気はしないものである。
「ほんと美人さんだな〜。今度2人でどっかで飲みませんか〜?」
 あれっ、ひょっとして口説いてたりしますか?
「はい?」
 少し驚いたような表情を浮かべるシュライン。その時、草間がシュラインを呼んだ。
「お、そうだ。例の素行調査の資料、どこに置いてあったかな?」
「え、あの娘さんの? ちゃんと机の中にあるはずよ?」
 シュラインはすくっと立ち上がると、机の方へ向かった。竜也との会話はそこで途切れた。
 ふと竜也と草間の目が合った。へへっと笑って軽く頭を下げる竜也。そこへシュラインの声が聞こえてきた。
「ほら武彦さん、あるじゃない。引き出しに入ってたわよ?」
「あれ、そうだったか?」
 草間も立ち上がり、机の方へ向かっていった。

●一瞬の差【13】
「そろそろいいかな〜♪」
 台所で寸胴鍋を掻き混ぜていたみかねは、掻き混ぜる手を止めて言った。ちょうどいい具合に、具が煮えていると思ったからだ。
「後はカレールーをミックスして……」
 長時間かけてみかねが作っていたのは、何とカレーであった。何時間も煮込んで灰汁を取ったのだ、さぞかしいい感じに仕上がることだろう。最後の仕上げを失敗しなければ。
 今のみかねの言葉にもあったように、使うカレールーは1種類ではなかった。複数の種類のカレールーを混ぜて使うことにより、味に深みを出そうと考えたのである。
「何があんのかな〜」
 そこへひょっこりと北斗が現れた。しかし料理に熱中していたみかねは、それに気付かない。北斗はまっすぐに冷蔵庫に向かい、おもむろに開けた。
「ん〜、色々とあるな〜」
 腹ごなしなのか、それとも後々の下見なのか、冷蔵庫の中をじっと見ている北斗。すると突然みかねが叫んだ。
「ああっ!」
「!?」
 間近で急に叫ばれ、北斗が慌ててみかねの方を振り返った。見ればみかねがおろおろとしている所だった。
「ルーが1つ足らないっ! あれっ、どこに置いたんだろ……」
 どうやらカレーに使うはずのカレールーが、1つどこかへ行ってしまったらしい。
「どっかに落ちてんじゃねーの? ほら、例えばゴミ箱とか……」
 見かねた北斗がそうみかねに言い、何気なくゴミ箱の方に目を向けた。
「あれ?」
 ところがそこに、カレールーの空き箱が1つ入っていたのだ。そして、その時だった。
「あっ!!」
 皆の所から、零の驚いたような声が聞こえてきたのは。いったい何が起こったのか。慌てて台所を出る北斗とみかね。
「おなべに〜いれる〜♪」
 そこではヴィエが歌いながら、水炊きの鍋をおたまでぐるぐると掻き混ぜていた。水炊きの鍋は茶色に染まっている。まさか……?
「一瞬の早業だったな……」
 溜息混じりに慶悟がつぶやいた。そう、本当に一瞬の出来事だったのだ。ヴィエがカレールーを放り込み、掻き混ぜたのは。
「『なべ』にはカレールーも入れるのですか……」
「それはごく一部」
 興味深気に水炊きだった鍋を見ているみそのに、汐耶が突っ込みを入れた。普通は最後に雑炊だったりします、ええ。
「他の鍋は守りましょう……」
 ふうと溜息を吐き、撫子が言った。起きてしまったことはもう仕方がない。残されているのは後の2つの鍋を守り切る、これしかなかった。
「これは美味しいんじゃないかしら……たぶん」
 カレー鍋から具を取って食べ、冴那が感想を口にした。そして他の者にも取り分けようとする。
「俺は寄せ鍋でいいっ!」
 啓斗が慌てて自分の器を隠した。
「まあ、食えない物を入れた訳じゃないからな」
 苦笑しながら言う草間。それはまあ、確かにその通り――。

●無事終了?【14】
 結局、トラブルらしいトラブルといえばそのくらいで、鍋パーティは無事に最後まで進んでいったのだった。
 鍋だけでなく、おにぎり、カレー、その他諸々の料理と、食料事情も本当に悪くはなかった。皆一様に満足して――食べ切れなかった分は折り詰めなどにして――帰ってゆくこととなった。
 しかし……今回の成功の裏に、悲劇が隠されていたことを、一部の参加者たちは後に知ることになるのである。
 伝聞になるが――参加者が後に体重を測った所、少なくとも1キロ、多い者では数キロ増加していたらしい。寒さ厳しくなる頃合、これはある意味悲劇だったりするのではないだろうか。そう、一部の参加者にとっては……。

 教訓:くれぐれも食べ過ぎには注意しましょう。

【鍋をしよう・ヘキサ 了】


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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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【 整理番号 / PC名(読み) 
                   / 性別 / 年齢 / 職業 】
【 0086 / シュライン・エマ(しゅらいん・えま)
     / 女 / 26 / 翻訳家&幽霊作家+草間興信所事務員 】
【 0249 / 志神・みかね(しがみ・みかね)
                    / 女 / 15 / 学生 】
【 0328 / 天薙・撫子(あまなぎ・なでしこ)
               / 女 / 18 / 大学生(巫女) 】
【 0376 / 巳主神・冴那(みすがみ・さえな)
          / 女 / 妙齢? / ペットショップオーナー 】
【 0389 / 真名神・慶悟(まながみ・けいご)
                   / 男 / 20 / 陰陽師 】
【 0554 / 守崎・啓斗(もりさき・けいと)
                / 男 / 17 / 高校生(忍) 】
【 0568 / 守崎・北斗(もりさき・ほくと)
                / 男 / 17 / 高校生(忍) 】
【 1388 / 海原・みその(うなばら・みその)
                 / 女 / 13 / 深淵の巫女 】
【 1449 / 綾和泉・汐耶(あやいずみ・せきや)
               / 女 / 23 / 都立図書館司書 】
【 1846 / ヴィエ・フィエン(う゛ぃえ・ふぃえん)
                / 女 / 6、7歳? / 子供風 】
【 2083 / 榊・竜也(さかき・りゅうや)
               / 男 / 34 / フリーター…? 】


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■         ライター通信          ■
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・『東京怪談ウェブゲーム』へのご参加ありがとうございます。本依頼の担当ライター、高原恵です。
・高原は原則としてPCを名で表記するようにしています。
・各タイトルの後ろには英数字がついていますが、数字は時間軸の流れを、英字が同時間帯別場面を意味します。ですので、1から始まっていなかったり、途中の数字が飛んでいる場合もあります。
・なお、本依頼の文章は(オープニングを除き)全17場面で構成されています。他の参加者の方の文章に目を通す機会がありましたら、本依頼の全体像がより見えてくるかもしれません。
・今回の参加者一覧は整理番号順で固定しています。
・大変長らくお待たせし、本当に申し訳ありませんでした。ようやくここに6度目の鍋パーティの模様をお届けいたします。
・昨年末のメインパソコン故障による影響で、お手元にお届けするのが大変遅くなったことを改めて深くお詫びいたします。
・さて今回の鍋パーティですが、前回に続いて特に大きなトラブルもなく、無事に終わることが出来ました。ほっとした反面、少し残念な気がするのが不思議ですけれど。最後のオチは……気になる方は気になるでしょうね、恐らくは女性陣は。
・で、判定すべき部分はちゃんと判定していますので、念のため。
・次回の鍋パーティは、いずれまたそのうちに。
・巳主神冴那さん、23度目のご参加ありがとうございます。いつものようにマイペースだなあ……と。マグロの刺身は、やっぱしネギマ鍋に仕立てた方がいいかと。
・感想等ありましたら、お気軽にテラコン等よりお送りください。きちんと目を通させていただき、今後の参考といたしますので。
・それでは、また別の依頼でお会いできることを願って。