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<東京怪談ウェブゲーム 界鏡現象〜異界〜>


落ち着けモチつけ米をつけ!!

------<オープニング>--------------------------------------
新年を迎えたく様興信所に届いたある年賀状。

『新年明けましておめでとう御座います御座います。
 今年も、どうかよろしくお願い致しますね。
 新年に伴い、私の店の前で、「モチつき」を催したいと思います。
 日付は1月×日・午前10時より始める予定です。
 よろしければ、是非いらしてください。
 ―――プラントショップ『まきえ』より』

最初乗り気ではない草間だったが、零と希望の即興芝居によって上手い事連れ出され。
同じくまきえ達から年賀状を貰った面々と一緒にプラントショップ『まきえ』に赴くのだった。
まぁ、家から直行した輩もいるようだが。

●お誘い感謝?
草間達とやってきたシュライン・エマは、どこか楽しそうに草間の隣を歩いていた。
手には毛布と、ポットで用意した御茶や珈琲を入れた紙袋。勿論愛用の割烹着も入っている。
草間の手の中にあるもう1つの紙袋の中には、お重に入れられた御節。
「楽しみねぇ餅つき。きっと尋常じゃない状況なんだろうなぁ。
 あ、そうそう。もみ門松ちゃんも元気にしてるかしら?」
高鳴る胸を押さえるような仕草をするエマを横目に、草間ははぁ、と深々と溜息を吐いた。
「…結局他の奴等も行くんなら行かなければよかった…」
その言葉を聞いてエマが苦笑する。
「武彦さん、今年もち米高いんだからこのお誘い感謝しなきゃ、よ?」
経済をやりくりしているエマからすれば、1食分でも食費が浮くのは喜ばしいこと。
「…分かってはいるが…どうにも楽しむ気になれん…」
疲れたように呟く草間の視線の先には、楽しそうに話しながら歩く希望と零の姿。
それを見て、エマはくすりと小さく笑う。
「…武彦さん、何だかんだ言っても零ちゃんのこと、大事だものね?」
「……うるさい」
顔をそらしてそう呟いた草間の耳が赤くなっていたことに気づき、エマは笑みを深くしたのだった。

●相変わらず変な店
午前10時ピッタリに全員が揃う。
…が、未だにまきえと臼が来ていない。杵はボブが運んできたからあるのだが。
「あの…臼は?」
不思議そうに問いかけるエマに、聡が中を見ながら困ったような顔をする。
「…確か母さんが持ってくる筈だったんですけど…」
「…あら…皆さんもういらしていたんですか…?」
聡の言葉を遮って、まきえが現れた。
「あ、まき…」
まきえを笑顔で呼ぼうとした葛西・朝幸は、笑顔のままで固まる。
全員(聡・ボブ・希望は除く)も驚いて目を見開いたままの状態で硬直した。
―――なぜなら。
まきえは片腕に二個ずつ、合計四個の臼を軽々と抱えてやってきたからだ。
「……お母さん、そんなに一度に持つと落としますよ?」
「…そう、かしら…?」
なんだかずれた聡とまきえの会話を聞き、硬直から戻って頭を抱える者、呆然としたままの者、楽しそうに笑う者など、様々なリアクションが発生したのは、言うまでもない。

そんなこんなで、餅つき(の準備)、開始。

●のほほんサイド(何)
餅がつきあがるまで暇なエマは、餅つきを見学したり、参加者にお茶(植物達には栄養剤)を配ったりして時間を潰していた。
暫く経つと餅つきをしていた草間と零に一緒にもみ門松(「走れ!駆け落ち樹木!!」参照)を見に行かないかと話を持ちかけ、丁度休憩に入るつもりだった零と一緒に植物達の樹液つきを見に行くことにした。

「へぇ…意外と私達のやってる餅つきとそんなに変わらないのね」
「本当ですね…」
植物達のいる場所では、臼と杵を使って樹液つきが行われていた。
本当にぺたぺたと音がするし、ちょっと伸びたりもう一体の植物がこね回したり、実に本物に近い光景だ。
…ただし、そのついている樹液は透明な橙色だったが。
「…美味しいのかしら?樹液って」
「さぁ…でも、これって共ぐ…もごっ」
「……それは言っちゃ駄目よ、零ちゃん」
零の口を手で抑えながら、敢えて触れないようにしているんだから、と緩く首を振るエマ。
それに零が小さく頷くのを確認してから、エマはそっと手を離す。
「…ところで、もみ門松ちゃんは何処に…」
いるのかしら、と言いかけたところで、足元から葉が揺れる音がした。
下を向くと、其処には件のもみ門松が楽しそうに跳ねている姿が。
…根っ子が二股に分かれているが…敢えて触れない方がいい筈だ。
「お久しぶりです」
「もみ門松ちゃん。元気にしてた?」
2人がしゃがんで話し掛けると、もみ門松が勿論と言いたげに葉を揺らす。
それに笑うと、エマと零は樹液つきを見学する為に植物達が集まる方へと歩いて行った。
そんな感じで、餅がつきあがるまで、エマと零はのんびりと植物達と過ごしたそうな。

●酒盛りGOGO!(ぇ)
全部のもち米を綺麗につき終わったので、数人の希望もあり、全員で宴会を始める事に。
人間と植物が入り乱れたとんでもない宴会ではあるが、会場代わりが危険な温室の一角なので問題はない…筈。
ジュースに餅、エマが持ってきたお茶、珈琲、御節。勿論酒はまきえ大量に用意されている。
「さぁ、どうぞ。いっぱい食べてくださいね」
にっこりと笑って長机に並べた料理や酒を指差す聡に、全員が一気に飛びついた。
そこからはわいわいと騒がしい宴会タイムになった。

――――まではよかったのだが。

酒とジュースの区別がつかなかった零、桜木・愛華、朝幸がうっかり酒を飲んでしまい。
未成年の筈の希望、聡が平然と酒を飲み。
草間、まきえ、エマ、葛生・摩耶、秋月・霞波の成人済組も希望や神島・聖の手によって強制的に飲まされたりで。
あっと言う間に「宴会」は「酒の宴」に早代わりした。

「ボブを殺して愛華も死ぬ〜!」
『あ、愛華殿!やめるで御座る!拙者は殺されたくないで御座るよ〜!!!』
「嫌ァ〜!天国で一緒に幸せになるの〜!!」
などと火サス風に叫びながら、包丁を持ってボブを追い掛け回す愛華。
「あはははははは!!!」
その光景を見、指差しながら実に楽しそうに爆笑する零。
『零殿!笑ってないで助けて欲しいで御座るよ〜っ!!』
「あっはははははは!!!!」
ボブの必死の叫びに返ってくるのは笑い声。
「ボブは美味しいカボチャ餡になって愛華の血となり肉となるの〜!!」
『そ、それだけは勘弁してほしいで御座る〜っ!!!』
(ボブだけが)かなり命がけな『鬼』ごっこは、愛華が酔い潰れて眠り出すまで、数時間続いたのだった。

「……」
一方、出来るだけメンバーから離れようと宴会地帯からかなり離れたところに座り、ちゃっかりゲットしておいた御節や餅をつまみに無言で酒を飲む草間。
「…武彦さん、一緒にあっちでお酒、飲みまないの?」
草間を見つけたエマが、コップと一升瓶数本を持ってやってくる。
エマの問に騒ぎの中心を見た草間は、深々と溜息を吐いた。
「…あそこに入ると大変なことになりそうだから遠慮しておく」
とりあえず隣に腰を降ろしたエマは、草間の言葉に苦笑を零す。
「…零ちゃん、かなり酔ってるけど、いいの?」
エマが火サス状態の愛華とボブを指差して爆笑している零を見ながら言うと、草間は眉を顰めた。
「…そのうち酔いつぶれて眠るだろ」
暗にあまり関わりたくない、と言いたげな草間に、エマは思わず苦笑する。
「……まぁ、こっちはこっちで、ゆっくりしましょうか」
「あぁ」
こうして、暴走酔っ払いメンバーが全員酔いつぶれるまで、草間とエマはゆっくりと2人きりの酒盛りを楽しんだのだった。

愛華達からほんの少し離れた所で思う存分酒を煽っていた聖の所に、酔っ払った朝幸が擦り寄る。
「…聖…俺から言うのもなんだけど…」
「な、なんや…?」
ウルウルと目を潤ませながらじっと見つめてくる朝幸に、聖が怯んでやや後ずさる。
朝幸はそれを追いかけてずずいと顔を近づけ、にっこり笑いつつ手を差し出して一言。
「――お年玉、ちょうだいv」
小動物を演じつつ手を差し出した朝幸に、聖はズシャァッ!と座っている状態で器用にずっこけた。
「…あ、あのなぁ…」
「……お年玉…くれないの…?」
どこぞのチワワのように潤んだ瞳でじーっと聖を見つめる朝幸にうっと言葉を詰まらせた聖は、がくりと肩を落とし、財布を探る。
「……ったく…今回だけやで……?」
聖も少し酔っていたのだろうか、五千円のつもりが、うっかり一万円を出して渡す。
「あ…」
「わぁ、聖ありがとー!大好きーvv」
時、既に遅し。朝幸は金を懐にしまってにこにこ笑っている。
「…こうなったらヤケや!もっと酒持ってこんかーい!!!」
ヤケクソになった聖によって、1人一気酒が始まったのだった。

一方、酒豪組その1。
まきえは意外と酒に慣れているらしく、平然と酒をあおっている。
「…酒、結構飲み慣れてます?」
「えぇ、まぁ…よく、主人に付き合って飲んでいたので…」
やや驚いたような感心したような調子で言う摩耶に、まきえは苦笑気味に言葉を返した。
「ふぅん…じゃあ、息子さんも?」
「えぇ…主人が、冗談でよく飲ましていましたから…」
「…子供のうちに?」
「……そこは、聞かないで下さい…」
ふいっと顔をそらして呟くまきえに、摩耶は小さく笑う。
「…にしても、今日は楽しかったかなぁ。溜まってる鬱憤吐き出してスッキリしたしー。
 もしまたやるんだったら、今度も呼んで欲しいかなー、なんて」
「えぇ…是非、呼ばせて頂きます…」
そんな感じで、意外とほのぼのした空気の中、摩耶とまきえは酒を飲み交わすのだった。
―――周りの喧騒を、さりげなーく無視しつつ。

その頃、酒豪組その2。
「へぇ〜。霞波って結構イケる口なんだ?意外〜」
「うーん…私としては聡さんの方が意外でしたけど?」
「そ、そうですか…?僕、結構父の付き合いで飲んでたんですけど…」
ちゃっかり程よい場所を陣取った希望、霞波、聡は、呑気に酒を飲んでいた。
「…にしても…向こう、色々ととんでもない事になってますね…」
局地的に大混乱な光景を見て、困ったように隣にいる霞波と希望を見る聡。
それにとてつもなく爽やかな笑顔を返した2人からは、「気にしたら負けだから気にすんなv」オーラが発せられていて。
「……後片付け、大変そうですね」
「えぇ、ホントにv」
「俺は手伝わないけどな♪」
虚空を見つながらぽつりと呟く聡に、霞波と希望は楽しそうに言葉を返すのだった。
その後、「植物達がお酒を飲んだらどうなるのかしら?」と興味津々で酒瓶片手に植物達の集まりに入ろうとした霞波と面白がって「やれやれ〜!」と煽る希望、そして「温室が壊れるから勘弁して下さい〜!」と必死に止める聡、と言う愉快な光景が見られたのだった。

数時間に渡った宴会は、酒が無くなった事によって幕を閉じた。
結局酔いつぶれて倒れた愛華、朝幸、零、聖の四人と、酔い潰れるてはいないが思いの外酔ってしまったエマ、草間、摩耶の三人。
何故かケロリとしている山川親子、希望、霞波の四人が、七人を看病しつつ、後片付けをすることになり。
結局、なし崩しに来訪者の面々は山川家に泊まることとなるのだった。

―――翌朝。目が覚めたエマは、二日酔いで頭が痛いと訴える面々の世話に走り回るする事になる。
勿論、そのメンバーの中に零がいた事は言うまでもない。サボっている草間は、当然エマに怒られた。

終。

●●登場人物(この物語に登場した人物の一覧)●●
【0086/シュライン・エマ/女/26歳/翻訳家&幽霊作家+草間興信所事務員】
【0696/秋月・霞波/女/21歳/フラワーショップ(ノワ・ルワーナ)店主】
【1294/葛西・朝幸/男/16歳/高校生】
【1295/神島・聖/男/21歳/セールスマン】
【1979/葛生・摩耶/女/20歳/泡姫】
【2155/桜木・愛華/女/17歳/高校生・ウェイトレス】

○○ライター通信○○
お待たせいたしました。異界第三弾、「落ち着けモチつけ米をつけ!!」をお届けします。
今回も「プラントショップ『まきえ』」はどうでもいい方向で元気な様子で(爆)

エマ様:御参加、どうも有難う御座いました。
    今回も草間と零と一緒、と言う事でしたが…如何だったでしょうか?

色々と至らないところもあると思いますが、楽しんでいただければ幸いです。
他の方にもそれぞれ個別エピソードがあるので、見てみると結構面白いかもしれません。
それでは、またお会いできることを願って。