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<東京怪談ウェブゲーム アトラス編集部>


心霊



■ オープニング

 今日も奇妙な話題が交錯する社内。そんな中、編集長である碇麗香の携帯電話が鳴った。これまた奇妙な着信音だが社員は誰も笑えない。無言の忍耐精神だ。
「…はい」
 機嫌が悪いのか名乗りもせず電話に出る碇編集長。相手が大統領だって関係ない。
「へえ…。面白そうじゃない」
「あの、編集長…」
 電話中にも関わらず社員の三下が声をかける。他の社員の何人かが部屋を出て行った。
「私が電話をしているのが見えないの? 見えない? この無駄に大きい携帯電話が見えないわけ?」
「…ひぃぃぃ。し、し、し、失礼しました」
 三下が脅えて逃げ出す。だが、編集長は三下の服の裾を掴んだ。
「ねえ、三下君。心霊現象に興味あるかしら? ちょっと面白い話があるんだけど。原稿が忙しいのならいいんだけど…。まあ、断ったら断ったで、どうなるかは分かっているのでしょうけれど?」
 選択権があるようで選択権はなかった。
「…行かせていただきます」
「都内の学校で幽霊が出るらしいのよ。まあ、害のある霊は殆どいないようだから肝試し程度に楽しんでらっしゃい」
「…はひ。頑張りますぅ」
「もちろん、同行者を何人かつけるわ。あなた一人では問題が発生しそうだから」
 ホッとしたが何故か虚しさの残る三下であった。



■ 玄関口にて

 肝試しといえば夜だ。まあ、当然ながら昼間は学生がいて調査は出来ないので、必然的な流れではある。
「じゃあ、いきますよ」
 三下がシャッターを押す。
「どうして写真を撮るんだ…」
 不機嫌そうに紗侍摩・刹(さじま・せつ)が呟くが彼はこれでも素である。デフォルトの精神状態が常人とは違う彼は常に斜めに構えている。
「もちろん、記念撮影だよー」
 海原・みあお(うなばら・みあお)が三下からデジタルカメラを受け取る。最後も撮るつもりでいるらしい。
「肝試しだし、楽しまないとね〜」
 集まったときから気を弾ませているのは楠木・茉莉奈(くすのき・まりな)だ。調査という目的を忘れてしまいそうな勢いさえある。
「えっと、皆さん。危険性のある幽霊はでないらしいので安心してくださいね」
「あら? 三下さんの後ろに影が…」
「ひぃぃ!?」
 三下は悲鳴をあげ頭を抱えてその場に座り込んでしまった。ガクガクと痙攣しているようだ。
「やめてあげなよ。可哀想だから」
 モーリス・ラジアル(もーりす・らじある)はそう言いながらも、実は心の中では笑っていた。彼と同行しているイヴ・ソマリア(いヴ・そまりあ)は脅える三下に謝った。アイドル歌手である彼女は、今は変装してセーラー服姿だ。そして、朝比奈舞という名で通している。
「まだ、行かないのか?」
 矢塚・朱羽(やつか・しゅう)が冷静に時計を見ながら呟いた。
「あ、えっと、最後は屋上に集まるんでしたよね?」
 朱羽のすぐ隣に立っている篠咲・夏央(しのさき・なつお)が三下に尋ねる。彼女はぶっきらぼうな朱羽の喋り方が気になりフォローしたのだ。二人はクラスメイトでこれまた微妙な関係にある。
「はい。それから二手に別れて調査をしてもらいます。七人だから私は少ない方に入りますね」
 立ち直った三下がその後も注意事項を説明していく。何でも校舎はかなり古くからあるようで、多くの幽霊が取り付いているのだという。夜でないと遭遇することはないらしいので、学生達に特に被害があるわけではない。また、学校長が陽気な人らしく放置しているのではないか、という内容の噂もあるようだった。



■ 三人+一人

「く、暗いですね」
 まだ何も出ていないうちから三下は弱気だった。
「あ、忘れてた」
 みあおが懐中電灯で廊下を照らす。月がちょうど雲に掛かったようで、校舎内には光が殆ど差し込んでこない状態になっていた。
「三下さん、大丈夫?」
 茉莉奈が三下の顔を覗く。蒼白な顔色からは、とても大丈夫そうには見えなかったが三下だから大丈夫だろうと茉莉奈は判断を下した。
「いくぞ」
 刹が先頭を歩く。彼は欠伸をしていた。まるで散歩にでも来たような雰囲気であった。最初に行く場所は美術室に決定した。
「美術室かあ…。何か出るかもしれないね?」
 みあおが言うと三下以外の二人が頷いた。三下は何かを想像してびくびくしている(何か=得体の知れない恐ろしいもの)。
 一行は美術室へ到着した。みあおがドアを横に開いた。中に入るとこもった空気が鼻を刺激した。室内にある絵の具や油などの匂いだ。
「うーん、何もいませんねえ?」
 茉莉奈が室内をウロウロする。三下はホッとしていた。だが、刹は何かを感じ取ったようで目を見開いた。
「…気のせいかな」
 認識という人間のアンテナが特に敏感な刹。単純に認識レベルが高いので人よりも気配を読むことには長けている。
「い、い、今、そこの石膏が!?」
 その時、三下が悲鳴を上げながら石膏像を指差した。石膏像は有名な『考える人』だった。
「もしかして、動いたの?」
 みあおがお手製の特製霊羽付与済みデジタルカメラを構える。動画撮影も可能なので今は動画モードにしておいた。しかし、動かない。というか、三下以外の三人が凝視しているのが原因だろう。
「やっぱり、怖がらないと動かないのかもしれないですね?」
 霊感の強い三人(むしろ、日常的に見慣れている)にとっては霊のメカ二ズムが感覚的に分かっているので驚きの要素は少ない。三下のような常人(驚きすぎだが)には奇妙に映って当然である。
 脅える三下を置いて三人は美術室を出た。で、こっそり中を覗くと石膏像が僅かに動いていた。みあおはその僅かなチャンスをものにすることに成功した。その後、中に入ってみると三下は室内で気絶しかけていた。

 次に一行が向かったのはトイレだ。いわゆる『トイレの何たら』という奴だ(詳細は略)。いるかどうか定かではないのだが。
 トイレの前で刹が立ち止まった。
「あれ? どうしたの?」
 みあおが尋ねる。
「………」
 刹は無言で目を閉じた。そこでみあおは気づいた。
「女子トイレにはさすがに入れないよね」
 無言で刹が頷く。三下は微妙にトイレに足を踏み入れていたが、後ろ向きで戻ってきた。
「少し待っていてくださいね」
 茉莉奈とみあおがトイレに入っていく。中は小奇麗な普通のトイレだった。個室を順番にノックしていくが特に反応は見られなかった。
『ひえええええ!!!?』
 今日、何度目かの三下の悲鳴。その声のボリュームは、120ホーンぐらいはありそうだった。慌てて二人は戻る。
「………」
 刹は居眠りをしていた。三下の姿はない。
「あれ? 三下は?」
「……おそらく…どこかへ」
 また、眠りそうだ。
「わわ、もしかして私たちがいない間に何か出たんですか?」
 茉莉奈が言うと刹は曖昧にだが肯定した。どうやら、幽霊を目撃した三下が慌てて逃げ出したらしい。刹はおそらく平然と立っていたのだろう(寝ていたのかもしれない)。
「…うーん、どうしようか?」
「早く屋上に行こう」
「あ、そうですね。皆さんも向かっているでしょうし。三下さんはあれでけっこう悪運が強いはずなので」
 根拠はまったくないが茉莉奈はそう言った。



■ 四人+一人

 四人が最初に向かったのは音楽室だ。イヴが事前に学生から仕入れた情報によると夜に物音がするらしい。その物音の正体が何なのかは確かめていないらしいが警備員のおじさんも耳にしたことがあるのだという。
「音楽室って、やっぱり定番よねー」
 イヴ(今は朝比奈舞という名前)が軽快なテンポで廊下を歩いていく。
「調査だということを忘れないようにね」
「わかってまーす」
 モーリスに注意されるが、ただ返事をしただけのようだ。観察が趣味のモーリスは他人が怖がる姿を見るのが何よりも楽しみなのだがイヴに関してそれは望めそうにない。
「ねえ、矢塚って幽霊怖くないの?」
「…特には」
 そっけない返事。実は夏央は矢塚に先日、告白したばかりである。今も自分の心臓の鼓動が聞こえてくるぐらい動揺しているのだが、それを見せないようにしている。
「あれ? 何か物音が…」
 先に音楽室の前に辿り着いたイヴがドアに聞き耳を立てていた。どうやら、心霊現象がライブで見られそうだ。
「どうします? ドア、開けましょうか?」
 モーリスが他の三人に問う。
「たぶん、開けたら物音は消えるな。それがセオリーだ」
「矢塚…。セオリーって何よ?」
「気にするな」
「誤魔化さないでよ」
 何故か言い合いになる二人。
「はいはい、痴話喧嘩はそれぐらいにしてくださーい」
 イヴが茶化すと夏央は耳を真っ赤さにさせて俯いてしまった。幸い、暗いので誰にも分からなかったが。
「カメラはいつでも準備が出来ている」
 朱羽が片手にカメラを持つ。イヴはMDを取り出し録音が出来るように準備をする。四人はそっと、ドアを横に引いた。そろりそろりと中へ潜り込む。物音の正体に気づかれないように進入する。気配を殺して四人は微妙に密着して膝をついたまま前進。
「夏央、見える」
「…なにが?」
 小声で返事をする夏央。
「いや、もういい」
 スカートの中が丸見えだったのだが振り返ったので見えなくなった。その二人の会話を聞いていたモーリスが微笑していた。
「あら?」
 イヴが急に立ち上がった。
「…どうしたんですか?」
 モーリスが尋ねるとイヴが懐中電灯であたりを照らし始めた。
「うーん、気づかれたみたい」
「いや…」
 矢塚がカメラを構えた。そして、フラッシュ。
「い、今、人の顔が?」
 夏央の目の前を何かが猛烈なスピードで通り抜けていった。
「今の、モーツアルト?」
「写真ですよ。ほら、後ろの壁に有名な音楽家の写真が貼ってあるじゃないですか」
 モーリスが指差す。確かに数枚ほど写真が貼ってある。そして、真ん中の写真だけが抜け落ちていた。
「動物か何か、体の小さな幽霊が写真に憑依しているようだな」
 矢塚が分析する。モーリスも頷いていた。
「た、たすけてーーーー!!!!?」
 その時だった。音楽室の扉がものすごい勢いで開かれたかと思うと、これまたものすごい勢いで三下が中へ飛び込んできた。
「あら、三下さん? もう一組の人たちと一緒に調査をしていたはずじゃ?」
「で、で、で、でたんですよーーー!!? この世のものとは思えない……って、またでたーーーー!!!!!!!!?」
 写真の幽霊に驚いた三下が泡を吹きながら脱兎のごとく逃げ出した。オリンピックも夢ではないようは凄みさえ感じられた。
「次へ行こう」
 矢塚が何事もなかったかのように音楽室を出て行く。
「あ、まちなさいよ」
 夏央が追いかける。モーリスは三下の醜態を目の当たりにして満足気な表情を浮かべていた。
「お邪魔しました」
 イヴが幽霊に挨拶を残し、ドアを閉めた。



■ 七人+一人+?

 階段で合流した二組は最後の目的地である屋上へと向かった。階段を上った後に、みあおが「13段なかった?」と言うので全員で確かめたのだが13段に間違いなかった。
「ねえ、これ」
 イヴが階段の壁の張り紙に気づき懐中電灯で照らす。そこにはこう書かれていた。
『恐怖!! 段数の増える階段!! By 校長』
 とても胡散臭い張り紙だった。一行は気を取り直して屋上へ。
「屋上と言ったら飛び降り自殺ですよね?」
 茉莉奈が言った。
「自殺なんてそうそうない気もしますけどね」
「確かに、飛び降り自殺だと人為的な原因の霊が関わってくるものね」
 モーリスとイヴがそう言うと、他の何人かが頷いていた。
 屋上の扉を徐々に開いていく。
 冷え込んだ外気が隙間から流れ込んでくる。身震い一つせずに刹が抵抗感のある扉を完全に開いた。
「やっぱり、フェンスの前かな?」
 みあおが広い屋上を見回す。
「あれ? ね、ねえ矢塚、あれって…」
「人か?」
 矢塚が首をかしげる。
「もしかして、本物の自殺者の霊が?」
 イヴが声を上げる。
「ええ? 本物なの?」
 茉莉奈が驚きにも似た表情を見せる。
「…違う。あれは人」
 刹が小さく呟いた。そこで全員が我に返る。よく考えると霊気をまったく感じないのだ。
「み、みなさん、おいていかないでくださいよ〜〜〜」
 三下だった。
「三下さんの幽霊が?」
「いやいや、どうみても本物ですよ」
 モーリスが笑いながらイヴに言った。
「はあ…」
 三下の顔色は幽霊並に色をなくしていた。
「じゃあ、最後に皆で写真を撮ろうよ」
 みあおが提案する。最初と同じように写真撮影によって幕は閉じられた。



■ アトラス編集部にて

「三下君」
「編集長、どうかしましたか?」
 碇編集長に呼ばれた三下が彼女のデスクへ向かう。
「この写真は?」
「えっと、それは最後に屋上で撮ったものです。調査には直接関係はありませんけど」
 碇編集長は難しい顔をしていた。まさか、調査での失態がばれたのではないだろうかと三下はビクビクしていた。
「どうして、八人映っているのかしら?」
「…はい?」
「この写真よ」
「あの、調査員は七名で、私も入れると八名ですよ?」
 三下がそう言うと碇編集長が笑いながら「もういいわよ」と言って席を立った。三下は奇妙に感じながら自分のデスクへと戻った。
 だが、途中で気づいた。
 辻褄が合わない。
 そして、それが誰の仕業なのかを考えて震え上がった。
「………ひ、ひぇぇぇ!!!!!?」
 奇声を上げ社内を疾走する三下。写真を撮影したのは彼だったのだ。



<終>



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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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【2156/紗侍摩・刹/男/17歳/殺人鬼】
【1415/海原・みあお/女/13歳/小学生】
【1421/楠木・茉莉奈/女/16歳/高校生(魔女っ子)】
【1548/イヴ・ソマリア/女/502歳/アイドル歌手兼異世界調査員】
【2318/モーリス・ラジアル/男/527歳/ガードナー・医師・調和者】
【2058/矢塚・朱羽/男/17歳/高校生/焔法師】
【2125/篠咲・夏央/女/17歳/高校生/地術師】


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■         ライター通信          ■
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こんにちわ、担当ライターの周防ツカサです。今年、最後の調査依頼ということになりました。楽しんでいただければ幸いです。
■ 三人+一人などという表現は『調査員+三下』という意味を示します。最後だけ?となっていますが、これはオチのあれですね(笑)
参加していただきまして本当にありがとうございました。またの機会でお会い致しましょう。それでは、失礼致します。