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最凶! 深緑の強化服『アスラ』VS FZ-01&ドリルガール!
「面白そうな奴じゃないか。」
雲ひとつない晴天の空の下、テクニカルインターフェース社が極秘裏に作り上げた超絶バイク『ウインドスラッシャー』で首都高を駆け抜ける高千穂 忍はご機嫌だった。その理由は数日前に街中で展開されていたある戦いの一部始終を見たからだ。戦う宿命にある忍の脳裏にはそのシーンがくっきりと焼き付いている。警視庁が作り上げた特殊強化服『FZ-01』を身にまとった葉月警部と謎の少女が変身したドリルガール……そのふたりが忍の同僚である怪人を撃破したあの瞬間。仲間が倒されたというのに、忍は憤怒も悲哀も見せない。ただ彼は不敵な笑みを見せるだけだ。
「ふふふ……新たなる力を目覚めさせる時が来た、ということか。いいだろう、楽しいゲームの幕開けだ。」
忍はバイクを操り、風を全身に浴びながら走り続けた……彼の頭の中には、すでにゲームの台本ができあがっていた。
「へっくちゅん!」
「あらら、いつもは元気印のらせんでも風邪引くんだ。知らなかったな〜。」
「何よその言い方ぁ〜。あたしだって今は思春期だもん、悩んだり風邪引いたりするわよ!」
「……風邪と思春期は、関係ないよね?」
「え、そうだっけ??」
友達にらせんと呼ばれた少女はむきになって頬を膨らませる。今くしゃみをした少女、銀野 らせんこそがあの『ドリルガール』なのだ。遠くで敵が噂しているとも知らずにいつものように生活している。
彼女たちは通学している神聖都学園から帰宅する途中だった。生徒たちは広く設けられた歩道の左側を整然と進んでいる……その群れの中にふたりもいた。いつものように談笑しながら歩くふたりの近くに一台のバイクが近づいてくる。その運転手は忍だった。彼は超視覚を駆使してらせんを確認するとそのまま接近し、バイクのスピードを緩めながらガードレール越しから話しかけた。
「そこの眼鏡の君、きれいだ。」
「でね〜〜〜。……はっ、もしかしてあたしのこと?!」
「そうだ。」
「ら、らせんっ、すっごいカッコいい人じゃない! 誰かの知り合いなの?」
「えっ、知らない人だけど……でもカッコいい人には違いないね〜。」
忍のルックスに見惚れたのか、らせんも友人も興奮し始める。忍は笑みも見せずにただ言葉を短調に発し続けた。
「らせん、か。君とゆっくり話し合いたい。明日はちょうど土曜日だが、空いているか?」
「あ、あ、明日ぁ! 明日、ああ、あ、あたしと……それってもしかしてデート?!」
「もしかしなくてもデートよ! 落ち着きなさいよ、らせん〜っ!」
「で、でも明日は予定があってぇ……んん、んがんん!」
友人は思うところがあるのか、困った顔をして誘いを断ろうとするらせんの口を塞ぐ。そして友人は必死の形相でらせんにあることを吹き込む。
「いいじゃない、どうせ近くの公園の池にいる白鳥を柵に肘ついてボーッとしながら見てるだけでしょ? そんな暇あるんだったら、目の前のいい男について行くのっ! そして彼からもっといい男を引っ張って私に紹介してっ!」
「あーーーっ、何よそれ! それ半月に一回の大事なライフワークなのよ! それにボーッとなんかしてないし!」
忍にとって女子高校生ふたりのトークに興味はない。顔こそらせんに向けているものの、その表情は無関心を装っていた。ところがふたりにはそれがクールに見えてしょうがないらしく、どんどんヒートアップするばかり。後ろを歩いている生徒たちのいい見世物になってしまっていた。しかしらせんと同年代の女性はやはり忍のルックスに引かれるようで、そこを通りかかる時だけゆっくりとした足取りになったり歩幅が小さくなったりしている。そこはちょっとした渋滞になった。
そんな状況を良しとしないのか、忍は強引に話を取りつけようと切り出す。
「わかった、キミの日課に付き合おう。明日の朝10時、その白鳥のいる公園で待っている。」
「素敵ぃ〜〜〜! ほら、らせんの都合にあわせてくれたのよ、素直に喜びなさいよ。」
「えっえっ、でもホントにいいんですか……?」
「ああ、キミだからいいんだ。」
その言葉で顔面を大噴火させたらせん。今にも頭のてっぺんから湯気が出てきそうな勢いだった。隣では友人が自分のハンカチの端っこを噛んで悔しがっていた。忍はそれを見て「じゃあ明日」と言い残すと、後方からやってくる車に気をつけながら去っていく……らせんはそんな彼に声をかけることすらできない。真っ赤な顔を地面に向け、ただ静かにするしかなかった。
「キーーーッ、なんでらせんがあんなイケメンから好かれるのよ〜〜〜!」
「あ、あの……あのさ、デートって……いったい何するものなの?」
「キーーーッ、キーーーッ、デートの仕方も知らないような小娘なのにぃ〜〜〜!」
らせんの戸惑いと友人の怒りはちっとやそっとでは収まりそうになかった……
翌日も昨日と同じような青空が広がった。らせんは時間通りに白鳥のいる公園で制服姿で待っていた。普段着で待っていて忍が混乱するといけないと思い、昨日と同じ服装の方がいいだろうと判断したのだ。この公園には小さな池があり、らせんが言ったように白鳥がいることで知られていた。今日は土曜日ということもあって、大勢の親子連れが朝の散歩やキャッチボールなどを楽しんでいる。広場から遠く離れた入り口に立つらせんにも、その楽しそうな声が聞こえるほどだ。
約束の時間が近づくにつれ、らせんの首がよく動くようになった。回りをきょろきょろと見渡す回数が多くなってくる。嫉妬に狂う友人からはデートに関する有益な情報はほとんどもらえなかったのが原因でらせんはかなり焦っていた。何をどうすればデートして成立するのか……ただそれだけの不安だが、その大きさは半端ではない。まさにこれこそが思春期の少女が持つ悩みなのだ。
しかし、その悩みは一台のバイクの出現で一気に吹き飛ばされた。そのバイクはらせんの前に止まった。らせんは目を丸くする。彼女は操縦者の姿に驚いた。鮮やかな緑色の特殊スーツに身を包んだ戦士のようなフォルム……一度見たような姿にらせんは過敏反応した。ふるふると身を震わせ、目を潤ませながら小さな声で囁く。
「あ、あのぉ……あたし補導されるようなことやってませぇん……ぐすっ。」
らせんはいつか出会った警視庁の特殊スーツ『FZ-01』の仲間がやってきたと思っていた。しかし特殊スーツの人物は落ち着いた様子で話しかける。
「警察じゃない。だが、俺はお前を狙ってる者だ……ご丁寧にどうも。」
「えっ……あっ、その声は昨日の……!」
「今日はゲームを楽しむには絶好の日和だ。キミもそう思うだろう? さ、やろうぜ……この言葉の意味はわかってるはずだ。」
「も、もしかして……あなた、あたしのことドリルガールって知ってるの!?」
ようやくすべてを理解したらせんだったが、どうしても腑に落ちないことがあった。それを素直に忍に問い質すらせん……
「じゃあじゃあ、今日デートっていうのも全部ウソだったの!?」
「……まさか本気で信じてたのか? 珍しいな、キミみたいな人種も。」
「ひっどーーーいっ! 真っ白な乙女の純情を弄ぶなんて許せないっ! もう怒ったわよっ!」
今度は怒りと恥ずかしさに身を震わせながらも肩幅に足を開き右腕を横に伸ばす。すると目映い光とともに魔法のドリルが出現する!
「そう、それでいいんだ……さぁ、ゲームの始まりだ。キミに……この『アスラ』が倒せるか?」
「倒すわよ、乙女の恥じらいを数百倍にして返してあげるわ!」
自らが装着している緑色の試作強化服『アスラ』を突き立てた右手の親指で示し、らせんを挑発する忍。その挑発を変身しながら受け止めるらせん……その姿がドリルガールになると同時にドリルを装着している右手を天に突き上げ、名乗りを上げる!
「銀の螺旋に勇気を込めて、回れ正義のスパイラルっ! ドリルガールらせん、満を持して只今けんざ……」
『ピピピピーーーッ、ピピピーッ』
「何よいいとこなのにヘッドセットが邪魔するなんて……………って何これ! このスーツ、武器だらけじゃない!」
らせんが警告音とともに表示されたヘッドセットディスプレイの分析を見た瞬間、驚きの声をあげる。それは『アスラ』が全身が歩く武器庫のようになっていたからだった! それを証明するかのように、忍はウインドスラッシャーに備え付けてあった銃を持つ……
「あいさつ代わりだ、とっておけ。」
忍が構えた銃を容赦なくらせんに向けて発射する! それを右後方に移動することで避けたらせんはディスプレイの警告画面を凝視する……忍は彼女が避けることを計算に入れていたようで、すでに両肩から小型ミサイルを放っていた!
「左は避けれても……右は避けれないっ! とぉわぁぁぁっ!」
らせんはとっさにドリルを回転させ、自分に向かってくるミサイルの軌道を逸らそうとする。勢いよく向かってくる小型ミサイルを、らせんは絶妙のドリルさばきと冷静さでなんとか後ろに逸らせ、もうひとつのミサイルを前方にダッシュして避けた! そしてそのままの勢いで悠然とバイクにまたがっている忍を狙う! その後方では敵を見失ったミサイルたちが公園の緑を爆音とともに焼いていた……
「覚悟しなさいっ!」
「ドリルガールは……そうでないとな。とぅわぁぁぁっ!」
忍はバイク上から瞬時にらせんの後ろまで宙を舞いながら飛び上がった! 忍は空中で身をよじりながらも手に持った銃でらせんを撃ちまくる!
「後ろががら空きだ!」
「えっ、もういな……きゃあぁぁぁーーーーーっ!」
背後を襲われてはいくらドリルガールでもどうしようもない。振り向きざま、らせんは左肩に一撃を浴びて道路を転がる……今度はアスラが黒い煙をバックにドリルガールを襲う番になった。その頃、周囲は混乱していた。公園の木々が焼かれていることに気づいた一般市民が悲鳴をあげながら避難を始めていたからだ。何が起こったかすらわからずに正面へ向かう人々は異形の戦士の姿を見てさらに驚愕しながら逃げていく。
「……もう少し騒ぎにしないと、奴は来ないか?」
忍が静かに首を傾げると、今度は両腕の装置から細いレーザーがらせんを狙う! らせんは一気に忍の頭上まで特攻し、そこからドリルを突き立てて急降下する! 彼女はこの技に賭けていた!!
「ドリルクラッシャーーーーーっ!!」
「意外に積極的なんだな……いいぜ、そんなところが。ふんっ!」
アスラの背中が開き、そこから上空に向けて2本のレーザーライフルが出現した! それを見たらせんの顔は一瞬にして青ざめる……突き立てていたドリルを盾代わりに構え直し、来るべき悪夢に備える。ふたつの獲物はらせんめがけてレーザーを吐き出した!
「ドリルの回転でなんとかっ……ああっ!」
「誰がレーザーだけで戦うと言った? とりゃあぁぁっ、死ねぇぇぇぇっ!」
「きゃああぁぁぁーーーーーーーーーーーーっっ!」
らせんは横に構えたドリルを急回転させレーザーの威力を半減させることには成功したが、忍自身が攻撃を加えてくる可能性をまったく考えてなかった。強烈なキックを受け、今度は混乱する公園内に転がるらせん……すでにその姿はボロボロだ。そこへサイレンを高らかに鳴らしながらやってくる特殊白バイの姿があった!
「こ、この音……もしかして……」
「来たな……FZ-01。お前を待っていた……」
公園にいた市民からの通報で特殊強化服『FZ-01』に身を包んだ葉月が現場にやってきた! 公園の惨状を目の当たりにし、葉月は思わず目を背ける。しかし、視線の先には自分と同じような姿をした戦士が立っていた。
「お、お前は、いったい……?」
「FZ-01か、待ってたぜ。いいぜ……そこのドリルガールと一緒に料理してやろう。さぁ、来ないのか? 来ないのならキミも公園の木々と同じ末路をたどることになる……」
「それ以上の無法、許さん! 警視庁対超常現象機動捜査官、葉月 政人がお前を止めてみせる!」
高速疾走白バイ『トップチェイサー』から降り、ガトリングライフルを構え、それを迷いなくアスラに向けて撃つ葉月。だが忍も負けてはいない。それを避けながら、瞬時に無数の小型ミサイルを撃ち出し対抗する! そのミサイルにはアスラの網膜パターンと連動した追尾機能が装備されており、どんな方向に撃ち出されても目標を狙うことができるのだ。葉月がライフルを乱射して難を逃れようとするが、いかんせんミサイルの数が多い。目の前で暴発させたミサイルはFZ-01の強固な身体にも多少のダメージを与える……!
「う、うぐっ……ダメだ、ここで踏ん張らなければ……爆風に紛れて絶対に奴が!」
「……さすがだ、FZ-01。さすがはエリート……面白くなってきたぜ。はぁぁあぁっっっ、とりゃあぁぁぁーーーーーっ!」
「や、やはり来たな……今度は肉弾戦か! 望むところだ!」
白煙の中でふたりの戦士が戦い続けている……大きなダメージを負ったらせんはよろめきながらもなんとか立ち上がり、軽くホバリングしながら戦い様子を伺っていた。金属の拳と拳、魂と魂がぶつかり合う音が何度も響いた。その煙の中からひとりの人影が飛び出してくるのが見えた。らせんはそれが『アスラ』であることを確信し、最後の力とばかりにドリルを最高速まで上げて突っ込む!
「うぐわぁあぁぁぁぁっ!」
「来たっ! こ、これがラストチャンスだわ……ラ〜〜〜スト、ドリィルスピ〜〜〜んんんん! いっ、いっけなぁ……わあぁぁぁっ!」
ドリルの先端から光の放つ最後の技を決めにかかったらせんだったが、吹き飛ばされた相手を見てそのドリルを引っ込めた。そう、力負けしたのはFZ-01だった……ともに地面すれすれで高速移動していたため、ふたりは激しくぶつかり合ってしまった! FZ-01はガトリングライフルのある方向へ、そしてらせんは立ち上がった場所へと戻される……白煙の中から静かに出てきたアスラは地面に叩きつけられたふたりを見ながら退屈そうに首を回す。
「追い詰められた弱いネズミでも強い猫を噛むことがあるんだがな……キミたちはまだ、この俺を楽しませることができるだろう?」
「くっ……つ、強い……あらゆる面において、彼は強い……うぐっ」
「け、刑事さんお願いっ! こっちに向かってライフルを撃って!」
「なっ……! 君はいったい何を考えてるんだ、そんな危険なこ」
「早くしてっっっっっ!」
葉月は叫ぶらせんの覇気に押され、彼女に何らかの手段があると信じてガトリングライフルを構える……その様子を見ても忍は動こうとしない。彼は数多くの戦闘の中から得た知識と高い才能を使って多角的にこの状況を考えていた。
『自信ありげだな……あのドリルは『アスラ』と違った力を秘めている。FZ-01と戦っているような感覚では対処できないかもしれない。ま、さしずめミサイルを逸らした時みたいにドリルの溝を使った技なのだろう。前からの攻撃に気をつければいい。しかし……楽しませてくれるな、彼女らは。』
忍の思考が終わるか終わらないかにライフルは火を吹いた! それを合図にドリルは極限まで光り輝き、今までにない回転を生み出す! ヘッドセットディスプレイには彼女がドリルを繰り出すタイミングが表示され、細かいカウントが進んでいる……!
「ネズミが猫の耳を食べちゃうことだってあるのよ! ドリルスラァァァーーーーーッシュ!!」
ライフルの弾が命中するかしないかの瞬間、ドリルで空間を一閃するらせん! ドリルは忍の予想に反して、ライフルの弾を一発も沿わせることはなかった。それどころか触れもしない。ただ空を切ったようにしか見えない……だが、ライフルの弾は一発もドリルガールに命中しない……
「き、消えた!?」
「そんなバカ……うごおおぉぉぉぉぉっっ! おごおぉぉ、おごおごおごごぉぉぉぉあぁぁ!!!!」
それは忍が葉月に続いて疑問を口にしようとした瞬間だった……! どこかに消えたはずのライフルの弾が勢いをそのまま自分に全弾命中していたのだ! 激しい火花がそのダメージの大きさを物語る。衝撃音とともに苦痛の声を上げる忍……らせんは今の一撃で精神力を使い果たしたのか、ドリルはいつもの色に戻ってしまった。しかしそれでもアスラは倒れることなく攻撃を耐え切った。強固な装甲に撃ちこまれた場所をさすりながら、忍は敵に対して驚きを隠そうともせずに話す。
「お、おお……まさか、やるな……お前たちには……楽しませてもらえそうだ。楽しみは……取っておくものだからな……今日はここまでだ……」
「な、なんだと……に、逃げるのか?!」
「追いかけてくる気力があるのなら相手してやってもいい。じゃあな。」
「まっ、待ちなさいっ……ああっ……!」
バイクにまたがる忍を葉月もらせんも追うことができない……圧倒的な力に立ち向かった代償は想像以上に大きかった。そんなふたりを尻目に、忍はウインドスラッシャーを走らせ、その場を去ってしまった。
「一度だけでは物足りない……まだだ。あいつらは俺の力を極限まで引き出せるはずだ……ふふふ、まだだ。」
自らが変化するグラスホッパーの色を持つ強化服『アスラ』から発せられるその声は、ずっと不気味な笑い声を吐き出し続けていた……そう、ずっと。
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