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<東京怪談ウェブゲーム 界鏡現象〜異界〜>


勢い任せのリベンジャー

 それは、前から思っていた事だ。
「ハッキリさせたほうがいいわ、やりたい放題じゃない」
 もっともな意見ではあるがこちらもいくらかの弱みを握っている分……向こう、つまりIO2はそれ以上に手札を持っている。
「色々なぁ……」
「……? 何か隠してるの?」
 眉をひそめた三日月リリィに、盛岬りょうが取り繕う。
「ええと……こっちにも都合が」
「はっきり言って」
バンッと机を叩かれ逃げ腰になるりょうの元へかかってきた電話。
「電話だからまた後で……」
 良いタイミングだと言いたげに受話器を取るなり……りょうが声を荒げた。
「って、もう東京に来てるだと!!」
「何かあったの?」
「ちょっと出かけてくる! 来いナハトッ!!」
「ワ、ワン!?」
 言うが早いか、わき目もふらずに出て行ってしまう。
「……なんのなよ」
 残っている電話のナンバーは、今まさに話していたIO2からの物。
 これは、何か裏でやってるに違いない。
 その確証を得るために、一番事情を知っていそうな人間に電話をかける。
「……あ、もしもし、夜倉木さん?」

 呼び出した夜倉木から話しを聞き……呆れたようにため息を付く。
 特異体質の件や、ナハトの事で色々とあったのは解っていた事なのだが……りょうは前からIO2を利用して、父親を呼び戻しているようだった。
 理由は簡単。
 昔色々と確執があったらしく、その恨みを果たしたいとの事。
 しかもあらかじめ交渉していたらしく、どうやったかは知らないが、装備課を言いくるめて武器まで持ち出して居るのである。
 りょうもまた、IO2を利用している人間の一人だったのだ。
 どおりで大人しく色々とされている訳である。
 夜倉木有悟曰く。
「ナハトも連れて行ったなら、叩きのめしたいぐらいはあるんでしょうね」
 だそうである。
「……今のナハトって犬じゃない」
「前に戻った時に、一時的に戻す方法を見つけたようです。馬鹿に武器を持たせしまった事になりますね」
 めんどくさそうな表情に、リリィはまだ半信半疑だった。
 血の繋がった親子でそこまで仲が悪いというのがよく解らない。
「……親子なのに?」
「親子だから、ですよ」
 色々あるのだろう、と言う事で納得しておく事にした。
「IO2は何も言わなかったの?」
「あいつの父親にはIO2も用事があるみたいですから、捕まえられるなら捕まえてくれと言ってました」
 色々あるのは解るが……。
「どんな人?」
「……真偽が定かではない話ばかりでしたが、一つだけ本当だとしたら、ろくでもない人間だと言う事が解る事はありましたね」
「………?」
「再婚相手が盛岬より年下の女性だとか」
 どうにかするべきだろう事だとは思うのだが……どうしてこう親子揃ってまで面倒事を引き起こすのだろう。

【綾和泉・汐耶】

 小銭を自販機の投入口に落とし、綾和泉汐耶は振り返ってメノウに尋ねた。
「何飲む?」
「ん……レモンティ」
 カシャンと落ちてきた缶を取りだし渡す。
「はい」
「いただきます」
 プルトップの蓋を開け、一口。
 それを見届けてから汐耶も缶コーヒーを買い喉を潤す。
「お疲れさま」
 二人して壁に備え付けてある椅子に腰掛け、休憩を取る。
「どうして手伝いをしているのですか?」
 ここ、IO2の資料室とは名ばかりの整理のされて無さを見かねて、こうして整理を買ってている。
 別に誰かに頼まれた訳ではない、ほおって置く事は出来ないのだ。
「私がこうしようと決めたことだから」
 コーヒーを更に一口。
「メノウちゃんはどうしたい?」
「………どう、とは?」
「私が引き取ると言ったけど、養女になるかならないかはメノウちゃんに決めて欲しいから」
 既に父には話もしてあるが、どうするかはメノウに決めて欲しかった。
「私が……?」
「ええ、選ぶのはメノウちゃんよ」
「………」
 レモンティーを一口。
「考える時間をいただいても良いでしょうか」
「もちろんよ、ゆっくり考えて」
 急な話だから、色々考える必要もあるだろう。
 汐耶も缶コーヒーを飲んでいると、通路の角から夜倉木が二人を見つけ歩いてくる。
 ちょうど良い、返事がどうであるにせよメノウの戸籍に関しての話をIO2に頼むつもりだったのだから彼に話を通して貰えばいいだろう。
 だが……先に口を開いたのは汐耶ではなく夜倉木だった。
「ちょうど良かった。盛岬とナハトを止める手伝いを頼みたいんですが」
「……?」
 簡潔にまとめた話を聞き、とりあえず状況は解った。
「盛岬さんも困った人ですね」
 これもこの場にいた縁だ、暴走した人物を止めようと席を立つとメノウも一緒に立ち上がる。
「私も一緒に行ってもよろしいでしょうか? どうなるかを、見届けたいので」
 真剣な眼差しに、汐耶は表情を軟らかくしてうなずく。
「もちろんよ、何事も経験だから」
 それが選んだ事ならば、自由にさせて上げたい。
 そう、思ったのだ。



 すぐ後に興信所に来ていたという、草間が呼び集めたシュライン・エマと天薙撫子と和田京太郎が揃ったところで、これ以上は時間をかける事も出来ないと夜倉木が運転する車でどこかへと移動する。
「とりあえず、時間がないから聞きたい事は簡潔にお願いします」
 夜倉木が異議がない事をサッと視線で確認してから、シュラインが尋ねたい事を聞く。
「IO2が武器を貸し出すぐらいだから、それぐらいでどうにかなる相手じゃないと考えていいのよね」
 シュラインの言葉にうなずき、後を続ける。
「それもあるとは思いますが……組織はまだ盛岬の馬鹿さ加減を知らないから、多少なら親子の問題で済むと思っているのだと思います」
 解りやすく言えば、IO2は所詮は親子だからそうは大事になるかもとは思っていないが、りょうなら勢いで何をするか解らないと言っているのだ。
 出来る限りそれは避けるとして、なにやら思惑渦巻くIO2の意思も知りたい。
「やっぱりIO2関係者なのかしら、元職員とか?」
「鋭いですね、実際に彼がIO2にいたことは確かです」
 不意に確信する。
 草間が何かを知っているように、夜倉木もまた色々な事を知っていながら黙っているのだ。
 それには機密めいた物が関係しているのだろうが、ここでそれを言ったところで答えるとは到底思えない。
「後、一つだけいい?」
「はい?」
「あなたは、どれぐらいまで話していいって思ってるの?」
 これなら、多少は……。
 多少の状況は知っている、シュラインと汐耶の視線を背中に受けながら一言。
「……どうせすぐに解る事ですが、盛岬の父親も同じ能力を持ってるようです」
 つまりそれは……IO2が必要としているのは、父親ではなく『触媒能力者』と言う事かも知れないと言う事か。
「次の質問は?」
「そうだな、今はやる事があるだろ、俺もいいか?」
 気を取り直し質問をした京太郎に、背中越しに答える。
「どうぞ」
 もう、これ以上は無理だろう。
 時間切れである事だし、話を元に戻す。
「りょうが持ち出したって言う武器は何なんだ?」
「そうですね、わたくしも被害のほどが気にかかっておりますし」
「間に合いさえすれば、後は封印してしうけど」
 持ち出した物によっては、どんな効果を及ばすか解らない。
 なにせあのIO2の物なのである。
「解っているだけで、ライフルやハンドガン等の拳銃類が5丁と発煙筒何かもあって……刃物も持っていったそうです」
「……よく捕まらないわね」
「そうね、このままでもしばらくしたら捕まるんじゃないかしら?」
普通でも十分すぎるほど危ないのに、りょうの外見ならまず間違いなく警察に連行されるはずだ。
「それ以前の問題かと思われますが……」
「というか、まずいだろそれ!? 殺す気満々じゃないか!」
 持ちだした武器を見れば、それだけで殺人未遂に認定できそうなイメージがある。
「もっとも、いくら武器を持ちだしたところで素人が扱える訳無いですから」
「ああ……」
 重火器なんて物は、それ相応の努力と訓練を積まなければ素人が扱ったところで当たりはしない。
「だから……今の盛岬に出来る事は、至近距離から度つき合い程度でしょうが、ナハトがどう影響してくるかが問題ですね」
「場所は解っているのですか?」
 さっきからためらい無く運転しているが、りょうとナハトが一緒になって何かをしている所為か上手く位置がつかめないのだ。
「ああ、それぐらいはIO2ですから」
「………はい?」
 何か、深く考えるととても不穏当な発言に聞こえるのだが。
「あ、そろそろ近づいてきたので、刺激しないように車止めますから」
 結局、この質問にも答える気はなさそうだった。
 それ以上に、車を降りた途端に普通は人気のないだろう空き地から気配を感じる。
「行ってみましょう」
 少しだけ走ったところに、既に役者は揃っていた。
 先に行ってたという光月羽澄と斎悠也。
 そして父親と思われる男性と、りょう本人である。
 ちょうど……羽澄は何かを思いついたように真っ直ぐに走るりょうの足を引っかけた、まさにその瞬間だった。
 ッパン!
「っどわ!?」
「あっ」
 その場にいた全員の声が、綺麗に重なる。
 それはもう、見事な転びっぷりだった。
 スタントもかくやと言うほどに空中で一回転、音を立てて背中から地面へと叩き付けられる。
「いって……っ!?」
 そのままの勢いで立ち上がりるなり、更にもう一歩狩人に向かい踏み込むが……続いて現れた黒い影がりょうの手を引く。
 ドンッ!
 地面が、大きな音を立てて爆発したのだ。
「…………はい?」
「ちっ」
 舌打ちたのは狩人、りょうの腕を引いたのは人の姿をしたナハト。
 解ったのは、それを仕掛けたのはりょうではないと言う事。
「ーーっ! 撤退!!!」
「!?」
 ザッと手を挙げたりょうを、完全なワーウルフへと変化したナハトがかっさらっていく。
「ッウオオオオオオン!!」
 響く遠吠え。
 りょうが何かを力を貸しているのだろう、動きが早い。
「待って!」
 駆け込んできたのはシュライン言葉を聞き届ける事はなく、実にあっさりと、二人はその姿を消した。
 まさに一瞬の攻防。
「……あの爆発は……?」
「ああ、俺が仕掛けた」
 地面に開いている穴は、おそらく地雷か何かだろう。
「少々度を逸脱しているのでは」
「いーんだってあれぐらい、なにせ殺すって来てるんだろ、これぐらいやったって大丈夫」
 綾泉汐耶の言葉にも動じることなく、サラリと答える狩人に一同は思わず頭を抱える。
 あのままりょうが踏み込んでいたらどかんだ、絶対に大丈夫であるはずがない。
「何て親子だ」
「詳しくお話を聞かせていただいてよろしいでしょうか」
 呆れ返ったような京太郎の声に同意しかけたが、撫子がこの場をまとめる。
「おう、いいぜ」
 悪びれた様子が全くないそぶりに、改めてこの問題の奥深さを感じた。



 とりあえず状況を整理したほうがいい。
「ここで話すのはどうかと思いますので、一緒に来ていただいてよろしいですか?」
「……何処にだ?」
 シュラインから一瞬逃げるような体勢を取ったのを、見逃すはずがなかった。
 思い出したのはIO2が呼んでいたという事実。
「それでは、草間興信所ではどうですか?」
「草間……ああ、それなら、っと、そこの眼鏡の男」
「……?」
 どうやら夜倉木の事らしい。
「使い頼まれてくれないか?」
 ポンと肩を叩き、メモを差し出す。
「……解った」
「じゃあ行くか」
 ひとまず納得して貰い、向かったのは草間興信所。
「話のわかるお嬢さんがたで良かった、あんまりIO2が好きじゃないからな」
 出されたお茶を一口。
 まず解っているのはりょうが持ちだした武器がライフルやハンドガン等の拳銃類が5丁と発煙筒何かもあって……刃物まで持ち出しているのだから質が悪い。
 そして……狩人もまた触媒能力者だと言う事である。
「IO2に見張られたくないから海外に?」
「まあな、IO2監視も利用されるもごめんだ」
「利用?」
「俺みたいな体質は、利用してくれって札が付いてるのと同じだ。りょうを知ってるなら解るだろ、単純で扱いやすいなんてのは道具にとっては必須だからな……話を本題に戻そう、今あいつはどうなんだろうな?」
 多少態とらしさの残る話題の転換は、触れるなと言う事だろう。
「ここでこうして居る限り、手を出したりは出来ませんよ」
 柔らかい笑みではあるが、悠也のその口調は確信に満ちている。
「そうね、いくらりょうさんでもここで暴れれたりは出来ないでしょうし」
「もっともね、後でどうなるかぐらい解ってると思うわ」
 それにシュラインと羽澄も同意する。
「こっちは平気そうだ」
「わたくしも窓にも符を張っておきましたから、呪術的な行動は不可能です」
 ドアをを見張っている京太郎に撫子の結界、これで十分に手出しできない状態には持ち込めた訳である。
「ほかに考えられる事としては、りょうさんが瞬間移動が使えるって事だけど」
「それは結構厄介だな、奇襲としては使えるだろ」
「それは大丈夫ですよ、ここに来さえすれば、すぐに取り押さえられますから」
「それに瞬間移動は負担がかかるから、使った後はろくに動けないわ」
 動けたとしても、精々一瞬だ。
「問題はナハトね」
 前に戦った事はあるのだが、銃をどの程度まで使えるかによって変わってくるし、りょうの協力で力が増幅している可能性もある。
「ナハトってどんな奴なんだ?」
「よろしければわたくしにも教えていただけますか?」
 撫子と京太郎はワーウルフの状態であるナハトは見ているが、それ以外はよく知らない。
「そうよね、えっと……簡単に言えばスピードや攻撃力が高い、さっき見たワーウルフの形態と。人の姿をしている時は魔術めいた物を使う事も出来るわ。りょうはそれをパワーアップさせる能力の持ち主だから更に質が悪いわね……でも銃の腕は……どうなんだろう?」
「あ……」
 それまで沈黙していたメノウが、何かを思いだした様だ。
「何か知ってるの?」
「はい、行動を共にしていましたから」
 確かにメノウならば知っている事もあるだろう、心強い意見である。
「ライフルを使っていたという話は聞き居ませんが、視力聴力は人の限界を超えてますから、やろうと思えば可能でしょう」
 つまり……ライフルによる長距離射撃の可能性がでて来たと言う事になる。
「ありがとう、メノウちゃん」
「いえ……」
 向こうの手の内が解れば、いくらでも手の打ちようがある。
「狙うとしたら、窓でしょう」
「そうね、窓から離れたほうがいいわ」
 ブラインドを下ろし、狩人を壁ぎわに移動させる。
「……ここから見える建物のどれかにいるのか?」
「今の内行ったほうがいいかも知れないけど……分散させる手かも知れないわね」
 狙いは狩人だから、羽澄と京太郎が何か見栄はしないかと窓を見張る。
 りょう達からすれば、人は少しでも少ない方がいいだろう。
「それもあるとは思いますが、もう少ししたら焦れて行動を起こすのでは?」
 確かに持久戦には向かない性格だろう、今のような精神状態ならなおの事。
「ではこうしましょう、今はゆっくり話をして、それから焦れた頃合いを見計らい二手に分かれ、りょうさんが行動を起こした所を捕まえる」
「そうね、それでいきましょうか」
 裕也の意見に賛成し、シュラインが時計を見上げる。
「何分ぐらいかしら?」
「あと15分ぐらいが限界じゃない?」
「話をしてれば怒って出てくるかも知れませんよ?」
 冗談のような口調で言った羽澄と悠也の言葉だが、今起こしている事が事だけに信じてしまいそうになる。
 むしろ、半分以上真実かも知れない。
「……そんなに気の短い奴なのか?」
 なにげに酷いとも取れなくはない言葉だ。
「行動が短絡的なのは事実でしょう」
 りょう一人であれば、ここまで面倒な事にはならないはずだ。
「ナハトを巻き込むなんて、困った人ですね」
 汐耶の意見に悠也も同意する。
「まあ逆を言えばナハトさんさえ押さえればりょうさんも動けないでしょう」
 結論としては、よほど奇をてらった作戦でもない限り、狩人に危害を加えるのは不可能だ。
「所で、話は変わりますけど」
 全員の視線が、狩人に集中する。
「何か思い当たる節はありませんか?」
 本来なら双方の意見を聞いておくべきだが、揃っていない事には仕方がない。
 狩人が真実を話すかどうかはいささか不安だったが、それはいらない心配のようだった。
「思い当たる節なぁ、こんな体質だからと思って多少鍛えた程度か? あとは……」
 その多少が気になるが、とりあえず言葉が続くようなので待ってみる。
「あれか? 再婚相手、あれを話た時に始めて切れたからなぁ、もちろん返り討ちにしたけど」
「……再婚相手」
 ポツリと呟くシュラインに、羽澄と悠也が顔を見合わせる。
「よろしければ、どんな人かお教えいただけますか?」
「ああ、もちろん! 可愛いんだぜ」
 のろけついでに、財布から写真を取り出す。
 全員がそれをのぞき込む。
「……今おいくつなんですか?」
「ん? 今年26だ」
「若ッ!」
 写真の女性は、それよりもさらに若く見える。
 なんとなく事情が飲み込めだのが……。
「もしかして……その」
「何か解ったのですか?」
 ややためらいがちなのは、それをここで言ってもいいものかと言う事だろう。
「少しでも気になる事があるなら言って置いたほうが」
「そうだぜ、何があるか解んないし」
「……でもね」
 苦笑する羽澄に、ハッキリと言ってのけたのは悠也である。
「おおかた、元カノと言ったところでは?」
「ええっ!」
「おおっ、おしいっ! 実際の所はあいつの片思いで終了な」
「ひっでぇ!」
 少なくとも、この場にりょうがいれば殴りかかっていたに違いない。もしくは、唯一と言ってもいいぐらいの京太郎の反応に涙していた事だろう。
「それは……また」
 困りましたね、と撫子がしとやかな動作で口元を押さえる。
「結局は、親子の確執に過ぎないのだけど……この際ですから、一度しっかり話し合ったほうがいいのでは?」
「そうですね……このままりょう様を捕まえても、問題が解決しない事には同じ事の繰り返しでしょうし」
 汐耶の提案に撫子が同意した。
 まあ、それはおおむね普通の思考だろう。
「そろそろ焦れる頃じゃない?」
 スッと窓から離れた羽澄に京太郎も続く。
「探しに行くなら、俺も一緒に行くよ」
「では、俺の式神も同行させましょうか、きっとお役に立ちますよ」
「悠也君はどうするの?」
「俺はちょっと他に調べてみたい事がありまして」
 そう言って、呼び出したのは裕也を幼くしたような二人の少年と少女。
「悠でーす☆」
「也でーす♪」
 一気に騒がしくなったが、頼りになるのは本当である。
「じゃあ、行ってくるわね」
 羽澄と京太郎を見送ってから、悠也も立ち上がる。
「どこに行くの?」
 シュラインの問いに、ニコリと微笑む。
「家族の問題にしては、たりない方がいますよね」
「奥さんの事ね」
 それは、シュラインも気になっていた事だ。
 親子ゲンカで、困るのは今ここにいない彼女だろう。
「はい、さっき夜倉木さんに頼んだのはその事では?」
「当たり、ここなら平気だと思って向かえに行かせたんだ」
「私も一緒に行くわ」
 そうして、シュラインと悠也も出ていった。


 残っているのは、撫子と汐耶とメノウ、とリリィ、そして草間と狩人の六人。
「今の内に、少し話を聞かせていただいても?」
「ん、どうぞ?」
「先ほど仕掛けた地雷は……?」
「ああ、アレな、昔からよくやってた。鍛えてやったんだ。アレは昔から弱っちいからな」
 さらりと、問題発言をしてくれる。
「鍛える?」
「ああ、あいつは幽霊とか人間外とかに空かれる体質だし、精神的にも弱っちいからな、鍛えてやったんだ」
「……例えば?」
「まあ、一人でも生きていけるように頑張れば死なない感じの幽霊退治とか」
 言い換えれば、間違っていたら怪我だけじゃ済まない事だと言う意味で汐耶は言ったのだが、何処まで通じたものか。何しろ相手は悪いと思っていない。
 鍛えるという意味であんな事をするのはさすがに度が過ぎる。
「わたくしもお聞きしてよろしいでしょうか」
 今度は撫子がスッと手を上けだ。
「もちろん」
「話し合いをなされるつもりはございますか?」
 これをキッチリしておかない事には、どうにもならない。
「それはあいつ次第だな、今回はもう俺から何かするつもりはないし」
「どういう事ですか?」
「それがかなみ……ああ、これ妻の名前な、つまりかなみとの約束で日本にいる間は自分から喧嘩をするなって言われてるから」
 それなら大丈夫かと思いかけ、慌てて訂正する。
「向こうからと言う事は、りょうさんから来た場合は何かしても良いという訳ではありませんよ」
「……気を付けよう」
 釘は差したから、大丈夫だとは信じたい。
「さて、他に質問は?」
 余裕めいた表情だが、鳴らされたブザーにサッと緊張感が走る。
「正面から……まさか?」
 いくらなんでも、それはあり得まい。
 ドアを開けてここに来るまでに、捕まってお終いだ。
「ても注意は致しませんと」
 言いながら撫子が仕掛けを施しておく。
「そうね」
「俺が見てくる」
 草間がドアに向かうと、今の内にと狩人が持ち上げた湯飲み茶碗が、見事に砕け散る。
「なっ!?」
「……来ます!」
 何もない空間からりょうが突然現れるのと、撫子が動くのは同時だった。
「ーーーーーーっ!」
 もう少しの所で、りょうが撫子の繰る妖斬鋼糸に絡め取られ動きを止められる。
「ーーーっ、くそっ!!!」
 ドアに移動させたところへ室内を狙撃して義を乱そうとしたようだが……この程度ではまだ詰めが甘い。
 それなりに考えたようだが、この程度の事は予想済だ。
 汐耶にタバコを取られ、超能力も使えなくなったりょうの行動はあっさりと封じらたわけである。
「力で訴えるよりも、きちんと話をしてください」
「……けど」
「けどもありません、とにかく落ち着いてから話をしてください」
「ま、諦める事ね」
 草間に椅子に縛り付けられても叫いていたが……全員が揃う間だに落ち着くと良いのだが。


 全員が揃い話し合いを始める前に、一つだけとシュライン。
「リリィちゃん、ちょっといい?」
「はい?」
 名を呼ばれたリリィがパタパタと駆け寄り、何か会話をしてから仮眠室へと向かった。
「どうかしたの?」
「後で解りますよ」
 改めて、話を戻す。
「せっかくですから、お茶にしませんか?」
 テーブルの上には悠也が持ってきたオペラやブルーベリータルトにスフレチーズケーキ。
 そしてゆっくりと湯気を昇らせる良い薫りの紅茶。
 甘い物が好きなだけに、少しは大人しくなったようだが……安全策にとテーブルの対角線上にりょうと狩人が座る形になっている。
 更に言うならば、いつでも止められるようにとキッチリとりょうの隣に悠也と京太郎が立っているのだ。
 かなり物々しい警戒といえなくもない。
 諭すような口調で、汐耶と撫子が仲裁にはいる。
「この際ですから、何を怒っているかをキッチリ話したほうがいいと思います。そうで無ければ、誰の理解も得られませんよ」
「出来るだけ親子間で解決したほうがいい事かと思われますが、話すだけでも話した方がよろしいのではないでしょうか?」
 根本的な解決をしない限り、同じ事の繰り返しだ。
 どうにかして、納得させる必要がある。
「そうね、話を聞くと相当下らない嫌がらせをされたって事だけど、りょうさんにも言いたい事はあるんじゃない?」
「………」
 少しばかり妥協したシュラインの言葉に、りょうはうつむいたまま黙り込む。
「りょう?」
 羽澄に顔をのぞき込まれ、パッと顔を上げた。
「九歳の頃あんたが母さんと離婚してからずっとだっっっそうやっていつもへらへら笑って適当な事ばっかり抜かして遊び歩いては一ヶ月ほったらかしなんてざらだったしその間だ俺は幽霊に首絞められて殺されかけるはあんたの恨みだっていう奴に誘拐されかけて犬にかみ殺されそうになるはたまに帰ってきたら事件起こすは隣なりの家の人と浮気してたりとかで殺傷沙汰起こして学校に居づらくなって虐められて散々だったんだっっ!!! 中学に上がった時だって………」
 ワンブレス、である。
 ちなみに恨みはまだまだ続行中だ。
「相当恨んでるようですね」
「……ひでぇな」
 苦笑する悠也に、顔を引きつらせる京太郎。
 殺しに行っていい訳ではないとが、気持ちは解らないでもない。
「それで高校の頃なんかっ、後輩の……っ」
 だんだん息が切れて息が切れている。
 それを見計らい、狩人が紅茶を飲んでから一言。
「……で?」
「ーーーーっ!!!」
 どうやら、とことん人の神経を逆なでしたいらしい。
「ちゃんと話し合いをしてください、そう言いましたよね」
「あー、まあちょっと……」
 汐耶に注意されてから、仕舞ったと言う様にへらりと笑う。
「りょうもいちいち反応しないで、からかわれてるのよ」
「だから余計に悪るいんだっ! こうなったら徹底的に血反吐くぐらい殴ってやる、土下座して謝れ!!!」
 完全に頭に血が上ってしまって、手に負えない。
「何か一発ぐらいなら殴ってもいい気がしてきた」
「それは……」
 言ってはいけない一言だと悠也が続ける暇もなかった。
「そうだろ、絶対にそうだよな! だからせめてナイフで一刺し!!」
「刺したら終わりじゃない」
「落ち付けって!」
「とりあえずそれは投げるものではないですから」
 京太郎がりょうを羽交い締めにして、悠也がフォークを取り上げる。
「じゃあタバコくれ、火だるまにしてやる!」
「だからそれが駄目だって言ってるのに……」
 羽澄やシュラインですら頭を抱えたくなる展開に、撫子が提案をしてみた。
「ここは謝られては如何でしょうか?」
「確かに、謝って納得できるか解らないけど、こうなった責任はありますね」
「そーだよな」
 視線が狩人へと集中する。
「どうします?」
 全員を代表した悠也の一言、彼が折れさえすれば、多少は落ち着くと思ったのだ。
「……俺の言い分は?」
「はい、何ですか?」
 何かりょうの意見だけでは解らない部分もあるだろう。疑う訳ではないが、片側だけの意見を鵜呑みにする訳には行かない。
「死にそうになったと言うが、俺はちゃんと倒せるような雑魚だけ選んでるんだぜ?」
「どういう事?」
「アレの力は狙われる物だし、人外に取っちゃいい餌だからな、自分の身ぐらい守れるようになれってこった。それに……俺も忙しかったんだよ」
「……結局あんたは俺の事なんてどうでも良かったんだろ?」
「何がだ?」
 そのこと自体は解ったのか、不意に低くなった声の所為で怒鳴るよりも状況は悪化している。
「止めたほうがいいのかしら」
「もう少し、待ってみましょう」
「……そうね」
 そっと小声で話すシュラインと汐耶の声は、幸いこれ以上影響を悪くする事はなかった。
「解ってるんだ、母さんと離婚したのは俺の所為だから恨んでるんだろ、だったらもっと早くほっといてくれれば良かったんだ!」
「ちょっとまって、どういう事!?」
 この事は羽澄は調べているから解る。
「あっ」
 間の、抜けた声。
 嫌な予感。
 一呼吸分置いてから、羽澄が言う。
「りょうのお母さんの離婚の原因って、お母さんの方が他の人と結婚したからなのよ」
「…………………はあ?」
 つまりは母親の浮気が原因で、離婚させられたのだ。
「本当の事よ」
「……でも俺、お前の所為だって、言われて………」
 思考が停止している間に質問をしておく。
「何でそんな事言ったんですか?」
「いや、そん時は機嫌が悪かったから」
「……本当にどうしてこう」
 頭痛がしてきた頭をシュラインが抱えると同時に、状況を理解したりょうが再び怒鳴り始めた。
「この際ですから、きちんと謝ったほうがいいのでは?」
 いくらなんでもやりすぎだ。
「でもなぁ……」
 ここに来てまだごねる狩人も相当なものである。
「謝ってしまった方がよろしいのではないかと……」
「それで落ち着くかどうか……」
「俺だったら無理だな」
「頭痛くなってきた……」
「でも本当に何とかしないとよね」
「いつまでたっても終わりませんし」
 質の悪い親子ゲンカで興信所を占領しておく訳にはいかないし、このままでは間違いなく絶縁状態だ。
 いい年した大人なのだから、言いたい事も喧嘩もほっとくべきかも知れないが……それ以前に羽澄には言っておく事がある。
「ねえ、りょう」
「……なんだよっ!」
「どうしてここに来たか解る?」
 ゆっくりした口調で話す羽住にしかめっ面のままだが何とか口を閉じる。
「色々言いたい事があるのは解ったけど、今はそれはおいといて」
「おっ……」
 少なからずショックを受けたようだが、気にせず続ける。
「私は、りょうが犯罪者にならないように来たのよ。戒耶ちゃんに怒られたくないでしょ」
 ニッコリと微笑む羽澄に対し、りょうはサァァッと血の気を引かせる。
 出されたのはりょうにとって恩のある人で、その人にハッキリと解るような迷惑をかけること何て出来ないのだ。
 これは、なかなかに効果があったらしい。
「まさか戒耶さんに迷惑かけるなんていいませんよね」
「う、ううううう………」
 悠也にもキッチリと釘を差され、撃沈。
 床にへたり込み、ギリギリと爪を立てて呻いている。
「最初からこうしてれば良かったのね」
「ようやく人に迷惑がかかるって事に気付いたようですね」
「……よろしいのでしょうか」
「……………元気出せよ、なっ?」
 ようやく一段落付いたかと思われたその瞬間。狩人が椅子にふんぞり返ったまま一言。
「まあなんだ、結局は俺も悪い訳だから、気が済むなら殴れよ」
 どうしてこう、話をややこしく、するのだろうか?
 全員の思考が見事に一致する。
 嫌がらせとしか思えない。
「なんでこう……あー、めんどくさくなってきたっ!」
「もうほおって置きましょうか?」
「ここではやらないでね」
 京太郎の気持ちが良く解るとため息を付く汐耶とシュライン。
「ご本人が良いと言う事ですし……」
「危なくなったら止めましょうか」
「そうね……」
 撫子の言うとおりだ、悠也や羽澄のようにここには止められる人がいるのだから。
 気持ち的には最初から放っておけば良かったという気持ちはあるが、何もしなかったら酷くなっていただろうからこれで良かったのだと信じたい。
 結局はこれで落ち着きそうだ。
「よーし! 屋上あがれ屋上!!」
「そう焦るな」
 騒がしく階段を上がっていく二人をどうしたものかと思うが……まあ五分ほどしたら止めればいいだろうか?
「止める前にかなみさん呼んだほうがいいわね」
「かなみさん?」
 オウム返しに言った京太郎に、呼びに言ったシュラインに変わって悠也が答える。
「狩人氏の奥さんですよ。来ていただいて、落ち着くまで待っていただいてたんです」
「確かに会わせたら余計にややこしくなりそうね」
「そうですね、正しい判断かと」
「それだけじゃないんですけどね」
 クスリと笑う悠也に、まだ何かあるのかと言う疑問は連れてこられたかなみを持て納得。
「……妊婦さん?」
「あーー」
 大きくなったお腹はそれ以外に形容のしようがない。
「そろそろ行きましょうか」
「はい、私も言いたい事がありますし」
 それが喧嘩を止める積もりか、止めを刺しに行くのかは解りかねた。


 屋上。
 まさに喧嘩の真っ最中。
 けれども上がってきた一同の中にかなみを付けるなり動きを完全停止させる。
「おお、大丈夫か? かなみ……?」
「……………」
 もっとも逸れも数秒の事。
「てめっ、ふざけんなっ!!!」
 超能力まで使い初め柵の一部が吹き飛んでいったりする。
「ぜってぇ倒すッ」
「返り討ちに……っ!」
「そこまでにしてください」
 そこに悠也が結界を張り、屋上がパッと花畑に変わる。
 無機質な光景の中広がる光景。
「お前……」
 何とも言えないメルヘンチックである。
 この環境では、喧嘩所ではないだろう。
「ええと、話があるそうだから」
「実は……」
 説明するよりも早く、りょうがヘタリとその場にくずおれる。
「な、なん……?」
「気持ち悪……」
 狩人も何故かその場に気分が悪そうに座り込む。
 さっきまでの様子とはうってかわり、顔を青ざめさせて気持ち悪そうに口元を押さえ始めた。
「如何なさいました」
「ちょっと、りょう!?」
「大丈夫!?」
 思わず駆け寄る羽澄にリリィ。
「怪我……ではなさそうだけど」
 それまで何事もなかったのである、汐耶の疑問にかなみが困ったように笑う。
「それ、私の所為ですね」
「かなみさん?」
 何か知っているのかとシュラインが尋ねかけて気付く。
「まさか……」
「生まれるかも」
 恐らくは、今日一番の爆弾発言。

「ええええっ!!!」

 もう喧嘩がどうのと言ってる場合ではない。
「なんで言ってくれないんですか!」
「つーか何であんたらが倒れてんだ!?」
「エンパス能力の所為?」
「じゃあ親子揃ってそうなのか!?」
「今はそれどころじゃないでしょ!」
「救急車ー!」
「駄目ですよ、出産では来てくれないって」
「車出して、車!」
「しっかりして下さい」
「つーか、いい年した大人が使えないっ!」
「とにかく急いで病院に行かないとっ」
「私もそろそろ辛くなってきました……」
「ええっ、生まれそうなんですか!?」
「すぐに病院に行きましょう」
「毛布とかかけた方が……」
「そ、そうね! 手伝って」
「はいっ!」
「背中とかさすったほうがいいのか?」
「それは……!」
 一気に混乱した屋上から、無事病院に着くのはもう少し先の話。



 一段落したのは、無事だった事を確認してから。
「ああ、驚いた」
 結局親子ゲンカはあのままうやむやになってしまえばいいのだが。
 なにしろ二人してグロッキー状態だから、そんな気は起きないだろう。
 なにしろ目の前をフラフラとした足取りのりょうが、ナハトに肩を貸される事で歩いている。
「まだ具合悪いんですか?」
「気持ち悪い……」
「もう少し落ち着いたらどうです」
「……ん」
 ため息を付くと思いだした様にりょうがナハトに告げた。
「悪かったな、巻き込んで」
「いや、いい」
 隣にいたメノウが、スッとナハトに近寄り見上げる。
「一つ聞いても良いですか」
「………なんだ?」
「今、どんな気持ちですか?」
 それは、同じような状況のナハトにしか聞けなかった事。
「一言じゃ言えないな」
「……そうですか」
「だから実際に体験してみればいい」
 立ち去ったナハトとりょうの姿を見てからメノウは汐耶に向き直る。
「お世話になって良いんですか」
「もちろんよ、メノウちゃん」
「……お世話になります」
 安心したようなメノウの髪を撫でてから、汐耶は柔らかく微笑んだ。
「よろしくね」
 これから二人で買い物に行くのもいいかも知れない、これから家族になるのだから。



     【終わり】

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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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【整理番号 / PC名 / 性別 / 年齢 / 職業】

【0086/シュライン・エマ/女性/26歳/翻訳家&幽霊作家+草間興信所事務員】
【0164/斎・悠也/男性/21歳/大学生・バイトでホスト】
【0328/天薙・撫子/女性/18歳/大学生(巫女)】
【1282/光月・羽澄/女性/18歳/高校生・歌手・調達屋胡弓堂バイト店員】
【1449/綾和泉・汐耶 /女性/23歳/司書 】
【1837/和田・京太郎/男性/15歳/高校生】

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■         ライター通信          ■
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参加していただいた皆様、ありがとうございます。
やたらと長くなっていたり、色々と起こっていたりしますが……如何でしたでしょうか。

内容の方は大まかに分けると以下のようになります。
■前半〜合流するまで。
 羽澄ちゃんと悠也君 シュラインさんと撫子さんと京太郎君 汐耶さん
■中間
 シュラインさんと悠也君 羽澄ちゃんと京太郎君 汐耶さんと撫子さん
■各エンディングは個別です。

お時間があれば他の方のも読んでみると話の全体が見えるかも知れません。
それでは、またお会いできたら幸いです。