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<東京怪談ウェブゲーム 神聖都学園>


黒い女神を見つけ出せ!
「怪奇現象なんて、ないんです。ないって、思ってるんです……でも、その、ね。みんな騒いでるの。だから、こんなデタラメな噂、元から断っちゃって欲しいのよ」
 すがるようにカスミが言った。
 近頃、校内で妙な噂が流行っている。黒い女神の噂だ。
 黒い女神は呪いの女神で、女神を見つけてお願いすれば、どんな呪いも成就するのだという。
 実際、その呪いのせいでケガをしたといわれている生徒や教師も何人も出ているのだ。本人たちは口をつぐんでいるが……。
 普段ならばただのくだらない噂ということで片づけられてしまいそうな事件だったが、こうも話が大きくなると、カスミもただの噂だと笑い飛ばすことができないのだった。
「だから……ね、お願い」
 最後は懇願するような口調で、カスミは目の前の人物にすがった。

「カスミ先生、ほら……怖いのはわかりましたから。立ってくださいよ。ね?」
 響カスミに泣きつかれて、不城鋼は苦笑した。
 カスミが怖いものに弱いのは有名だから、鋼もよく知っている。
 けれども、こうやって、生徒が教師に抱きつかれている状況というのは……少々、困る。ひょんなところから妙な誤解が生まれない、とも言い切れないからだ。
「俺も、一緒に探しますから。ね? だから、そんなに泣かないでくださいよ」
 仕方なく、鋼はよしよしとカスミの頭をなでてやるのだった。

「なるほど……そういうことでしたら、わたくしもご協力させていただきますわ」
 カスミから事情の説明を聞いたあとで、年若い、王侯貴族の風格をただよわせた美女ー―鹿沼デルフェスは笑みを浮かべてうなずいた。
「わたくしにも、カスミ様をお守りすることくらいはできますもの。大してお役には立てないかもしれませんけれども……」
「いてくれるだけで十分、心強いって。鹿沼に先生のこと、任せられるんだったら、俺も遠慮なく暴れられるし……」
 デルフェスに向かってそう答えたのは、口調とは裏腹に愛らしい容貌をした小柄な少年、不城鋼だ。指をぱきぽきと鳴らしながら不敵に笑う。
「換石の術、とやらで周囲を保護できるんだったら、俺も遠慮なく武器を使えるってもんだ」
 W−1106がじゃきんっ、と武器を構えながらつぶやく。その、ゴーレムというよりはどこか科学の産物のようにも
「……あ、あんまり建物は壊さないように」
 なんとなくおどおどしながら、カスミがW−1106に注意する。W−1106はそれに対して、肩をすくめるような動作をした。
「ま、とりあえずは……その、女神が出るって辺りに行ってみようぜ」
「そうですわね……その、黒い女神を見つけ出さないことには、お話になりませんもの。カスミ様、黒い女神というのはどのような容姿をしていて、どの辺りに出没するんですの?」
「ええっと……確か、大きさは随分と小さめで……そう、小柄な女の子くらいの大きさだって聞いてるわ。特にどこに出る、って決まってるわけじゃないみたいだけど、どうも、、裏庭の辺りによく出るとか出ないとか……」
「ただの噂にしては、随分と具体的ですのね」
 不思議そうにデルフェスが首を傾げる。カスミも同じように首を傾げた。
「……そう、私もそう思うのよ! ほら、ね、怪奇現象なんてないんだから!」
 なぜかカスミは急に元気を取り戻し、腕を振り上げて訴える。
「カスミ先生、わかりましたから……。腕振り回すと危ないですって」
 鋼が困ったような顔で注意する。その顔にカスミはとたんにしゅんとなる。
「ごめんなさい、私ったら、つい……」
「まあ、いいじゃありませんか。早く、探しに行きましょう」
 沈んだ雰囲気のカスミを慰めるようにデルフェスが提案し、4人は黒い女神が現れるという裏庭へ向かった。

「ここ……か」
 鋼は辺りを警戒しながら、一歩、裏庭へと足を踏み入れた。
 裏庭は裏庭というだけあって、校舎の影にあり、まだ昼間だというのにどこか薄暗く、陰気な雰囲気だった。人影もなく、人目にもつきにくそうで、呪いがどう――とかいうことをするのには、まさしくうってつけ、といったふうに見える。
「特に、あやしいものは見あたりませんわね」
 あたりを見まわしながらデルフェスが言う。同じく、周囲を警戒しながらW−1106もうなずいた。
「じゃあ……今日は、いないのかしら」
 鋼の背後に隠れつつ、おどおどとした様子でカスミが訊ねてくる。
「そうですわね……その可能性もございますわね。毎日、出るというわけではございませんでしょうし……」
「……いや、なんか、いる」
 デルフェスの言葉をさえぎり、鋼は低く言った。
 根拠があるわけではない。だが――鋼の、元総番としてのカンが、そう告げている。
「なら、俺が」
 言いながらW−1106がライフルを構える。
「いえ、ここはわたくしが」
 W−1106をさえぎり、デルフェスがきっと眉をつり上げる。
 手をかざし、いつでも換石の術を行使できるように構えたところで、しげみががさりと音を立てた。
「きゃ、きゃあっ!」
 カスミが悲鳴を上げる。
 だが、万が一、無関係な人間であってはまずい。3人はそれぞれに身構えたまま、しげみの中から「なにか」が出てくるのを待つ。
 しばらくして――
 しげみの中から顔を出したのは、女神、という言葉から連想される姿とは程遠い、小さな女の子だった。
「……子供?」
 鋼は拍子抜けして、間の抜けた声を出してしまう。
 そう、その人物は子供としか言いようがなかった。
 背丈はかなり小柄な部類に入る鋼とくらべても、随分と低い。
 しかもそれが、真っ黒なローブに身を包み、フードですっぽりと顔を隠しているのだから……。
「子供……ですわね」
 デルフェスですら、そう表現する他なかった。
「間違えて撃たれたくなかったら、こんなところにいないことだな」
 不機嫌そうにW−1106が言う。
「そうよ、危ないわ。ここには黒い女神が出る、って噂だし……」
 相手が子供だとわかると俄然強気になって、カスミが女の子に向かってさとす。
「……なんだ、あなたたち、あたしのこと、探しに来たの?」
「まさか……おまえが、黒い女神?」
 鋼が眉を寄せて問う。
「ええ、そうよ。あなたも誰かを呪いたいの? あたしの呪いは高いわよ。呪殺は請け負っていないけど……そうね、恋のライバルを蹴落とすのだって、憎い相手にケガをさせるのだって、あたしにかかれば思いのままよ」
 うふふ、と幼い声に似合わぬ大人びた口調で、女の子が4人へ告げる。どうやら、彼女が本当に噂の「黒い女神」らしい。
「人を呪っても、後には憎しみが残るだけ……そのようなこと、してはいけませんわ」
 怒りのにじむ口調でデルフェスが言う。そんなデルフェスの様子にもひるむことなく、女の子はふん、と鼻を鳴らした。
「なに言ってるのよ。あたしは、人が望むから願いを叶えてあげているだけ。あなたにだって、人を憎いって思う瞬間があるはずだわ。そうでしょう?」
 女の子の口調は、次第にねっとりとしたものへと変わっていく。
「それでも……いけないことですわ」
 デルフェスはふるふると首を振った。
「そうよ。そんなこと、しちゃいけないわ」
 相手がただの女の子だとわかって強気になっているのか、カスミはつかつかと女の子へと歩みより、こつん、と頭を叩こうとする。
「……っ、たぁ……!」
 けれども女の子はビクともせず、かわりに、カスミの方が悲鳴を上げた。
「カスミ先生、大丈夫ですか!?」
 あわてて鋼がカスミのもとへと駆け寄る。鋼がカスミの手を取って見ると、カスミの手は真っ赤に腫れあがっている。
「人間の手じゃ、あたしはビクともしないわよ?」
 けたけたと、さもおかしそうに女の子が笑う。
「それならば……こうですわ」
 デルフェスは宙に手をかざし、女の子へ向かって呪文を唱える。
 余裕の笑みを見せていた女の子だったが、デルフェスの放った術で、一瞬にして石と化してしまう。
「すごい……」
 カスミが痛みも忘れて、感嘆の声を上げる。
「大したことではございませんわ」
 デルフェスははにかんだ笑みを浮かべながら答えた。
「……フン」
 どことなくつまらなさそうに、W−1106はライフルを下ろす。
「まだ、調べておりませんから、よくはわかりませんけれど……きっと、ゴーレムの一種だと思います。この子、お店の方へ持ち帰ってしまってもよろしいですか?」
 石になった女の子へと歩みより、デルフェスが笑みを浮かべながら問う。
「え、ええ、それはかまわないけど……でも、どうして、そんなものが急に動き出したのかしら」
「それは……わたくしにも。ただ……この学園は、少々、特殊な場所でございますから……」
「……それって、考えても仕方がない、ってこと?」
「まあ、そういうことになりますわね」
「……いい加減なの」
「なにか、おっしゃいましたかしら?」
「いや別に。なにも言ってないけど?」
 笑顔で訊ねてくるデルフェスに、同じく鋼も笑顔で返す。
「事件も解決したようだし、俺は行くぞ」
 そんなふたりの様子を見ながらつまらなさそうにつぶやいて、W−1106は背中のブースターのスイッチを入れた。
 とたん、爆音と共にW−1106の身体が宙へと浮き上がる。
「……飛んでる……」
 それを見ながら、カスミが驚きの声を上げる。
 こうして、黒い女神の事件は終わりを告げたのだった……。

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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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【整理番号 / PC名 / 性別 / 年齢 / 職業】
【2181 / 鹿沼・デルフェス / 女性 / 463歳 / アンティークショップ・レンの店員】
【2239 / 不城・鋼 / 男性 / 17歳 / 元総番(現在普通の高校生)】
【2407 / W・1106 / 男性 / 446歳 / 戦闘用ゴーレム】

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■         ライター通信          ■
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 はじめまして。あけましておめでとうございます。今回、執筆を担当させていただきました、ライターの浅葉里樹と申します。このたびは発注の方、ありがとうございました。
 その笑顔でどんなトラブルも解決してしまうという不城さんの魅力をどこまで描けたのか、少々不安も残りますが、いかがでしたでしょうか? もう少し暴れさせてみた方がよかったのかな、と思ったのですが、今回はこのような形になりました。お楽しみいただけていれば、嬉しく思います。
 今回はありがとうございました。もしよろしかったら、ご意見・ご感想・リクエストなどお寄せいただけますと喜びます。