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<東京怪談ノベル(シングル)>


デートにまつわるエトセトラ

1.デート開始
今日のデートコースは僕にしては完璧なほうだと思う。
彼女が買いたがっていたワンピースを探しにまずは某デパートへ。
その後は彼女の行きたがっていた新しく出来たコスメの店にこの間情報を仕入れた美味しいと評判の和食の店。
気に入ってくれるだろうか?
僕、空木崎辰一(うつぎざきしんいち)は待ち合わせの場所でそんなことを考えながら彼女を待っていた。
彼女が息せき切ってやってくる。
今日は楽しい一日になるだろう・・・。


2.ワンピースはいかが?
デパートにはいつでも人が溢れている。
僕は少々人込みに気圧されつつも、彼女のためにその人込みを掻き分けた。
「ここの店。この間ね、すごく可愛いワンピースがあったの」
彼女が僕の手を引いて店へと入った。
高級志向ながら少し背伸びしてでも手に入れたいエレガンスさを前面に押し出したような店。
男には分からない世界がそこには広がっている。
僕は彼女を気にしつつもキョロキョロと店内を物珍しげに見てしまっていた。
「今日は何をお探しですかぁ〜?」
その態度が悪かった。
僕はおばさん店員の愛想笑い攻撃を受けた。
「あ、あの・・ワ、ワンピースを・・」
「まぁ、ワンピース!?お客様、背が高いからきっとどれを着てもステキですよぉ〜」
・・あ、あれ?
「いや、僕は・・」
「こちらなんかどうかしら?背の高い人ならとても映えるからどこに行っても注目の的ですよぉ〜」
ご、誤解されてる!?
「いや!そうじゃなくて・・」
「まぁ、こちらはお気に召しませんか?ならシックにこちらはいかがですか?お客様のようにスレンダーな方でしたらとてもお似合いですよぉ〜」
このおばさん店員は僕が女で、僕にワンピースを買えと言っている!?
慌てて彼女を見ると同じように他の店員からワンピースを色々とあれこれ選別してもらっており僕のことなど見えていないようだ。
「さぁ、一度着てみてくださいな。きっとお気に召すと思いますよぉ〜」
「ちょ、ちょっと・・!?」
おばさん店員は僕よりも太い腕で僕の腕を掴むとグイグイと試着室へと強制連行する。
このままだと、僕はこんな場所で女装を・・!?
「辰一さん!ちょっとこの服似合ってるか見てくれない?」
「い、今行く!」
彼女の声が聞こえた。このときほど彼女が天使に見えたことはない。
「・・辰一?男性??あらやだ!早く言って下さいな!」
言おうとしたのに全部を聞かなかったのはあなたじゃないか・・と思ったが僕は逃げ出すように彼女の元へと走って逃げた。


3.ルージュはいかが?
「もう、辰一さんは・・」
彼女が呆れたように溜息をついた。
何とか目的のワンピースを買い、開店したばかりのコスメ店へと行く道のりである。
「いや、あの人僕の話聞いてくれなくて・・・」
「自分で言わなきゃ誰も助けてくれないのよ?あたしがいなかったらどうするつもりだったの?」
「・・感謝してます」
僕はぺこりと彼女に頭を下げた。
「全く・・」彼女は再び溜息をついた。
今度の溜息は呆れた溜息ではなくて、『それがあなたのいい所でもあるんだけどね』という溜息だと思う。

コスメ店はさすがに開店したばかりということで若い女の子が大勢店内をうろついていた。
「すいません、このルージュ試してみたいんですけど・・」
彼女が店員を呼び止め、椅子に座るとなにやらカウンセリングを受け始めた。
僕にはよく分からない世界だ。
「お客様、今日はどのようなものをお探しですか?」
・・・あれ?さっきも同じようなことやってなかったか?
「い、いや・・あの・・・」
「あ、お客様新商品をお試しにきたんですね?どうぞ座ってください」
店員は僕を無理やり彼女の隣の空いていた席へと座らせた。
なんか、さっきと同じ・・・?
「こちら今年の冬の新色です。お客様、きめが細かい肌してるからとってもお化粧乗りよさそうですね」
「あの、ぼ・・僕は・・」
ちらりと彼女を振り返ってみた。
彼女はニコリと笑って僕に囁いた。
「練習、練習♪さっき助けてあげたんだから、今度は自分で言ってみようね?」
彼女が・・・今ほど悪魔に見えたことはない。
カチューシャで前髪が顔に掛からないように止められ、僕の顔にはベタベタとした物が塗られていく。
それからパタパタと粉がはたかれ、僕は思わず目をつぶった。
「こっちの色もこっちの彼女に試してもらえますか?」
「あ、それも似合いそうですね〜」
彼女の声と僕を担当している店員の談笑が、僕には涙が出そうなほど情けなかった・・・。


4.オタクはいかが?
コスメ店の片隅にはなぜかプリクラが数台おいてあった。
お試しに使った新色コスメを購入させるため、プリクラでそのコスメを使った人がどれだけ綺麗であるかを知らしめる・・というコスメ店の陰謀があるのだろうか?
僕はそこにあるプリクラを憎んだ。
なぜなら・・・
「辰一さん〜笑って笑って〜♪」
彼女の楽しげな声が僕の横で聞こえ、僕は思わず笑顔を作った。

「綺麗に撮れてるよ?」
彼女が満足げに僕に見せたソレ。
僕は一目見て頭痛がしてきた。
コスメ店で買い物をした後、僕と彼女は喫茶店で軽く休憩を取っていた。
「ソレ、誰かに見せたりしないでくれよ?」
僕はふてくされてソレを彼女に返した。
「えー?綺麗に撮れてるのに・・」
彼女は再び面白そうにソレを見た。
新色コスメを試した彼女と新色コスメで遊ばれた僕の姿・・・それがソレ、プリクラに納められていた僕達二人の姿だった。
さすがにコスメ店を出るときに化粧は落としてきた。
僕は女ではないのだから。
「そろそろ出ようか」
「うん、そうね」
僕達は喫茶店で会計を済ませた。
と、彼女が「あ」と言った。
見ると、先ほどまで僕達が座っていた席に見るからにオタクオーラを出した男が手にプリクラを持ち、たたずんでいた。
「・・やだ・・席にプリクラ置いてきちゃったみたい」
「・・取ってくる」
僕はすこぶる嫌な予感がした。
「あの、それ、僕が落とした・・・」
言葉は続けられなかった。
「頼む!このプリクラ売ってくれ!」
「はぁ!?」
僕は思わぬ男の言葉に思わず大声を上げてしまった。
「どうしたの?」
彼女が慌てて走りよってきた。
「この子!この子のアンタの知り合いでしょ?すごくいいんだよ!是非フィギアにしたいからこのプリクラ売ってくれよ!出来れば写真とか撮らせてもらえると・・」
「やだ、あたしのコト!?」
彼女があからさまに不愉快そうな顔をした。
「いや、アンタじゃなくて、アンタの隣に写ってる彼女。キミのこと」

男は、間違いなく、僕を、指差した・・・。

「お・こ・と・わ・り!!!!」
彼女が、大きな声でそう言うとプリクラを引ったくり、放心状態の僕を引っ張って喫茶店を後にした。


4.デート終了
楽しいデート・嬉しいデート・・・。
彼女と過ごせる楽しい時間になるはずだった。
どうしてこうなるんだろう?
放心状態の僕は怒りに震える彼女に連れられ、帰路へとついた。

僕と彼女のデートはこうして悲劇(喜劇?)で幕を閉めるのだった・・・。

・・・これは僕のせいなんでしょうかね? ぐすん。