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<東京怪談ウェブゲーム アトラス編集部>


銀行ぱにっく

●オープニング

「はぁ!?」
 最近めっきり寒くなり、それでも少しは陽気な昼下がり。
 そんなアトラス編集部に、突然素っ頓狂な叫び声が響いた。
「ど、どうしたんです? 編集長」
 そう、声の主はこの編集部の編集長、碇・麗香だった。
「どうしたもこうしたも……三下君が、人災にあったらしいわ」
「……人災?」
 編集部員がそう聞いた瞬間、
「へ、編集長! 事件です、事件! O銀行支店が例の強盗団に!」
「知ってる。ここに書いてあるもの」
 言って取り出したのは自分の携帯電話。そこには、
『助けてぷり〜ず。O銀行より』
 と書かれた一文が。送信者の名は三下・忠雄。
「全く、そんなに取材がしたいのなら、一言断ってくれればいいのに」
 どこか遠い目をする。
「ま、不幸な編集員を放っておくわけにもいかないし、誰かちょっと銀行強盗捕まえてきてね」
 この件はそれで終わり、とでも言うかのように、彼女は書類に目を通し――
「あ、そうそう。その銀行団、何でも銃弾を弾いたり、霊体を斬ったり……いわば、あなた達みたいな能力持ってるらしいから、油断しないように。後、できるだけ無傷でよろしくね」
 何だかんだ言いつつ、彼女も一応三下を心配しているらしかった。 

●おかしな姿の四人組

 海原・みその(うなばら・みその)、椿・茶々(つばき・ちゃちゃ)、D・ギルバ(でぃー・ぎるば)、鈴森・鎮(すずもり・しず)。
 三下が捕まったと聞いてO銀行支店に集まったのはその四人だった。
 流石というか何というか、銀行強盗が出た、というだけあって、かなり大勢の警官が動員されているようだ。
 すぐ傍で何やら打ち合わせをしている人がいると思えば、遠くの方では武装した警官達が上司か何かの話を聞いている。かと思えば、そこそこ年が高そうな人が、拡声器を使い投降を呼びかけている。
「ぎんこうごうとう様、大人気ですねぇ」
 そんな様子を見つつ、みそのは何か間違った反応をする。
 ついでに言うなら、間違っているのは反応だけではなかった。格好はこれからどこかでダンスパーティですか? と問われても違和感がない正装。そして足元には何故か岡持ち。
「ふん、面倒なことしてやがる……俺が一発撃てば終わるだろ」
 言いながら、ギルバが武器を構える。
 格好だけで言うなら、彼も負けていなかった。とりあえず、露骨に人間には見えない。実際、一般人所か、目撃した警官までギョっとしている様子が伺える。声は掛けてこないが、多分相当注目は浴びているだろう。
「じゃが、それだと結構被害が出そうじゃのぅ」
 いつも通り鯛焼きをパクつきながら、茶々。
 服装は普通だろう。例えば、今日が七五三だったりするならば。だが、特に何もない平日に着物でいるのは、どこからどう見ても浮いていた。
「まぁ、腕の一本や二本はともかく、体ごと木っ端微塵になるのは問題あるよなー」
 ナチュラルに怖いことを鎮が言い放つ。
 ちなみに、彼だけは本当に唯一まともな服装をしている。周りにおかしいのが揃っているせいであまり意味がないが。
「無傷で、って言われましたしねぇ」
 ベストの状況は、強盗達を人質から引き離すことだが、流石に自分からのこのこと外に出てきれくれるわけもなく。
「やっぱ俺が打ちかますしかないか」
「そうかもしれんのぅ」
 何やら不穏な方向で意見がまとまりかけた時、
「わかった。とりあえず窓でも開けて入り口を作る。皆はそっから入ってきてくれ」
 鎮が言い、銀行の裏口へと走っていく。
「あ。頑張ってくださいませ〜」
 見送りつつ、みそのは大きく手を振った。

●岡持ち抱えて銀行へ

「さて、それでは、わたくしも行ってきますね」
 よいしょ、と岡持ちを持ち上げながら、みそのが言う。
「行くって、どこへじゃ?」
 首を傾げつつ茶々が疑問の声をあげる。
「ぎんこうごうとう様と、三下様の所です」
 にっこり微笑み、答える。
「待ってりゃあの坊主が開けてくれんじゃねぇのか?」
 言いながら、待ってるのはあまり性に合わないのか、足踏みをしながらギルバ。
「これをもって窓からは入れませんし。それに、殿方の活躍の邪魔をしても悪いですしね」
 同じく微笑みながら、答え歩き出す。
「それじゃ、行ってきますね。後で合流しましょう」
 茶々とギルバに手を振り、みそのは銀行の周りを歩く。
 が、裏口や脇口はどこも鍵がかけられているようで、入れそうにない。更に、辺りには警官達がいるので、下手に近づくこともできない。もっとも、その警官達自身も、犯人を刺激しないようにか、あまり銀行に近づいていないようだが。
 さてどうしたものか、と考えていると、その目に非常階段と書かれた扉が映る。運良く、辺りには誰もいない。
 みそのは岡持ちは持ちながらそこに近づき、力一杯ドアを押す。
 ゴン! という音がして、一気にドアが開き、
「はぅ」
 いきなり支えが無くなり、みそのは盛大に転んだ。岡持ちにも多少衝撃がいっただろう。中身は少々悲惨かもしれない。
「痛たた……とりあえず、これで何とかなりそうですね」
 パンパンと埃を払い少し躊躇して――みそのは岡持ちを持ちなおした。 

●静かな銀行犯人は?

 カツカツと音を立てながら、階段を上っていく。どうにもこうにも、岡持ちが重い。
「もうちょっと量を少なくすればよかったですね」
 少し息を切らしながら、それでも階段を上りきり、ついたのは、やけにシーンとしたオフィスだった。
 多分、銀行強盗達に一階に集められたのだろう。とりあえずここから下に行く事はできそうだ。
 再び岡持ちを持ちなおし、ゆっくり下に降りていく。
 一番下の段まで来ると、岡持ちを置き、そっと顔を出し、辺りを見まわす。
 見えたのはいくつかの机や、その上に置いてあるパソコン。それに何かの書類や本。そして、遠くの方に、たくさんの人だかり。よく見えないが、全員手を拘束され、口を塞がれているようだ。
 みそのは無造作に歩き出し、人だかりへと近づいていく。階段の方には全く気を配っていないらしく、気づく気配すらない。
「あの〜」
「うお!?」
 ある程度近づき声をかけると、銀行強盗の一人がビクっとしながらこちらを向く。
 そこまではいい。予想できなくもない反応だ。ただ――
「何故、裸なのですか? ぎんこうごうとう様は裸が好きなんですか?」
 そう、その銀行強盗達は裸だった。全部で四人。その全員が、着ている服はふんどしのみだった。だが、その姿が異様に似合っている。全身の筋肉ははちきれんばかりに膨張し、真っ黒く日焼けしている。頭は全員スキンヘッドで、その眼光は常に燃えていた。
「ふ……どこから入ってきたかは知らんが……我々に気配を察知させないとは、なかなか出来るな!」
 こちらの質問を全力で無視して、一番奥にいた男がニヤリ、と笑う。
「兄者! こんな女子にそのような言葉を……」
 目の前にいた男が振り向き講義の声をあげる。が、
「黙れぃ! 我らがその存在を気づかなかったは事実! 己の未熟を知るが強者への第一歩よ!」
「「流石兄者!」」
 一番奥――兄者と言われた男の両隣にいる男達が、声を揃わせる。
「なるほど……確かに兄者の言う通りよ……女子、何故ここにいるか!?」
 よくわからないが、納得したらしい。
 みそのは岡持ちを目の前に差し出し、
「これをお持ちしました。後、何故このような――」
 聞こうと思った瞬間、盛大にガラスの割れる音が響いた。

●ふんどし姿の四人組

「く、陽動とは小癪な……」
「陽動?」
 よくわからず聞き返すが、すでにこちらを見ていない。
 ふぅ、とため息をつき、音のした方向を見る。そこにはギルバが立っていた。次に、人質の方。こちらには鎮と茶々が向かっていたようだが、残念ながらふんどし二人に道を遮られる。
「ふ……まさかこのような子供達が我らに挑んでこようとはな」
 ニヤっと笑いながら、奥にいるふんどしが言う。何というか、貫禄があるんだか馬鹿なんだかよくわからない。
「おっさん達が銀行強盗か? 何か想像してたのと違うけど」
 見た目はアレだが、一応警戒しつつ、鎮が疑問を口にする。次の瞬間、
「いかにも! 我らこそ!」
 まず、みそのの近くにいるふんどし。
「最強の名を賜りし傭兵!」
 続いて、眼鏡ふんどし。
「その名も!」
 次に、眼鏡の隣にいるふんどし。
「マッスルストレンジャー!!」
 最後に、拳を天に掲げつつ、奥にいる男。
 しばらく、誰も何も言わない時間が続き――
「ふ、我らの威圧に声も出せんか」
「まぁ、確かに何とも言いにくいけどよ」
 仕方なく、ギルバが答える。
「とまれ、貴様らがここに来た目的はわかっている。この者達を解放したくば我らを倒すがいい!」
 再び奥の男が言い、指笛を鳴らす。すると、それぞれのふんどしが、綺麗に一列に並ぶ。
「ルールは一対一のデスマッチ! 先に敗北を宣言した方の負けとする!」
 それっきり、ふんどし四人衆は口を噤んで微動だにしない。
 とりあえず、みそのはテクテクと歩き、皆と合流する。
「どうしましょうかねぇ?」
「それより何であんなのがいるのじゃ?」
「え? あれがぎんこうごうとう様じゃないのですか?」
「……妾もよくは知らぬが、アレは何か違うと思うのじゃ」
 どこか遠い目をしつつ茶々が答える。
「ま、何にしても、とりあえず捕まえない事には人質返してくれそうにないぜ? どうする?」
「流石に俺の武器使うとやべぇな……あいつらをどうにか引き離せればまだ何とかなるが……」
 鎮の質問に、ギルバが答える。
「ならば、妾とみそので引き付けておくのじゃ。その間に何とかできんかのぅ?」
「う〜ん……まぁ、一応混乱はさせられるか。それでいこう」
 茶々に頷き、鎮は懐を探る。
「どうする気だ?」
「へへっ、俺商売柄いろんな薬持ってるんだよ」
「薬屋さん……ですか?」
 みそのの問いに鎮はチッチと手を振り、
「秘密さ」
 と言った。

●さらば、マッスルストレンジャー

「さてと……とりあえず、お座り下さいませ」
 みそのに言われ、それまで全く動かなかったふんどし達がすぐに座る。実は疲れていたらしい。
「それでですね。ぎんこうごうとう様は何でぎんこうごうとうをしているのですか?」
 聞いた瞬間、
「ふ、しれたことよ! 我らがこのような所業を繰り返すは凡人共には理解できぬ野望のため!」
 先ほどまで奥にいた男が答える。多分、このふんどしが一番格上なのだろう。
「……どういうことじゃ?」
 と、茶々。
「我らは力を求めた。世界を制すは力だと信じて疑っていなかったからだ。そのため、自らの体を苛め抜き、また限りない理不尽にも絶えた……」
 この言葉に、他のふんどし達も無言で頷く。
「だがしかし! 力が強くなったからと言って、いきなり何でもできるようになるわけでも、美人の姉ちゃん達が付き添ってくれるわけでもない! そこで我らは気づいたのだ。力では何もできない、と」
 今度は、涙を流しながら頷く他のふんどし達。
「よって! 我らは金を求めた! といって、バイトや仕事は面倒だったので銀行を襲った、それだけよ!」
 胸の前で腕を組みつつ、断言する。座っているため、なかなか微妙な格好だが。
「なるほど……このご時世。そなた達の気持ちは痛い程分かるぞ。妾も鯛焼きが食えぬ時に何度涙を流したことか……」
 ふんどし達の戯言に、何故かうんうんと納得する茶々。
「確かに、お金がないといろいろ苦労はしますねぇ」
 みそのはみそので、やたらおっとりと納得する。
「ふ、我らの気持ち、理解してもらえたか」
「んなもん理解できるか阿呆」
 言ったのは、鎮。その後ろでは、わらわらと走り去っていく人質達。みその達が引き付けているうちに普通に助け出したらしい。残ったのは、
「え? あの、というか、何故僕の縄を解く前に声をかけているんですか……?」
 口だけ自由になった三下のみ。
「いや、誰かが言わないと納得しそうだったからな」
 苦笑いを浮かべつつ、鎮が言う。
「ま、とりあえずこれで人質はいなくなったってわけだな」
「え? いや、あの、僕人質……」
 聞こえていなかったわけではないだろうが、ギルバはその声を無視して、両腕から魔力を放つ。
「ひいいいいいいいいい!?」
 爆風に巻き込まれ、三下がちょっと焦げる。が、
「ふ……なかなかの一撃だが……」
「我らに致命傷を与える威力ではないな」
「所詮己の肉体ではなく武器の強さと言うわけよ」
「ノーガードの時ならまだしも……防御姿勢の我らを打ち崩せはせん!」
 次々と、ふんどし達が言う。事実、彼らの肉体にダメージはあるようだが、出血などはしていない。力をつける云々の辺りだけは嘘ではないらしい。
「ノーガードなら駄目なのか。ほらよ!」
 言って、鎮が何かの薬を投げつける。それは見事四人の体にかかり……
「ぬ、ぬおおおお!! 痒い、痒いぞ兄者!」
「うろたえるな弟! この程度で音を上げるなど強者失格!」
「し、しかし兄者! これは、これはあああああ」
「く、二人までも……だが、だが我は、我は負け……負け……ぬおおおおおおお!!」
「あ、兄者あああああ、もう持たんぞおおおお!!」
 ふんどし達全員が、それぞれ自分の体を掻き始める。
「何を使ったんですか?」
 不思議そうに、みそのが聞く。
「漆の原液。流石に痒いのに強くはないだろうと思ってさ」
 肩をすくめつつ、鎮が答える。
「見事じゃのぉ……というより、何か見ていて気持ち悪いのじゃが」
 顔をしかめつつ、茶々。
「それじゃ、さっさと一掃しちまうか……」
 言いつつ、ギルバが手を翳す。
「そうですね……ぎんこうごうとう様、お疲れ様でした。あ、それと三下様、頑張ってよけて下さいね」
 にっこり、それこそ天使のような笑みを見せながら、みそのが言い、
「って、ちょ、待ってくださいよ! 逃げる時間くら――」
 再び、三下の声を無視し――ギルバの放った一撃は、五つの人影を見事に吹き飛ばしたのだった。

●エピローグ

「ただいま戻りました」
 声を出しながら、みそのがアトラス編集部の扉を開く。
「おかえりなさい。無事に戻った――あれ? 三下君は?」
 麗香の質問に、
「どこかに吹き飛んでしまわれまして……今探しているはずです」
 丁寧にみそのが答える。
「ふ〜ん……ま、三下君だし、いいわ」
 素敵にアッサリ三下の事を見限り、麗香は目の前にあった書類をまとめ、
「それで、何か面白い事はわかった? スクープにできそう?」
「あ、それじゃお話しますね……その前に」
 よっ、と掛け声をあげながら持ち出したのは――岡持ち。
「持っていったんですけど、渡す暇がなかったので……食べてしまいましょう」
「あら……それはいいけど、なんでその岡持ち凹んでるのかしら?」
「それも話します。さ、食べましょう」
 言って、みそのは岡持ちを開ける。
 中は――
「……これ、食べるの?」
「……後で、三下様に差し入れておきます」
 にっこり笑うと、みそのは岡持ちを閉じたのだった。


END    
 
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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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【整理番号 /  PC名  / 性別 /  年齢  / 職業】

 1388  海原・みその   女性   13歳   深淵の巫女
 1745  椿・茶々     女性   950歳  座敷童子
 2320  鈴森・鎮     男性   497歳  鎌鼬参番手
 2355  D・ギルバ    男性   4歳    墓場をうろつくモノ・破壊神の模造人形
 
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■         ライター通信          ■
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 お待たせしました。戦闘依頼の「はず」だった今回のお話いかがでしたでしょうか。
 はず、というのはまぁ、当初戦闘予定だったってだけなのですが。敗因は三下君とタイトルのひらがなだと思われます。
 と言いましても、私個人としてはまぁ、ああいうキャラ書きたかったしオールオッケーなのですが。
 なんか、オープニングにあった霊体を斬るって、素手じゃん。とかライター本人思いましたが、まぁ、チョップとかなら斬るっぽいよね、とか一人納得したので問題ありません。
 ええと……だんだん収拾がつかなくなってきたので以下個別です〜。

>海原・みその様

 ご参加ありがとうございます。海原家の人々3人目ですね。
 設定やら格好やらが限りなく神秘なのに、何か100%ボケ、みたいな感じでどうもすみません(汗
 え、えと、真面目な時はきっと神秘にします! ええ、絶対!
 なので、というわけでもありませんが、次回もご参加お待ちしております。どうもありがとうございました〜。