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<PCシチュエーションノベル(ツイン)>


妖精さんの蜂蜜〜お姉様の悪戯


 どうしてそこまで考えてしまったのかしら。
 …すべてはみなもが可愛いせいですわ。

 ………………誰かにそんな言い訳をしたくなるくらい。


 海原みそのは静かな暗闇にひとり、舞い下りていました。
 深淵では無い、“陸”の一角。

 …夜中に、“陸”の海原の家に来る事は滅多に無い気がします。
 そう言えば、何故か一番下の妹の気配は感じ取れません。
 留守なのでしょうか。
 …友人のところへでもお泊まりなのかもしれませんわね。
 どうやら今は、みなもしか家には居ないようです。
 眠っている彼女の気配しか感じ取れません。
 が。
 今、わたくしが夜中の海原の家に来てしまった原因…わたくしの胸騒ぎの源がわかりました。
 家に異質な“流れ”があります。
 今まで家に来た時には明らかに無かった“流れ”、その感覚。
 惹かれるようにして追ってしまいます。
 海原の家、奥まった部屋。鍵の掛かる棚。
 不自然なくらい厳重に保管してあるそこにあったのは…蜂蜜の壷。
 一見、特に何の問題も無さそうなそれが――何故封印でもされるように仕舞ってあったのか。
 みそのにはすぐに感じ取る事が出来ました。
 そして。
 時間の“流れ”を巻き戻し鍵を開け、みそのはあっさりとその壷を取り出しました。

 だって。

 …これを使って、楽しいお遊びが出来そうなのですもの。

 にっこりと嬉しそうに笑い、みそのはそのままみなもの部屋へと向かいました。
 音を立てぬよう気を付けて、中へと入ります。

 ベッドの上で、ぐっすりと眠りに落ちている姿。
 布団を剥がしても気付きません。
 また、思わず笑みがこぼれました。
 安心し切ってますわね。
 わたくしの気配だからでしょうか。
 でしたら…嬉しい限りです。
 思いながらもわたくしは、そ、とみなものパジャマのボタンに手を掛けました。

 …ちょっと、邪魔ですものね。
 艶やかに笑います。
 何処か、妖艶な笑みを。

 みなもの服を脱がせながら、みそのは自らの服の――肩紐をも落とし、するすると、自らも。

 そして裸になった、眠ったままのみなもは、少し身じろぎます。
 寒かったかしら?
 …大丈夫、これからゆっくり――暖めてあげますもの。

 心の中で告げつつ、わたくしはとろとろと粘り気のある、ひんやりした琥珀色の液体を自らに流し掛けました。
 頭から。
 少しずつ。
 万遍無く。
 …やがて、わたくしの身体を流れ、伝い落ち、ぽたり、と床に落ちました。
 ひとまず必要がなくなった蜂蜜の壷を、脇に、置きます。

 そして。

 ――ぎしり。
 ベッドの上で。
 みなものその素肌に。
 みそのは自らの身体を用いて。
 直に。
 その身に被った、蜂蜜を。
 塗りつけました。

「んにゃ…む…え!?」

 突如、ぎょっとしたように上がるみなもの声。
 当然ですわね。
 …ひとりで寝ていた筈なのに、今、わたくしが一緒にベッドの上に居るんですもの。
 驚くでしょうね。

「お静かに」
 みそのは、しー、と唇の前に人差し指を立て、そう言います。
 が。
 みなもは俄かにパニック状態でした。
「え、だって、あの、お姉様――って…何であたし裸…じゃなくってお姉様それって――」
 みそのが琥珀色の液体にまみれ自分を見下ろしており、更にその滴が自分の身体に音も無く落ちている事にも気付くなり――反射的にみなもは逃げようとしました。そこに居るのがただみそのお姉様であるだけなら、別に逃げなくとも構わないのですが、今度ばかりは少し事情が違います。
 何故なら。
 琥珀色のとろりとした液体――蜂蜜。
 と、なると。
 いつぞや厳重に仕舞い込んだ筈のあの蜂蜜。
 咄嗟にその、『厄介』な蜂蜜だと気付いたからです。

 が。

 逃げられません。
 動けません。
 みなもは、何が起きたかわかっていない様子。
 え、と困ったような顔でみなもはみそのの顔を見上げます。
「怖がらなくて良いんですのよ?」
「あの…?」
 身体が動かないんですけれど?
 そこまで言わぬ内に、みそのは察したか先回りして蠱惑的に微笑みます。
「逃げられたくはありませんもの。…観念しなさいね」
 運動神経の“流れ”を遮断しました。
 まぁ、他の神経はそのままにしてありますけれど。そう、何をされてもちゃんと感じる筈ですわ。
 ただ、逃げられないだけです。
 みなもは更に困ったようにみそのを見上げます。
「…ってあのお姉様…その蜂蜜は…」
 色々と問題が。
「わかってますわ」
「え……って、あ…」
 みなもの問いを封じるように、みそのはその身体に圧し掛かって行きます。
「お姉、さ…ま…や」
「や、じゃないですわよ、みなも?」
 くすくす。
 笑いながら、蜂蜜で濡らした指先でみなもの唇をなぞったり。髪を梳いたり。

 …そんな風にして、みなもで“遊んで”いて。
 暫くの後。

 真っ白なシーツの波が初めの内より広く見えるような気がしてきました。

 そろそろ妖精化しているのでしょうか?
 思いながらみそのは自分の姿を見ます。
 首を回し自らの背を。
 半透明な細い羽。
 今目の前で横たわっているみなもの背にも、同様の。
 みそのはこくりと満足そうに頷きます。
 艶やかな琥珀の色と透明な水滴が、微かな光を受け煌いているシーツの波間。
 …ふたりの妖精が戯れているなんて、幻想的じゃありませんこと?

 わたくしは蜂蜜でべたべたのその手を、再びみなもに滑らせました。
 …って、そんな、唇以上は――何処に触れたかなんて具体的な場所はお教え出来ませんわ。勿体無いですもの。
 みなもが、あられもなく鳴いてしまうような大事なところ、と言う事だけは、確かですけれど、ね。

 こんなみなもを見る事が出来るのは、わたくしだけ。

 恍惚としつつ、みそのはみなもの身体に触れ、蜂蜜をまだ、塗り続けていました。
 と。
「………………ぁ」
 やがて、甘い苦鳴ではなくて、本当に、ただ儚い声が聞こえて来て。
 みなもがぐったりとしてきている事に気付きました。
 動きが鈍くなって来ています。
 何処か、辛そうで。

 その時点でさすがに、やめました。
 …無理をさせたくはありませんもの。

「ごめんなさいね。…私の可愛いみなも」
 気遣いが足りませんでしたわ。
 そっと疲れ切った頬を撫でつつ、向けた微笑みを――みなも本人は見ていたかいなかったか。

 で、結局。
 その後、一日くらいはそのまま蜂蜜の効果が持続しておりました。
 …みなもが目覚めてからも、その妖精姿なままで暫く、一緒に遊んだりしていましたけどね。
 まぁ、さすがに…それまでと“同じ”遊び方は、もうしませんでしたけれど。

 ………………そう、密やかなお楽しみは、これっきりで。


【了】