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<東京怪談ウェブゲーム 草間興信所>


調査コードネーム:ちいさなきせき
執筆ライター  :水上雪乃
調査組織名   :草間興信所
募集予定人数  :1人〜4人

------<オープニング>--------------------------------------

 その少女は、突然空中に出現した。
「な‥‥っ!?」
 目を丸くしる草間武彦。
「うにゃぁっ!」
 降ってくる少女。
 そして、激突。
「いててて‥‥なんなんだいったい‥‥」
 身を起こした草間が見たものは、白い三角だった。
 それぞれの辺から、肌色のものが伸びている。
「‥‥ふむ。パンツだな」
「きゃーっ!!!」
 悲鳴。
 ぽかぽかぽかぽか。
 叩かれた。
 紆余曲折のあと、草間と少女が向かい合う。
「で、なに者なんだ? おまえさんは」
「あたしは、見習いサンタですぅ」
「‥‥零。救急車を呼んでくれ」
「あわわわっ! 待ってくださいよう。ホントなんですっ」
「じゃあ、サンタがミニスカート履くのかよ。だいたい、なんでコスチュームが緑なんだ?」
「ミニスカートはちょっとしたサービスですぅ。それに、赤のコスチュームの方がニセモノなんですよぅ」
「‥‥まあいい。とりあえず、お前さんがサンタなのは判ったから、とっとと出て行ってくれ」
 しっしっ、と、手を振る怪奇探偵。
 まあ、しごく当然な反応だろう。
「あううう」
「なんだよ? なんか用があるのか?」
「いちおーサンタなんで、願いを叶えるのが仕事なんですよぅ」
「じゃあ、三億円」
「はぁ?」
「宝くじ、当ててくれ」
「そーゆー即物的な願いじゃなくて‥‥もっとこう夢があるような‥‥」
「金があることが、俺にとって夢なんだ。他人の幸福論に口を挟まないでもらおう」
 さもしい。
 あまりにも。
 呆れ顔の見習いサンタが、
「いやまぁ、いいんですけどね。あなたのお願いを叶えるわけじゃないですしぃ」
 と、言った。
 肩をすくめる草間。
 そうではないかと思っていたのだ。
 美人と幸運は頭から信じちゃいけない。
「ようするに、俺になにかやらせるつもりなんだな?」
「ご名答ですぅ」


 草間興信所からたいして離れてもいないところに、しののめ学園というのがある。
 孤児の育英とフリースクール兼ねた、小規模な学校法人だ。
 だが、ここに存続の危機が迫っている。
 良くある話だが、暴力団が土地に目を付けたのだ。
 この手の慈善事業は、ほとんどが借金まみれである。どういう手段か債権を入手した暴力団は、学園の立ち退きを迫った。
 これをなんとかするために、見習いサンタがやってきたという。
「でも、お金を渡すのは反則って、主任に言われちゃったんですぅ」
「主任ってだれだ?」
 苦笑を浮かべる草間。
 ヤクザを黙らせる方法など、それこそいくらでもあるが‥‥。
「協力してくださいっ」
「ま、良いけどなぁ。サンタが人間の力を借りるなんて、前代未聞だぜ」





※解決だけなら簡単です、が、なるべく「粋」な解決法をお願いします。
 聖夜に起こる小さな奇跡、が、テーマです。
※水上雪乃の新作シナリオは、通常、毎週月曜日にアップされます。
 受付開始は午後8時からです。
※1月5日(月)の新作アップは、おやすみとなります。


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ちいさなきせき

 事務所に入った光月羽澄は、唖然とソレを見遣った。
 ミニスカートのサンタスタイル。しかも色は緑だ。
「イメのデリでも呼んだの? 草間さん」
 苦笑混じりに。
「勘弁してくれ‥‥」
 げっそりと、草間が言った。
 まあ、この場面ではそう見られても仕方ない。
 興信所の一角にたたずむ少女。
 そっちの業界の人だとすれば、ちょっと年齢的にまずいかもしれない。
「シュラインさんに怒られるわよ?」
「まあ、ほんとに風俗だったら、蹴るけどね」
「まるっきり冗談に聞こえないでぇす」
「でしょうね」
 台所から出てきたシュライン・エマと露樹八重が、なんだか不穏当な会話を交わしている。
 前者は草間武彦の恋人で、なんの物好きかは知らないが将来を誓っていたりする。
 後者は、まあ、ただのおまけである。
「事情は説明しただろが‥‥」
 はらはらと涙を流す怪奇探偵。
「背中が」
「煤けてますねぇ」
 背後から、ちいさな男の子と女の子がぴょこっと顔を出す。
「隠し子?」
 ごく当然のように問う羽澄。
「ええ‥‥そういうと思いましたとも‥‥」
 三〇男が机にのの字を描く。
 割と鬱陶しい光景であった。
「正解は、悠也の代理だな。式神だ」
「なんだ。灰慈さんもきてたんだ」
「なんだはないだろ」
 ひらひらと手を振る巫灰慈。かるく解説してみせる。
 多忙でこれない斎悠也が代理を立てたのだ。
 とりあえず、孤児院を救うということで子供も形をさせて。しょせんは陰陽術なので姿形は自由に決められる。
「もっともフリースクールでもあるからな。べつにガキにこだわる必要もなかったんだが。どうやら斎のやつはちゃんと話を聞いてなかったらしい。ま、有閑マダムのお相手で忙しいんだろうよ」
「それはいいんだけど、灰慈さんの背中にもなんかいるわよ?」
「ああ。おんぶおばけだ」
「うあー かーくんはおばけじゃないのーっ!」
「じゃあ、パックマンの敵だな」
「はぁ?」
 呆れる羽澄。
 ちなみに、このパックマンの敵(巫命名)は、御崎神楽といって、けっしてオバケではない。
 たまに興信所を手伝う御崎兄弟の一人だ。
「このこも手伝うの?」
「そういうことだ」
「かーくんはかーくんなのー このこじゃないのー」
 抗議する。
 ちらりと巫と羽澄が視線を交わした。
 それで充分なのである。個人の事情までは忖度しないのが怪奇探偵の流儀だ。
「コレで全員?」
「そういうことね」
 シュラインがコーヒーを運んでくれる。
「なんだか、えらく不安が残る編成なんですけど‥‥」
 羽澄が肩をすくめた。
 シュラインや巫はともかくとして、八重とか神楽とか斎の式神ズとかいうと、ただのニギヤカシっぽい。
 ぼえーっとお茶をすすっている見習いサンタもそうだ。
「ま、あれだな。実質三人でやっつけるしかないよな」
 ぽむ、と、巫の大きな手が羽澄の頭に置かれた。
「零もいるから、四人は戦力よ」
 微笑。
「俺は戦力外ですか‥‥?」
 草間がめそめそしていた。


「さてさて。どうしますかねぇ」
 詳細資料を見ながら、巫が唸る。
「どうしましょー」
「どうしましょー」
 まとわりついた式神ズも真似して唸っているが、もちろんなにか考えているわけではなかろう。
「やっつけちゃおー」
「応でぇす」
 神楽と八重も同様だ。
 問題となっているしののめ学園。立ち退きを迫っているのがヤクザだ。
 ありがちな話である。
 解決方法もありがちではある。
 ひとつめは正当な手段で債権を取り戻すこと。
 もうひとつは、非合法な手段だ。
 借用証書を奪い取るとか、盗み取るとか、あるいは実力で黙らせるとか。
 じつのところ、相手はしょせんヤクザなのだ。怪奇探偵にとってこの程度は危ない橋とはいえない。幾度も危地をくぐり抜けてきたのだ。
 ヤクザをちょっと捻るくらい、難しくもなんともない。
 なんともないのだが、
「でも、やっぱり不味いのよねぇ」
 シュラインの溜息。
 できれば非合法の手段はとりたくない。
 というのも、しののめ学園の子供たちへの配慮がある。自分たちを育成し、社会に送り出すために使われた資金が、非合法な手段で得られたとしたらどう思うだろうか。
 ここは、正当な手段を取るのが上策だろう。
「つまり、ヤクザ屋さんを解散に追い込んで、借金をうやむやにしてしまう?」
「‥‥それのどこが正当なのよ‥‥羽澄」
「えへ☆」
「なんか、誤魔化し方が絵梨佳ちゃんそっくり」
「‥‥‥‥」
 ものすごい勢いで、羽澄が落ち込んだ。
 気持ちはわからなくもなかったので、零が慰めた。
「まあまあ羽澄さん。人生ラクありゃ苦もあるさ、ですよ」
「しくしくしく‥‥」
「せめて否定してやれよ‥‥」
 巫の嘆き。
 むろん、一顧だにされなかった。
 漫才をしつつも、作戦は立案されてゆく。
 このあたりはさすがの手練といって良いだろう。


 そして数日。
 しののめ学園は、おおむね平穏だった。
 ボランティアスタッフとして潜り込んでいる探偵たちも。
 まあ、地上げ屋が押しかけたりはしたが、ものの数秒で巫や草間に撃退されている。
 八重や神楽、式神ズは園児たちとどんどん仲良くなっていった。
 ちなみにしののめというのは、漢字で東雲と書く。明け方とか、夜明けとか、そういう意味だ。
 その名が示す通り、この学園の子供たちはとても明るい。
 たとえ親がいなくても、それ以上に大切なものをもっているようだ。
 服装こそ貧しいが、どの子も目がよく光っている。
 ヤクザなどが学園にやってくると、年長の子を中心にして投石攻撃などをするのである。
 勇ましいことこの上ない。
 ただし、けっして褒められたことではないが。
 善悪の問題ではなく、危険度の問題である。
 相手はアウトローを絵に描いてコンピュータグラフィックスで動かしたような連中だ。子供相手だから暴力を振るわない、ということはなかろう。
 そういう心理的なタブーを乗り越えてこそ、ヤクザだろうから。
「さぁ、この紙にサンタさんへのお願いを書きましょう」
 シュラインが言う。
 数日で、すっかり先生が板に付いてしまった。
 これは羽澄も同様である。
「どんなお願いでもいいんですかー? シュラインせんせー」
「ええ。もちろん」
「書いたら、この箱にいれてね」
 箱を持って席をまわる羽澄。
 三〇通ほどの手紙をを回収する。
「じゃあ、先生たちがこれを必ずサンタさんに届けるからね」
 蒼眸の美女が微笑する。
 園児といっても上は小学六年。なかなかサンタクロースを信じるのは難しいかもしれない。
 しかし、これは必要なことなのだ。
「やっぱり、学園の存続を願う声が多いわね」
 臨時のオフィスとして使っている職員室。
 手紙の内容を確認すると、予想通りの結果だった。まあ中にはラジコンが欲しいだの人形が欲しいだのというのもあるが、だいたいは学園を守ってください、という感じだ。
 当然だろう。
 ここは園児たちにとっての家なのだから。
 しののめ学園がなくなれば、彼らはばらばらになって、ほかの施設に引き取られることになるだろう。
 この状況で笑っていられる方がおかしい。
「だからー あたしがぁ、派遣されたんですぅ」
 茶などすすりながら、見習いサンタが言った。
「実質、何の役にも立ってないでぇす」
 そして、八重にズバリと突っ込まれる。
 事実だった。
 図星だった。
 したがって、
「あぅぅぅぅぅ」
 見習いサンタには、立つ瀬も浮かぶ瀬もなかった。
「まあまあ。これから役になってもらうわけだから」
「そうそう」
 くすくすと、シュラインと羽澄が笑った。
 作戦の第一段階。
 子供たちの手紙を手に入れることができた。
 これに、ちょっした小細工をするのだ。


 クリスマスイブ。
 しののめ学園に、とんでもない朗報がもたらされた。
 英国の富豪ピーター・スチュワート卿が、融資を申し入れてきたのである。
 学園長が目を丸くして倒れそうになったほどだ。
 もともとピーター卿は親日家として知られていたが、まさかこんな小さな学園に資金を投じてくれるとは。
 ありがたくて、もうイギリスの方向に足を向けて寝られない。
「よかったですねぇ」
 シュラインや巫が、にこにこと笑う。
 ピーター卿を面識があるなど、言葉にも表情にも出さずに。
 そう。
 これが探偵たちの小細工の正体だった。
 子供たちの手紙は、ちゃんとサンタに手渡した。
 受け取ったサンタは見習いだったので、上司に転送して指示を仰ごうとする。
 しかしこの見習い。なかなかドジで、まちがってピーター卿に手紙を届けてしまうのだ。
 おりしもピーター卿は、先日、息子を喪ったばかり。
 しののめ学園の状況に深く同情を示し、多額の融資を決意することになる。
 蒼眸の美女の描いたシナリオ通りに。
「いやあ。一万の軍勢に匹敵する知謀だねぇ」
「よ☆ 名軍師っ☆」
「ぐんしー」
「ぐんしー」
 巫、羽澄、式神ズが手放しで褒める。
 褒めているのだが、シュラインはそうは受け取らなかったようだ。
「もうっ そうやってからかってなさい。ケーキあげないから」
「そうでぇす」
「かーくんケーキ食べるー」
 八重と神楽がまとわりつく。
 食べ物でつられるとは、なかなか情けないことではある。
 どうやら解決ムードなので安心した、というところだろうか。
「あとは、学園とピーター卿との折衝。それから債権を持つヤクザとの交渉ね。これは弁護士とかの仕事でしょうけど」
「はいですぅ」
 羽澄の言葉に、見習いサンタが大きく頷いた。
 サンタクロースでも探偵でも、べつに万能の存在ではない。
 できることには限界があるし、処置だって完璧とはいかない。
 だが、それで良いのではないか。
 万能に、なんでも小手先で解決してしまったら、頭を使う楽しみもなくなる。
 知恵を絞る理由もなくなってしまう。
 それでは、少々寂しいというものだ。
 探偵たちの思いを知ってか知らずか、西の空に金星が輝いた。
 聖夜がはじまる。


  エピローグ

「それじゃあ、あたしはこれでぇ」
 へこりと頭をさげる見習いサンタ。
「あ、ちょっと待ってくれ」
 巫が呼び止めた。
「ダメだったら良いんだけど、俺の願いを聞いてくれねーか?」
「あ、はいはい。どうぞー」
「今夜、雪降ればいいな。ホワイトクリスマスだ」
「そんなので良いんですか?」
「充分な願いだぜ。これで何人も幸せな思いができる」
「はい☆ そういうことでしたら☆」
 言った瞬間、見習いサンタの姿が消える。
 現れたときと同様の唐突さだった。
 どこかで聞こえる鈴の音。
 ちらりほらり。
 白い妖精たちが、都会の狭い空から舞い降りてくる。
「ゆきだー」
 はしゃぐ神楽。
「子供でぇすね」
 偉そうに言う八重も、どことなく嬉しそうだ。
「じゃ、引き揚げましょうか」
 うーん、と、シュラインが伸びをする。
 黒い髪にも、蛍のように粉雪がしがみついていた。
「ぼくたちはー」
「ここでしつれいしまーす」
 式神ズが、そう言い残して消える。
 そのときシュラインの方にウィンクを送ったような気がする。
「あれ? ケーキ食べていかないの?」
「式神は食わないだろうよ。ものは」
「あ、そっか」
「いっけなーいっ。私も約束あったんだっ!!」
 時計を見た羽澄が、慌てた声を出す。
「プロデューサー主催のパーティーあるのよ! ごめんねっ!!」
 唖然とする仲間たちをよそに駆け去ってゆく。
 巫と八重と神楽が、顔を見合わせた。
「さって、俺らは一足先に事務所に戻るわ」
 よいしょっとふたりの身体を肩に担ぐ紅い瞳の青年。
「はわわでぇす」
「きゃはー」
 子供たちも喜んでくれたようだ。
「さ。行こうか零。子供ばっかり相手ってのは、ちょっとあれだけどな」
「私は子供じゃありません。それに、事務所には巫さんにとって一番嬉しい人が待ってますよ」
「へぇ」
「さきほど連絡がありましたから」
「今年は忙しいって言ってたのにな」
「これもプレゼントなんじゃないんですか? サンタさんの」
「ふふ。そーかもな」
 そんなことを言いながら、四人が歩き去ってゆく。
 取り残されるかたちになった怪奇探偵と事務員。
 仲間たちの気の使い方が、おかしくもあり嬉しくもあった。
「‥‥少し、遠回りして帰るか」
 男が口を開く。
「風邪ひいちゃうわよ。あんまり外にいると」
 女が応えた。
 街灯の明かり。
 冬の妖精たちがロンドを踊る。
「そうか。じゃあ風邪をひかないように、暖めあおう」
「‥‥ばか」
 積もりはじめた雪面に映るふたつの影。
 ゆっくりと。
 ひとつになった。








                         終わり


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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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【整理番号 / PC名 / 性別 / 年齢 / 職業】

0086/ シュライン・エマ /女  / 26 / 翻訳家 興信所事務員
  (しゅらいん・えま)
0143/ 巫・灰慈     /男  / 26 / フリーライター 浄化屋
  (かんなぎ・はいじ)
1009/ 露樹・八重    /女  /910 / 時計屋主人兼マスコット
  (つゆき・やえ)
0164/ 斎・悠也     /男  / 21 / 大学生 ホスト
  (いつき・ゆうや)
1282/ 光月・羽澄    /女  / 18 / 高校生 歌手
  (こうづき・はずみ)
2036/御崎・神楽     /男  / 12 / 小学生
  (みさき・かぐら)

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■         ライター通信          ■
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お待たせいたしました。
「ちいさなきせき」お届けいたします。
めりーくりすます☆
なんとかクリスマスに間に合いましたね。
楽しんでいただけたら幸いです。

それでは、またお会いできることを祈って。


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水上雪乃が主催するなりきりチャット「暁の女神亭」。
もし良かったら覗いて見てくださいね☆
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