コミュニティトップへ
高峰心霊学研究所トップへ 最新レポート クリエーター別で見る 商品別一覧 ゲームノベル・ゲームコミックを見る 前のページへ

<東京怪談ノベル(シングル)>


『オペレーション PHOTOGRAPH COLLECTIONじゃ!!!』
 4月28日 AM10時30分。場所、都内某ショットバー。
 そこにまるで都市伝説で語られるかのような黒詰めのスーツを着た少女が入ってきた。
 カラーン、という店の扉に付けられた鐘の音をBGMに店内に登場した彼女ははめていたサングラスを取ると、店内を見回して、ふっと口元に笑みを浮かべた。
「どうやら、わしが先に着いたようじゃな」
 彼女はかぶっていたハットを取ると、軽くおかっぱ頭を振った。
 スーツの左胸に飾った真紅の薔薇をカウンターで散らしてしまわないように気を付けながら座った彼女は、頬杖をついて、透明なリップを塗った唇を艶っぽく小指の先でなぞりながら、マスターに注文する。
「マスター、アイスミルクじゃ。ガムシロップはちと多めにな」
 薄暗い店内には70年代前半に流行ったレコードのクラッシクな音楽が流れていた。その心地良くどこか懐かしい音楽に耳を傾けていた彼女の前に、冷たいアイスミルクが置かれる。
「お待たせしました。アイスミルクです」
「うむ」
 彼女はストローをアイスミルクにつけると、ほんの少しだけ口に含んだ。そう、本当に少しだけ。
(うむ。薬物の類は入ってはおらぬな)
 彼女は心の中で頷くと、自然体を装いながらその実常にどんな事態になっても反応できるように体を緊張させながら、アイスミルクを喉に流す。しかしそれで彼女の喉の渇きが潤ったかというと、そんな事はまったく無かった。既にミッションは始まっているのだ。その最中は常に心は緊張しまくり。いや、そうでなければならないのだ。で、なければ自分は命を落とすことになるだろう。
「わしにはかわいい2匹の仔猫たちがおる。ここで死ぬ訳にはいかんのだよ」
 そう、すべてはかわいい仔猫たちのために。そのために彼女は・・・
「いや、あやつらを言い訳にはせぬ。これには意味は無い。あるとすればそれはわしが・・・」
 彼女の独白が最後まで呟かれる事はなかった。
 からーん、と最前と同じようにクラッシクレコードの音楽が静かに流れている店内に鐘の音というノイズが入る。それに彼女はふぅーとため息を吐いて、椅子に座ったままそちらを振り返った。
 そこにいたのは・・・
「よう、もなみぃ。そちも無事じゃったようだのう」
 彼女はおかっぱ頭の下にある顔にふわりとした笑みを浮かべた。
「うむ。おんしも無事ぢゃったようだのう」
 銀色の髪を掻きあげながら笑った彼女の左胸にも真紅の薔薇が飾られている。
 そして彼女もまた、薔薇を潰さぬように座る。
「で、物は?」
「うむ。大丈夫じゃ。ちゃんと写真屋から受け取ってきた」
 にやりと微笑んで彼女は懐から出した写真屋のスタンプが押されたミニアルバムをカウンターに置いた。
「そっちはどうじゃった、もなみぃー?」
「ああ、こっちもちゃんと受け取ってきたよ。先代管理人から」
 二人は顔を見合わせるといっひっひっひとちょっといやらしい笑いを浮かべた。
 と、しかし・・・
「OK。じゃあ、その物を渡してもらいましょうか?」
 その笑いを噛み殺した声はカウンターの向こうからした。
 二人は戦慄に満ちた顔をそちらに向ける。果たしてそこには・・・
「ちぃ。おぬしも管理人殿の手の者か、マスター?」
 そう、カウンターの向こうでマスターはメニューに無い超豪華パフェ二つを左右の手に持って不敵な微笑を浮かべていた。
「そう、そうなのですよ、本郷源さん。私も彼女の手の者なのです。さあ、その写真を渡してもらいましょうか。そうすればこの特別製超豪華パフェはあなた方の物です」
 嬉璃は悔しげに歯軋りした。
「馬鹿な。この店はまだ商店街組合には入ってはおらぬはずぢゃ」
「昨日、入りました」
 マスターは回れ右をして、背中に飾った真紅の薔薇を悔しがる源と嬉璃に見せた。
「ルールでは、薔薇を体のどこか見える部位に飾っておけばいいのですよね?」
 確かに・・・。
「なんという悪知恵の働く奴じゃ。常に客に正面しか見せぬという事を利用して・・・」
 ぐぅっと拳を握り締める源に、嬉璃が謝る。
「すまぬ。わしが至らぬ故に。まさか子どもの頃から仲の悪かった八百屋が組合長をする商店街組合にこやつが入るとは想わなんだのぢゃ」
 マスターは首を振る。
「昨日の敵は今日の友。敵の敵は友ってね。特に大人の世界ってのはより色んな状況が複雑に絡むから、まさかって事も起こり易いんですよ。哀しいけど、これ、現実なんですよね。さあ、このパフェが欲しければ、薔薇を潰して、写真をこちらに」
 もはやマスターの顔には余裕の表情しかなく、そしてその思考を満たすのは源と嬉璃を倒した者に与えられる特典の事で頭がいっぱいだった。そしてそこに隙ができてしまった。
「ふっふっふ。確かにおぬしは大人じゃ。そう、じゃからこそわしらに負ける」
「ふん。負け犬の遠吠えですか? らしくないですよ、本郷源さん」
「負け犬の遠吠え? いいや、違うよ。現実を言ってるまでじゃ。現実を。そう、哀しいけど、これ、現実なのじゃよね」
 そう言った源の不敵な表情ってのを見て、怪訝そうに眉根を寄せていたマスターは愕然とした。先ほどまでいた嬉璃がいないのだ。そして、彼の脳裏に毎日、あやかし荘に行って、嬉璃と遊んでいた時の子ども時代の記憶が蘇る。そう、そうなのだ。嬉璃は座敷童で、だからその姿を大人には見えなくさせる事ができるのだ。
「しまった・・・」
 しかし、マスターが自分の犯した痛恨の失敗に気が付いた時には遅かった。背中を飾っていたはずの薔薇がふわりと宙に浮いている。そしてカウンターに座った嬉璃が姿を現した。
「わしらを子ども扱いして、自ら薔薇を取ろうとしなかった時点で負けておったんぢゃよ、マスター」
 マスターはその場に座り込んで、涙を流しながら何かとても大切そうな物を失った時かのように大きなため息を吐いた。

 あやかし荘管理人室は商店街組合の作戦司令室になっていた。
「ダメだ。マスターもやられた」
 商店街組合組合長の八百屋は苦りきった声を出した。
「そんな。彼らならば嬉璃さんの裏をかいて、倒せると想ったのに・・・」
 管理人は顔を覆って、暗澹たる想いに塗れたため息を吐く。
 そんな彼女の様子に組合長は意を決したようだ。
「仕方があるまい。これだけはやりたくなかったが・・・」
 そして彼は背後を振り返った。そこには拳銃(モデルガン)を慎重な手つきで整備する商店街組合の牙がいた。彼女は魚屋が対野良猫用に雇った駄菓子屋の娘だ。
「敵は本郷源と嬉璃。おまえがいつも相手にしている野良猫どもとは訳が違うぞ」
「はん。それでもあたしには役不足よ。あたしの射撃スキルに敵はいないわ」
 そう不敵な微笑を浮かべる6歳児に、管理人はちょっと不安になる。
「あ、あの、あんまり乱暴な真似はしないでね。相手は女の子なんだから」
 そう言うと、彼女はせせら笑うように鼻を鳴らした。
「あら、あたしも女の子よ。だけどね、このアンダーグラウンドではそんなの理由にはならないのよ。そう、そんな甘えを口にした時点で死ぬわ」
 その女の子は自分で言った言葉に酔っているようにうっとりとした目をした。
 管理人は色んな意味で心配になってしまった。
 そして思い出す。自分のあの失言を。
 そう、あれはもう夏も終わろうというある日、いつものように嬉璃と自分、そして嬉璃の所に遊びに来ていた源と一緒にTVショッピングを見ていた時だ。と、そこで流れたのが猫ハウスだ。その商品の宣伝をする人はとてもオーバーなアクションでそれに対する説明をしていて、そして黒と茶トラの仔猫を飼っている源はそれはもう真剣な目でそれを見ていた。その姿があまりにもかわいくって、だから彼女はつい冗談で・・・
「源ちゃん。私の写真集を作って、今度うちの高校でやる文化祭でそれを売れば、こんなの幾つも買えるよ」
 などと、言ってしまったのだ。もちろん、すぐその後に、
「って、きゃー、石を投げないでぇー。投げるなら飛空石にしてぇーって。なんちゃって・・・て?」
 だけどもうその時には、管理人室からは源の姿はなく、お茶をずずっと啜っていた嬉璃がただ一言、
「おんしも冗談は通じる相手にだけ言った方がよいぞ」
 もちろん、その時はまさか源が本当に自分の写真集を作るとは夢にも想ってもいなかった。だけどその日から常に誰かの視線を感じ、そしてその視線を感じる方に目を向けると、時折きらり、と何かが光るのだ。
 ・・・。
 確信せざるおえなかった。源が自分の言った冗談を間に受けて、本当に自分の写真集を作ろうとしている事を。
 しかも先代の管理人である祖母のところにもいつの間にか源の仲間になっていた嬉璃によって写真集めの協力要請があったそうだし、また、とある出版社で働いている住人S氏もその写真集出版に協力しているらしいから、その写真集は結構本格的らしい。
「まさか自費出版にまでこぎつけるなんて、本当にバイタリティー溢れる子だわ」
 冗談ではない。そんなのができたら・・・・・・できたら・・・・・彼氏、できたりするかな?
「って、何を言ってるのよ」
 ぶんぶんと頭を横に振る。
 そう、あんな写真が収録された写真集が出版された日には彼氏など夢のまた夢になってしまう。恥ずかしくって街も歩けなくなるのは必至だ。だからこそ、彼女は非情にならざるおえない。
「皆、お願い。源ちゃんと嬉璃さんを倒して」

「しかし管理人殿も必死じゃな。手段を選ばん」
「当然ぢゃ。こんな写真はまず恥ずかしくって、誰にも見せられんぢゃろうて」
 嬉璃は懐から取り出した写真を源に見せた。源はおもわずにんまりと微笑む。
「うむ。こんな写真があるなら、あと500円高くしてもよいかもな」
「おんしも悪ぢゃの〜ぅ」
 源と嬉璃は倒した商店街組合のメンバー二人の背中を片足で踏みつけながら高笑いをした。
 と、
「そこまでよ、二人とも。あたしが出てきたからにはもう年貢の納め時よ」
 その声と共に飛来した銀玉に大人には見えなくなっていたはずの嬉璃の左胸に飾られた薔薇が散った。
「もなみぃ!!!!」
 源は驚愕の声をあげた。
「しまった」
 嬉璃は歯軋りする。そして銃口を今度は源に照準する彼女を睨んだ。
「あやつは魚屋の用心棒」
「用心棒? お洒落じゃないわね。ボディーガードと呼んでくれるかしら、本郷源。あたしの永遠のライバル」
 そう、そうなのだ。源の飼ってる仔猫たちはここら一帯の野良猫たちの親分なのだ。故に源とその彼女はまさに犬猿の仲だった。
「ふん、魚屋の犬の次は、管理人殿の犬になったか」
「なんとでも言えばいいわ。あたしはこの拳銃に命を賭けて、たった独りこの世界を生き抜く孤高の女スイーパー。だから何でもするのよ」
「な、何が、孤高の女スイーパーじゃ。駄菓子屋という家があるではないか。しかも姉と弟まで」
 突っ込む源に、彼女は片眉の端をあげる。
「ちぃぃ。御託はいいわ。死になさい、本郷源」
 彼女はトリガーを引く。
「ちぃぃぃ」
 しかし源もただの女の子じゃない。獣人の血を引くが故のその鋭い五感によって、わずかな空気の乱れと、銃口の向き、彼女のトリガーを引く指の動きとで、その弾丸(銀球)をすべて紙一重でよける。
 そして・・・
 かちん。かちん。
 ただ、弾丸の換装音だけが路地裏に響く。
「ふん。玉切れのようじゃな」
「しまった」
 そして孤高の女スイーパーは見事であった。くるりと半回転して、源に背を見せると、そのままダッシュで逃げたのだ。
「うむ。見事な引き際じゃ」
 源はそう彼女を褒め称えると、嬉璃を見た。
「もなみぃ・・・」
 大人ヴァージョンに変化している嬉璃は懐から写真を出すと、それを源に託した。
「すまんねー。わしはゲームオーバーぢゃ。後はおんしに任せるよ。がんばってね」
「うむ。もなみぃ。任せとけ」
 ここで説明をしよう。
 一度言い出したら絶対に聞かない二人の性格を把握している管理人は源と嬉璃にゲームを提案してきたのだ。それは今日一日、体の見える場所に薔薇を飾り、その薔薇を管理人の手下と化した商店街組合の連中に散らされずに、港で某出版社に勤めるS氏に写真を渡す事が出来れば源の勝ちで、写真集出版を許可する。しかし、もしも負けたら、写真集出版は諦めるというのがゲームのルールだ。商店街組合の者も薔薇を付けねばならず、それを散らされたら、その者はゲームに参加してはいけない。ちなみに商店街組合が管理人の手下となったのは、もしも源と嬉璃を倒すことができればその報酬に、彼女が一週間その店で無償で働くのだ。そう、管理人は16年間彼氏がいないがしかし美少女で、ファンが山のようにいる。もしも彼女が売り子やウェイトレスなどをやれば、彼女目当ての客による売り上げUPは間違いなしなのだ。
「それにしても自分がかわいい事を理解せずにそんな提案をするところがまた憎めんな、管理人殿は」
 源は自転車に乗りながら、銀球を発砲してくるライバルを途中で仕入れた同じく銀玉鉄砲で牽制しながら、先を急いだ。しかし、敵は腰に下げたウエストポーチに腐るほど銀玉を入れているが、源は今鉄砲に入っているのが持ち球すべてだ。
「くぅー。無駄球は使えんか」
 さすがの源も追い詰められた。
 と、その彼女の目にある民家の木製の壁が入った。そして絶体絶命のこのピンチを打破する名案が浮かぶ。
「よし」
 源はその壁に向かって、ダッシュ。
「何をする気なの、本郷源?」
 彼女は戦慄と苛立ちに満ちた声を出しながらペダルを漕ぎ、そして源を射程距離に捉えると、ハンドルから両手を離して、そしてグリップを両手で掴んで銃口を源の背に照準した。ちなみに自転車は補助車輪を左右に付けていて、4輪走行してるので一応は倒れる事はない。←でも、良い子も悪い子も真似してはいかんぞ。by源
 彼女はトリガーを引きながら信じられぬ者を見た。なんと源がハードルを飛び越えるように、その壁の数歩前で勢いよくアスファルトを蹴って、壁を飛び越えたのだ。
「何ですってぇ?」
 獣人の血を引く源の常人離れしたその瞬発力と跳躍力に彼女は目を見開いた。しかしハンターは獲物がすごければすごいほど血が騒ぐというものだ。
 彼女は自転車を走らせた。そして壁の前で止める。見上げる高い壁。
「・・・」
 固まる彼女。実は彼女は高所恐怖症だ。だから乗り越えるという発想は断じてしないし、選択しない。その彼女の顔が綻んだのは、壁に穴を見つけたからか。
 彼女は喜び勇んでその穴に上半身を突っ込ませて、そして固まった。
「チェックメイトじゃ♪」
 そう言って源は彼女の額に銃口を突きつけた。予想されていたのだ、すべてが。
 しかし、彼女は孤高の女スイーパー。敵に命乞いはしない。
「殺りたければ殺ればいいわ」
 が、源はくるくると指で銃をまわすと、鮮やかな動きで腰に吊ったホルスターに拳銃を収めた。そして彼女に背を見せて立ち去っていく。
「な、情けをかけるの、本郷源」
 源は足を止めない。ただ、声だけを返した。
「おぬしの左胸の薔薇はその穴に身を通した時に潰れとる」
 ・・・。
 孤高の女スイーパーは壁の穴にはまったまましばし固まっていた。

「ふぅいー。やっと到着したわい」
 港に着いた源は昔の映画に出てくる船乗りがするように、船止めに片足を乗せて、煙管をふかしていた。
 と、その彼女に声がかけられた。
「源ちゃん」
 源は潮風に髪を遊ばせながらゆっくりと振り返った。
「なるほどな。ラスボスは管理人殿か」
 源は銃口を管理人に向ける。だが、その彼女の目が大きく見開かれた。なんと管理人の腕には彼女のかわいい仔猫たちが・・・。
「な、なんと卑怯な。おぬしはそこまでやるのか?」
「にゃぁー」「みゃぁー」と、鳴く仔猫たちを抱える管理人は強い潮風になびく髪の下にある顔に酷薄な笑みを浮かべた。
「ええ、あんな写真を収録した写真集発売を阻止するためならば、何でもするわ。源ちゃんはこの子たちのために写真集を発売するんでしょう? そのこの子たちがこの世からいなくなってしまったらそれこそそれは無駄だわ。だからこの子たちを救いたかったら、その左胸の薔薇を潰しなさい。そして写真を渡して。そう、そしたらあたしが猫ハウスを買ってあげるわ」
 そう、源がこんな事をしだした原因はそれだから、だからもっと早くそうすれば良かったのだと彼女は想う。しかし・・・
「ダメじゃ。写真集は作らねばいかんのじゃ」
「どうしてぇ。猫ハウスは買ってあげると言ってるのに!」
 管理人は理解できない。
 と、その時、奏でられる波の音をバックに響いた声。
「源は哀れな野良猫たちのために写真集を作ろうと言うのぢゃ。だからわしも協力したのぢゃよ」
「もなみぃ」
 源は驚いた声を出した。
 嬉璃は銀の髪を色っぽい洗練された仕草で掻きあげながら、どこか優しい慈母がごとく微笑んで、管理人を宥めるように言う。
「ほれ、魚屋が駄菓子屋の子を雇って撃退するのをはじめ、色々と野良猫たちがいじめられておるぢゃろ? だから、彼女は野良猫を題材にした写真集を作って、野良猫の生活を訴えると共に、その売り上げ費で野良猫たちを養おうというのぢゃよ」
 嬉璃のその言葉に彼女は真っ赤な顔を両手で覆った。
 そう、そう言えば、確かに視線を感じたり、何かがきらりと光った時・・・つまりカメラに写されていた時には自分の周りには野良猫たちがいた。
「なんだ。そう、そうだったの。やだ、あたしったら・・・。あ、あの、でも、源ちゃん。あたしが野良猫ちゃんを抱きながら焼き芋を食べている時の写真は載せないでね」
「ん? ああ、うん。わかったのじゃ」
 若干、源の不思議そうな顔が気にはなったが、彼女は自分が焼き芋を食べている写真を源から渡してもらったので、ほっと安堵の息を吐いた。
 そうしてゲームは源の勝利で終わった。

 後日、あやかし荘の管理人室にはそろばん片手に写真集の売り上げを計算する源と、それをお茶を啜りながら眺めている嬉璃の姿があり、そして管理人室の隅では管理人が両手で抱え込んだ膝に顔を埋めて、しくしくと泣いている姿もあった。
 どうして管理人が泣いているのかと言うと、その答えは泣いている彼女の前に置かれた写真集の開かれたページにあった。そのページに載せられた写真は、3歳の管理人が白かぼちゃパンツ一枚で、野良猫と遊んでいる写真である。その写真の下にアルバムにするように管理人の名前と歳、親のコメントが書き込まれていたのは源のご愛嬌であった。

「・・・・・ひどいよ、源ちゃん。こんな写真載せるなんて」
「何を言っておるのじゃ。約束通り焼芋を食べている写真は載せておらぬぞ」
 ちなみにその写真集は管理人ファンと猫ファンによって完売であったそうな。