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明けたからおめでとうにゃ
（オープニング）
ぞりぞりぞり。
雪道を、ソリが進んでいる。
「寒いにゃ…こたつに帰って丸くなりたいにゃ…」
「なんで、僕たちがこんな事するにゃ…」
ぶつぶつ言いながら、そりを引いているのは、赤い毛皮の服を着て、頭に丸い飾りのついた帽子を被った数匹の猫である。サンタの衣装に見えない事も無い。しゃべっているので、おそらく化け猫か何かの妖怪だろう。
「お正月のアルバイトと言えば、年賀状配達です。がんばりましょう」
荷物と一緒にそりに乗っている、やはり赤い格好をした者が言った。緑色の肌をした彼は、河童のようだった。
彼らは霊峰八国山という、東京都西部の妖怪の里在住の妖怪達である。
「四平君は、そりに乗ってるだけだから楽で良いにゃ…」
猫達は相変わらず愚痴を言っている。
「大体、さんたさんの時期は、もう終わったにゃ！
何でこんな格好をするにゃ！」
「クリスマスの時、こたつで寝過ごしてプレゼントを配るのを忘れたからです」
「とても申し訳ありませんでしたにゃ…」
年明け早々、化け猫達は元気が無かった。
(依頼内容)
・某所の妖怪達が年賀状配達のアルバイトをしています。
・年賀状を注文すると、化け猫(＋任意の妖怪)が日本全国どこでもソリを引いて駆けつけて雑談をして帰っていくようです。
・配達員として希望する妖怪(or人間)等がありましたら、可能な限り対応しますのでプレイングに書いてみて下さいです。
・この依頼は特に要望が無い限り、基本的に各ＰＣ個別のパラレル形式で作成します。
（本編）
１．山を出発する妖怪達
正月の三ヶ日も終わり、多くの者達が正月気分と決別し始めた頃の話である。霊峰八国山の一部の妖怪達は、年賀状を持って山を後にした。年賀状配達のアルバイトである。もちろん、元日に配るはずの年賀状だ。
「それじゃあ、そろそろ、お正月のアルバイトを始めるにゃ。年賀状を配るにゃ。
…ところで、僕達はどこへ行くにゃ？」
化け猫達は、サンタスタイルでそりを引きながら、山を後にする。平時からやる気が無い化け猫達だったが、寒いので元気も無かった。
「ノイエ・シュバルザークさんの所にゃ」
「それは、誰にゃ？」
「魔女の人にゃ」
「魔女って、妖怪にゃ？」
「ちょっと違う気がするにゃ…」
「思い出したにゃ！廃棄ＰＣ君を山に連れて来た人にゃ！」
「おお、思い出したにゃ！変な魔女の人にゃ！」
「やったにゃ！」
何となく無意味に盛り上がる化け猫達は、山を後にした。
２．年賀状をノイエ・シュバルザークさんに
というわけで年が明けた。魔女のノイエ・シュバルザークは、居候先の錬金術師の家で年越しソバを食べて過ごしていた。
それにしても、日本は不思議ですわねー。と、ノイエは正月を過ごす。確か、先週辺りはイエス・キリストの聖誕祭をプレゼント交換やらケーキやらで祝っていたはずだが、年が明けると、今度は七福神がどーした初詣がなんだと、神社へ行く。そのうち神様もキレるんじゃないかしら？
まあ、そんな事はどうでも良いですわね。ノイエの正月は、ぼーっと過ぎていった。
…そういえば、日本の正月の風習と言えば、年賀ハガキというのもあるわね。ノイエは日本の文化を考える。
確か、知人同士で新年の挨拶のハガキを送り合い、自分に送られて来たハガキの枚数で知人の多さを競い合うイベントだと、ノイエは記憶している。まあ、人間とは競争するのが好きな生き物なのかしらね。ノイエは首を傾げた。
そうして正月の三ヶ日が過ぎ去った頃だった。
ピンポーン。ノイエが居候している錬金術師宅のチャイムが鳴った。
あら、お客様かしら？
ノイエはドアを開ける。ドアの外にはそりを引いた化け猫が２匹と、着物姿の少年少女が３人位居た。
「明けたにゃ！本当はどーでもいーけど、めでたいにゃ！」
騒いでいるのは赤い服の猫だ。サンタ服にも見える。空騒ぎとでも言うような、やけになったような騒ぎ方だった。しゃべっているので、きっと化け猫か何かの妖怪なのだろう。
『おめでとうございます！』
３人の少年少女は、声を揃えて言った。よく見ると、足が微妙に地面から浮いている。猫同様に人間では無いようだ。
「年賀状配達の猫さん達…かしら？」
ノイエは尋ねる。
サンタ服の猫と着物の子供達が年賀ハガキを配る習慣も、一部の地域にはあるのだろうか？
やっぱり、日本は不思議ですわね…
ノイエは来客者たちを見ている。
「そうにゃ…
年賀状持って来たにゃ…」
化け猫の一匹が、前足でそりから年賀状を拾い上げた。空騒ぎに疲れたのか、元気が無い。
「あら、どうもありがとう」
ノイエは年賀状を受け取った。化け猫達は力無く帰ろうとするが、
「寒い中、ご苦労様だったわね。
紅茶でもいかがかしら？」
少し暖まっていかないかとノイエが声をかけると、
「日本茶の方が良いにゃ！」
と、元気を取り戻した。
『ここ、ノイエさんの家じゃ無いけど、持ち主さんに断らないで上がってもいいんですか？』
宙に浮い少年少女３人が、声を揃えてノイエに尋ねた。
「ええ、全く問題無いわよ。
気にせずに上がりなさいな」
ノイエが平然と言うので、妖怪達は家に上がった。ノイエはひとまず湯を沸かしながら、妖怪達と話す事にする。まず、ノイエは宙に浮いている少年少女の素性が気になった。
『僕達(私達)はカマイタチです。風の妖怪みたいなものです』
少年達は三匹で一匹の妖怪で、心が一つに繋がっているのだという。なので、しゃべる時も普段は三人で同時にしゃべるのだそうだ。
カマイタチ達は、こたつに入る時も、一見すると正座して座っているようだが、よく見ると地面から浮いていた。
「風の妖怪…風の声を伝える精霊、シルフのようなものかしら？」
『あ、そんな名前のお姉さんが、西の方から飛んで来た事があります。お互い風に関係ある者同士、一緒にがんばろうって、話した事があります』
なるほど…風を司るモノも、土地によって色々違うのね…
「おわ！熱いにゃ！」
と、猫舌の化け猫達が、ノイエが入れてきた熱湯の日本茶を飲もうとして、熱さの為にのたうち回っている。猫は世界共通で猫のようだ。
「そうだ、前から気になってたんだけど、干支って面白いわよね。猪とかお猿さんとか。そもそもこの１２の動物って何なのかしらね？
年毎に変わる、郵便屋さんの使い魔？お年賀のはがきを売る為に奔走させているのかしら…」
でも、配達してるのは化け猫ですわね…。ノイエは悩む。
『それは…ちょっと違うような気もします…』
カマイタチ達は首を傾げている。
「そうよね、年賀状を配ってるお猿さんって、今年は見かけなかったし…」
そういえば、去年も年賀状を配る羊を見た覚えは無い。
「干支は嫌いにゃ！何故か猫が入って無いにゃ！」
化け猫達は干支の話になると、少し機嫌が悪い。なるほど、確かに干支の１２の動物に猫は入っていない。
「それもそうね。次回の干支の選抜試験の為に、今からがんばった方が良いかも知れないわね」
「せ、選抜試験なんてあるにゃ？」
「あら、無いのかしら？こういうのって、何年かに一回くらい、１２の動物を選抜するのかと思ってましたけど…
だって、そうじゃないと選ばれなかった動物が可愛そうですわ？」
ノイエの言葉に、
『うぅ、何て良い人にゃ…』
化け猫達は、にゃーにゃーと泣き出した。
そうして、いまいち微妙な日本の文化に関する会話をしばらく続けた後、化け猫とカマイタチは帰路につく事になった。外は、もう夕暮れだ。
『今年も一年、ノイエさんに穏やかな風の加護がありますように！』
カマイタチ達がノイエの周りを飛び回り、何かの祝福をしている。
「ありがとう。カマイタチさん達も、気をつけてね」
ノイエは微笑んだ。
化け猫達は前足を振りながら、そりを引いた。やがて、妖怪達の姿は見えなくなった。
…そうだ、まだ、年賀ハガキを見てませんでしたわね。
部屋に帰ったノイエは、妖怪達が配達しにきた年賀ハガキの事を思い出して、目を向ける。そういえば受け取ったきりだった。
『明けたにゃ。めでたいにゃ。
去年は色々お世話になったにゃ。廃棄ＰＣ君がよろしく言ってたにゃ。
日本の文化は難しいけど、僕達でも生きていけるから、多分大丈夫にゃ。
今年も一年、がんばるにゃ！』
…まあ、生きていく分には、どこでも生きていけるわよね。
さてさて、私は、残り少ない今年の正月を楽しもうかしら。文化を知るには体験するのが一番ですわね。と、ノイエは雑煮に入れる餅を、火鉢で焼き始めた。
それが、ノイエの正月の終わりに起こった出来事だった。
今年もまた、一年が始まる…
(完)
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■ 登場人物（この物語に登場した人物の一覧） ■
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【1848 ／ ノイエ・シュバルザーク ／ 女 ／ ７５０歳 ／ 魔女・兼・メンタルセラピスト】
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■ ライター通信 ■
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明けましておめでとうございます、ＭＴＳです。
年賀状の時期はとっくに過ぎてしまい、さすがに申し訳無いのですが、いかがでしたでしょうか？
『自然を模したもの、知性あるもの』というのにすごく悩み、ＭＴＳなりに書いてみたのですが、あんまり上手く書けませんでした…
素直に天狗を連れてくれば良かったかも知れません…
ともかく、おつかれさまでした。今年も気が向いたら、また遊びに来てください。
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