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<東京怪談ウェブゲーム 草間興信所>


LAST DAY

オープニング


「夫を助けてください」
 草間興信所にやってきたのは女性だった。
「助けてください、とはどういう意味ですか?」
 草間武彦は新聞を机の上に置いて女性の方を向く。
「半年前、娘が死にました。ひき逃げです…ですが…」
 女性は泣きながら話し始める。
 娘、真理という7歳の子供がひき逃げで死んだ事。
 ひき逃げをしたのはまだ中学生の不良グループだったという事。
 そして、父親、女性にとっては夫にあたる男性がそのひき逃げをした少年を殺そうとしていること。
「あなたは憎くないんですか?」
「憎くないわけないでしょう?自分のお腹を痛めた子供が殺されたんですよ?だけど…」
 死んで償わせるにはあまりにも重い罪だから生きて償って欲しい、と女性は言う。
「お願いです。夫を救ってください」
 深々と頭を下げて言う女性に草間武彦は頭を掻いてどうしたものかと考える。
「………分かりました、この依頼引き受けます」
草間は溜め息と共に言葉を出す。
「ありがとうございます」
 女性は再度深々と頭を下げて興信所を後にした。


視点⇒真名神・慶悟


「やりきれない事件だな」
 慶悟は事件が載った新聞を読みながら呟いた。少女をひき逃げしたのはわずか十三、四歳の中学生達。しかも新聞を読めば飲酒運転だと言う事まで書いてあった。
「依頼人の連絡先は?」
 同じく新聞を読んでいる草間武彦に言うと、依頼書を取り出して慶悟に放った。依頼書を見ると依頼人の家は草間興信所の近くで歩いていける距離だった。
「じゃ、ちょっと行ってくるかな」
 一人呟くように言うと、ソファから立ち上がり草間興信所を後にした。
 外は冬休みと言う事もあって人がたくさん歩いている。そんな人だかりの中を慶悟は煙草を吸いながら歩いている。
『殺す』『死ね』
 これらの言葉は当たり前のように若者の中で使われている。怖いと言えば怖い世の中になったものだ、と慶悟は煙草の煙を吐きながら呟いた。
 暫く歩くうちに人が少ない通りに出て、依頼人の家が近づく。
「ここ、か」
 一軒の家の前で慶悟は足を止めた。表札には三人分の名前が書いてあって、かつても幸せな家庭を慶悟に想像させた。
「幸せとはいつ奪われるものか分からないな…」
 ポツリと呟いてからインターホンを鳴らす。
「どちらさまでしょう?」
 扉越しに聞こえたのは女性の声、多分その声の主こそが依頼人と思って間違いないだろう。
「草間興信所から来たものだが…」
「…今ドアを開けますので」
 女性のその声と共に鍵の開く音がして、ドアが開かれた。
「どーも…」
「中へどうぞ…」
 女性は痩せた、この場合はやつれていると言ったほうがいいのかもしれない。とにかく、まともに食事すらしていなさそうな感じだった。
「コーヒーでいいでしょうか?」
「あ、お構いなく。すぐに帰りますんで」
 だが、女性は台所から帰ってくる気配はない。暫く部屋を見回していると奥の部屋に一枚の写真が飾ってあるのが見えた。左側に女性、右側に男性、そして真ん中にポニーテールにした子供が一人写っている。
「遅くに出来た子供だから可愛くて仕方がなかったの」
 女性はそういうとテーブルにコーヒーを置きながら自嘲気味に話す。
「いえ、親が子を可愛いと思うのは当たり前ですし」
 コーヒーを一口飲みながら慶悟が言う。
「それで…旦那さんの行きそうなところと名前を聞きたいんだが…」
「名前は小林史明といいます。行きそうな場所は…ひき逃げをした少年達がよくたむろしているクラブがあるそうなんです…その場所にいるのでは…」
「クラブ…か。まぁ、行ってみるか…」
 慶悟は出されたコーヒーを一気に飲み干して部屋を出た。部屋を出る際に女性が「よろしくお願いします」と言って丁寧に頭を下げていたのが見えた。
「…さて…」
 スーツのポケットから取り出した煙草に火をつけてふぅ、と煙を吐く。暫く歩いたところに見えたのは『HELL』というクラブ。見るからにガラの悪そうな人間が出入りしてそうな場所である。
「見るからにって場所だな」
 中に入ろうとドアを開けたところに一人の男性が見えた。
「…あんたさ、そんな物騒なもん持ってどうするわけ?」
 慶悟が男性に近づいて言うと、男性は肩をビクリと震わせた。男性の手にもたれているのは包丁。
「…復讐したい気持ちは否定はしない。それは俺が踏み入るべき場所ではないからな。だが…俺はあんたの伴侶…奥さんに頼まれてやってきた。だから見過ごすわけには行かない」
「…ふざけるなっ!貴様に…娘を殺された苦しみが分かるのか!」
 分かるわけがない、確かにそうだ。本人の苦しみは本人にしか分からない。他人がどんな綺麗事を並べようと分かるはずもないのだから。
「分からない」
 男性の言葉に慶悟はきっぱりと言い切った。
「だが、目には目を、同じ目に遭わせる復讐心は誰でも持っている。だが、今生きて、お前と同じ様に苦しみながら、お前の身を更に案じ苦しんでいる伴侶がいる事を忘れるな。これでお前が罪を犯せば、伴侶の苦しみはそれ以上だ。お前はそれで済むのか?伴侶はお前の支えを必要としている。お前はそれでいいのか?」
 その言葉に男性はグッと言葉に詰まる。心なしか包丁を持つ手が少しだけ震えている気もする。
「…どうすればいい…。人の人生を狂わせて、その犯人は分かっているのに…罪には問われずに今ものうのうと生きている。謝罪の言葉すらナシに!!」
 ぎり、と男性は唇をかみ締める。
「…謝罪、か」
 慶悟は小さく呟くと、店の中に入っていった。
 店の中は数人の少年達以外は誰もいない。煙草、酒、あげくにはシンナーなども見られた。
(ここまで来ると嘆かわしいものだな)
 慶悟は煙草を口からとり、テーブルの上においてあった灰皿にもみ消す。
「七歳の子供をひき逃げしたのは、お前らか?」
 リーダー格の少年に慶悟が問うと少年は「あぁ?」といって威嚇をしてきた。
「…お前らは自分が何をしたか、親に謝罪はしたのか?」
 慶悟がそういうと、少年達は高らかに笑い始めた。
「ははっ、なんで謝らなくちゃいけないわけ?俺らもある意味被害者だしさぁ…」
 自分から謝罪する機会を与えたのに、と慶悟は小さく舌打ちと溜め息を漏らした。
「…これはお前らが選択した答えだからな」
 慶悟は低い声で言うと、スーツから一枚の呪符を取り出した。慶悟が取り出したのは妄夢の呪符。
「…な、なんだ…何だよ、コレっ」
 少年達は妄夢の呪符の効果により事故当時のことを繰り返し思い出させられているのだ。普通の人間ならば数分と耐えられることはないだろう。まだ中学生という子供なのだから下手をすれば発狂をするかもしれない。少年達は次々に悲鳴をあげる、中には泣き出す少年もいた。
「…ご、ごめんなさっ…うわぁぁ!」
「…こんな方法しか謝らす方法を思いつかなかったものでね」
 後から何事かと入ってきた男性に慶悟は小さく呟いた。
「…こんな…奴らに…」
「……」
 男性は泣き崩れていた。何度も「こんな奴らに」と繰り返しながら。これ以上慶悟に出来る事はない。
「これからどうするんだ?」
 少し落ち着いた男性に慶悟は聞いた。
「………帰ります。妻にも心配をかけましたから…」
「そっか」
 それだけ言うと慶悟はその場所から立ち去った。
もうあの男性は大丈夫だろう。自分の目で見るべきものが分かっているから。
「草間さんに報告にいくか…。その前にどこかで酒でも飲んでいくかな」
 慶悟は伸びをして、どこかの居酒屋に入っていった。


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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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【整理番号 / PC名 / 性別 / 年齢 / 職業】

0389/真名神・慶悟/男性/20歳/陰陽師

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■         ライター通信          ■
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真名神・慶悟様>

お会いするのは二回目ですね^^
今回は『LAST DAY』に発注をかけてくださいまして、ありがとうございました^^
『LAST DAY』はいかがだったでしょうか?
少しでも面白いと思っていただけたら幸いです^^
それでは、またお会いできる機会がありましたらよろしくお願いします^^

             −瀬皇緋澄