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LAST DAY
オープニング
「夫を助けてください」
草間興信所にやってきたのは女性だった。
「助けてください、とはどういう意味ですか？」
草間武彦は新聞を机の上に置いて女性の方を向く。
「半年前、娘が死にました。ひき逃げです…ですが…」
女性は泣きながら話し始める。
娘、真理という7歳の子供がひき逃げで死んだ事。
ひき逃げをしたのはまだ中学生の不良グループだったという事。
そして、父親、女性にとっては夫にあたる男性がそのひき逃げをした少年を殺そうとしていること。
「あなたは憎くないんですか？」
「憎くないわけないでしょう？自分のお腹を痛めた子供が殺されたんですよ？だけど…」
死んで償わせるにはあまりにも重い罪だから生きて償って欲しい、と女性は言う。
「お願いです。夫を救ってください」
深々と頭を下げて言う女性に草間武彦は頭を掻いてどうしたものかと考える。
「………分かりました、この依頼引き受けます」
草間は溜め息と共に言葉を出す。
「ありがとうございます」
女性は再度深々と頭を下げて興信所を後にした。
視点⇒門屋・将太郎
「七歳の子供をひき逃げしたのがまだ中学生の子供だと…？嫌な世の中だねぇ」
ギシと椅子の背もたれに体重をかけながら草間武彦から送られてきた依頼書を見つめる。事の発端は中学生の不良グループが七歳の子供を轢き逃げしたことが始まりらしい。その子供の父親が少年達に復讐をしようとしているらしい。そして、奥さんがそれを止めて欲しいと依頼に来たそうだ。
「俺に任せてくれないか？」
草間武彦の電話でそういったものの電話を切った後で「厄介な依頼を受けちまったな」と少しだけ後悔をした。しかし、今から人殺しが起きるかもしれないというのに黙って見過ごす事は出来なかった。
「娘を殺した連中と同じ罪人になることはねぇだろうに…」
やはり気持ちの問題だろうから、ここは将太郎がどうのと言えることではないかもしれない。もし、逆の立場だとして同じ事をしない、とも言い切れないからだ。
「受けちまったもんはしかたねぇ。死んだ娘や奥さんにこれ以上心配させる真似をさせちゃあいけねぇな」
将太郎は椅子から立ち上がり、心理相談所を『臨時休業中』にして外に出た。草間武彦から聞いた話によると問題の少年達はとあるクラブによく入り浸っているようだ。草間武彦にも分かっている事だから、これから復讐をしようとしている父親にもその情報はあるだろう。もしかしたらそのクラブ周辺をうろついているかもしれないと思いながら将太郎は歩く足の速度を速めた。
「ここか…」
暫く歩いたところで見つけたのはいかにも、というような一軒のクラブ。中からは若い男性達の声が騒がしく、外にまで聞こえてくるほどだった。
「…おや…」
クラブから視線を移すと一人の男性が目に入った。恐ろしい形相でクラブを睨んでいる。そして…その手に持たれているのは―……。
「…そんなもん使うのはよしな。真理ちゃんが嘆くぜ」
将太郎はその男性に近づき、一言だけ呟く。男性は将太郎の言葉にビクリと大げさなくらい肩を震わせた。
「……あんたは………誰だ…」
男性は睨みつけるように将太郎を見つめて、低い声で搾り出すような声で呟いた。
「俺は門屋将太郎。しがない臨床心理士だ。奥さんからの依頼でね、引き下がるわけにゃいかないんだ」
『奥さん』という言葉に男性はピクリと反応を返した。
「あいつは…自分の娘を殺されたのに…俺を止めたんだ…。あいつは所詮真理を愛してなんか―」
男性は最後まで言葉を紡ぐ事はできなかった。なぜなら将太郎に殴られていたからだ。
「自分の腹を痛めて生んだ子供が可愛くない親がいるものか！お前の奥さんはなぁ！お前を心配しているんだよ！それが分からないのか！」
将太郎はゼェゼェと息を切らせながら叫んだ。叫んだためか回りの通行人が何事かと二人を見ている。
「もう一度言うぞ。馬鹿なことはやめろ。そんなことしても娘さんが悲しむだけだ。お前がしているのは娘を悲しませることばかりじゃねぇか」
そういうと男性は泣き崩れるようにして膝を地面についた。
「…どうすればいいんだ…。あいつらはこれからも何の罪悪感も感じずに生きていくんだぞ。俺の娘は…もう戻らないのにあいつらはのうのうと生き続けるんだ！」
「…何も復讐をするなとはいわねぇさ。その少年達の事を教えてくれ」
「……その少年達は…探偵を雇って調べてもらったが以前にも同じような事件を起こして無罪になっている…だからこそ許せなかった。同じ事を繰り返すそいつらが！」
「…俺が代わりに復讐をしてやるよ」
それだけ言うと将太郎は少年達がたむろしているクラブの中へと足を踏み入れた。
代わりに復讐、変わりに復讐をしてもらっても気持ちの整理がつかないかもしれない。だけど、何の力も持たないあの男性の復讐のやり方は『殺す』事しかない。だが、将太郎は力を持っているから手を汚さずに復讐を遂げる事が出来る。
「…こんなモンに使いたくねぇけどな。しかたねぇよ。俺を怒らせたそいつらがいけねぇんだ」
ガシャンと乱暴にドアを開けると、数人の少年達が一斉に将太郎を見た。
「なんだぁ？てめぇは…」
リーダーのような少年が将太郎の前に立つ。手には刃渡りの大きいナイフ。
「…お前、人を殺しても罪の意識がねぇのか！」
幼い少女の命を奪ってなおもこんな物を持ち歩く少年に将太郎は心底腹がたった。将太郎は少年の肩に手を置き、記憶を奪う。記憶を奪われた少年はカクンとその場に座り込んだ。
「おい！どうしたんだよ、てめぇ！何しやがった！」
残りの少年達が将太郎に向かって走ってくる。将太郎は向かってくる少年達を睨むように見つめ、催眠術をかける。
「…この事は忘れちまいな。お前らは死んで償うなんて生易しい事はさせねぇ。自分でした事を生きて償いな、まぁ…最も自分の意思なんか残ってないだろうがな」
廃人同様にしたから、と冷たく呟いて将太郎はクラブを後にした。外に出ると男性がいた。
「…あいつらは生きてるが死人だ。今後あんなマネはできないだろう…お前はお前が生きるべき場所に帰るんだな」
そう言って将太郎は心理相談所へと帰っていった。
もうあの男性は大丈夫だろう。自分の生きるべき場所、見つめるべき人間を分かっただろうから。
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■ 登場人物（この物語に登場した人物の一覧） ■
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【整理番号 ／ ＰＣ名 ／ 性別 ／ 年齢 ／ 職業】
1522/門屋・将太郎/男性/28歳/臨床心理士
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■ ライター通信 ■
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門屋・将太郎様＞
いつもお世話になっております、瀬皇緋澄です。
『LAST DAY』に発注をかけてくださいましてありがとうございました。
『LAST DAY』はいかがだったでしょうか？
少しでも面白いと思っていただけたら幸いです。
それでは、またお会いできる機会がありましたらよろしくお願いします＾＾
−瀬皇緋澄
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