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<東京怪談ウェブゲーム 草間興信所>


喉に小骨が刺さるが如く

1.
「正月料理にも飽きたな」

正月も5日を過ぎた頃、ポツリと草間武彦は独り言のように呟いた。
「・・・何か作りましょうか?」
それを聞いた零は草間へと問い返す。
もちろん、草間はそれを狙って呟いたわけだが。
「あのさ。アレが食いたいんだよ、アレ」
「アレ?」
零が小首をかしげた。
「いや、二つ食いたいモンがあるんだが、名前が思い出せないんだ」
「・・どんなものですか?」

「1つ目は
 あの大豆で作られた白いヤツが入って挽き肉とか入ってて、ちょっとピリ辛な中華な料理」

「・・2つ目は?」

「2つ目は
 タマゴをグシャグシャにして赤くした米を中に入れる洋食」

「・・・・」
「わからんだろうなぁ・・もーちょっと、この辺まで出てるんだけどなぁ・・」
眉間にしわを寄せた草間が喉元辺りを手でトントンと叩いた。

しかし、聞かされた零はまったく予想も付いていないようだった・・・。


2.
「またそういう無茶を零ちゃんに言ったのね・・」
新年初出勤となるその日、シュライン・エマは着いて早々溜息を漏らした。
だが、既に頭の中はその無茶の内容が何を指しているのかを思案中である。
「新年早々さすがは草間さんですね」
新年の挨拶に土産を持ってやってきた海原(うなばら)みなもは困り顔で土産を零へと渡した。
「わぁ、南国のドライフルーツ。ありがとうございます。そうなんですよ。私ではちょっと見当もつかなくて・・」
「あたし分かっちゃったもんね〜」
暇つぶしに来ていた丈峯楓香(たけみねふうか)がいたずらっ子のようににやりと笑った。
「僕もなんとなく見当つきましたよ」
挨拶がてら早くも仕事が無いかを聞きに来た空木崎辰一(うつぎざきしんいち)もニコニコと笑った。
「私も見当はついたわ。おそらく・・」

『 オムライス と 麻婆豆腐 』「石焼ビビンバ」

4人の声が微妙に重なった・・ようで1人、石焼ビビンバと答えた者がいた。
「・・あ、あれ?あたしだけ今ハモりませんでしたね・・」みなもが慌てて口を押さえた。
「ビビンバかぁ・・美味しそう〜」
楓香が妙に納得顔でうんうんと頷いている。
「ビビンバは確か韓国料理では?」
空木崎がそのものずばりを指摘した。
「空木崎さん、女の子には優しくしないとダメよ?」
空木崎に向かいにこりと笑ったエマのその顔は微妙に棘を含んでおり、空木崎は慌ててフォローを入れた。
「あの、まぁ、今回は意見の多かったほうを作ったほうが無難かな・・なんて」
「大丈夫です。そうですね、きっとあたしも麻婆豆腐が正解だと思います」
健気に笑ったみなもを楓香とエマはよしよしと頭を撫でたのであった・・。


3.
4人は別れて料理をすることと相成った。
エマ・みなもはオムライス、空木崎・楓香は麻婆豆腐である。

「凝った物より、突然食べたくなった時って王道な食べ慣れた味が恋しいものだからシンプルに作りましょう」
エマがエプロンをささっと身に着けながらみなもにそう言った。
「材料、大体そろってるみたいです」
みなもがいそいそと冷蔵庫から必要と思われる材料を机の上に並べた。
「さすがみなもちゃんね。じゃあモモ肉と玉葱を切ってもらえるかしら?私はその間に他の用意するわ」
「はい。わかりました」
材料を切り出したみなもの手つきは、いつも手伝いしてるであろうということが一目で見受けられた。
「シュラインさん、切れましたよ」
「ありがとう」
フライパンにバターを引き、みなもに切ってもらった材料を炒める。
あらかた火を通した後、ケチャップを入れて味付けをする。
と「え!?ここで入れるんですか?ケチャップ」みなもが驚きの声をあげた。
「この方がねご飯がベチャッとしないのよ。あと、最初にご飯の水気を飛ばしておくこともコツね」
「シュラインさんは何でも知ってるんですね」みなもが感心したように頷いた。
手早くご飯を投入し、ささっと具と絡ませながら炒める。
「みなもちゃん、後任せていいかしら?」
エマはチキンライスを火からおろすとみなもにそう聞いた。
「え?えぇ。かまいませんけど」
「じゃあお願いするわね」
エマはエプロンをはずすと興信所からすばやく出かけていった。

エマを見送ったみなもはチキンライスを盛り付けたあと卵へと取り掛かった。
ご飯を包み込むように作るオムライスはかなり難しい。
そう思って、みなもは半熟オムレツを作ることにした。
バターを引き、溶いた卵を一気に入れ掻き混ぜる。
ジュワジュワとバターのいい香りがみなもの鼻腔をくすぐった。
フライパンを左手に持ち、卵が固まりきらないうちにトントンと叩いてうまくまとめていく。
中々の手腕である。よいお嫁さんになれるであろう。
出来上がったオムレツをチキンライスに乗せてオムレツの真ん中を切る。
すると、とろりとした半熟卵がチキンライスを覆う。
そうだと思い立ち、みなもはキャベツとプチトマトを取り出した。
キャベツを千切りにしてプチトマトと一緒に色添えをした。
みなもとエマのオムライスの出来上がりである。

エマが戻ってきた。手にはスーパーの袋を持っている。
エマはみなもが完成させたオムライスを見てニコリと笑った。
「とっても美味しそう。ありがとう。ごめんなさいね。途中で全部任せちゃって」
「いえ、そんな・・」
褒められてみなもはポッと頬を染めた。
エマに褒められると何だかとっても照れくさい。
「みなもちゃん、私これからちょっと追加で調理するから空木崎さんたちと先に応接室に料理を運んでくれるかしら?」
エマはエプロンの紐を締めつつ、みなもに言った。
「あ、はい。でも何を作るんですか?」
「ナ・イ・ショ」
悪戯っ子のようにエマは笑った。


4.
「な、なんだよ・・」
草間が零に背中を押されて興信所の応接室に入ってきた。
応接室の机の上にはオムライスと麻婆豆腐が鎮座していた。
「・・そうだよ。これこれこれこれ!!俺が食いたかったのこれだよ!」
草間がそのメガネの奥の瞳をウルウルとさせ、「おまえらイイヤツだなぁ・・」と呟いた。
「さぁ、冷めない内に食べてくださいね」
ニコリとエマが笑ったのを機に草間はまずオムライスを一口食べた。
「こ、これはぁ!!」
「ま、不味いんですか!?」
みなもが不安そうに聞いた。
「マッタリとして、それでいてしつこくなく、オーソドックスなのにこの上品な仕上がり!天晴れ!!」
草間の言葉に一同の目が点になった。
およそ草間の言葉らしくない言葉だが、とりあえず褒めているらしい。
「どこでそんな言葉を・・」エマが苦笑いをした。
「あたしと空木崎さんが作った麻婆豆腐も食べてみてよ〜♪」
楓香が身を乗り出してじーっと草間を見つめた。
同じく空木崎も草間の動向を身じろぎひとつせず見つめる。
「ん。では頂くとする」
その艶やかな豆腐をすくい、草間は・・・食べた。
空木崎と楓香がごくりと静かに息を飲んだ。

「・・美味い。辛味とか俺好みのいい加減だな。絹ごしの麻婆豆腐って美味いなぁ」

「あら〜よかったわ〜。じゃあ皆さんも頂きましょうか」
エマがわざとらしくそう言った後、台所から人数分のオムライスと麻婆豆腐を皆の前に配膳した。
「シュラインさん、さっき作ってたの・・」
みなもがそう言ったのをエマはシーっと人差し指で制した。
「いっただっきまーーーす!」
楓香の大きな声に続き、各々がその料理に手をつけた。
「美味しいです・・」と、零の感嘆の声。
だが、約2名顔色を変えているものがいた。
「どうしたんですか?空木崎さん、楓香さん?」
みなもが心配そうに覗き込むと・・
「かっらーーーーーーい!!」
「に・・にがっ・・げほっ」
のた打ち回る2人にエマはニコリと笑っていった。
「貴方達、料理の基本は味見よ?どうかしら、自分達の作った麻婆豆腐の味は?」
エマは草間の食べる分をこっそり自分が作った麻婆豆腐と取り替えておいたようだ。
これも愛のなせる業・・といったところであろうか。
『水ーーー!』
「ま、待っててくださいね!」
みなもはパタパタと台所に駆け込んでいく。
何が何だかよく分からないが、どうやら楓香と空木崎が麻婆豆腐の中に色々入れたのだろうと見当をつけた。
あぁ、新年早々何だか苦労している気がするのは本当に気のせいなのだろうか?
みなもはこれからの1年にほんの少し、不安を覚えたのであった・・・。

今年の草間興信所もきっとこんな感じの一年なのだろう。
ただ1人、草間武彦だけは自分の食いたい物を食えて幸せの絶頂だったようだが・・・。

本年もなにとぞ草間興信所をお見捨てありませんように・・・。

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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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【整理番号 / PC名 / 性別 / 年齢 / 職業】

0086 / シュライン・エマ / 女 / 26 / 翻訳家&幽霊作家+草間興信所事務員

2029 / 空木崎・辰一 / 男 / 28 / 神職/門屋心理相談所事務員

1252 / 海原・みなも / 女 / 13 / 中学生

2152 / 丈峯・楓香 / 女 / 15 / 高校生

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■         ライター通信          ■
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海原みなも様

この度は『喉に小骨が刺さるが如く』へのご参加ありがとうございます。
今回は予告通りにクッキング系コメディ族として運ばせていただきました。
石焼ビビンバは韓国料理ということで他の方々の意見を採用させていただきましたが、石焼ビビンバ・・美味しそうですね。
あと、プレイングのほうで見事なオムライスの作り方を書いていただき非常に食べたくなりました。(笑)
家庭料理とはいえオムライスは難しい料理ですので感心しました。
みなも様は家庭的なお嬢さんでよいお嫁さんになれそうですね。
それでは本年もよろしくお願いいたします。
とーいでした。