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<東京怪談ウェブゲーム あやかし荘>


お正月だよ!あやかし荘

:謹:

琴と尺八の音が流れ、”春の海”を奏ではじめる。
あやかし荘の比較的広い和室にて、住人やその他この荘に縁のある者たちが集っていた。
いや、中には住人でも縁があるわけでも無いが、たまたま通りかかって声をかけられた者もいるが。
まあとりあえず皆揃っての、お年始の挨拶というやつである。
「本年も、宜しくお願いします」
振袖に身を包んだ管理人の因幡・恵(いなばめぐみ)がにっこり微笑んで頭を下げた。
「あ、はい…こちらこそ…」
年が明けても相変わらずの三下・忠雄(みのしたただお))は、戸惑いつつ答えた。
「お年玉!お年玉は?!さんしたぁ!」
柚葉(ゆずは)が三下に乗りかかりながら笑顔で言う。
「そんな…無理ですよ…お年玉だなんて…」
「アカンアカン!そんなサンシタにお年玉や無理な話や!そんな事より三千万のおせち食べようやないの」
天王寺・綾(てんのうじあや)の言葉に、三下はがくっと肩を落とした。
「おんしの今年の目標は格上げぢゃな…」
くくっと笑みを浮かべて嬉璃(きり)が言う。
トドメをさすかのように、歌姫(うたひめ)の歌う「明日があるさ」が聞こえてきたのだった。
歌詞と現実の差に、とほほ…な気分になる三下だった。
「ま、まあ皆さん。無事に新年を迎えられたことですし…
去年を振り返ると同時に…今年の抱負をお聞かせ下さいませんか?」
因幡が苦笑いを浮かべながら、住人や来客に問い掛ける。
聞かれた者たちは皆…顔を見合わせて…そして順番に口を開いたのだった。


:賀:

「ちょっと待ちいな」
「はい?」
順番に口を…開こうとした時、天王寺綾が不意にそれを止める。
そして何か用事でもあるのか部屋を出て行く。全員が顔を見合わせて何事かと思っているうちに…綾はすぐに戻ってきた。
「どうせやったら先に正月らしい百人斬首でもやろうやないの」
ふふっと笑みを浮かべながら、日本刀を振り翳す綾。
「ひゃ、百人斬首ですかぁ?!」
偶然か故意かその切っ先が鼻先をかすめ、三下忠雄は思わず後退った。
「せや。百人斬首や」
「物騒な呼び名ぢゃが…」
「百人一首とは違うものなんですか?」
「あないなつまらん遊びと一緒にされとうないなあ…」
綾は自分が元々座っていた金色のボキャ天座布団に座りなおすと、着物の袖を捲り上げた。
「説明するで…この呪われた妖刀を中心に、全員で円を作るんや…並び方は自由でええ。
並び終わったら、司会進行役がこの日本刀を真ん中で回転させるわけや!」
「あ!わかりました!刀の先が向いた人が何かするんですね!」
因幡恵の言葉に、綾は頷いた。
「ええか?この刀の先が向いたら、去年を振り返って今年の抱負を言うんや」
「なんぢゃ…ただの”るーれっと”ではないか」
「タダのルーレットちゃうで?」
「どんなのどんなの?」
嬉璃が残念そうに呟くと、綾が意味ありげに笑みを浮かべる。
柚葉が興味津々といった風に身を乗り出すと、綾は満足そうに人差し指をおっ立て。
「しょーもない話やったら、刀が勝手に飛んでって刺すんよ。その昔、偉い武将が手下に宴会の席で話をさせて、
面白くなかった者の首を斬っていったといういわれがある刀や…」
「ええっ?!」
「ほう…それは面白い」
「そんなっ?!」
「すごー!ドキドキー!」
「それどころじゃ…!!」
三下忠雄の言葉もどこ吹く風、嬉璃に柚葉に来客の一部が楽しげにざわめいた。
「そんな…新年早々、刀に刺されるなんて…」
「嫌ぢゃったら面白い話をする事ぢゃ」
うなだれる三下に、嬉璃が目を細めながら楽しそうに声をかけたのだった。

:新:

「次!!あんたや!」
「おや…あたしかい?」
天王寺綾の妖刀が四番手に選んだのは、梅津・富士子(うめつふじこ)。
自分に切っ先が向けられても、彼女はただ静かに微笑んだのだった。
「あたしゃお年玉みたいなものはあげられないが…よかったらこれを貰っておくれ」
富士子はそう言って、手製の巾着袋から何かを取り出して見せた。
手の上を覗き込むように皆が視線を集中させる。そこには、色とりどりの丸い飴玉が乗っていた。
「あめ玉だ〜!」
「美味そ!」
柚葉と鈴森・鎮(すずもりしず)が身を乗り出して手を伸ばす。
富士子はにこやかに二人に飴玉を差し出すと、懐紙を取り出してその上に飴を転がした。
「さあ、皆さんお好きに貰っとくれ」
「すいません。じゃあいただきます」
「これ、市販の飴じゃないですね…もしかして富士子さんの手作り?」
頭を下げて、雪ノ下・正風(ゆきのしたまさかぜ)が手を伸ばす。
同じように手を伸ばしながら、相澤・蓮(あいざわれん)は富士子に問い掛けた。
それに、微笑み頷き答える富士子。
正風も蓮も、へえ…と感嘆の溜め息を漏らしながら飴を頬張った。
口にした者はみな、それぞれ「美味い」を連発している。
それを満足そうに見つめながら富士子は座布団に座りなおした。
「あたしで話を止めてちゃ後の人に悪いからね…話を進めさせてもらうね…
去年を振り返ってと今年の抱負だったかい?そうだねえ…」
富士子はそう呟くと懐から一枚の写真を取り出して。
「うちのたった一人の身内である孫娘なんだけどね…
今年はこの子に妖力の使い方を教えてやろうと思っているんだよ…去年、ちょいと危険な目あったものだからねえ…」
孫を心から心配する表情で、富士子は呟いた。写真を見つめながら、少しの間物思いに耽って。
「ここにいる人達だから知ってるかもしれないが、あたしゃ猫の変化でね…
自分で言うのも何だが、それなりに結構な妖力を持ってる…孫もその力を受け継いでいるんだよ…」
「へえ…」
「おんしもそれは何かと心配ぢゃろうな」
お茶をすすりながら聞いていた嬉璃が言う。富士子は目を細めて微笑むと、静かに頷いた。
「これからも何かと厄介ごとに出くわすかもしれない…
あたしが常に助けてやる事は出来ないからね…少しでもあの子自身で身を守れるようにはしてやりたいんだよ…」
写真を何度も愛しげに撫でると、富士子は懐にそれを仕舞った。そして、話は終わったよ、と頭を下げる。
「ええ話やったから判定するまでも無い気がするけど…判定や!」
「これで刀が動いたら詐欺だぜ、詐欺」
「そこ!やかましいで!」
思わず呟いた相澤。蓮に、天王寺綾がツッコミを入れた。
そうしているうちに…刀は微動だにせずに、判定は終了していた。
全員がほっと胸を撫で下ろす。
当の本人である富士子は、特に表情も変えずににこにこと微笑むと、静かに頭を下げて一歩下がった。
「さっ!どんどん張り切って行くで〜!」
天王寺綾は腕を捲り上げると、再び百人斬首ルーレットに手をかけた。
そしてぐるっと回転させる。
皆がドキドキと見守る中…ルーレットは因幡恵に向いて止まったのだった。


:年:

ルーレットが最後の話し手を決める。
それまで何人も、とりあえずは何事も無く無事に話を終えてきたのであったが…。
「こうなる予感はしてたんですけどね…」
三下忠雄は薄っすらと涙を浮かべながら自分に向いている刀の切っ先を見つめた。
「三下さん、大丈夫ですよ!普通に話せばいいだけですから」
雪ノ下・正風(ゆきのしたまさかぜ)が、拳を握って応援する。
去年を振り返って新年の抱負を語るだけの簡単なことなのであるが…
「なんかさ、三下さんってオチって感じするんだもんな」
鈴森・鎮(すずもりしず)が、悪気はまったく無いのだがさりげなく的をついた痛い事を言う。
「世の中にはねぇ…そういう役回りの人間という者がどういうわけか存在するんだよ…」
お茶を飲みながら、梅津・富士子(うめつふじこ)は諭すように三下に声をかけたのだった。
「三下さん、それじゃあ話を」
「はい…」
半ばしぶしぶといった感じで、三下は話しをはじめたのだったが…。
「おい、刀…動いてないか?」
なにげに刀の様子を見ていた相澤・蓮(あいざわれん)が静止していたはずの刀が小刻みに振動している事に気付く。
小声で周囲の者に声をかけたまでは良かったのだが…
「危ない!!」
三下が話し終わらないうちに、刀は素早い動きで三下めがけてすっ飛んだのだった。
驚いて後ろにひっくり返りそのまま気絶する三下。
目標が意識を失ったせいか、刀はぐるんぐるんと空中を回転して…ピタリと他の人物に狙いを定める。
「え?」
その方向にいた人物、鈴森・鎮と雪ノ下・正風は顔を見合わせて同時にその場から全力疾走したのだった。
後を追いかける刀。しかし途中で今度は相澤・蓮と梅津・富士子に標的を変える。
「危ねぇ!」
相澤・蓮は梅津・富士子を抱えるようにして咄嗟にその場から逃げる。
「危ないですからもう止めてください!」
因幡恵が慌てて天王寺綾に叫ぶ。しかし綾は面白そうに様子を見つめているだけだった。
「止めてください!」
「なんやて?」
「ですから!他のお客様にも危険だから止めて…」
必死で声を荒げる因幡恵だったが、天王寺綾は少し視線を泳がせて。
「あ〜…そういえば止め方聞いてなかったっけ」
『ええッ?!』
しれっとした顔で言った言葉に、全員がそろって彼女に注目した事は言うまでも無い。
「騒々しいがたまにはこんな正月も有りぢゃな…」
「みんながいるから楽しいしね〜」
「♪こんな私達ですが本年も宜しくお願いいたします〜」
ドタバタと騒々しく走り回る中、歌姫が綺麗な歌声で新年の挨拶をして…その場を〆たのだった。



:終わり:


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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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【0391/雪ノ下・正風(ゆきのした・まさかぜ)/男性/22歳/オカルト作家】
【2295/相澤・蓮(あいざわ・れん)/男性/29歳/しがないサラリーマン】
【2320/鈴森・鎮(すずもり・しず)/男性/497歳/鎌鼬参番手】
【2477/梅津・富士子(うめつ・ふじこ)/女性/700歳/仕立屋】

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■         ライター通信          ■
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あけましておめでとうございます。本年も宜しくお願いいたします。<(_ _)>
この度はあやかし荘のお正月に参加していただきありがとうございました。
新年の抱負を語るだけのエピソードの予定でしたが、
それでは参加していただいた方にあまりにも悪いのではないかと思いまして妖刀のエピソードを追加いたしました。
ですので”ほのぼの”というよりかは、”ドタバタ”になっております。
:新:の部分は、それぞれ皆さん個別になっておりますので、
他の皆さんの抱負等をご覧になってみるのもいかがでしょうか?

新年最初のあやかし荘のお話はいかがでしたでしょうか?
またいつかどこかで皆様にお会いできるのを楽しみにしております。


:::::安曇あずみ:::::

>梅津・富士子様
はじめまして。この度はご参加ありがとうございました。
お孫さんとの関係とかもう少ししっかりと描写したかったのですが、
話の性質上できなかったのが少し心残りですが、楽しく執筆させていただきました。
特にお孫さんのと梅津様の名前のセンスが凄く素敵です。
またどこかでお会い出来るのを楽しみにしております。


※今回は登場人物名をほぼフルネームで執筆いたしました。
※執筆上他のライターの方が過去に書いた関係に準じていない場合もありますがご了承下さい。
※公式NPCとの関係・話し方に関しても、他のライターの作品に準じていない場合もありますがご了承下さい。
※誤字脱字の無いよう細心の注意をしておりますが、もしありましたら申し訳ありません。
※ご意見・ご感想等お待ちしております。<(_ _)>