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<東京怪談ノベル(シングル)>


Death in the Hell

廻魂界・魂を狩る死神が集まる場所。
空中に神殿、謎の門が多数存在し、死神が狩ってきた魂を大きな神殿に連れて行く。下は灰色がかった雲で何も見えない。空は、対照的に夕焼けのように明るい。
死神は人の魂を狩ることを生業とするが、死神全員に悪意があるわけではない。世界のサイクルを維持する役割を担っている。決まった魂しか狩ることはないのだ。
人は死神に魂を狩られると此処に一度はたどり着き、魂を裁かれるのだ。そうした空間の1つが此処あると言っても良いだろう。
御柳紅麗は、過去様々な戦いに於いて自分の霊威では、ライバル視している高校生の剣客や、その敵と渡り合えないことを思い知らされる。
師の許可を受け、彼は廻魂界の三大修羅行の一つ、地獄の鬼と戦う事を決意した。
在任の魂が永遠に続く苦を受ける場所。鬼はその代行者。
「本当にいいのか?お主の霊威では、死ぬかもしれぬ」
師が問う。
「覚悟は出来ています」
その言葉だけで、師は何も言わなかった。
地獄に通じる門が、目の前に見える。
「あとは、ココの担当に聞くがよい」
と師は言ってその場を去る。
紅麗1人。門を開けた。
鉄製の扉にしては軽く押しただけで、開く。この世界は、魂と心のみで構築されている。
重いと思うとこの鋼鉄の扉は重く感じるのだ。
紅麗はそのことを考えていなかった。
「強くなる」
それだけである。
多生雑念は入っているだろうが(特に恋人のこと)、それは男の子と言うことでかわいげがあって良い。しかし、その雑念も捨てる。
「紅麗、来たか」
監視役であり審判の死神が待っていた。
「まず、この修行は生死をかけた戦いだ。魂の訓練である。死ぬ危険は大いにある。下界の時間で言うなれば、24時間耐久で地獄の鬼数体を無に帰すことだ。我々死神も、鬼に殺された場合、無になることを肝に銘じておけ」
「分かりました」
紅麗は決意の目を審判の死神に向けた。
「では始める」
と、死神は言ったとたん。紅麗は闇に落とされる。
その先が地獄の闘技場だった。


闘技場には数え切れない鬼達
「こいつかぁ無謀なガキは」
罪人を苦しめるもの鬼のために口が悪い。
「これでも副隊長と言うらしいがほんとかよ」
「嘘だから堕ちたかもな」
下品な笑い声。
紅麗は、鬼の挑発を何とか耐えている。しかし相手の霊威を感じ取ると自分より強いことがはっきりと分かった。
「おしゃべりは其処までか?こっちは急いでいるんだ。お前達を無に帰す」
「言ってくれるじゃねぇか。このガキ!」
修行開始の銅鑼が鳴る。

襲ってくる鬼たち。
既に死神の真の姿になっている紅麗は『氷魔閻』を抜刀し立ち向かう。
鬼の棍棒を避けて、的確に鬼を斬る。しかし致命傷にはならない。数が数だけあり、鬼の攻撃を受ける事が多かった。
「強くなりたい」
その思いが紅麗を突き動かす。
鉄の棍棒、斧、大鎌が紅麗の魂そのものに傷を負わせる。しかし、霊力で其れを癒し、立ち向かっていく。徐々に鬼達を無に返していった。
修行から12時間…未だに戦いは続く。
「数を数えることも出来ないな…」
幾ら倒しても鬼は襲ってくるのだ。もうどれだけ倒したか分からない。まだ半日でボロボロだ。もう持つのか?俺は此処で死ぬのかと考えてしまう。
―魂の訓練である。
ふっと審判の言葉を思い出した。
その隙をうみ、鬼に強烈な一撃を食らった紅麗。
「痛!」
しかし、傷はたいしたことがなかった。
―悟った!
紅麗は、刀をおろし、目を閉じ精神統一する。
霊威は上がったが力任せでは何もならない。心が弱くなるのは霊力も下がるのだ。
彼が目を開いたとき、今まで負った傷は一瞬に癒され、元の姿に戻った。
鬼達は、感心して口笛を吹く
「良くやるなガキ」
「もっとも…やっと半日で悟るのは未だ甘そうだが」
「なら、続けようぜ。鬼共」
紅麗は、未だ仮面を取らず刀を構えた。
鬼の攻撃を自然の流れで捌き、確実に鬼を倒していく。
霊力が続く限り、戦い抜く紅麗。
そして、精も根も使い果たし、刀も刃こぼれし其れを杖にして既に立っているのはやっとだった。
「まだ、まだ戦える…」
そう呟く紅麗。
しかし、その周りに鬼は居なかった。闘技場に居る全ての鬼を倒したのだ。
その認識も出来ぬままに彼は深い眠りにつく。丁度、修行終了の銅鑼が鳴った時に…。


紅麗は気が付けば、副官棟の医務室で眠っていた。
怪我はないが、霊力、精神的なダメージが強いため体がだるい。し心が疲れている。
鬱状態に近い。
看病しているのが、これは又、筋骨隆々な男の死神なので、つい、
「出来ればアイツに看病して貰いたいな」
とぼやいてしまう。恋人に看病して貰いたくなったのだ。
其れを聞いた看護死神は。
「あなたが色ボケ死神で有名な御柳紅麗副隊長ですか」
「誰が色ボケかっ!…って…大体何処でその変な…!いつつ」
外傷は既に無くなっても、やはり怪我をした以上痛いモノはいたい。
「もう下界からの情報で有名ですよ」
と、ニコリと笑って看護人は去っていく。
「はぁ…居心地悪いなぁ…」
紅麗はため息をついた。やっぱりあの天然剣客は許せない。
早く怪我を治し、下界に戻りたかった。
恋人が待っている所。
ライバルが居るところ。
そして、倒すべき敵がいる所に。

End