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<東京怪談ウェブゲーム 界鏡現象〜異界〜>


幻想の国から〜異界編

●ことの始まり

 最近、どうもおかしなことになっている。
 結城はそんなことを考えつつも、のんびりと外を眺めた。
 見える風景はいつもとなんら変わりなく、道を歩く買い物帰りのおばちゃんや学校帰りの少年少女。
 平和でのどかないつも通りの光景だ。
 そのどこがいつもと違うのかと言えば・・・。
 くりっと結城はその視線を店の中に移動した。
「なんで外に出ちゃダメなの?」
 背の中ほどまで伸びた金髪に青い瞳、青い服とエプロンドレス。拗ねた口調で頬を膨らませている様子も可愛い少女。
 おそらく誰でも知っているだろう、有名人だ。
(ホンット、どうなってるんだろうな・・・)
 結城ももとは本であり、現在の姿は本の登場人物の姿だ。だからまあ、絶対にあり得ないこととは言わない。
 だが。
 いくらなんでも頻繁すぎる。
 なにがどうなってるんだかここ最近、本の中の存在がちょくちょく現実に現れていた。
 結城はあまり外に出ないから他のところでどうなっているのかは知らないが、少なくともこの芳野書房ではほぼ毎日何かしら現実ではない者が姿を見せている。
 その代わりと言おうか、何故か結城が本体から離れて活動できる時間も長くなっていた。
 つまり。
 なぜだか現実と本の世界の境界線があいまいになってきているようなのだ。
「だって、目立つ――あれ?」
 ようやっと思考の海から帰ってきた結城が、彼女の問いに答えようとした時。
 すでに彼女はその場から姿を消していた。

 ――それから数日後。
 ゴーストネット内でとある噂が流れ始めた。
 街中に、服を着たウサギが出没していると言う……。


●ゴーストネットの目撃談

「なにこれ、服を着た兔……?」
 最初その書き込みを見た時には、いったい何事かと思った。
 ゴーストネット掲示板の一角が街中に出没する『服を着た兔』の話題でいっぱいになっていたのだ。
 まあ世の中不思議なことというのは山ほどあるわけだし……。それ以前に、ペットに服を着せることが流行っている昨今では、服を着た兔の一羽や二羽、そう驚くほどのものでは――……あるかもしれない。
 続く書き込みを見て、シュラインは今や草間興信所の常連となっている人外の少年――本のつくも神、結城の名を思い出していた。
 二本の後ろ足で器用に走り、手には兔のサイズから考えればちょっと大きめの懐中時計。着ている服は燕尾服。
「まるで不思議の国のアリスね」
「どうしたんですか?」
 パソコンのモニタを見て苦笑しているシュラインの後ろから覗きこむようにして、零がパソコン画面に目を向けた。
「結城くんのところでまた何かあったみたいなのよ」
「あら、大変」
 書き込みだけではあまり実感がわかないのか、たいして大変そうでもない口調で零が呟く。
「それで、シュラインさんはどうするんですか?」
「見つけちゃったら気になるし、様子を見に行ってみるつもりよ」
「あ、それなら……」
 パタパタと台所に戻っていった零が、何かを持って戻ってきた。
「これ、お裾分けに持って行ってもらえませんか?」
 零が持って来たのはここを訪れる客たちが置いて行くお土産の数々である――今回は茶葉が多い模様。
「そうねえ、アリスにお茶会はつきものだし。どうせだからスコーンも焼いていきましょうか」
 ニッコリ笑ったシュラインに、零は楽しそうに頷いた。


●芳野書房

 芳野書房はいつもと同じようにシャッターを開けていて、ぱっと見には事件など起こっていないように感じられる。
 だが。
 現在芳野書房は三人の客を迎えていた。
 シュライン・エマ、海原みあお、榊船亜真知――全員、ゴーストネットで流れた『服を着た兔』の噂を聞いてやってきた者である。
「じゃあ、やっぱりあれって不思議の国のアリスのうさぎさんなの?」
 リュックを背負って準備万端のみあおの言葉に、結城はこくりと頷いた。
「……放っておいて構わないのですか?」
 亜真知が芳野書房にやって来た時、結城はいつも通りに店を開けていたのだ。
「んー。まあ、そのうち戻ってくるんじゃないかなあ。うさぎは」
「まあ、白兔には仕事があるでしょうし」
 不思議の国のアリスの白兔は女王の元で仕事をしている。物語の中でもうさぎは仕事に間に合うべく時計を気にして急いでいたのだから。
「でもさ、アリスの方は?」
 結城に詳しく話を聞いたところ、白兔の他にアリスも現実にあらわれているらしい。
「アリスって確か好奇心旺盛な方ですよね。こちらから迎えに行かないと帰ってこないんじゃないでしょうか」
 亜真知の言葉に、結城はがっくりと肩を落として、大きな溜息をついた。
「やっぱそう思う?」
 全員一致で頷かれて、結城はますます肩を落とす。
「彼女の気を引くようなことをしてみるのはどうかしら」
 言って、シュラインは持ってきていた茶葉とお菓子の入った袋を見せた。
「あら、シュライン様も持ってきていたんですね」
 ニッコリ笑って亜真知も紅茶とスコーンとクッキーの入った箱を見せる。
「みあおも持ってきてるよっ」
 リュックから出てきたのはお菓子とジュースだ。
「じゃあ、兔とアリスとお茶の準備とで手分けするかあ」
 疲れたように笑って、結城は店の奥を指差した。


●お茶会をしよう

「さて、と」
 ウサギ探しに出掛けた結城とみあお。アリスを探しに出掛けた亜真知を見送って。
 シュラインはよいしょと腕をまくった。
「すみません、勝手にいろいろ進めてしまって」
 奥で事の成り行きを聞いていたらしい店主――芳野誠一に告げると、誠一はまったく気に留めていないようで、楽しげな笑みを返してきた。
「いやいや。構いませんよ。私も楽しんでいるんですから。よかったらお手伝いしましょうか?」
 誠一の申し出はありがたかったが、あまり身体の丈夫でない老人に動いてもらうのは少し心苦しくもあった。
「いえ。私一人で大丈夫です。あ……椅子と机、借りて良いですか?」
 今更だが、すっかり聞くのを忘れていた。
 店の片隅――レジの隣にある読書スペースの椅子と机を指して問うと、誠一は快く承知してくれた。
「奥にテーブルクロスや茶器があるから、それも使ってください」
 言いながら、誠一がよいしょと立ち上がる。
「すみません」
 持参の各国茶葉と亜真知が置いて行ってくれた亜真知推薦の紅茶と。それからやっぱり持参のスコーン、マフィン、クッキー。亜真知が持って来たスコーンとクッキー。
 これだけあれば白兔とアリスが増えてもお菓子が足りなくなることはないだろう。
 テーブルと椅子を店の裏庭に持ち出して――せっかくだから青空の下でのお茶会も楽しいと思うし。
 誠一が用意してくれたテーブルクロスを引き、お菓子を皿に移して、いつでもお茶を入れられるよう準備して。
「さて、あとは皆の帰りを待つばかり、ね」
 そうして待つこと一時間ほど。
 店先から、亜真知の声と、知らない少女の声が聞こえてきた。


●アフタヌーンティーをご一緒に

「白兔は?」
 開口一番、アリスの言葉はそれだった。
「ごめんなさいね、まだ戻ってきてないの」
 白兔が先に戻ってきていてくれれば、もうちょっと説得もしやすかったのだが。
 とにかく今はアリスをここに留めるのが先決だろう。
「ええ〜?」
「まあ、ウサギはここに戻ってくるはずですから、それまでゆっくりお茶でもして待ちましょう」
 亜真知がにっこりと笑い掛けると、目の前のお菓子とお茶の誘惑には勝てなかったらしい。
「うんっ」
 アリスは思いっきり頷いて、ひょいと椅子に腰掛けた。
「さ、熱いうちにどうぞ」
 シュラインがお茶を入れると、アリスはにっこりと笑って頷いた。
「どうもありがとう」
 そうして二人も椅子に腰掛け、アリスと一緒にお茶会を楽しむ。
 が。
 兔とみあおと結城はなかなか戻ってこない。
「おっそーいっ。ねえ、本当に来るの?」
「うーん。そのはずなんだけど…」
 と、その時だ。
 店のほうが俄かに騒がしくなった。
「あら、結城さんたち帰って来たのかしら」
「ただいまーっ」
 勝手口から、みあおが元気に顔を出した。
「兔は?」
 出てきたのはみあお、結城の他に知らない少女が二人。
「ああ、兔追っかけたら本の世界のほうに行っちゃってさ。兔はもう帰ってるよ」
「ええっ!?」
 がたんっとアリスがその場に立ちあがった。
「ひっどーいっ、私を置いてくなんて」
 言うが早いか店の中へと駆け出したアリスは、本棚の前で唐突にその姿を消した。
「……帰ったみたいね」
 突然の展開に、シュラインが苦笑する。
「あーっ、アリスとも記念撮影しようと思ってたのにっ!」
 残念そうに言うみあお。
「さて、お茶とお菓子はまだ残ってるけど……皆でお茶会の続きをしましょうか」
 芳野書房の裏庭に集った一行は、そのまま日暮れまでのお茶会を始ることにした。

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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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整理番号|PC名|性別|年齢|職業

0086|シュライン・エマ|女| 26|翻訳家&幽霊作家+草間興信所事務員
1593|榊船亜真知   |女|999|超高位次元知的生命体・・・神さま!?
2182|倉前沙樹    |女| 17|高校生
2190|倉前高嶺    |女| 17|高校生
1415|海原みあお   |女| 6|小学生

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■         ライター通信          ■
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 こんにちわ、日向 葵です。
 このたびは依頼にご参加頂きありがとうございました。

 今回はプレイングでアリス組とうさぎ組に別れております。
 お時間ありましたら、もう一方のグループの方も読んでみてくださいませ♪

 それでは、今回はこの辺で。
 またお会いできる機会がありましたら、よろしくお願いします。