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<東京怪談ウェブゲーム ゴーストネットOFF>


50年目の再会

オープニング

 ある日の書き込み。
 日々様々な情報が流れては消えて行く巨大な掲示板だ。冗談や冷やかし、怪談や超常現象の書き込みも珍しくはなく、この書き込みも、もしかすると人の気に留まる事なく消えていたかも知れない。
 しかし、不思議と管理人である瀬名雫の目に留まった。


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尋ね人  投稿者:フジミ

人魚を捜しています。

長い金髪に青い目、やや尖った耳に真珠の耳飾り。
左の肩口に3cm程度の傷、鱗はシルバーピンク。
人間で言うと、10代後半〜20代前半の容姿。
最後に会ったのは50年前。

どうしても伝えたい事があり、捜しています。
どなたか御存知の方、情報を提供して下さる方、是非お知らせ下さい。
一緒に捜してくださる方もお待ちしています。
宜しくお願い致します。

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「人魚に伝えたいコト……?何だろ」
 呟いて、雫は書き込まれた内容を読み返す。
「うーん……、最後に会ったのは50年前……ってコトは、この投稿者は50歳以上ってコトだよね」
 冗談なのか、本気なのか判別はつかないが、人魚がいると言うのならば是非会ってみたいものだ、と雫は思う。
「でもなぁ……、今はちょっと無理かなぁ……」
 最近少々多忙な雫。
「誰か、一緒に捜してあげてくれないかな」
 自分の代わりに協力して、後で話しを聞かせてくれる人がいないか……そんな、都合の良い事を考えつつ、雫は次の書き込みに目を移した。

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 雨の休日。
 ファミリーレストランは混雑していた。
 人魚を捜していると言うフジミが指定したのは、賑やかなレストラン内の一番奥。ガラス張りになった予約席だ。
 大きなテーブルを囲むのは観巫和あげは、真名神慶悟、セレスティ・カーニンガム、佐和トオル、海原みなも、巽千霞、御崎月斗、夕乃瀬慧那と書き込みの張本人であるフジミの9人。
 簡単な自己紹介を終え、それぞれ注文した飲み物が揃った処でフジミが口を開いた。
「まさか興味を持って下さる人がいるとは思いませんでした。それもこんなに沢山」
「あんた、俺のHPにも書き込んだだろ?切羽詰まってんのかと思ってさ。雫に頼まれたってのもあるんだけどさ」
クリームソーダのアイスを口に運びながら、月斗。
「切羽詰まっていると言いますか、沢山の人に見て頂きたいと思いあちこちに書き込みしました。あなたのHPとは全く関係のない内容で申し訳ないと思っています」
 頭を下げるフジミに、月斗は気にするなと手を振る。
「人魚をお捜しと言う事で、私も興味を持ちました。50年を経て、伝えたい事があるとは相当心残りなのでしょう。協力できれば……」
 丁度、フジミの正面に座ったセレスティが言うと、一同が頷いてみせる。
「人魚の肉が目的でない限りお手伝いしてみたいと思います」
 みなもが言うと、慶悟が「いや、」とフジミを見た。
「人魚の肉は必要ないんじゃないのか?」
 今、目の前に座っているフジミと言う男は、やや落ち着きすぎているような印象を受けるがどう見ても20代前半だ。
「お兄さんは、まさか食べたなんて言うんじゃないよね……?」
 思わず慧那はフジミを見る。
 『フジミ』と言う名前が本名か偽名かは分からないものの、人魚を捜していると言う内容から『不死身』と掛けているのではないか、とは今ここにいる全員が一度は考えた事だ。
「人魚の肩口の傷ってのが気になるね。傷つけたことを謝りたいのか、怪我でもして死に掛けたところを自分の血を使って助けてくれたことに礼を言いたいのか、はたまた不死身の体になったことに不服なのか……」
「不老不死になって文句の一つでも言いたいんなら止めとけよ。妖しの者を口にすれば、細胞からなにから変化しちまうんだぜ。人にはもう戻れないさ。あんたの事情も理解できるけど、どうしようもないさ。長い人生、いっそのことこの世の果てまで生きるのも悪くないんじゃねぇ?」
 トオルと月斗の言葉に、フジミは苦笑して首を振る。
「恨み言等ではありません。話せば長くなりますし、信じて頂けるかどうか分からないのですが」
「是非お話して下さい。私達、フジミさんに協力したいと思って集まったんですもの」
 にこりと笑うあげは。
「お話を聞いてみなくては協力して良いものかどうかも分かりませんし」
 千霞にも促されて、フジミは話し始めた。
 それは今から60年前。フジミが20歳になったばかりの頃。
「その頃の私の趣味は釣りでした」
 と、フジミは言った。
 ある日、友人に小舟を借りて1人で沖へ出た。
 空は少し曇っていたが風は温かく、波は心地よく小舟を揺らした。魚の釣れない退屈さと波の心地よさについウトウトして……、雨粒に気付いた時には随分流された後だった。
 慌てて戻ろうとした処に落雷。途端に激しくなる風雨。
 しまった、と思った時にはもう、海へ投げ出されていた。
 泳げない訳ではないが水の冷たでパニックになってしまった。大きな波で小舟が流され……。
 こんな処で死んでしまうのか、と思った時。
 何かがすぐ横を擦り抜けた。
 人に見えた。金髪の女性。
 白い手が溺れ掛けた自分の体をさせる。
 何故こんな処に女性がと驚くよりも早く小舟へと導かれ、縋り付くように船上に戻り改めて女性を見る。
 これまで見た事もない美しい女性だった。
 呆気に取られているフジミの目の前で、女性はその美しい顔に微笑を浮かべ、海の中へ戻っていった。
 呼び止めようと伸ばす手に跳ねる飛沫。
 目の前で、女性の体が大きく跳ねた。
 その姿は、妹が持っていた本に出てくる人魚姫そのものだった。
「一目惚れだったんです」
 コーヒーを一口飲んで、フジミは笑った。
 無事生きて戻ったフジミの頭から、どうにもあの美しい人魚は離れなかった。
 寝ても覚めても人魚の事ばかり。もう一目会いたいと願って、暇を見つけては舟を出した。
 どうか、どうかもう一度あの人魚に会わせて欲しい。
「人魚は再び現れました。あの日と同じ、美しい姿で」
 夢のように恋に落ちた、とフジミは照れたように言った。
 人魚は人間の言葉を話さなかった。そこで、フジミは毎日少しずつ言葉を教えた。
 来る日も来る日も人目を忍んで沖へ出て、人魚と過ごした。
 そしてある日。人魚はフジミの目の前で自らの肩を切り、一片の肉を与えた。
「それがどう言う事なのか、あなたは知っていたのですか?」
 セレスティの言葉に頷くフジミ。
「永遠に2人でいられるのならば構わないと思ったんです」
 ところが、それから10年の月日がフジミを変えてしまった。
 15だった妹が成人し、結婚をして、生まれた子供が5つになってもフジミの外見は20歳から変わらなかった。
 結婚もせず、やたら海へばかり足を向ける、年を取らないフジミを訝しがらない者はいなかった。
 たった10年で感じた、永遠と言う永い生への恐怖。
「私は、恐ろしさのあまり逃げてしまったんです」
「逃げてどうこうなる問題じゃないと思うが」
 灰皿を手元に引き寄せながら言う慶悟に、フジミは小さく頷く。
「それでも、私は全く年を取らない自分と人魚がどうしても恐ろしく……」
「で、以来ずっと会ってないって訳か?」
 月斗が言うと、再びフジミは頷く。
 勝手だと分かっている。
 それでも、離れて暮らしたこの50年、1日たりとも人魚を忘れる事は出来なかった。
 永遠の生に怯えつつ、それでも、今もなお人魚を想っている。それを伝えたい。
「随分勝手な言い分ですけれど……」
 と、千霞は両隣のあげはとみなもを見る。
「でも、お手伝いしたいと思います」
 あげはは笑った。
「ええ、あたしもお手伝いしたいです」
 みなもに続けて、慧那が口を開く。
「でもこって、フジミさんの為じゃなくて、人魚さんの為かな」
「愛する男に突然捨てられた人魚ってのが、可哀想だからね」
 トオルは笑ってフジミを見る。
「では、人魚についてもう少し詳しく教えて頂けますか?名前が分かれば探しやすいと思いますが?」
 フジミは気付いていないだろうが、セレスティの本性は人魚だ。そして、みなももまた人魚の末裔だ。
 フジミの探していると言う人魚の情報があればある程、探しやすいと思うのだが。
「それが、本当の名前は分からないんです。教えてくれたのですが、私にはどうにも発音の出来ない名前で、私は彼女をマリアと呼びました。彼女の方も、私の下の名前が発音出来なかったのでフジミ、と」
「金髪碧眼とは外人だな。八百比丘尼の伝承の日本人魚とはまた異なるか。まぁ言うなれば近海マグロと遠洋マグロの差位だろう……変わりはしない……と思う」
 煙草の煙を吐き出しつつ、慶悟。
「ま、マグロって、慶悟さん、それはちょっと」
 あまりの例えに思わず吹き出す慧那。
「10年も共に過ごした割に、私は彼女の事を殆ど知らないんです。彼女は本当に私を愛して自らの肉を与えてくれたのでしょう。それを思うと本当に申し訳ない」
 項垂れるフジミ。慌てて月斗がポン、と手を打った。
「ま、ここでグズグズ話してたってしょーがないんだしさ。調査に取り掛かろう」
「賛成。人魚を捜すなら、やっぱり海なのかな?」
 冬の海は寒そうだなぁ、と苦笑してトオルはコーヒーを飲み干した。
「そうだろうな。この天気だから沖へ出るのは無理としても、近くまでは行ってみたい」
 その後、図書館ででも近所で人魚に関する伝承がないか調べてみるのも手だと言う慶悟。
「あたしは一族のお姉様方に聞き込んでみますね。何か知っているかも知れませんし。海を見た後で連絡してみたいと思います」
「では、まずは海の方へ……」
 千霞の言葉を合図に全員が立ち上がった。
「実は人魚姫の様に足が生えて陸で暮らしている……とか、ないでしょうか?声を失っていたら可哀想だけれど……」
 支払いの為にレジへ向かうフジミに聞こえないように、あげはが言った。
「あり得るかも知れないけど、それはちょっと、やだな」
 応える慧那。
「どうして?」
 と問う千霞に、慧那は言った。
「だって、人魚姫ってハッピーエンドにならないでしょう?」
「そうですね。人と人魚だと価値観と時間観が違うことが多いそうですから……」
 でも、出来る限りハッピーエンドを目指しましょうと言ってみなもが笑う。
 外では雨が、少し激しくなっていた。


 雨の浜辺に人気はない。
 50年前、フジミが日毎に舟を出したと言う砂浜は寂れていた。
「手っ取り早くこの辺を中心に式神にでも調べさせるか」
 と言った月斗を、慶悟と慧那が止める。
「この天気だし、符の式神では海の中は塩梅が悪いだろう」
「紙っぺらだから溶けちゃう。飛ばせるけど、飛んでどしようっていうのよ、この雨。うーん……四神にお伺いでも…水に縁があるのは水を司る北の玄武と木を司る東の蒼龍……でも、声が聞こえればいいけど。たまにしか聞こえないから自信ない」
「じゃ、どーすんだよ。ここで海眺めてたってしょーがないだろ」
 ブツブツ呟く慧那に、月斗。
「……こうなったら舟で沖まで出て聞いてみるとか!何かこう、ピンチの時には絶対助けてくれそうだから!船酔いってピンチっぽいし。波が荒いから更にピンチっぽいし。……でも落ちたらヤだな」
「こらこら、そう言う危険な賭はしない。俺は落ちても助けないよ?寒いんだから」
 苦笑するトオル。
「じゃ、呼んでみよっか?人魚さんやーい、って……ヘン?」
「ヘンではありませんが、聞こえないかも知れませんね、近くにいなければ」
 やんわりと止めるセレスティ。
「十二神将を召喚して海中を洗わせよう。自分の意思で動く連中だから捜させ易い。大仰だから普段は遣わないんだが新年だしな。大盤振る舞いだ」
 十二神将ならば月斗も扱う事が出来るが、ここは年長者に任せておこうと口を出さない。
 慶悟が呼び出した十二神将にフジミから聞いた通りの人魚の特徴を話すのを聞きつつ、ふと月斗はあげはに目を向けた。
「あれ?何やってんの?」
「写真を撮っているんです」
 愛用のデジカメが雨に濡れないよう、自分よりもカメラを傘で覆いながらあげはは応える。
「過去視と未来視で何か目印になるものがないか写るまでやってみます」
 あげはに自分の傘を差しかけながら、千霞が口を開く。
「では、私はこちらであげはさんのお手伝いをしましょう。フジミさんにも一緒に居て頂きたいです。写真に何か写った時の為に」
「それじゃ、俺達は移動しようか。全員がここでうろうろしてたってしょうがないからね」
 と言うトオルに頷いて、慶悟は図書館へ行くと言った。十二神将が海を調査している間ずっと待っているもの寒い。
「では、私もご一緒させて頂きましょう」
 と言うのはセレスティ。この雨の砂浜は、ステッキでは少々歩きにくい。
「俺も図書館にするよ」
 月斗が言うと、トオルはネットカフェに行ってみると言う。
「図書館では分からない事が調べられるかも知れないからね」
「私もネットカフェにしよっと。こんな天気で、冬じゃなかったらもっと協力出来るんだけど……ごめんね」
 それならば、とみなももネットカフェに向かう事にした。一族の姉達への連絡は、そこから取れば良い。
 携帯番号を交換しあい、一同は3手に別れて調査を始める事にした。


 雨音が静かに響く図書館内で、慶悟とセレスティ、月斗は郷土資料を読みあさっていた。
 子供向けに簡単に書かれた昔話や、書庫から出して貰った伝承関係書籍、果ては人魚について書かれた書籍。
「読めば読むほど、人魚ってのは不思議な生き物なんだな」
 人魚本人を目の前にして言うのも何だが、と笑って慶悟が言う。
 思いの外、この地域と関連のある人魚の伝承は沢山あった。
「しかし、やはりこの辺りで見かけられるのは主に日本の人魚ですね。彼が愛したと言う金髪碧眼の人魚は珍しいと思いますよ」
「まぁ、その辺はだからさっきも言った通り近海マグロと遠洋マグロの差位として……」
「いや、あんたちょっとそのマグロの話しは忘れた方が良いんじゃないかな……」
「そう、マグロはあまりにも……。と、まぁマグロの話しは置きまして、人魚の伝承ですが……、本当に色々あるようですね」
 苦笑しつつ、セレスティが手元の本を差し出す。
 この地域に伝わる昔話を1冊に納めた古い本だが、その中に、人魚に助けられた漁師の話があった。
「人魚に助けられた漁師かぁ……、フジミは漁師じゃないけど、釣りしてたってんだからちょっと似てるよな」
 それは、こんな内容だった。
 ある日1人で漁に出た男が運悪く舟の上で足を滑らせて海に落ちてしまった。
 足が攣って思うように泳げないでいる処に、人魚がやって来て助けてくれる。
 美しい人魚で、男は一目で恋に落ちてしまった。
 結ばれた2人の間に生まれたのは人魚の子供。それも、男にも人魚にも似つかない鬼の様な赤い髪の人魚だった。
 人間と人魚と言う種族を越えた間に生まれた鬼のような子供。これはきっと海の神様の怒りに触れたに違いない。
 人魚は泣く泣く男と別れ、子供を連れて海に帰って行った。
「ん?鬼の様な赤い髪の人魚?」
 ページを捲って、慶悟が手を止める。
「赤い髪って……、もしかして、金髪の事じゃないのか?」
「ええ、そうかも知れません。もしかすると……、この生まれた子と言うのはフジミ氏の探している人魚の事かも知れませんよ。まさか、外国からこの辺りまで泳いで来るなどという事はないでしょうし……」
 セレスティの言葉に、慶悟と月斗が頷く。
「そうか、近海マグロと遠洋マグロの差じゃなくて、人間と人魚の間に生まれた鬼子か……」
「だったら、金髪碧眼の人魚がこの辺に居ても不思議じゃないし。他に、何かないかな、こんな赤い髪の人魚が現れたって話し」
「この話しの年代が分かれば良いんだが……」
 昔話を中心に書籍を調べてみようと言って、3人はそれぞれ手元の本に目を戻した。


 ネットカフェに行った3人から一旦合流しようと言う連絡が入ったのは昼前。
 最初と同じファミリーレストランに集まるとそれぞれの報告を始めた。
「これが、フジミさんの探しているマリアさんです。砂浜に近い岩場の方までフジミさんを探しに来ていたようです」
 と、あげはが念写したデジカメの画像を見せる。
「金髪碧眼、本当に人魚ですよ。ずっとずっと、フジミさんが帰ってくれるのを待っていたんです」
 千霞が寂しげに言うと、フジミも項垂れて深い溜息を付いた。
「図書館で面白いってか、関係ありそうな昔話を見つけたんだ」
「金髪碧眼の人魚が、この辺りにいるそうですよ。その昔、人間と人魚の間に生まれた鬼子だそうですが」
 セレスティと月斗が簡単に見つけだした昔話を話す。
「それが、あんたの探しているマリアと言う人魚じゃないかと思うんだが……、」
 日本で生まれ育った人魚が何故言葉が分からなかったのか、それは謎のままだと慶悟は言う。
「そちらはどうですか?何か分かりましたか?」
 セレスティに訪ねられて、みなもとトオル、慧那は顔を見合わせた。
「まぁ、分かったと言うか何と言うか」
「お話する前に、確認したい事があるんです」
 言葉を濁すトオルの隣で、みなもが真剣な面持ちでフジミを見た。
「今でも本当に、人魚さんを愛してるの?人魚さんが綺麗だからとかじゃなくて、本当に?」
 慧那に問われて、フジミは強く頷いた。
「一度捨てておいて、信じて欲しいと言っても無理かも知れません。でも本当に、愛しています。彼女が美しいからと言うだけの理由ではありません」
「人魚さんが、どんな姿になっていても愛していると言えますか?」
 みなもの質問にも、フジミは真剣に頷く。
「え、待てよ。そう言う質問するって事は、もしかして見つけたのか?」
 身を乗り出す月斗に、トオルはゆっくりと頷いてみせた。
「そう。それも、同じ掲示板で彼を捜してたんだ」
「同じ掲示板!」
 偶然に、フジミが驚きの声をあげる。
「フジミさんを探していた……、人魚さんの方も、まだフジミさんを愛していると言う事でしょうか?」
「え。掲示板で探していたと言う事は、人魚さんは今、陸に?」
 千霞とあげはが揃って口を開く。
「あんたが言ってたのが本当になってたと言う訳か……」
 慶悟があげはを見ると、みなもとトオル、慧那の3人が頷く。
「しかし、どうやって陸に?まさか、あの物語の人魚姫のように声と引き換えに?」
 セレスティの言葉に、フジミが一瞬顔色を変えた。
「あ、会いたい、会えませんか。連絡先が分かれば私が自分で連絡します!」
 慌てて立ち上がるフジミを、慶悟と月斗が押さえる。
 トオルとみなも、慧那は顔を合わせてから、少し離れた席に向かった合図を送った。
 一斉にそちらを見る一同。
 窓に近い席からゆっくりと立ち上がったのは、1人の老女だった。
「まさか……」
 千霞の口から小さな呟きが漏れた。
 白髪を一つに束ねた品の良い老女は、杖をつきながらフジミのすぐ側までやって来た。
「あ、あなたが……」
 少し曇った青い目に、涙が浮かんでいる。
 シワの寄った小さな唇に笑みを浮かべて、老女は真っ直ぐにフジミを見た。
「フジミさん。こちらが、探していたマリアさんです」
 みなもの声が静かに告げる。
 あげはの撮った写真とは、似ても似つかぬごく普通の外国の老女。
「声と引き換えに足を得て、人間になったの。それで、フジミさんの事ずっと探してたんだって」
「人間になって、永遠の命も失った」
 永遠の命を失い、人間になってからの年月を着実に老いながら過ごした元・人魚。
「マリア……」
 呟くようなフジミの声に、老女は頷いて見せる。
 突然消えてしまった恋人を、待って待って、待ちこがれて、待ちきれず、声と引き換えに人間の足を手に入れた人魚は、愛しい人の去った地上を彷徨った。
 彷徨ううちに、体に訪れた老い。
 美しかった体が、少しずつ老いて行く。
 その時初めて知った、人間の脆さと儚さ。
「愛したフジミさんに、自分の肉を与えた事を後悔したそうです。きっと、人間は老いない事をとても恐ろしく思っただろうと」
「許しては貰えないかも知れない。でも、せめて謝りたくて、ずっとずっと探していたんだって」
 言葉を失った老女の代わりにみなもと慧那が話しを進める。
 恥ずかしそうに、そして申し訳なさそうに頭を下げる老女に、フジミはゆっくりと抱きついた。
「こうしてもう一度会えた。この不老不死の体がなければ、二度と会う事は出来なかった。私は今でもあなたを愛しています」
 老いない事を恐れて、逃げ出してしまった事をフジミは詫びる。
 老女は頭を振って、そっとフジミの手を握った。
「行こう」
 トオルが小声で全員に告げる。
 2人きりにしようと。
「……これからどうするんだろうな、あの2人は」
 レストランを出てから呟く慶悟。
「きっと、2人で暮らすと思います」
 あげはが応える。
「うん。……残された日は少ないっぽいけどな」
 月斗が寂し気に言って、店内の2人を振り返った。
 若々しいフジミと、年老いた元・人魚。
「それでも私は、あの人魚が物語のように泡にならなくて良かったと思いますよ」
 セレスティが呟く。
 例え残された日々が、泡のように消えて行くとしても。

 

end


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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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【整理番号 / PC名 / 性別 / 年齢 / 職業】

2129 / 観巫和・あげは     / 女 / 19 / 甘味処【和】の店主
0389 / 真名神・慶悟      / 男 / 20 / 陰陽師
1883 / セレスティ・カーニンガム/ 男 / 725 / 財閥総帥・占い師・水霊使い
1781 / 佐和・トオル      / 男 / 28 / ホスト
1252 / 海原・みなも      / 女 / 13 / 中学生
2086 / 巽・千霞        / 女 / 21 / 大学生
0778 / 御崎・月斗       / 男 / 12 / 陰陽師
2521 / 夕乃瀬・慧那      / 女 / 15 / 女子高生/へっぽこ陰陽師

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■         ライター通信          ■
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歯痛が酷い佳楽です、こんにちは。
この度はご利用有り難う御座いました。
初めましての方もいらっしゃいますが、新年の御挨拶はもう控えておきます。
今年の目標は歯医者に行く事です。(←全然関係ないですね)
何だかとっても中途半端な長さになってしまったのですが……。
すみません。(嗚呼支離滅裂……)
またどこかでお目に掛かれたら幸せです……。