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<東京怪談ウェブゲーム 界鏡現象〜異界〜>


幻想の国から〜異界編

●ことの始まり

 最近、どうもおかしなことになっている。
 結城はそんなことを考えつつも、のんびりと外を眺めた。
 見える風景はいつもとなんら変わりなく、道を歩く買い物帰りのおばちゃんや学校帰りの少年少女。
 平和でのどかないつも通りの光景だ。
 そのどこがいつもと違うのかと言えば・・・。
 くりっと結城はその視線を店の中に移動した。
「なんで外に出ちゃダメなの?」
 背の中ほどまで伸びた金髪に青い瞳、青い服とエプロンドレス。拗ねた口調で頬を膨らませている様子も可愛い少女。
 おそらく誰でも知っているだろう、有名人だ。
(ホンット、どうなってるんだろうな・・・)
 結城ももとは本であり、現在の姿は本の登場人物の姿だ。だからまあ、絶対にあり得ないこととは言わない。
 だが。
 いくらなんでも頻繁すぎる。
 なにがどうなってるんだかここ最近、本の中の存在がちょくちょく現実に現れていた。
 結城はあまり外に出ないから他のところでどうなっているのかは知らないが、少なくともこの芳野書房ではほぼ毎日何かしら現実ではない者が姿を見せている。
 その代わりと言おうか、何故か結城が本体から離れて活動できる時間も長くなっていた。
 つまり。
 なぜだか現実と本の世界の境界線があいまいになってきているようなのだ。
「だって、目立つ――あれ?」
 ようやっと思考の海から帰ってきた結城が、彼女の問いに答えようとした時。
 すでに彼女はその場から姿を消していた。

 ――それから数日後。
 ゴーストネット内でとある噂が流れ始めた。
 街中に、服を着たウサギが出没していると言う……。


● 街中での遭遇

 ぴょこぴょこと後ろ足二本で器用に歩く、白兔。何故か燕尾服を着ているその兔は、しきりに懐中時計を気にしながら歩いていた。
 きょろきょろと視線を巡らせているところを見ると、何か探しているらしい。
 突然現われた妙な兔に、高嶺は目を丸くして、一瞬その場に固まった。
「わぁ、可愛い」
 隣を歩いていた沙樹があげた声にハッと我に返る。
「そうだな」
 頷いて沙樹の言葉に同意したその時。
 声に気付いてか、ひょいと兔が振り返った。
 バチリと目が合う。
「こんにちわ」
 沙樹が、にっこりと笑い掛けた。
 しばらく不思議そうにこちらを見つめていた兔であったが、にこにこと笑っている沙樹に悪い感情は抱かなかったらしい。
 ゆっくりと近づいてくる。
「なにか探しもの?」
 沙樹が声をかけたが、どうも兔の視線は落ちつかない。あっちを見てこっちを見て、二人の目の前までやって来たというのに視線が二人に固定されることはなかった。
 兔の白い毛並みはなんとも艶やかで、触り心地が良さそうだ。ちょっとくらいなら触っても大丈夫だろうか…?
 沙樹はまだじっと兔の答えを待っている。兔が、移動する様子はない。
 つい、高嶺は兔に手を伸ばした。
「高嶺?」
「あ、いや。触り心地良さそうだなあと思って」
 予想通りのすべすべの触り心地。兔もそう悪い気分ではないらしい。高嶺に撫でられて、兔は気持ち良さそうに目を細めている。 
「ウサギさんはどこから来たの?」
「あんた、何者なんだ?」
 ほとんど同時となった二人の問いに、兔は一つ方向を指差した。
「あっち?」
 こくりと頷いた兔は、歩き出す。
「私の質問には答えてくれないのか?」
 兔は、ぷるぷると首を振って、また同じ方向を指差した。
 どうやら沙樹の問いの答えも高嶺の問いの答えも、同じ場所にあるらしい。


●街中の白兔

 てくてくてくてく。
 兔が歩く。珍しい光景に、すれ違う人々が好奇の目を向ける。子供の中には、あのお人形欲しいなどと騒ぐ子もいるが。
 兔はそんな周囲の状況など待ったく気にせず、てくてくと歩きつづける。その兔に一歩遅れて歩く沙樹と高嶺。
「どこまで行くつもりなんだろ?」
「さあ? でもずいぶん遠くから来たのねえ」
 兔の歩く速度はゆっくりであることを考えると、実際の距離的にはそうでもないのだろうが、すでに歩き始めてから一時間以上が経過している。
「あの兔、なにやってるんだろう?」
 きょろきょろきょろ。
 兔の視線は落ちつかない。何を探しているのか、てくてくてくてく、周囲を気にしつつ歩くだけ。
「ねえ、ウサギさん?」
 くるんっと。
 兔は後ろを振り返った。まあるい赤い瞳が沙樹を見つめる。
「何を探してるの?」
「みち」
「なんだ、喋れるんじゃないか」
「道?」
「帰り道を探してるんだ。早く帰らないと女王に叱られる」
 それだけ言うと、兔はまたきょろきょろと視線を漂わせつつ歩き始めた。
「どこから来たのか教えてくれるんじゃなかったのか?」
 ふと思い出して、高嶺はそう聞いてみた。
 どこから来て、何者なのかと問い掛けたら兔は歩き出したのだ。
「うん、だから来た道を戻ってる」
「そうねえ。来た道を戻っていけば元いた場所に戻れるものね」
 足を止めないままに、兔はこくりと頷いた。
 そういえば、遅れ馳せながら高嶺は兔の台詞が引っかかった。ついついその場で考え込んでいると、
「……高嶺?」
 不思議そうに沙樹が高嶺の名を呼んだ。
「あ、ああ。どこかで聞いたような気がしたんだ」
「え?」
「『女王に叱られる』ってフレーズ。なんだったかな」
 言われて、沙樹が考えこんだ。
 答えが出たのはすぐだった。
「あ、不思議の国のアリス」
「ああ、そうか」
 思いついてからよくよく見てみれば、兔の格好はまさに『不思議の国のアリス』に出てくる白兔そのものだ。
 だがそれはそれで疑問が残る。
「なんでその兔がここにいるんだ?」
 あれは、本の登場人物だ。実在する者ではない。
「さあ……?」
 と、その時。
 唐突に兔が駆け出した。
「なんだ?」
「道を見つけたのかしら?」
「とにかく追いかけよう!」
 二人は兔のあとを追って駆け出した。

「あ、兔さん見っけ!」
「おおい、みあおっ!」
 ちょうど十字路に差しかかった時、曲がり角から二人の子供が飛び出してきた。
「おねーさんたちもうさぎを追い掛けてるの?」
 銀髪の少女の問いに高嶺が頷く。
 悪いが話して答える余裕はなかった――と、ふいに。
 足元が消えた。
「え?」
 一瞬にして視界に広がる暗闇。空がどんどん遠ざかっていった。


●不思議の国

 視界に光が戻ってきた時、そこはなんとも不思議な場所だった。
「ああっ、兔はっ!?」
 がばっと起き上がった銀髪の少女がきょろきょろと周囲を見渡すも、そこにはもう白兎の姿はない。
「仕事に行ったんじゃないのか?」
 続いて起き上がった少年が、高嶺と沙樹のほうへと目を向けた。
「ごめんな。なんか巻き込んじゃったみたいで…。俺は結城。そっちは海原みあお。お姉さんたちは?」
「倉前沙樹よ」
「倉前高嶺だ」
 二人は名を答え、そして改めて周囲に目を向ける。
 広がる森と、その中にある小さな家。
「ここは……?」
 沙樹の問いに、結城は苦笑しつつ答えた。
「不思議の国……って言って、信じてくれる?」
「まあ、あの白兔を目の前にした後なら」
 立ちあがった高嶺は、まだ少々茫然としつつ、しっかりとした口調で答えた。
「兔と記念写真撮ろうと思ってたのになあ」
 残念そうなみあおの声に、結城が呆れたような顔をする。
「あちらのうさぎさんとでは駄目なの?」
 沙樹が、家の方を指差した。
 森の中の一軒家。流れてくるは軽快な歌声。
「三月兔とイカレ帽子屋のお茶会……か」
 高嶺が呟く。
「よしっ、じゃあお茶会に参加して、記念写真撮ってこよう〜っ!」
 みあおがぱたぱたと駆け出して行く後ろを、高嶺、沙樹、結城の三人が歩いて追う。
「ずいぶん呑気だな」
 高嶺が小さく息を吐いた。
「まあ。子供の特権だし。……今度は私たちが帰り道を探さないと」
 続いて沙樹のもらした溜息に、結城がきょとんとした表情を見せた。
「ああ、こっからなら簡単に帰れるよ」
「え?」
「だって、こっちはもう本の中の世界だから。現実の世界の人間を本の世界から連れ出すのは簡単だよ。ただ多分、出口は俺の家のとこに繋がってると思うけど」
 疑問点を聞き返そうと口を開き掛けた高嶺だったが、
「ねえ、結城。お姉さんたちも、早くおいでよ〜!」
 先に屋敷についたみあおの声に遮られた。
 四人はしっかりお茶とお菓子をご馳走になって、一緒に記念撮影をしてから現実へと帰還したのであった。

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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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整理番号|PC名|性別|年齢|職業

0086|シュライン・エマ|女| 26|翻訳家&幽霊作家+草間興信所事務員
1593|榊船亜真知   |女|999|超高位次元知的生命体・・・神さま!?
2182|倉前沙樹    |女| 17|高校生
2190|倉前高嶺    |女| 17|高校生
1415|海原みあお   |女| 6|小学生

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■         ライター通信          ■
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 こんにちわ、日向 葵です。
 このたびは依頼にご参加頂きありがとうございました。

 今回はプレイングでアリス組とうさぎ組に別れております。
 お時間ありましたら、もう一方のグループの方も読んでみてくださいませ♪

 それでは、今回はこの辺で。
 またお会いできる機会がありましたら、よろしくお願いします。