コミュニティトップへ
高峰心霊学研究所トップへ 最新レポート クリエーター別で見る 商品別一覧 ゲームノベル・ゲームコミックを見る 前のページへ

<東京怪談ウェブゲーム アトラス編集部>


機械の獣

●プロローグ

「とある筋からの情報だけれど、マシン−有機体生命に関する実験生物が研究所から逃げ出したらしいわ」
 アトラス編集部に入ってきた段階では、それはまだ噂の域を過ぎなかった。
 限りなく黒に近い噂ではあったが。
「超常能力者の情報やの話によると、獣タイプの『それ』はこのままだと表の世界にも被害を出すかもしれないわね」
「それじゃその動物を捕まえればいいんですか?」
 なにげない一言に、編集長・碇 麗香はいじめ甲斐のある小動物を見つけたようにくすりと笑う。
「私が捕まえろといったら、命令通り捕まえてきてくれるのかしら?」
「いえ、まだ情報もないのに断言は――」
「その通りよ。私たちの仕事は裏をとること、動物退治なんてどこかの怪奇探偵に任せておけばいいことだわ」
 麗香としては、逃げた実験動物よりもその動物使って研究を行っていた研究所自体を洗ったほうが特ダネに育つかもしれない予感があるらしい。
 入ってきた情報にも研究所については詳しい記述が見当たらない。
 意図は理解したが気になることが一つ――。
「……その危険な実験動物って、逃げ出した以外にも研究所に居たりしませんか?」

「なに言ってるのよ。記者は命懸けでネタを拾ってきてなんぼよ」


●研究所 〜侵入〜

 高層ビルの密集区画に建設された目立たない建物。

 ここが噂の研究所であるらしいことは、庭園設計者 モーリス・ラジアル(−・−) によって判明した。
 彼が調査依頼したリンスター財閥のネットワークによって一瞬にして洗い出されてしまったのだ。
「しかしな、こんな目立つ場所で研究とは恐れ入った。たしかに盲点ではあるよな」
 オカルト作家の 雪ノ下 正風(ゆきのした・まさかぜ) は腕組みをしてそれほど高くないビルを見上げる。
 碇編集長より「生物兵器で連載企画『都内怪談』の記事を書いてくれないかしら?」と、執筆依頼のような絶対命令から 三下 忠雄(みのした・ただお) と取材に訪れている。
 正確には、取材というより護衛役かもしれないが。
「研究機関というものは、案外、関係省庁との連絡や認可手続きが必要だったりしますからね。こういう場所が便利なのでしょう。それにここはオフィス街の中心。夜にはほぼ無人街にも等しいですし、立地条件から見ても人目を集めないよう死角にもなっている。怪しい研究を行うには最適な環境といえます」
 モーリスの説明に感心しながら、忠雄は許可証を提示して入所許可を取りつける。
 低い金属音を響かせながら強固そうな門がゆっくりと開かれていった。
「はあ、無事に入れてよかった‥‥いや、モーリスさんの情報網はたいしたものです。うちの編集長も羨ましがると思いますよ、はい」
「あの人のことだ、羨ましがるで済めばいいんだけどなぁ‥‥」
 正風がぼやきつつ、全員が門を通過しようとした時。
 突然、警備員に呼び止められた。
「はい‥‥あの、なんでしょうか」
 にこにこと向き直った 海原 みその(うなばら・みその) に警備員は警棒で彼女のすぐ横を指した。
「――これ、説明してもらえないかな」
 大きな台車に乗せられた二つの木箱。
 『危険物取り扱い』との張り紙まである。
「見ての通り、これは危険物を入れてある木箱ですけれど?」
 にこにこ。
 悪意のない笑顔で、説明にならない説明をする南国風の衣装に漆黒にハイビスカス柄のムームーという姿の大人びた少女に一瞬ひるむも、そこは職業倫理が打ち勝ったのか、警備員はコホンと咳をして問い直した。
「そうではなくてですね、中身についての説明をお願いしたいのですが」
「ああ、はい。そういうことですね♪」
 ポンとなにが嬉しいのか手を打つと、みそのはうやうやしくなにやら箱のような物体を差し出す。
 一見、お土産物の箱のようだ。
 さらに冷や汗で警戒する警備員。
「その、これはどういう意味でしょうか?」
「家族旅行のお土産に南国果実詰め合わせです。乾物ですので保存も効いていますから安心ですよ」
「お、編集部で配ってたのってそれだったのか。だからみそのちゃん、そんな格好してんだな」
「はい、雪ノ下様にも後でお渡しいたしますね」
 警備員は頭が痛くなってきた。
 いや、この女の子、衣装も南国風に、漆黒にハイビスカス柄のムームーで、だから南国土産なのか。じゃなくて、こんな格好の人間がここに出入りできるのだろうか。
 しかし通行許可証は出ているわけだし、衣装も南国風に、漆黒にハイビスカス柄のムームーだからといって差別してはいけない。
 いけないのだ。
 ああ、この世界、一般人の分からないことが多すぎる――。
「とと、とにかくこちらで詳しい事情をお聞かせていただかないことには――」
「申しわけありません。こちらが危険物に関するの運搬許可証となっています」
 綾和泉 匡乃(あやいずみ・きょうの) が懐から一枚の証明書を取り出す。
「ご確認くださいませんか」
「ああ、は、はい。確かに。‥‥‥‥たすかった」
 匡乃に提示された許可証で警備員はようやく混乱から立ち直れたようで、全員は無事通過を許された。
「すでに敵地ですから、みなさん出来るだけ怪しい行いは控えてくださいね」
「なんの、バレたらバレたで俺のヌンチャクが唸りをあげて、あいつらを叩きのめしてやるってだけのことよ!」
 ヌンチャクを大げさに構える正風に匡乃は苦笑した。
 妹・汐耶の友人だとは聞いていたが、話通りというか以上というか、期待を裏切らない存在ではある。
「へい! 潜入成功かよ、んじゃもう出ていいってことだろ! ヒャハハハ!!」
「静かにしろスカージ」
 木箱から声が漏れ聞こえ、慌てて4人は奥へと急ぐ。
 木箱の中に入っているのは、戦闘用ゴーレムの形式番号 W・1107(−・−) こと通称「サーチ」と、形式番号 W・1105(−・−) こと通称「スカージ」の二体。
 ある意味、「危険物」の張り紙は間違いではない。
「もう少しだけ待っていただけませんか。多分、そう長くはないでしょうから」
「了解」
「チクショー、早く頼むぜ!!」

 ‥‥そう長くはない‥‥。

 匡乃の言葉は物語っている。
 つまり戦闘が始まるまでそう時間はかからないだろうと。
 この研究所に漂う空気には、超常能力事件特有の危険な緊迫感で満ちている。まるで、空間がねじれているような。
 通常の人間には決してわからない気配。
 だが、ここにいる誰もがその「空気」を感じ取っていた。

「さて、問題はこれからでしょう。いくら黒い噂が流れていようと、証拠を見つけられなければ無罪――私たちには手が出せません。当然、捏造記事の汚名など、あの碇さんが許すはずもないでしょうから」
 モーリスは周囲をうかがった。
 開けたロビーは受付窓口と来客用のソファーと資料。観葉植物がいくつか。
 それと、どこにも窓がなかった。
 真っ白く清潔な壁。
 明るい照明。
 そしていくら広い空間を確保されている。
 しかし、一面が壁に囲まれた昼も夜も分からない空間では、人の心理において無意識のうちに、強い閉塞感と圧迫感を与えられる。
 ――息苦しさを感じずにはいられない。
「さぁて三下さん、これからどうしてやりましょうかね」
「い、いや僕に聞かれましても‥‥とりあえず慎重に‥‥」
「それでしたら、わたくしに任せていただけませんか?」
 ふんわり笑顔で手を合わせると、みそのは受付へと向かっていった。
 手土産のお饅頭を受付の方に渡している。
 まさか。
「あの、こちらで研究されている“獣”についてお伺いしたいのですけれど――」
「どわああああぁぁぁぁー!!!!!」
 受付の女性は快くみそのの手土産を受けとり、くつくつと笑う。
「‥‥ええ、あなた方が実験体として来てくださればいくらでもお教えしますわ」
 瞬間、女性の前の空間に青白い光の魔法陣が現われる。
 光がみそのを拘束しようとするのと同時に、正風のヌンチャクが魔法陣を薙いだ。光の乱れで拘束魔法の効果が途絶え、そのまま当身で女性を気絶させる。
 警報音が研究所中に鳴り響いた。
 モーリスが素早く提案する。
「とりあえず、これだけ研究所の中にいましたら、彼らも機密の暴露を恐れてそう大事にはできないはず。ここは二手に分かれ、迅速に情報を集めましょう」
「そうですね、遅かれ早かれ起こりえた事態ですから。とりあえず――

【雪ノ下さん、海原さん、スカージさん、三下さん】

【サーチさん、ラジアルさん、私(綾和泉匡乃)】

 というグループでよろしいでしょうか」
 匡乃の提案に全員が了承すると、みそのが木箱に声をかける。
「‥‥スカージ様、サーチ様。もう起きてもよろしいそうですよ」
「うひょおおお! やっと出番がきやがったかよ!!」
「準備完了。出動する」
 木箱を派手に破壊して、二体の戦闘用ゴーレムが中から出現した。


●機械化されし獣の世界 〜サバイバル〜

「いいですか。この建物は外見が小さいですが地下施設に広い空間が存在しています。無理をせず、一定の情報を集めたらすぐ脱出をしてください」
 手短に指示を出すモーリス。
 事前にネットから研究所サーバを調べて情報を手に入れようとした彼だったが、所内のセキュリティは未知のプログラム――としか表現しようのない力――で守られていた。
 よって、ここから先にどのような危険が待ち受けているのかも予測がつかない。

 雪ノ下正風、海原みその、W・1105、そして三下忠雄たちは、地下施設に下りると右側の通路を真っ直ぐに進んだ。
 警報音が鳴っているわりに人が出てくる気配がない。
 警戒しつつ一行はさらに階段を下りた。
「あまり奥まで行き過ぎると、脱出時に苦労するのでは‥‥」
「秘密文書なんて奥の奥に隠してあるもんだ、ほら、なんてったけな――コケツがいなずんば」
「虎穴に入らずんば虎児を得ず?」
「それだ!」
 みそのの言葉に頷くスカージ。
「おい、この部屋見てみろよ」
 正風が開いた――というよりもブチ破ったドアの奥は、真っ暗な暗室になっていた。
 中央に淡く緑色に光ってる液体を溜めた円柱状の巨大なガラス水槽があり、その中に奇妙な生物が漂っている。
 三つの首を持ち身体のあちこちに硬質な金属部品を付けた巨大な犬。
 いや、もう犬ではない。
 未知なる獣。
 身体にいくつものチューブが取り付けられ、三つある首の一つは機械で出来ている。
「ほんと、なぜこのような“もの”を造り出したのでしょうか」
「ああ、恐ろしい限りだな‥‥」
「――人で造った方がおもしろいでしょうに」
 そうじゃないだろ! と心の中でみそのに突っ込みつつ、正風は周囲の装置や書類を調べ、スカージが敵の接近を警戒した。
 三下忠雄がフラッシュをたきながら機械獣の写真を撮っていると、みそのが不思議そうに首を傾げる。
「どうなさいました、みそのさん」
「いえ、気になることがありまして‥‥三下様がフラッシュをたかれるのと同時に、この子の命の流れみたいなものが強くなってくるのを感じまして‥‥」
「い、命の流れというと」
「つまり覚醒した状態に近づいているような?」
 浴槽に向き直った三下と、浴槽の中の機械獣の眼があう。
 ――こちらを視ている――。
「ひいぃっ!! そういう事はもっと早く言ってください!」
「三下さん、危ねえ!!」
 覚醒した三つ首の獣は前足の一撃で硬質ガラスを破壊した。
 横から正風のタックルによってギリギリ前足をかわした忠雄だが、直接対面すると改めて獣が大きさを理解する。
 頭を見るのに見上げなくてはならないほどの高さで、低くはない研究室の天井に獣の頭がつきそうだ。
「みそのさん、これからそういう大切なことはもっと早く言って下さいませんか‥‥!」
「説教なら後にしやがれ。まずはコイツの始末だぜ!! ひゃははは!!」
 スカージのシールド「ガーゼ」に内蔵された24ミリバルカンが激しく火を吹いて三つ首の魔獣を直撃する。
「あの、こちらに向かってくるはどうも感じるのですけれど」
「やばいぜ、こりゃ! 全員、この部屋を早く出な!」
 部屋の外に出た正風は、廊下の向こうからやってくる人影を確認した。瞬間、頭上を青白い閃光が一薙ぎし、背後の壁面を黒く焦がした。
「気をつけな、それは俺の見たとこレーザーだぜ」
 魔力光を高密度で凝縮して解き放つ、いわば魔術版レーザー砲。
「信じられねぇモン使いってくるな、オイ!?」
 部屋の中に戻って正風はレーザーをやり過ごす。しかしこちらでもスカージが機械獣を食い止めてはいるが、獣はジリジリと距離を詰めてくる。
 前門の魔導レーザー、後門のケルベロス。
 三下は恐怖に震えた。こんな取材は断わればよかった――が、麗香編集長はもっと恐い。つまり正確には、前門の魔導レーザー、後門のケルベロス、どこに逃げても編集長の怒り。ある意味、一年中絶体絶命だ。
「とにかく、みそのさんは――無茶をされないでください!」
「ええ、もちろん。戦いは殿方の見せ場ですから。わたくしは地味に手伝わせていただきます」
 激しい戦闘の中を悠々と資料を漁っている。
「こうなったらアレやるか――」
 正風は呼吸を整え、一気に息を吐き出すと同時に『気』を爆発させる。
「気法拳奥義、応龍翼旋斬」
 気を纏った両腕を回転させた手刀が魔獣の爪をくぐり抜け、機械の頭部を破壊した。
 獣のひるんだ隙を見逃すことなく、両肩には大型のキャノン砲「スパイダー」を換装して超至近距離からの容赦ない一撃を放つ。
 獣は浴槽を割り、向こうの壁面にまで飛ばされる。そのままズルズルと崩れ落ち、床の上に伏した。
「さて、あとは廊下のあいつらをどう突破するかだが――」
「待ってください。廊下から迫ってくる人の気の中に、この子と同じ気の流れをいくつか感じます」
 絶句して廊下を覗きみた正風は、迫り来る黒衣の魔術師たちの背後に二体の機械獣を確認する。
 彼らは、完全に追い込まれていた。


 一方、W・1107、モーリス・ラジアル、綾和泉・匡乃たちは、地下施設を下りて左側の通路を進んでいた。
 三下たちが向かった右側通路よりはいくぶんか狭く感じられる。
 地下は想像以上に広い造りのようだ。
「この部屋から人の気配がします」
 匡乃が扉を開くと、丁度そこには白衣の研究者がたった一人だけでいた。
「失礼します。少しお話をお伺いしてもよろしいでしょうか」
「どうせ認めなくとも聞き出す気だろう。構わんよ――ふん、この警報も君たちの仕業か」
 白衣の男は悠然とした態度だ。
「サーチさん。済まないが少しの間外を見張っていてほしい」
「了解‥‥警戒モードに入る」
 サーチに周囲の警戒を頼むと、モーリスは応じるように白衣の科学者へと静かに歩み寄る。
「世間ではあまり良くない噂を聞きますが、あなた方はここで何を研究しているのですか?」
「それを訊いてどうするつもりだ」
「――正直に言って、獣の事についてあなた方、研究所関係者を問いつめたいですね。医者としては、実験とは云え、生き物の命の扱いに多少怒りすら感じますので」
「‥‥良いものを見せてやろう。これは別室にある監視カメラの捉えた映像だ」
 白衣の学者がディスプレイを操作し、目の前の画面の一つを指差した。
 そこには、巨大な三つ首の魔獣が映し出されている。
「他にもまだいくつか部屋があってね、どうやらその一つに君に仲間たちも侵入したようだ。この魔獣は単なる研究の一つにすぎない」
 瞳をすっと細めて、匡乃が問う。
「――あなた方は何者ですか」
「それは私にも、誰にも分からんさ。人間が何故人間であるかを問うように、滑稽すぎる質問だ」
「滑稽ですか?」
「ああ、私たちはただ科学技術と、魔導技術、双方の知的体系に関する研究者にすぎない。本来的に交わることのなかったこの両体系を融合させ、昇華させうる環境が整えられたなら――人はそこへ飛び込むだろう。技術を、知識を、存在を今よりも進歩させなければ気の済まない、業深き生き物だからな」
 例えそれが火の中へ飛び込む蛾のような行為であったとしてもだ、と科学者は苦笑した。
「私たちはここが潰れてもらったほうが良いと考えています。そうでしょう、匡乃も」
「ええ、先ほど見せていただいた機械と有機生物の融合体をみせられ、その確信をより深まりました」
「君たちは神にでもなったつもりか? 人間の社会は、ここまできた文明社会は、実験と思考と研究の積み重ねだ。普段は隠された人類社会の一面を見たからと言って、自分達の背負っている罪は免除されない。人は他の生物を喰らって生きている。これは真実だ」
「この社会に、世界に不幸な一面があるのは事実かもしれませんが、それを助長することを認めるわけではありませんので」
「ええ、どうやら私たちの議論は、残念ながら平行線のようですね。決して交わることがありませんね」
 科学者は口元をゆがめる。
 それは笑いなのか。
 嘆きなのか。
「楽しくも興味深くあった議論ではあるが――そろそろ終わりのようだ。もう時期ここに衛兵たちが来る。君たちは早く去ったほうがいい」
「今日の所は、そうさせていただきましょう」
 部屋を出ようとした3人に、科学者は最後の言葉を投げかけた。
「――それと、ここ『ネオ・ソサエティ』の支部や研究機関は他にまだまだある。この研究所が潰せたとしても、我々の存在がこの世から亡くなることはない。よく考えたまえ」
 男の言葉を背に部屋を出た3人は、廊下の向こうから警備の一団が向かってきていた。やってくるのは黒衣の魔術師と、先ほど画面で見た三つ首の魔獣を直接肉眼で見ることになる。
 画像でもその大きさはありありと判ったが、実物を目の前にするとやはり圧倒される大きさだ。
 ‥‥生命あるものに対してこのような仕打ちを‥‥。
「今は耐える時です。まずはこの場を脱出してから、全てはそれからです」
 モーリスを抑えて、匡乃は魔獣に向けて退魔の力を放つ。
 だが、三つ首の獣は力を弾いて突進してきた。
「攻撃開始、全面掃射」
 サーチの専用マシンガン「ホイール」で張られた弾幕がなんとか突破口を開ける。
「‥‥あの魔獣の金属ボディ、もしかするとアンチ・エレメンタルが施されているかもしれませんね」
 もしこの予測が当たっているとしたら相当に厄介だ。
 どのような技術や法術においても対抗系――相手の力に抵抗する能力・技術というものは存在する。ましてや戦闘用の機械生命にそれが施されていない可能性のほうが低いだろう。
 事前に対抗の準備があるならばともかく、情報のないまま戦闘となったこの現状ではきつい材料だ。
 今はまず、何よりも脱出を優先させなければならない。
 サーチの重火器類により突破口を切り開きながら一行はひたすら出口を目指した。
「脱出成功。任務完了」
 サーチを先頭に3人は研究所を脱出する。
 外にはすでに三下たち4人が待っていた。
 よく逃げられましたね、と聞く匡乃に対して、正風がぐっと親指を立てる。

「まあな、逃げ道がないなら作ればいいのさ。天井をブチ抜いて脱げてきたぜ」



●記者はつらいよ 〜エピローグ
 再び、アトラス編集部。
 デスクには例の如く碇麗香がスタッフ一同ににらみを効かせていた。忙しそうないつもの仕事風景がある。
「で、特ダネはちゃんと取ってこれたのかしら」
「取材としては成功でしょうが、この件はそれで収まる事件ではないかもしれません」
 モーリスは研究所での体験をつぶさに話した。
 詳しい事情を聞いた麗香は神妙な面持ちになる。
「厄介な相手であることだけは間違いないようね。何だかんだ言ってもウチは一介の新聞社でしかないのも事実だし」
 随分と弱気な発言だな、と思うと、心を読んだように麗香は念を押した。
「そうじゃないわ。この件に関してはもっと掘り下げて攻めることにしましょう、と言っているのよ。戦い方は相手に合わせて選ぶべきでしょう?」
 つまり、これからこの謎の組織に関してジャンジャンこき使われることを宣言されたも同じだ。

 とりあえず、取材内容は大幅に削られて、街の噂の小さな記事として掲載されることになった。
 記者家業も楽ではない。


□■■■■■■□■■■■■■■■■■■■■■■■■■□
■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
□■■■■■■□■■■■■■■■■■■■■■■■■■□
【整理番号 / PC名 / 性別 / 年齢 / 職業】

【0391/雪ノ下・正風/男性/22歳/オカルト作家/ゆきのした・まさかぜ】
【1388/海原・みその/女性/13歳/深淵の巫女/うなばら・みその】
【1537/綾和泉・匡乃/男性/27歳/予備校講師/あやいずみ・きょうの】
【2318/モーリス・ラジアル/男性/527歳/ガードナー・医師・調和者】
【2457/W・1105/男性/446歳/戦闘用ゴーレム】
【2475/W・1107/男性/446歳/戦闘用ゴーレム】


□■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■□
■         ライター通信          ■
□■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■□

 こんにちは、初めまして。
 皆様を担当させていただきました雛川遊です。
 ライターとしての初執筆になりますが、楽しんでいただけたら嬉しいです。
 さてこのシナリオ、実は結構難しいものだったり。敵の本拠地に何も知らずに忍び込むわけですからね。同時発表作の中でも戦闘色が強い一つだったかもしれません。
 今回の事件で明らかになった情報は、異界〜剣と翼の失われし詩篇〜のほうでも一部アップしていく予定です。興味をもたれた方はぜひ一度遊びに来てください。

 それでは、あなたに剣と翼の導きがあらんことを祈りつつ。


>モーリス・ラジアルさん
 初めまして、ご参加ありがとうございました。
 研究所探しパートがモーリスさんの力で一挙解決に(笑) 助かりました。