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<東京怪談ウェブゲーム ゴーストネットOFF>


シンクロニシティ

●プロローグ
 共通夢体験を語るホームページ。

      『貴方の見た夢について一緒に語りませんか?』

 気になる印象的なデザインは神秘的な雰囲気をかもし出していた。気まぐれでネットを巡回していた僕が偶然見つけたHP。その時、

      『貴方がこの場所を訪れたのは、偶然ではないから』

 ――――偶然ではない。
 どういう意味なのか気になった。
「ハッタリに決まってるさ。騙されてるなよ」
 ノイ、少し黙っててくれないかな。

     『 シンクロニシティ――共時性と呼ばれるこの
      関連性のない偶然の一致現象。これは突き詰め
      れば運命と世界のありように対して説明を行お
      うとする試みから生まれた理論です。
      世界に偶然はありません。貴方が今このページ
      を読んでいらっしゃるように。 』

「今時共時性、笑っちゃうね」
 ユングときたか。さて、このHPの管理人さんはどうシンクロニシティを料理する気なのでしょう。

     『 そこでお願いがあります。私と一緒に
      この「水星の石」を守ってください。
      何者かに狙われたこの石を守るためには、
      私一人だけでは力不足なのです。
      集合場所は下記の地図にある印のついた
      喫茶店です』

 水星の石? 守る? 話が唐突だと思った。


     『それでは夢の世界でお待ちしてます、如月縁樹さん』


 最後の一行には僕の名前が書いてある。
 それが最後の結びだった。
 夢の世界?
 これはなんの冗談かしら……。

 ‥‥まあ、いい暇潰しにはなるかな、と思った。



●現実という夢を見る

「あった」
「‥‥本当に在ったんですね」
 喫茶店の前で同じ意味の言葉がそろったことに、 片平 えみり(かたひら・えみり) は驚いた。
 もう一つの声の出所――綺麗な顔立ちをした少年――と目があう。
 華奢な体型。
 灰色に近い銀髪のショートヘア、暗紅色の瞳。
「こんにちは、 尾神 七重(おがみ・ななえ) と言います。あなたも例のホームページの地図からいらっしゃったのですか?」
 同じくらいの年齢の少年から、13才の自分にはできそうもないくらいに礼儀正しく挨拶されて、えみりは内心またビックリする。
「あ、うんっ。本当にあったんだね、この喫茶店。驚いちゃったよ。‥‥七重クンはどうしてきたの?」
「僕は駆けつける足早な神ではないけれど、久しぶりに外の空気を吸うのも悪くはない‥‥と考えて」
「そうなんだ。あたしはね、とりあえず喫茶店探しをして、無かったら夢の世界にGO! と思ったんだ。家に帰って夕飯食べて風呂入って、宿題したら寝ようかなって」
「とりあえずこれで寝る必要はなくなりましたね」
 ふたりの前にあるのはありふれた、ごく普通の喫茶店。
 ドアの上にある小さなベルのついた看板には、味のある文字で名前が書いてある。
 ――――喫茶店 サンセット・シュガー。
「えっと、あなたたちも例のホームページに誘われてきた人ですか?」
 突然、背後から声が掛けられた。
 えみりと七重が振り返ると、そこにはアッシュグレイの髪をした19才くらいの女性が明るく笑っていた。
 七重は彼女、 如月 縁樹(きさらぎ・えんじゅ) の肩にちょこんと乗っているソレに気がついて、視線を上げる。
「あの、肩にいるその人形は‥‥?」
「ふふ、気がついてくれた? この子はですね、僕の頼りになる相棒にして友達。そうでしょう、ノイ」
『はぁ? アイボウにシンユウ? そんなのどこにいるんだい。ボクの側にいるのは人使いの荒くて自分勝手でついでに性格まで悪い旅人くらいだ』
「わっ、人形がしゃべったよ!?」
 驚くえみりに向かってくりんと顔を向ける男の子の人形。
『チッチッチ、人形が話して悪いかい? そいつは頂けないな。世間知らずのお嬢ちゃんならお家でおままごとでもして遊んでなー』
「もう、やめなさいノイ、――ごめんなさいね。この子ったら少しばかり口が悪くて、でも本当はいい子だから」
『心にもないこと言ってると体に悪いゼ、ベイベー』
 喫茶店は現実にあったけれど、不思議なこと続きで、えみりは地に足のつかない夢の中にいるように感じてしまう。
 マシンガンのような人形の毒舌に目を白黒させる彼女を横目に、七重がさっさとドアを開けた。
 チャリン。
 軽やかなベルの音がなる。

「いらっしゃい、よく来てくれたわね」

 そう広くはない喫茶店の奥の席から声はかかった。
 透き通った声の持ち主――女性というより少女――は、綺麗な小箱をテーブルにおいて目で席につくように3人に告げた。
 その席にはすでにその人以外にふたりの同伴者が座っていた。
「あなた方もホームページを見られたのですか?」
 銀縁の眼鏡をかけた中性的な女性―― 綾和泉 汐耶(あやいずみ・せきや) が、冷静な口調で訊ね、それぞれにあいまいに肯定しながら3人はテーブルにつく。
 汐耶以外の存在に気をとられているといった態度。
「まあ、その反応も仕方がないでしょう。こんな人が同席していることですから」
 気分を害した様子もなく汐耶は落ち着きながらも、むしろ、この状況をどこか楽しんでいるような口ぶりだ。
 3人の視線は、それぞれらしい反応ではありながら、一人の男性に注がれている。
「きれい‥‥」
 えみりが漏らしたように、銀髪青眼の美しい男性 セレスティ・カーニンガム(−・−) 本人は何事もないかのように優雅に紅茶を飲みながら、小箱を前において少女に話の続きをうながした。
「つまり――この小箱の中に例の狙われている『水星の石』が入っていらっしゃるのですね」
「ええ、その通りよ。全員集まったようですから改めて説明させて頂こうかしら――」
 大人の雰囲気だな、と思いながらえみりは17才くらいだろう香奈天と彼女の前の小箱を交互に見つめる。
 こういう会談の席に慣れているといった雰囲気なのだ。
「まずは自己紹介から。神聖都学園生の 夢琴 香奈天(ゆめこと・かなで) です。色々と副業もしていまして、今日はその関連で集まっていただきました。本日は宜しくお願いします」
 香奈天の微笑に、えみりは嬉しそうに話しかける。
「香奈天さんって心が読めるの? あのホームページもそうだったし。なんかミステリアスだね。あたし、こういうの嫌いじゃないよ」
「この人を信用するには早いですよ」
「そうかな?」
 えみりは七重の言葉に首をかしげる。
「つまり、その子は香奈天さんの一人狂言を警戒しているのでしょう。至極当然の判断だと思われるわ」
「素敵ですね。あなたたちはゲームを分かってらっしゃる」
 さりげなくフォローに入った汐耶に少女は笑顔で応えた。
 ――――香奈天が、この正体不明な少女が味方である保証など、敵である可能性と同等の確率で今のところ存在しない、そういうことだ。
 今、この場に存在しているのは曖昧で、不確かなゲームだけ。
 全ては夢の駆け引き。
 縁樹が腕を組みなおす。
「これは面白そうな展開‥‥ノイ。このゲーム、乗らせてもらいましょうか」
『なにいってんだか、暇つぶしにオマケがついてきた程度に考えているクセにさ。だけども暇潰しで命を落とすのも人生だぜ』
「ええ。それも悪くありませんから」
 にっこりと答える縁樹に続いて、セレスティが頷いた。
「流れには逆らわないのが賢者のたしなみ――私もそのゲームを了承しましょう」


●夢はゲーム

 香奈天は小箱に手をかけて、静かにふたを開く。
「これが『水星の石』ですか」
 汐耶が小箱を覗きこむ。
 それはどうみても普通の石にしか見えない。
 宝石どころか、美しさや神秘性の欠片も見いだせなかった。
『こりゃまた汚い石っころだな』
「でもまあ、きらびやかな宝石が出てくるよりも説得力があるかもしれません」
 縁樹とノイの言葉をついで、汐耶は珈琲を一口だけ飲んで問いかけた。
「で、その石の能力は? 私で力になるなら、協力させて頂きますけど情報は教えて頂かないと」
「石の種類は流紋岩。火山岩の一種ですね。モース硬度は5〜6といったところ。つまり見た通りの普通の石」
「普通の石ですか?」
「山にでも行けばそこらに落ちているただの石っころと変わらない、と言うことよ――物質的にはね」
 確認するように汐耶は問う。
「特殊な性質を帯びている、ということですね」
「はい。『水星の石』について特殊な力が発見されたのは前の持ち主の時。先祖伝来の禁忌としてこの箱の中に封じられていた石を今代の当主が好奇心から開けてしまった。愚かなことね」

 それ以来、その家のものの中から発狂者が続出して、石の呪いなどと言われた。
 呪いを恐れた当主はサイコセラピストから祈祷師まで様々な場所を回りまわった結果、発狂にいたるまでのキーワードに《夢》が関連することから、こうして香奈天の所にまでやってきたのである。

「石から放たれる精神的負荷力が強すぎて発狂をきたすのよ。一般人には耐えられないほどのオーラを秘めた聖なる結晶‥‥それが『水星の石』」
「精神的負荷に夢。それがこの石に秘められた特質と関係しているのですね」
 小箱を手にとって中の石を観察していると、えみりが小さく震える。
「恐い石だよ……そう思う」
「石に宿る“何か”が問題なのでしょう。この世界に存在する石は宝石も礫岩も鉱物、物質的にいえばただの石」
 セレスティの穏やかな言葉に、縁樹がイタズラを企む猫のように笑った。
「ひょっとして唯物論者?」
「その理解は早計ですね。組成構造から硬度や透過度、模様などに違いが出ますが、やはりそれは同じ大地の一部です。――本来神秘の石、ストーンパワーと呼ばれるものに宿る力とは、物質としての鉱物を超えた要因――目に視えない領域に属する力なのですから」
 微笑んでそれだけ言うと、セレスティは考え込むように目を閉じた。
「この場を警護の場と呼ぼうがゲームと呼ぼうがそれは勝手でしょう。でも、僕が気になる点は別のことです」
 それは七重の発言だった。
「喫茶店へ行けばメッセージに同調した者であると名乗りを上げるようなもの‥‥共通夢を見る可能性のある者を集め、これから何を行うつもりですか?」
 香奈天は紅茶の入ったティーカップを手にして軽く答えた。
「つもりもなにも、あなた流に言えばもう行われているのよ。ふふ、ここは今や“夢の領域”だから」
 それはありえない。
 七重は、現実か夢かをはっきりと認識しながらこの喫茶店までやってきた。もっとも注意を払ってきた点なのだ。
 ここは間違いなく“現実”だ。
「現(うつつ)の中に夢を見る――気の利いた夢使いが良く使う手なの。論より証拠ね」
 香奈天が手にしていたティーカップを軽く叩くと、キンと陶器独特の澄んだ音色が鳴って、辺り一面が広大な海岸の波打ち際に変わった。
 テーブルとイスと自分たちだけがそのまま。
 頭上には青い空。
 周囲に広がる白い砂浜に水平線‥‥。

 音色の響きが消えると同時に、周囲は元の喫茶店に戻っていた。
「これでいかがかしら」
 ――――これは、ゆめ?
 彼女の狙いはなんだ?
 核心に触れたのは汐耶だった。
「狙われている方に心当たりありますでしょうか? それによって色々対応が違ってくると思いますよ」

「それはあなたよ。縁樹さん。あなたが敵」

 香奈天は真っ直ぐに縁樹を見つめていた。
 全員が縁樹を取り囲み、香奈天が水星の石を手にすると、石から妖しい光が放たれる。「罠!? どういうことですか!」
「申し上げたはずよ。この呪われた石は生け贄を求める‥‥それがあなたの運命」
 ノイのチャックから非物質であるなら対霊の魔力を織り込んだ特別製の手袋をとりだして、戦闘態勢をとる。
 手袋をはめると同時にセレスティの水流と七重の重力操作で攻撃され動きを封じられた。ノイが香奈天にむけてナイフを放つ。
 トス。
「嘘、なんで‥‥」
 ナイフが少女に刺さったと思った瞬間、自分の胸に突き立っていたのだ。
 激しくテーブルが倒れる。
 ‥‥これは、きっと夢‥‥!
 胸の激痛に耐えながら間合いを詰め、対霊グローブの拳で『水星の石』を弾き飛ばした。
「クッ、まだ動けたか――!?」
 パキン。
 空間が異質に爆ぜる音。
 光を失う石。
 夢使いの少女が動揺する。
 ――――夢の世界は崩れ落ちた。

「ノイ、お願い!」
 魔力の弾丸を受けとり、手にした銃のトリガーを引いた。
 とっさにかわす少女。
 だが左脇腹を掠めた弾丸により負傷したのか腹部を抑えている。照準が香奈天を捉えかけ‥‥。
 ――ガシャン。
 香奈天は不敵な笑いを向けると、窓ガラスを割って逃げ出した。


●夢から覚めたら朝、一杯のコーヒーを
 チリン。

「おはよう。目は覚めた?」
 チャイムを鳴らして入ってきたのは一人の少女。
 ドアから日常の光が差し込んでいる。
 ――ここは、現実?
「よく石を護ってくれました。心から礼を言うわ」
「は?」

 全員が、喫茶店のテーブルに座っている。
 ――ただ一人、夢琴香奈天と名乗った彼女をのぞいて‥‥。

 テーブルが倒れていない。
 弾痕もない。
 窓ガラスも割れていない。
「大変だったわね。最近、最新科学テクノロジーと古代魔術の融合を目論んでいる組織がいるとは聞いたけれど、精神領域にここまで侵蝕していたとはね。マシナーズ・ソーサリー ――シンクロナイズド・ドリーマーと言ったところかしら」
 “夢世界”に踏み込むにはまだまだ甘いようだけれど、といって少女はこちら歩きながら勝手にコーヒーを注文した。
「本来は『水星の石』だけを用いたテストのつもりだったんだけれど、思わぬゲストのせいで、ちょっとだけ危険な目にあわせてしまったわね。ごめんなさい」
「ちょっとじゃないかな。酷く痛かったんですから」
『気にすんな。コイツはいくら殺しても死なないからさ』
 縁樹とノイのやり取りに少女は自嘲した。
「やっぱり遅刻はいけないわね――寝過ごしてしまって。これはとりあえず私からのささやかなお礼よ。ふふ」
 といって、全員に濃い目の珈琲が奢られた。
 ちゃんとした報酬は後ほど払わせてもらうから、などと呑気なことを言っている。寝ぼけているのは一体どっちだか。
 ああ、自己紹介がまだだったわね、といい彼女は腰に手をあてる。
「初めまして、“本物の”夢琴香奈天です。色々と副業もしていまして、今日はその関連で――」


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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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【整理番号 / PC名 / 性別 / 年齢 / 職業】

【1431/如月・縁樹/女性/19歳/旅人/きさらぎ・えんじゅ】
【1449/綾和泉・汐耶/女性/23歳/都立図書館司書/あやいずみ・せきや】
【1883/セレスティ・カーニンガム/男性/725歳/財閥総帥・占い師・水霊使い】
【2496/片平・えみり/女性/13歳/中学生/かたひら・えみり】
【2557/尾神・七重/男性/14歳/中学生/おがみ・ななえ】


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■         ライター通信          ■
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 こんにちは、初めまして。
 皆様を担当させていただきました雛川遊です。
 ライターとしての初執筆になりますが、楽しんでいただけたら嬉しいです。
 このシナリオはカノンのMIDIを聴きながら書いていました。オルゴールバージョンですけれど――。
 今回の事件で明らかになった情報は、異界〜剣と翼の失われし詩篇〜のほうでも一部アップしていく予定です。興味をもたれた方はぜひ一度遊びに来てください。

 それでは、あなたに剣と翼の導きがあらんことを祈りつつ。


>如月縁樹さん
 初めまして、ご参加ありがとうございました。
 ノイ君をしゃべらせた割に口調が心配‥‥イメージに合っているとよいのですが(汗)