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<東京怪談ウェブゲーム あやかし荘>


『奴をぎゃふんと言わせるのぢゃ』
 あやかし荘管理人室では今日も因幡恵美と嬉璃がこたつに入りながらテレビとみかんを楽しんでいた。
 と、そこでなんだか気の重そうなドアをノックする音が響いた。
「ん? 誰だろう?」
 恵美がこたつから出て、ドアを開ける。そこに立ってたのは真っ青な顔をした三下忠雄であった。
「あら、三下さん、どうしたんですか?」
「え、あ、いや、あの実はちょっと相談がありまして・・・」
「相談?」
 恵美はちょこんと小首を傾げる。
「ええ、あの・・・」
 三下はこたつに入りながらお気に入りのテレビショッピングを見ている嬉璃を気にしながら言う。
「えっとですね。実は僕の大学時代の友人がテレビ局に勤めてるんですけど、今度お正月明けの特番で超常現象を取り扱った番組をやる事になって。それでW大学の心霊否定派小槻教授対あやかし荘っていうコーナーをやりたい・・・って・・・・・・・・・・・ダメですよね?」
 恵美はものすごく嫌そうな顔をした。嫌そうな顔をしたのだけど・・・
「ふん、面白いではないか。小槻教授とはあの火の玉はブラズマとかって言ってる奴ぢゃろ。あやつはわしらの存在を信じようとはせんからな。前々からぎゃふんと言わせてやりたかったんぢゃ」
 いっひっひっひと笑う嬉璃に恵美は思いっきり眉間に皺を寄せた顔を片手で覆い隠しながらため息を吐き、三下は何かとても怖い物を見たような顔をしたまま固まった。
 こうしてあやかし荘では嬉璃の指揮の下に冥府へと続く数とされる四にちなんだ四つの部屋で心霊否定派の小槻教授をおもてなしする事になった。
 さてさて、どうなることやら。

【お誘い】
 今日もたくさんの男たちに最高の快楽と痛みを感じさせた愛はお仕事後の心地よい開放感と充実感を感じながら、帰宅するためにロッカーで私服に着替えていた。
「ねえねえ、愛さん。今日は帰りに家に寄って行きませんか? 前に愛さんが見たいって言っていた親指タイタニックをゲットしたんですよ」
「え、本当に? わぁー、見たい。見たい。ぜひ、行かせてもらうわ」
 お互いぐぅっと親指を立てながらにこりと微笑みあう。
 そしてそれに同調した他の数人の女の子と共に店から出た愛はしかし、怪訝そうに眉根を寄せた。自分たちよりも先に出た娘が何やら不安そうな様子で、店の裏口の前でうろうろしているからだ。
「どうしたの?」
「あ、愛さん。実は、なんか面の道で挙動不審の怪しい男がいるんです。なんか気持ち悪くって」
 その子は店の女の子の中でもカリスマ的存在の愛の服を幼い子どものように震える手で掴みながら、怯えた声を出した。
「え、やだー。ストーカー?」
「あ、ほら、あれじゃないですか? 前に噂になった男」
 女の子たちはあーだこーだとその怪しい男についての見解を発する。
 それを黙って聞きながら赤い髪を掻きながら情熱という言葉を持つルビーかのような瞳を細めながら愛はふむと頷く。
「OK。その男が何者であれ、とにかくあたしが話をつけてきてあげる。このままじゃ帰れないしねー」
「え、でも、危ないですよ、愛さん。ナイフでも持っていたら」
「大丈夫。あたしの鞭捌きに敵う奴なんかいないわよ」
 美しいくびれをなす腰に巻きつけられた鞭を戸惑う女の子たちに見せながら愛は不敵に笑って見せた。
 それでも店の男たちを呼んでくるべきだとか、いやいや警察を呼ぶべきだとかという女の子たちの制止を振り切って、愛はすたすたと実にあさっりと表通りに出てしまった。
(まあ、そんじょそこらの変態君なんか比べ物にもならない怪現象をこれまでいくつも体験してるからね)
 いくつかの修羅場を越えてきた事と、自身も言っていた通りの鞭捌きの自信を胸に愛が、なるほど、何やらもじもじと店の前を行ったり来たりしている男に声をかけた。
「ちょっと、あんた。もう店の営業時間は終わったよ。健全なプレーを楽しみたいならまた、明日来なさい。そしたらあたしが最高の快楽と痛みを感じさせてあげる。だけど変態ストーカー君なら、今この場で死んだ方がマシだって思える痛みだけを感じさせてあげる。そう、どんなM君でも断末魔のような悲鳴をあげる鞭を堪能してみる♪」
 べろりと真っ赤なルージュが塗られた唇を妖艶に舐めながら、愛がそう言うと、男はみっともなくも腰を抜かしたようで、その場に座り込んで両手を前にあげながら、懇願した。
「あ、あ、いや、僕はそんなんじゃなくって、ちょ、ちょっと知人を待ってただけなんです!」
 しどろもどろにそう説明する男にしかし、愛は見覚えがあった。
「って、あんた、三下じゃん」
 その声に三下はあからさまにほっとした表情を浮かべた。眼鏡の奥にある目には涙が滲んでいる。よっぽど、背後から聞こえた声が怖かったのだろう。
 愛はそんな彼ににんまりと微笑んだ。
「わわぁ。三下、とうとう、あんたもこっちのプレーに目覚めたんだね。いーよ。特別友人サービスで、今から店に残っている女の子たち全員でたっぷりといじめてあげる。目覚めた記念だ♪」
 意外に力強い愛の手に手首をつかまれてひっぱり起こされた三下は悲鳴をあげた。
「わわ、ちょ、ちょっと、愛さん、違う、違う。目覚めてません。目覚めてなんかいませんって」
「ん?」
 三下を店の裏口へと引っ張っていた愛が足を止めると同時に再び三下はその場に座り込む。
「なに、あんた。碇女王やあやかし荘の女王様たちの言葉プレーでは満足できなくなったからうちに来たんじゃないの?」
「ち、違いますよ!!! 僕はノーマルです。ただのいじめられっ子キャラですよ」
 なんとなくいじけた様子でそう言う彼に愛は苦笑いを浮かべる。そしてふぅー、と吐いたため息で前髪をふわりと浮かせながら、
「んじゃ、どうしたの?」
「あー、えっと、嬉璃さんからの手紙を届けに来たんですよ」
「嬉璃さんからの手紙?」
 渡された手紙を目で追っていくうちに愛の赤い髪に縁取られた美貌はものすごく悪戯っぽい表情へと変わっていく。それはまるでプレールームで、新たな境地を開発されていく喜びに打ち震えるM君を見ている時に彼女が浮かべる表情のようだ。
「あら、面白い♪ あたしもその、教授さんにお逢いしてみたいわ♪ あたしのこの能力、ぜひとも解明していただこうじゃないの」
 三下がびくっと大きく震えたのは手の平を見つめながらどーせわかるわけないのでしょうけど的な笑みを浮かべた彼女がものすごく楽しそうに見えたからだ。これから魔界から人間界に降りてこようとする魔王はきっとこんな笑みを浮かべているに違いない。
 そして彼女はちろりと、三下を見た。
「じゃあ、景気付けに三下、あんたに言葉プレーだけじゃない新たないじめられっ子キャラの喜びを感じさせてあげるわ」
「え?」
 愛は鳩が豆鉄砲を食らったかのような表情を浮かべる三下ににこりと笑うと、愛を心配して表通りにそれぞれの仕事道具を持ってちょうど出てきた女の子たちににこりと微笑んだ。
「皆、あたしの友達をこれから開発するから、手伝ってーーーー♪」
 三下は目が点になって・・・・
「ななななぁぁぁぁーーーーーーーーお母ぁさぁーーーーーーーーーん」
 悲鳴をあげた。無論、その悲鳴は数分後には嬌声に変わるのだが、これはここだけの秘密である。

【挨拶】
「小槻教授」
「ん?」
 あやかし荘の前で番組スタッフと打ち合わせをしていた小槻教授は、どこかで聞いた事があるような声で呼びかけられたので振り返ってみると、そこには濃紺色の着物を着た赤髪の美しい女性が立っていた。そして彼女を見た小槻教授は顔を綻ばせる。
「おお、これは藤咲。藤咲愛君ではないかね」
「お久しぶりです、小槻教授」
 濃紺色の着物を着た女性、藤咲愛はにこりと艶っぽく赤髪を掻きあげながら頭を下げた。
「どうして君がここに?」
「はい。実は、今日はあやかし荘の代表として、小槻教授のご案内役をすることになったんです」
「ほほ。それはそれは。いいだろう。ではでは、君が学生であったときかのようにこの私の講義を聞かせてやろう」
「まあ、小槻教授。楽しみですわ」
 豊かな胸の前で両手をあわせて喜ぶ愛に、小槻教授はご機嫌そうに腰に両手を置いて大声で笑った。
「任せておきたまえ」

【故郷の間】
「古来より四という数字は冥府に通じる数とされています。ですから今回、このあやかし荘で起こる心霊現象を調べに来た小槻教授には四つの部屋を見ていただきます。四つの部屋。四。四つ目の部屋は死界に続くかもしれませんね」
 玄関をくぐって、愛は着物の裾を洗練された動きでおって、床に膝をつくと、小槻教授のために来客用のスリッパを出した。
 小槻教授はスリッパを履くと同時に自分の前で跪く愛の着物の胸元から覗く豊かな胸の谷間を覗こうとする。
 そんないやらしい視線はだけど職業柄お手の物。さしてショックも動揺も感じずに何気ない仕草を装って、立ち上がろうとすると同時に着物の服の袖から暗器が飛び出るかのように出た蝋燭で、素早く小槻教授の股間を殴っておいた。
「ぎゃぁぁーーー」
「な、なになに? どうしたんですの?」
 そして何食わぬ顔で、愛は凶器である蝋燭を再び服の袖に隠して、不思議そうな顔をする。
 自身でも何が起こったのかわからぬ小槻教授は何やら腰を引いて、油汗が浮かんだ顔に歪んだ笑みを浮かべた。
「いや、何でもない。そ、それよりもそれは君にも講義した陰陽道の考えだな。覚えとるか? 私は講義で陰陽道とはさもおどろおどろしい物のように言われているが、私たち科学者に言わせればあれも立派な科学だと説明したことを」
「はい。心理学に、暦学。統計の理論に裏打ちされた学問なんですよね」
「ふむ」
 小槻教授は満足げに頷いた。そしてセクハラ紛いの手つきで愛の背中を触る。
「ちゃんと覚えておったようだな。感心。感心」
 笑う小槻教授。愛はいつの間にか腰下からの優雅なラインに沿って動き出した小槻教授の手に、片方の眉の端を跳ね上げると同時に、アップした髪に隠しておいた針で、さりげなく小槻教授の手を「お悪はダメですよ、小槻教授」と言いながらどかす時に深く刺してやった。
「あぎゃぁ」
「ささ、それでは第一の部屋に」
 愛はにこりと笑って、手を押さえる小槻教授を置いてけぼりにする勢いで前に歩き出した。
「ここが最初の部屋です」
「ふむ。では、さくさくとこの部屋のトリックを解明してみせよう」
 と、彼が嘯いた瞬間、突然、声が響いた。
「ふむ、これはこれは頼もしい」
 そこには桃色の着物を着たイヴ・ソマリアがいた。そして彼女はにこりと小悪魔っぽく微笑む。
「それでは私の部屋を小槻教授に見てもらいましょう。でも、その前に、小槻教授。この世界には理解も説明もできない事ってあると想いませんか? 実は異世界からこの世界を調べに来ている者がいるとか?」
 小槻教授は鼻を鳴らした。
「ふん。何が異世界だね。そんな物はありはしないよ。君は確かアイドルのイヴ・ソマリアだね。ん、今度、映画か何かでそんな物でもするのかね、君は? そんな物はくだらん漫画や小説を書いている人間の頭の中だけに存在するものだよ。そんな低レベルな事を言っていたら、いい役者にはなれんぞ。ほれ、この私の書いた『どーんとこい、超常現象』を読みたまえ。他の人間がきゃーきゃーと騒いでいる超常現象のトリックについて書いてあるから。異世界なんぞありはしないよ」
 異世界など無いと言う小槻教授の発言はもちろん、イヴの逆鱗に触れた。
 愛は苦笑しながら肩をすくめる。
(あー、イヴも修行が足りないね。キレちゃった)
 自分でさんざん家族の悪口を言っておいて、それに同調した聞いていた人間に目の前で自分の家族の悪口を言われた時かのようなにっこりとした笑みを浮かべて、イヴはドアノブを手で指し示した。
「これは【故郷の間】でございます。ささ、ここは小槻教がお開け下さいな」
 ちょっと小槻教授はむっとしたような表情を浮かべながら、ドアノブに手を触れて、
「あ、ちょっと待って下さい。バックドラフト現象があるやもしれませんので、慎重にお開け下さいね」
 にこりと笑ったイヴに小槻教授は小馬鹿にしたように鼻を鳴らして、ドアを勢いよく何の躊躇いも無しに開いた。
 せっかくの忠告に対する小槻教授のあまりもの態度の報いはやはり世の常で悲惨な物であった。
 その転瞬、
「おわぁぁあぁあああーーーーーー」
 ドアを開いた部屋の中に溜まっていた水が勢いよく滝のようにへ? と鳩が豆鉄砲でも食らったかのような顔で立っていた小槻教授を直撃したのだ。迸る水の中で左手で頭を押さえながら彼は悲鳴をあげながら、右手で苦労しながらすぐさまドアを閉めた。
 いったいどこから出したのか、開いた傘を身体の前に広げていた愛とイヴはにこりと笑う。
「ああ、大雨注意報でしたわね♪」
「びしょ濡れですわね、小槻教授」
 小槻教授は口の中に入った小魚を咳といっしょに吐き出しながら、目を白黒させた。
「な、なんなんだ、この部屋は水道管が壊れているのかぁ?」
 しかし、愛はまったくもって相手にしない。
「あらあら、服がびしょ濡れ。乾かさないとね。今度こそ、バックドラフトにお気を付けてくださいましね♪」
 にこりと笑ったイヴは小槻教授が何かを言おうと口を開きかけた瞬間に部屋の扉を開けた。
 瞬間、扉を開けた部屋から飛び出したのは肌が焼けるような熱風だ。それだけで全身ずぶ濡れだった小槻教授の服は乾くが、
「おわぁーーー。火事ぃだーーーー」
 今度は部屋の中が火の海だった。小槻教授は焦りまくった声で叫びながらドアを閉めた。爆ぜる炎の火の粉はまるで生きているかのように閉まるドアの隙間から小槻教授の黒々とした豊かな頭の毛に舞い飛ぶ。
 イヴはわざとらしくにこりと笑いながら、
「あら、なんか焦げ臭くありません、小槻教授?」
「あら、ほんと。焦げ臭いですわね。まるで何かの化学繊維が燃えているみたい」
「焦げ臭い? それよりも私はなんだか頭が熱いよ」
 その場に腰が抜けたようにぐったりと座り込んでいた小槻教授は何気なしに頭に手をやった。・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・やって、
「ぎゃぁーーーーー」
 悲鳴をあげた。なんと彼の頭が燃えているのだ。
「まあ、大変。小槻教授の髪が燃えているわ。これはまた部屋のドアを開けねば」
「そうですわ。イヴさん、早く」
 イヴはわざとらしく狼狽しまくった声をあげながら、部屋の扉を開けようとして、それを見た小槻教授は悲鳴をあげながら、手が焼けどするのもかまわずになんと燃える髪の毛を手で掴んだ。そう、彼はかつらだ。
「ま、待てぇ! 早まるな。もう頭は燃えておらん」
 燃えるかつらを放り投げて、小槻教授は叫んだが、愛はにこりとサディスティックに笑って、
「水道管が破裂してるんですよね?」
 と、ドアを開けた。
「ま、待てぇーーーー。水道管が破裂した部屋の後に部屋が燃えていただろぉぉぉーーーー」
 それはつまり部屋のドアを開けるたびに部屋の中が変わっていたことを認めたという説明で、そして、
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
 彼は大きく口を開けたまま固まった。
 迸る水は無かったが、しかし彼の体は濡れていく。べっとりと。
 空気が飽和しきれぬほどに満ちていく獣臭の中で愛は、着物の袖で鼻と口を隠しながら、べとべとになっていく小槻教授の姿に愛の女王様ゲージが30パーセント溜まった。

【風の間】
 お風呂上りの小槻教授を待っていたのはその明るい美貌によく似合う橙色の着物を着た美人の女性であった。
 青い目を悪戯好きそうに細めた彼女は小槻教授にぺこりと頭を下げる。小槻教授は無視。
 そんな彼にその玄関に佇む美人さん、風祭真と見合わせた顔に愛は苦笑いを浮かべた。
「小槻教授」
 愛は彼ににこりと嫣然に笑いかけ、
「こちらは第二の部屋を担当する風祭真さんです」
「ふむ」
「ささ、私の部屋に行くわよ、小槻教授」
 真はにこりと笑いながら、そう言うがしかし、その青い色の瞳に宿る光はどこかものすごく挑戦的な光だった。
 腕組みしながら愛はうんうんと頷く。さあ、二発目の部屋では何が起こるのだろうか? 愛は楽しくってわくわくしてきた。
「ささ、小槻教授、こちらに」
「ふ、ふむ。わかっておる」
 ぞんざいな声でそう答えた小槻教授はふんと鼻を鳴らして、足を前に動かそうとする。が、しかしどうしたことだろうか? 前を歩く真に続いて歩く愛が後ろを振り返ると、自分についてきているはずの小槻教授がまったく前に動いていない。
「どうしたのかしら、小槻教授。ささ、早く行きましょうよ」
 振り返る真。
 小槻教授は「わかっとる」と叫ぶ。
 しかし愛が見るに明らかに彼は狼狽しまくっていた。
(どうなってるのかしら?)
 愛は首を傾げる。
 一生懸命足を前に動かしているのにしかし、彼の身体は前には動かない。これではまるで・・・
「ルームランナーで走ってるようね」
 彼女はその魅力的なプロポーションを維持しまた、濃密なプレイをお客に提供するためのスタミナ作りとでスポーツジムの会員になっていた。彼女はそのスポーツジムにあるルームランナーでよく走ってるのだが、一生懸命足を前に動かしているのにしかしまったく全然前に進まないあの様子はまるでそれのようだと彼女は想った。そして実はそれは正解なのだ。
 風祭真。彼女は風を操る。古神である彼女のおもてなしは実はもう始まってるのだ。教授の足下と廊下間にごくわずかな隙間を風で作り出し、ルームランナーのごとく歩いても歩いても前に進まない廊下を作り出しているのだ。
 それをこっそりと耳打ちで教えてもらった愛はぱちんと手を叩いて、喜んだ。そして挑戦的な小悪魔のような笑みで教授に話し掛ける。
「小槻教授、いかがいたしました?」
 部屋の扉の前にまで行っていた愛はわざわざ小槻教授の前まで戻ってきて、小首を傾げる。その時はもう腰を曲げてはあはあ肩を揺らして荒い息をついていた小槻教授は、生来の負けず嫌いと、こんなのは認めたくないという想いとで、顔をあげて、ふんと鼻を鳴らした。
「どうもしとらん。ただ、足の運動をしておっただけだ」
 そう言いながら彼は足を前に恐る恐る動かした。足を大きく前に踏み立たせて、そしてつま先を恐る恐る床につける。今度は前に進めた。
「どうしました? なんだかとても不思議そうな表情をしてますけど? まるで初めて火を見たブルドック・・・ああ、違う。サルみたいに」
「ブ、ブルドックとは何だねぇ? ブルドックとはぁ?」
 愛はくすりと笑う。そうこれは彼女が学生時代の時からの小槻教授の仇名なのだ。
 怒鳴る小槻教授に愛は笑いを堪える表情を浮かべながら、謝る。
「す、すみません」
 担当教官の欄にブルドックと悪口を書かれた小さな長方形の紙(大学の出席表)をくしゃくしゃに握り締めながら顔を屈辱に真っ赤に染めている彼を想像して、愛はぷっと吹き出してしまった。
 むぅっと顔をしかめさせた彼に愛は部屋の前で自分たちを待つ真と見合わせた顔に最高のイイ笑みを浮かべた。
「ささ、小槻教授。最初の部屋はここですよー♪」
 愛はすっかりとバテている小槻教授の腕を取って(元気が出るようにさりげなく二の腕の部分に胸を押し付けながら)、彼を手招きする真がいる部屋の前までエスコートした。
「【風の間】か」
 小槻教授はにこにこと笑いながらなぜか扉から一歩横にどいた真と、彼女に手を引かれた愛になんの訝しみも持つ事無く、無造作に扉を開けた。転瞬、
「おわぁーーー」
 まるでストローでグラスの中身を吸い込むかのように彼の身体はものすごい勢いで部屋の中に吸い込まれんとする。
「な、なんじゃこれはぁーーーーー」
 小槻教授は本能で部屋の扉にしがみついた。もちろん、部屋の扉は閉まろうとするから、彼は短い足を懸命に伸ばして部屋の出入り口に足を引っ掛けなければならない。そうなると彼の体勢という奴は弓なりになる。ぐきぐきと彼の腰が鳴るが、しかし手を離せば、彼の身体は部屋の中心でぐるぐると回っている机や椅子、タンスにテレビといった物たちと同じ運命をたどることになるのだから、だから彼は体裁など気にせずに懸命に堪えた。
 そんな彼の様子を見ながら、愛と真は形のいい口に軽く握り締めた拳をあててふむと頷く。
「あら、結構頑張るのねー。でもそろそろ扉にしがみつく手が疲れてきたんじゃないかしら? 足も腰も限界でしょうに」
「ほんとにほんとに」
 意地悪く笑いながら真は扉にしがみつく彼の右手の指を一本一本剥がしていく。
 そして愛も火を付けた蝋燭から垂れる溶けた蝋を小槻教授の左手の甲にかけてやった。
「お、おわぁ、こら、やめろ。やめなさい」
 小槻教授が悲鳴をあげるも、愛も真も聞く耳を持たない。ああ、哀れなり。小槻教授の手の指すべてが扉から離れた。
 彼の身体は部屋の中に吸い込まれる。
「ぎゃふん」
 愛と真が部屋を覗くと、踏まれた雄豚そっくりの声をあげた小槻教授は畳の上に転がっていた。
 愛と真、二人はくすくすと笑いながら部屋に入ってくる。
 プライド高い小槻教授はいつまでもそんなみっともない姿を見せるなど我慢できない。何とか立ち上がろうとするが、しかし・・・
「どうしたんですか?」
 愛がちょこんと小首を傾げて、さらりと揺れた赤い髪の下にある美貌に嫣然とした笑みを浮かべる。どうやら真はもう既にまた新たな悪戯を仕掛けているようだ。
 小槻教授は、
「うっるさい」
 と、金切り声をあげる。
 そんな彼の顔には渋面が浮かんでいた。
 彼は自分の身に起こっていることがわからない。いったいどんな事が彼に起こっているのかと言うと、実は・・・
「ふふん。動く訳が無いわよね。だって、私の調合した痺れ薬をたっぷりとそのお鼻から吸い込んでもらったんだから」
「ああ、なるほど。痺れ薬。それはいい案だわ」
 くすくすと意地悪く笑う真は仕上げに、ぱちんと指を鳴らした。
 転瞬、彼が、
「ぎゃぁーーーー」
 と、悲鳴をあげて、その自分の声がうるっさいわけでもないのだろうが、耳を押さえて、畳の上をごろごろと転がり出す。
「なになに、何があったの?」
 きゃっきゃと騒ぎながら訊く愛に、真はウインクして、そっと耳打ちした。
「ああ、言葉プレーね」
 ほんの少し女王様モードに入った愛はぺろりと唇を舌で舐めながら嫣然と呟いた。ただいまの女王様ゲージ60パーセント。

【酒池肉林の間】
「小槻教授。次はお昼ご飯を食べながら検証していただきますね。次の部屋で出される料理はあたしと今の部屋の担当だった風祭真さんとで作ったんですよ♪」
 愛はにこりと笑った。
「ふむ、気がきいとるな」
 傲慢な大学教授の小槻教授は鷹揚に頷いた。
 こんこんと第三の部屋をノックすると、
「はい、どうぞ」
 きっちり30秒後に清楚な声で返された丁寧な返事がした。
 ドアを開けると、藍色の着物を着た異国和風美女が三つ指ついて出迎えてくれた。
「これはこれは、小槻教授。ようこそ、このわたくし、モーリス・ラジアルが担当する部屋へおこしくださいました。ささ、昼食の準備ができあがっております」
 金髪に縁取られた美貌に清楚な笑みを浮かべて、だらしなく鼻の下を伸ばしている小槻教授の手を恥ずかしげに取って彼を部屋の中に案内しているモーリスを見て、真は噴出しそうになった。
(まったく。モーリスも罪作りな奴よね)
 彼女はモーリスの性格を知ってるので、ここは黙ってモーリス流の接待を見物する事にした。
 その部屋は畳張りの純和風の部屋であった。いぐさの良い香りが鼻腔をくすぐる。
「良い部屋だな」
 彼はしみじみと言った。
 アロマテラピーという言葉を知っているだろうか?
 当然、モーリスはその手の事についてもプロであった。計算され尽くした香りは小槻教授の疲れた心を癒した。
「ささ、小槻教授。お座りくださいな」
 モーリスは小槻教授に席を勧めた。
 そして彼を上座に座らせると、
「さあ、グラスを」
 愛もモーリスにならって小槻教授の体にべったりと体を寄せる。
「おととと」
 グラスから溢れそうになるビールの泡を慌ててグラスにつけた口で啜る小槻教授。
 そして彼は横目でちらりと自分の太ももに白くしなやかで小さい手を乗せるモーリスを見ながら、ビールをいっきにあおった。
「わぁー、すごい。すごい」
 愛は手をぱちぱちとさせて、声をあげた。そして「ささ、もっともっと飲んでくださいまし」
 と、彼のグラスにビールを注ぐ。両手に花で小槻教授は調子に乗って、どんどんとビールを喉に流した。
「うん、美味いなこのビールは」
「はい。私の勤めている所の主が作らせている最高級のビールですのよ」
「ほぉー。こだわっているのですな」
 彼はごくごくとまた注がれたビールを飲んだ。
 愛がにこにこと微笑みながら見ている前で、モーリスは彼に艶っぽい微笑を浮かべながら訊く。
「そうそう、小槻教授。実はそのうちの上司が最近、なぞなぞが大好きになりまして今、私、彼に宿題を二つ出されていますの」
「ほほう。なぞなぞですか」
 小槻教授はモーリスに豪快に胸を叩いて請け負って見せた。
「まあ、そのなぞなぞという奴を私に出してください。解いてみせますよ」
「まあ、嬉しい」
 胸の前で両手を合わせてそう言ったモーリスにでれっとした笑みを浮かべる小槻教授の隣で愛は噴出しそうになった。
「それでは問題。車とゴルフにはあって、バイクと卓球には無い物はなんでしょう?」
「な、なな?」
 どうやらわからないようだ。
(やーね。口先だけ?)
 くすりと悪戯っぽく笑う愛に小槻教授は不機嫌そうに鼻を鳴らす。
「モーリスさん。次の問題を」
「では、次は5−3=2 8−9=11 9+6=3 さて、では、8+6=? ?には何が入るでしょう?」
 にこりと笑うモーリスに小槻教授はしかめっ面。酸素不足の魚のように口をぱくぱくとさせている。 
「これは私からの問題です。私は実は小槻教授に隠し事をしています。それは何でしょう?」
「ふ、ふむむ?」
 小槻教授は眉根を寄せながらモーリスを見るも、その目はモーリスの美貌と、豊かな胸を見るうちにまったく違うものになっていた。
 モーリスはにこにこと笑いながら鯛のお刺身を箸で摘まんで、気にせずにそれを小槻教授の口に運ぶ。
「まあ、時間はまだまだありますわ。美味しいお食事を食べながら考えてくださいまし。この料理は【丼亭・花音】の雇われ店長さんの風祭真さんとそこにおられる愛さんが拵えたんですのよ。さあ、どうぞ」
「うむ。美味い」
「わぁ、嬉しい」
 愛は真にわけてもらった痺れ薬をこっそりとビールに入れて、勧める。
「ささ、小槻教授。ビールを」
「まあ、見てください。教授。この海老、まだ生きてますわ」
 モーリスはぴちぴちと動く海老を手で取って、頭をもぐと、慣れた手で、皮を剥ぎ、足をもいだ。
「さあ、あーんしてくださいな、小槻教授」
 美女二人に勧められる度に顔をだらしなく崩しながら、それを食す小槻教授。
 そしてデザート。
「次はデザートですわ、小槻教授」
 モーリスはたおやかに微笑む。
「ふ、ふむ。デザートですか。それはたのしみですな」
 愛はそう笑う彼に寄りかかりながら、そっと耳に吐息を吹きかけながら、言う。
「デザートはあたしたちふ・た・り・ですよ♪」
「な、ななな」
 思わず小槻教授は叫んでしまい、そしてその鼻の穴からは鼻血が迸ってしまった。
 それに愛はくすくすと笑いながら、
「いやだ。冗談ですよ。冗談」
「そうですよ。デザートはケーキです」
 残念そうな小槻教授にモーリスはくすりと笑いながら着物の懐からメスを取り出すと、それを華麗に指先でくるくると回しながら、ケーキを切った。
「あらあら、口の周りにクリームが」
 着物の袖を押さえながらモーリスはもはやどうしようもないほどにだらしなく崩れまくった小槻教授の口の周りをハンカチでふいた。
「ふむ。しかし、この企画はどうしようもなくくだらない企画だったが、この部屋は別格。別格。モーリスさんは美人だし、藤咲君の料理もお酒も美味い。花の香りも良いし。まるで天国かのようですね」
 帰り際、痺れ薬のせいでふらつきながら部屋の扉を開けた小槻教授は人差し指の先で眼鏡のブリッジを押し上げながら、にこりとご機嫌そうに笑った。
「それで、あの、モーリスさん。もしもよろしければこの後に藤咲君と一緒に今度は私が常連になっているホテルのバーに行きませんか?」
 その後に何を期待しているのか、小槻教授は鼻の穴を広げて、モーリスを誘った。愛は苦笑い。自分はそれを了承した覚えは無いのだが。
 しかしこれにモーリスは微笑んで、
「ええ、私が出したなぞなぞに答えられたらね。それで先ほどの3つはわかりました?」
「ふむ。わかりましたぞ。しかし、どうも最後のなぞなぞの答えがわかりません」
 鬼の首を取ったかのように最初の二問を答えた小槻教授はしかし、最後の問題が解けなかったと、とても残念そうな表情を浮かべた。それはまるで飴を取られた子どもの表情だ。しかし、愛が意地悪く笑っているのはその表情がおかしいからではなく、
「ああ、OK。いいですよ、別に。答えはこういう事です」
 小槻教授の眉根が怪訝そうに寄せられたのは今までたおやかで清楚な微笑を崩さなかったモーリスがにんまりと微笑んだからだ。その笑みは彼にイヴに知恵の実を食べるように勧めたヘビは絶対にこんな笑みを浮かべていたに違いないと確信させるような笑みであった。
 彼はすっかりとその笑みにノミの心臓を再びばくばくさせながら、
「モーリスさん?」
 と、彼女を呼んだ。彼女? いや・・・
「はあ? えっと・・・」
 愛は大笑いし、小槻教授は大きく口を開けた。なぜなら、彼が瞬きしたその一瞬に、
「最初に出したなぞなぞ二問の答えはわかっても、ずっと私があなたに仕掛けていた悪戯にはとうとう気づけなかったようですね♪」
 スーツを着込んだモーリスはどこからどうみても男であった。そう、リライト=彼は自身の姿を思うままに変化可能なのだ。
「罰ゲームです」
 ぱちんとモーリスが指を鳴らした瞬間に、アークが発動する(アーク=霊的・有機・無機に関わらず閉じこめる檻を創造。視界内なら可能)。
 実は小槻教授は先ほどまでの女であったモーリスに惚れていた。惚れていたからこそ、彼は絶望のどん底のまたそのどん底に陥れられた。
 檻の中の彼を見つめるモーリスはにこりと微笑んだ。悪魔が天使を装って人の前に現れるというのなら、それは今のモーリスにそっくりであろうと愛は想った。女王様ゲージはもう90パーセントに達していた。

【快楽の間】
「ささ、小槻教授。こっちにどうぞ♪」
 愛は小槻教授の手を握って彼を最後の部屋へと案内する。
 と、どこかからかとても綺麗な歌声が聴こえてきた。しかしそれはその透き通るような美しい声とは裏腹にとても哀しくなる歌詞であった。
「レクイエムですわね、これは」
 愛は人差し指で前髪を掻きあげながら、言った。
 どうやら歌声は愛の部屋の2つ隣の部屋から聴こえてきている。
「この部屋からか?」
 小槻教授は部屋のドアに耳をあてながら、言った。
 と、その彼の声がドア越しに中に聞こえたのであろうその瞬間に、部屋の中から聴こえてきていた歌声が途切れた。
 愛が部屋のドアを開けると、その部屋には嬉璃がいた。大人ヴァージョンの色っぽい彼女の美貌には先ほどまで聴こえていたレクイエムに相応しい哀しげな表情が浮かんでいる。そして彼女の白く小さな手の平の上には翼を汚したカナリアがいた。おそらくは近所の野良猫にやられたのだろう。
「歌姫はその子のためにレクイエムを?」
「うむ」
 嬉璃は頷いた。歌姫は恥ずかしがり屋だ。だから扉の向こうに大勢の人間がいるのを知って、消えてしまったのだろう。
「早く次の部屋に行くぞ」
 小槻教授がぞんざいな声でそう言う。彼には消え逝く哀れな命への想いという物は無いらしい。
 そして、愛はそんな彼ににこりと笑った。
「ちょうどいいですわ、小槻教授。あたしの部屋に行く前に、あたしの能力を見てください」
 愛は嬉璃の手からカナリアを受け取ると、その能力を発動させた。
 瞬間、とても痛そう苦しそうに断末魔かのような声をあげていたカナリアも愛の手の中で、先ほどまで聴こえていた歌姫の歌声に勝るとも劣らない声で鳴き始める。
「これは・・・」
 小槻教授はその現象に眼鏡のブリッジを人差し指で押し上げながら、絶句した。蝋燭の炎は消える瞬間に大きく燃え上がるという奴なのであろうか?
「う、うむ」
 そんな彼を安らかに天国へと旅立ったカナリアを嬉璃に渡しながら横目で観察する愛はにやりと口の片端を吊り上げる。もはや女王様ゲージは100パーセントだ。
「今、このカナリアに起こった現象を小槻教授はどう説明しますか?」
 嫣然とした微笑は挑戦的だった。
 小槻教授はごほんと咳払いして、
「き、きまっとる。これはあれだ。そう、あまりにもひどい痛みに脳がその痛みを感じなくさせるために快楽を感じるホルモンを出したのだよ。そう、ただそれだけだ。そうにきまっとる」
「そうですか。ならばその説、ご自身のお身体で正しいかどうか検証してください」
 にこりと笑うと、愛は着物の帯を外し始めた。
「な、なな」
 小槻教授はあらわになっていく愛の白い肌やたわわな胸にごくりと生唾を飲み込む。
「い、いかんぞ、藤咲君。き、君は私の教え子だ。聖職たる教師という身分についている以上、元とはいえ教え子とそんな関係になどなるつもりはない」
 くるりと半ターンして、そう彼は毅然と言い切った。声は実に残念そうだが・・・いや、
「あー、でも、なんだ。君がどうしてもというのなら・・・私も男だから君に恥をかかせる訳にもいかないから・・・一度くらいはベッドの上で君に特別講義を・・・」
 愛はくすりと笑う。
 同時に部屋に響いたぱしんと、鞭がしなる音。
 鞭がしなる音?
 小槻教授は不思議そうに振り返った。そして大きく顎を落とす。
「な、ななな、なんじゃその格好は?」
 肩にかかる赤い髪を後ろに払いながら、赤いルージュが塗られた唇を妖艶な舌使いでぺろりと舐めた愛は挑発的に逸らした美貌に営業用の女王様スマイルを浮かべる。
「お仕事の格好ですわ」
「お、お仕事ぉ?」
「そう、お仕事。あたし、藤咲愛は誰が呼んだか今では歌舞伎町にあるSMクラブ『DRAGO』のナンバー1女王様、ひと呼んで夜の赤い蝶。さあ、小槻教授。あんたの理論、正しいかどうか、この女王様がためしてやるから、こっちにおいで。そう、死界に繋がるかもしれない最後の部屋にね」
 完全に表情も口調も営業用に変えて、愛は今まで触れた事の無い世界にびびりまくる小槻教授の手を引っ張って、自分の部屋に連れ込んだ。
「な、なななななぁぁぁ」
 そこには今まで時折、バラエティー番組などで見るSMの道具が所狭しと置かれている。
「さあ、まずは木馬に乗りな」
 いつの間に履いたのか、愛にヒールの高い靴で尻を蹴られた小槻教授。だけどなぜかそれはとても快感だった。思わず笑みが零れてしまう。そして笑みを零してから、彼の理性が働くも、
「ほら、早く乗れ。このブタ」
 サディスティックな響きに塗れた声に命令された瞬間にその理性はすべて吹っ飛んだ。
「は、はい」
 木馬に乗った彼の背中を、
「女王様とお呼びぃぃーーーー」
 愛はサディスティックに笑いながら、鞭で叩き続ける。
 そしてすっかりと新たな快感に目覚めた小槻教授は、ロープで縛られ、正座した腿の上に重石を乗せられ、最後には自分からかつらを取って、剥げ頭に蝋燭を置いてもらった。
 すっかりと愛のSぶりにMに目覚めた小槻教授はメロメロだ。
 剥げ頭の頂点に蝋燭の蝋を垂らしながら、愛は囁く。
「小槻教授。このあたしの痛みを快楽に変える能力。わかってもらえたかしら?」
「あ、あああ。わかった。わかったから、今度は背中を鞭で叩きながら、ブタと罵って」
「女王様、お願いします。を忘れてるわ」
「じょ、女王様、お願いします」
 すっかりと下僕に成り下がった小槻教授に愛は満足そうに微笑みながらご自慢の鞭を振るった。

【ラスト】
 結局、その番組はお蔵入りになった。
 そして三下が仕入れてきたそのビデオの上映会が、あやかし荘管理人室で行われている。因幡恵美が「きゃー」と悲鳴を上げて飛び出していったのは、愛が担当する部屋での出来事を録画したシーンが流れた時だ。
 愛はぽりぽりと赤い頭を掻きながら、肩をすくめた。
「純粋培養の生娘ちゃんにはちょっと刺激が強かったかしら♪」
 そんな発言を漏らした魅力的な唇は、さらにはそこにいたあやかし荘の住人をどきっとさせる言葉を吐いた。
「あらあら、新しい下僕のブルドック小槻ちゃんがお店に入れた予約時間に送れちゃうわ。んじゃ、そういう事で。また楽しい事があったら、誘ってねー♪」
 愛はにこりと笑って、今日も多くの男たちに最高の快楽と痛みを与えるためにお仕事へと出かけるのだった。



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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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【整理番号 / PC名 / 性別 / 年齢 / 職業】


 0830 / 藤咲・愛 / 女性 / 26歳 / 歌舞伎町の女王   


 1548 / イヴ・ソマリア / 女性 / 502歳 / アイドル歌手兼異世界調査員


 1891 / 風祭・真 / 女性 / 987歳 / 『丼亭・花音』店長・古神

 
 2318 / モーリス・ラジアル / 男性 / 527歳 / ガードナー・医師・調和者


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■         ライター通信          ■
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こんにちは、藤咲愛様。はじめまして。
 この度担当させていただいたライターの草摩一護です。
 今年もよろしくお願いいたします。

 さてさて、今回はいかがでしたでしょうか?
 普段は完全個別受注の形態をとらせていただいておりまして、集合型ノベルはこれが初めてだったのですが?
 それにギャグノベルと書きましたが、雰囲気的には普段の草摩作品のような感じになってしまいました。
 ギャグ度は低めです。−−; 
 もしもおきに召していただけていたら、嬉しいのですが。^^;

 藤咲愛、とても魅力的な女性ですね。
 設定に書かれていた猫が死ぬまで、能力を発動させて猫の苦しみをやわらげていたのは、すごくよいなと思いました。
 そしてそういう良い感じだけではなく、彼女はその能力を世のM君たちにも使っていたのですね。^^
 こちらの設定もすごく面白いと思いました。
 そんな能力で与えられる数々のプレイを考えれるだけ小槻教授に堪能してもらいました。きっと、彼も本望だったでしょう。
 そして彼女は今回、参加してくださった他のキャラさんにも良き経験をさせてくださったようです。(^ー^)
 藤咲愛さん、とても楽しんで書かせていただけました。^^

 他の方のノベルにて、微妙に隠しておいた悪戯・能力・なぞなぞの答えがわかるようしてありますので、他の方のノベルでも楽しんでいただけたら幸いです。

 それでは本当にご依頼ありがとうございました。
 またよろしければ、藤咲愛さん、書かせてください。
 失礼します。