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<PCシチュエーションノベル(グループ3)>


とある震災地での出来事――流離いの戦闘用ゴーレム、動く


 人々は何事が起きたのかわかっていなかった。
 そう、そんな余計な事まで考えている余裕など無かったのだ。
 唐突に人々を襲ったのは、前々から危険だけは指摘されていた、凄まじい地震。
 震度はどの程度だったか。
 …そんな事を考えるよりも、目の前の被害を考える方が、人々の救助が先だった。
 人命の救助活動は、他の何より迅速に行われる事が肝要だ。


 ちょうどそんな時の事。
 その被災地では少々『妙な事』になっていた。


 絶望と悲鳴が交錯する中、何処からともなく姿を現していたのは機械――それもロボットの類としか思えぬ人を模した無骨な姿。
 …その場に居るものは誰も知る由は無かったが、突如『三体』現れた『彼ら』の正体は。


 ………………製作者不明の戦闘用ゴーレムであった。


 そう――『彼ら』。
『彼ら』と言うように、彼らはただ機械、使われるだけの存在ではなく、しかと人格が、個性が存在していた。
 そして、それぞれがそれぞれの意志によって、唐突にこの被災地で動き出したのである。


 但し、一見したところは…むしろ単なる破壊者と見紛うような状況でもあったが。
 …特にブルーグレーと黒を基調にした色彩の、何処か獣染みた野性的な印象を与える戦闘用ゴーレム――製造番号W−1105は、出火して燃え盛る御家庭の建物を、類焼しない内に、と言うのかとにかく速攻で…嬉々として破壊しまくっていた。
 まぁそもそも、それ以前に白を基調にした色彩の、何処かスマートな印象を与える戦闘用ゴーレム――製造番号W−1107が飛行形態に変形し、その内部から予め救助しておいた人々を乗せ、救急車代わりに病院や医療施設へと何度も飛んで運んでいたりするので、それ以降に『彼らの手による』人的被害は出ていない筈なのだが。
 ちなみに、見るからにメカメカしい――だが三体の中では一番人型に近い、何処か朴訥な印象さえ与える戦闘用ゴーレム――製造番号W−1106が全体の指揮を取っているようでもあった。

『…スカージ、もうそろそろ良いだろう。止めておけ』
『ひゃははははァ!!! …ってあァ? んっだよバルガー折角お楽しみだってのによォ!! ち、興醒めだぜ』
 スカージと呼ばれた戦闘用ゴーレム――W−1105は狂ったように哄笑しつつも、火の出ている建物を嬉々として破壊していた手を止める。バルガーと呼ばれた戦闘用ゴーレム――W−1106の制止により、重斬剣「レギオン」をめったやたらと振り回すスカージのその手は止まった。
 珍しい事に真っ当に話が通じたらしい。
 …但し、スカージとしてはバルガー自体から異様な鬼気を感じた故に彼の声を聞き入れた、と言う部分もあったようだが。
 今のこのバルガーに抗するのは危険だと、スカージの身体が勝手に判断した模様。
 理性ではなく本能の範疇で。
『…余計な行動はするな。ああ、まだまだ破壊し甲斐のある建物はたくさんあるぞ。いつまでもひとつところに拘っていても始まらん。とっとと次へ行くと良い。…さぁ、お前の仕事は次は向こうだ』
 言ってバルガーは空いている側の手の指で、びし、と一点を差し示す。
 その先には未だ以って燃え盛る建物が。
 地震が起きたのが食事を作っている時間だったが故か、更に乾燥している寒い時期だったが故か――そこここで火事が頻発している。救急車両も間に合いはしない。肝心の道路が真っ当に使える状況に無い。…故に、被害も余計に大きくなっている。
 …そして彼らゴーレムたちがその身ひとつで――即座に出来る『消火活動』はと言えば『建物を壊す』事のみ。
 それも銃砲を使っては火に油を注ぐ事にしかならない。
 故に今は「火事を止める為の建物の破壊」をスカージのみに――彼だけがはじめから装備していた「銃砲以外の武装」こと、重斬剣「レギオン」に大方で頼っている。
 まぁ、彼は元来が強襲を目的として造られたゴーレムで、その上に幾分支離滅裂な扱い辛い性格もあり…とにかく破壊を旨とする機体、だと言う適性を考えての事もあったが。
『向こうの建物に残されていた人々は…サーチが既に救助を完了している。心行くまで破壊しろ』
『ひゃっほォ! 良いねえ良いねえ。どんどん壊してやるぜェ…ククク…』
『…言っても無駄だろうが周囲にまで余計な被害をなるべく与えるな…お前が壊すべき…壊しがいのあるだろう場所はまだまだ幾らでもあるんだからな…』
『この手応えがたまんねェンだよなあ…ひゃひゃひゃ、了解ィ!!!!』
 言い捨て、ばうっ、とブースターを使用し、スカージはバルガーに示された、炎に包まれている建物を壊しに飛んで行く。
 その背を見送ってから、バルガーはひとり嘆息した。
『…スカージに真っ当な救助活動は無理だろうからな』
 壊すのは得意中の得意だろうが、人を助けると言う繊細な仕事では、な…。
 ぼそりと呟きバルガーは片腕で人々を抱え、避難所へと直走る。
 …バルガーが片手のみ空いていた理由は、それだ。もう片方の手は塞がっていた。
 そんなバルガーの腕を、心細げに、ぎゅ、と掴む子供の手。
 ロボットアニメのヒーローか何かと勘違いしているのか。
 そんな姿を暫し見下ろした後、避難所に到着するなりバルガーは彼らを離す。連れて来られた人々も元々避難所に居た人々も目を丸くしてバルガーを見上げるが、そんな事まで構ってはいられない。…無愛想な戦闘用ゴーレムは彼らに背を向け、再び救助を待つ人々の元へと走る。

『…バルガー』
『サーチ。…駄目か』
『ああ、ここァ間に合わなかったみてぇだ。…生きている反応が全くねえ』
 人であったなら、ち、とでも舌打ちしているような口調。サーチと呼ばれた戦闘用ゴーレム――W−1107はひとつの建物から出て来たところでちょうどバルガーと顔を合わせた。
『俺ァ次の生存者を探す…ち、どれだけ死んだんだこの被害でよォ』
『…俺たちに出来る事は限られている。多くを求めてもどうしようもない』
『ああ…だからこの俺が動いてやってるんだろ…生存者はすべて見付け出す…なるべく音を立てんなよ、静かに、それでいて迅速に動く事が一番効率が良いんだ…』
 瓦礫の下敷きになった――その隙間で待っている人々を捜し出すには僅かな音も聞き逃せねえ…。
『お?』
『…サーチ?』
『ちょっと黙れバルガー』
 ふと気づいたよう立ち止まり、サーチはひとり崩れ掛けた建物内にがしゃこんがしゃこん駆けて行く。
 そして、瓦礫の山――階段からそれを支える床までが無残に崩れたようなそこに。
『生きてるか!? 居るのか!?』
 付いて来たバルガーもそこまで来て初めてわかった微かな音――か細い声。
『確実だな…助けるぞ』
『瓦礫の退かし方にも注意が必要だ』
『予め位置を確認出来ねば』
 バルガーとサーチは頷き合い、瓦礫が変に空間に突き刺さったり角度が変わり重心が移動しないよう気を付けながら丁寧に瓦礫を退かし空間を確認し始める。
 と。
 子供が数名居た。
 そして足に怪我をし、やや衰弱もしている者が居ると見るなり、サーチはその子だけを建物の外まで連れ出すと、飛行形態に変化し早々に医療施設へと飛んで行く。
 バルガーはそれを黙って見送りつつも、彼らの姿を見て茫然としている子供たちに救助に来た旨を告げ、建物から次々と連れ出して行く。
 そんな中でも遠くから聞こえて来る、スカージの嬉々として破壊を為す声と遠い轟音。
 ………………己の役割を真っ当に果たしているようだとバルガーは好意的に判断しておく事にした。

 そして再び避難所。
 子供たちを連れて行くと、今度はそこに居た大人から恐る恐る声を掛けられた。
 …御助力有難う御座います…けれど、貴方がたは何故、私たちを助けてくれるのですか、と。
 その声にバルガーは人々を振り向く。
 と、どう反応したら良いのか迷いつつも取り敢えずは有難いと思う顔、今初めてその姿を見かけ、こんなところでこんな場合にロボットショーか?と怪訝そうな顔をする者、そして素直に、ぎょっ、とするような顔もあった。
 バルガーはそんな面子を一通り見、ふ、と笑った――ような気がした。


『…何も銃砲を扱う事だけが戦いでは無い。…これも、俺が俺で在り続ける為の…戦いだ』


 バルガーことW−1106は、救助した人々の前で――ただただ静かにそう告げた。
 …そして再び、未だ何処かで救助を待つ人々の為に、外へ。


【了】