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<東京怪談ノベル(シングル)>


人で在るなら


 ――――――これはこれはまた、目の保養になる美しいお姉様が。


 そんな感じでいつも俺は。
 簡単に声を掛けている。


 …まァ、綺麗な方が色々と都合は良いし。


 綺麗なものは見ていて楽しいしね。
 折角自分の目を楽しませてもらってンのに、わざわざブス選ぶ必要無いし。
 だからってキレーな男見てもつまんねぇし。
 …だって結局、男じゃ何にも出来ねえじゃん?
 女なら、それなりに楽しめるケドさ。


 …つーかそもそもンなもんどっちでも良いってのはあるけどよ。


 実際、あんまり興味は無いから。
 …正直、大して見分けも付かねえしな。
 いや、一般的にそう見えるだろうって美人は確りわかるよ。
 俺はそこらじゃ年上美人好みで通ってるしね。…ホラ、ちゃーんと見分けは付いてるってコトだろ?
 確かに綺麗なものは大好きさ。別に嘘吐いてる訳じゃない。
 但し、俺自身が…あー、本気で好きだの嫌いだの? その辺の価値観に持ち込まれるとさっぱりだな。
 お遊びなら大歓迎だけど、本気なんて有り得ねぇよなぁ。
 …だから、あんまり他人に興味が無いんだよ。
 退屈な日々を面白おかしく過ごして行けりゃそれで良い訳で。
 どうせ一度きりの人生なんだし、楽しめる時に精々楽しませてもらわなきゃ。


 ――『朔夜・ラインフォード』。
 取り敢えず心理学専攻の大学生。
 時々バイトで、雑誌に使う写真のモデルもやっている。…派手な世界は大好きだしね。スポットライトを、注目を浴びるのはそれなりに気持ち良いし。
 …とは言え殆どの場合フラフラ遊んでばかりで…周囲じゃ女好きで通ってる十九歳、男。
 髪の色とか瞳の色は、英国人の父親譲りで金髪碧眼。
 だけど性格は――まるっきり妖狐の母親譲りで。


 ――――――こんなところで会うなんて奇遇ですね? そんな運命なんスかね。俺たちって。


 伊達眼鏡を指先でちょいと上げつつ、にっこりと微笑む俺の顔。
 相手の女性にはいったいどう見えている事やら。

 母親譲りでそれなりに整っちゃいるが…同時に冷たい顔立ちだとは自覚してるんだけどな。
 ま、それがまた対外的には都合がイイみたいなんだけど。
 ホラ、俺って人当たりはイイじゃん?
 …それでこの顔立ちだと、『人間』にはちょうど魅力的に映るみたいでね。
 遊ぶには結構、事欠かない。
 そうだな、母親には感謝しねえと、かもな。美人に生んでくれた事くらいは。


 ただ、時々勘違いした奴が纏わりついて来るのはイヤだけどね。
 少しちょっかい掛けたら変に本気になって来る女とか、こっちはどーでも良いのにやたら敵視して来る野郎とか、俺は全然興味無えってのにしつこく勧誘して来る奴とか色々厄介なのが居るんだよね人間社会って。
 よく適当にあしらうだけで我慢出来るよなァ。

 …俺、何度殺しちゃおっかな、と思った事かわかんねえのに。
 しつこい奴はいつまでもしつこいからさ。
 そんな連中に付き合ってる時間が勿体無え、っての。その拘束されちまってる同じ時間で他に何か面白い事が出来たかもしれないって考えたら余計にね。
 でも…殺しちまったらまた人間社会じゃ色々やたら面倒になるし。
 鬱陶しいんだよなあ。
『人間』って。
 余計な事まで考えなきゃならねえしがらみが多過ぎる。
 ひとつ行動を起こせば何か色々余計な事が付いてくる。
 全部放り出したら――放り出せたらどれ程楽か。


 ま、生粋の妖狐な母親ならばそりゃ当然、簡単にこの気持ちわかっちゃくれるだろうが。


 だけどな。
 …俺の父親は、人間で。


 もし息子のこんな面を知っちゃったらさ、そりゃやっぱ困るよねえ。
 ちょいと日本マニアの変人かもしれないけどね、ごくごく普通の人間なんだよ。
 そして日本マニアって事は…余計に、俺のこんな部分は決して好ましくは思わないだろうワケで。
 単にのほほん御稲荷さん食って金儲けしてる程度なら平和だろうが、ただの戯れで内部から一国滅ぼして平気な顔で滅茶苦茶楽しんでるってのもまた妖狐の性質なんだよね。
 取り敢えず、面倒臭くなったら殺しちゃお、なんてのは『人間』としてちょっとマズいんだよ。
 …ま、普段見せてるナンパな姿も父親にすりゃあんまり好ましくはないだろーけどな。
 それでもこっちは『人間』の範疇なだけ、まだマシだろーが。


 そ。
 俺はひとまず、人で在ろうとは思ってんだよね。
 だから大学なんか行ってンだけどな。
 適当にサボって適当に講義受けて…つまらねえ事もあるが、時々面白い事もあるんだよな、これが。
 だから選んだのは心理学だったのかもな。…『人間』の心は相当に奥が深いエンターテイメントの一種。
 っつっても結局、フラフラ遊んでるのはやめられないけどな。
 でもそれもちゃーんと『人間』だろう?
 時間のある大学生ってのは大抵好き勝手遊んでるもんだろ。充分許容範囲内。
 求職活動?
 …それを俺に言うか? 堅っ苦しいの嫌いなんだよ。
 ま、行く先の面接官が美人なお姉さんだったら考えるけど♪
 勉学は?
 …楽しけりゃやるけど、そうでない時はどうでも良い話。
 あ、これもキレーな女の教授だったら毎回でも講義に出るな。うん♪

 でもそう都合良く行く場合は滅多に無いんだよな。
 だからひとりでフラフラしている事が多い。
 好き勝手自分で探した方が面白い『当たり』が出る確立高いから。


 ………………『人間』と『妖狐』の精神構造ってな随分差があるんだよね。


 全部バラして生きられたらどれだけ楽だろうなァ…。
『人間』で在る為のしがらみ全部取っ払って好き勝手遊び回れたら最高だろうなァ…。


 心の何処かにいつもそんな考えがあるんだよな。
 つまり俺にとっちゃ窮屈なんだよ『人間』の社会って。
 でもその枠に居ないと、って思ってるし。
 父親の手前、やっぱりさ。

 …って、なぁんかくどくど考え込み過ぎな気がするな?
 ひとまず忘れっか。


 ――――――あ、お久しぶりっス。お姉様、ちょっとお疲れ? 俺で良かったらその鞄お持ちしましょうか?


 見知った相手には取り敢えず一声掛ける。
 そのくらいは礼儀ってモンでしょ。
 …女――それも年上美人相手なら特に。
 ホラ、お近付きになって損は無いもんねえ?
 上手くやりゃ『イイコト』も『悪いコト』も出来るしね♪


 ………………まぁ、『人間』ってな、こんなもんでしょ。
 ちょっとばかり面倒臭えけどさ。


【了】