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<東京怪談ノベル(シングル)>


心の友は今いずこ

 膨大な量の本が、整然と並べられた書斎。
 その中に、響き渡る声。

「エラーなんかした奴は殺してやるからな!」
『髪が横に流れたきみの子分を殺して僕も死ぬ!』
「おおっ、心の友よ〜」
『誰だい! 勝手なこと言う奴はっ』
「なにぃ〜、逆らう者は死刑!」
『タヌキじゃないと言い張るロボーっ。なんか道具出してよ〜』
「俺にまかせろ!! さあ、買ったばかりのバットだぜ。殴り具合を試させろよな」
『……ガス中毒になりかかって、どろぼうに入りかけられたい……』
「逃がすもんか!」
『わーんっ、僕は世界で一番不幸な少年だ〜!!』
「ちっ、逃げ足の速い奴め……」

 ――何故、そんなことになったのか。
 さあ、説明を始めよう。

     ★

 膨大な量の本が、整然と並べられた書斎。
 もともとはその本も書庫も親の物であったのだが、それを受け継いだ僕もどんな本がどこにあるのかちゃんと知っていた。自分が使いやすいように、一度全部出して整理したことがあるからだ。
 しかしその日僕が手にした本は、僕の記憶とはまったく異なっていた。
「どれ、久しぶりに【ドジアンの書】でも読みましょうかねぇ」
 僕はそう口にしながら、手に取ったはずだ。もしここに透明人間がいたなら、間違いなく頷いてくれただろう。
(それが……どうして……)
「――【いじめっこの書】?」
 思わず口に出して読んだ。
(も、もしかして)
 いじめっこの代表格と言うべきかの有名な彼のことだろうか……?
 しかしだとしたらば、確かに多少は響きが似ている。似ているからこそ、驚きながらも少し期待した。
(おそらく――)
 僕が【エイボンの書】を【良い盆の書】と呼んだり、【ネクロノミコン】を【根暗な未婚】と呼んだりするのと一緒で。誰かがこの本をこう呼んでいるだけで中身はちゃんとした【ドジアンの書】なのでは……と思ったのだ。
(きっと、そうですよね)
 一瞬でも脳内で彼を想像してしまったことをひとり笑い、僕はむしろ安心してその本を開いた。
(僕以外にもそんなふうに呼んでる人がいるなんて)
 そう考えると、妙な親近感までわいてくる。
 適当に開いたページに目を落とした。うん、古代サンスクリット語だ。それは原文そのままに――
「……ん?」
(いや――違う!)
 何かがおかしい。
 以前読んだ時と変わっているような……
 僕は急いで、デスクへと走った。翻訳しながら読むのに立ったままだとやりにくいからだ。
 椅子につき、今度は本の最初から、じっくりと目を通してゆく。
「な……なんだこれはっ?!」
 そこには、古代の神々よりもおぞましく旧支配者よりも恐ろしい、驚くべき内容が示されていた。

【おまえのものはおれのもの おれのものはおれのもの】
【えいきゅうに かりておくだけだぞ】
【さからうものは しけい】
【…………】
【…………】

 すべてを読み終えた僕の、震えはとまらない。
「なんてことだ……」
(これまでこんなにも、自分の気持ちを素直に表した人がいただろうか!)
 そのあまりの衝撃に――ある衝動がもちあがる。
「ぼ、僕もこんなこと言ってみたい……ッ!」



 ――そんなわけで、僕は得意の表計算ソフトで魔法陣を組み、僕の――いや、彼の相手をしてくれそうなヤツ――つまりいじめられっこを喚び出したのだった。
(相手がいないことには)
 何を言ってもつまりませんしね♪

「こんばんは、タヌキじゃないと言い張るロボ君はいますか?」
『まだ借りとくよ』
「お前の物は俺の物。俺の物は俺の物」
『そんなこと言わず、もうちょっと貸してよ〜』
「ぶん殴るぞ!!!」
『くやしいなあ、どうしても100点以上取れないや』
「どれどれおじさんに見せてごらん」
『1+1は1より大きい……』
「永久に借りておくだけだぞ!」
『……このくらいで返すよ』
「じゃあ俺のリサイタルに招待してやる」
『そ、そんなの誘われなくったって……行くよ!』
「スイスイスーダララギチョンチョンノパーイパイ……」
『ああ、なんて素晴らしいことだろう。この世に僕よりダメな子がいたなんて!!』
「俺の歌は永遠です!!」
『バカを人にするな。いや、人をバカにするな!』
「――あたし、辛い……」
『今日からもう5分増やそうと思ったのに……あんまりだぁ!!!』
「まあ、いいってことよ!」
『だって世界征服を企てることだってできるんだよ?』
「ホゲ〜〜〜」

 こうして心の友となった僕らは、夜が明けるまで喋り続けたのだった……。





(終)