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<東京怪談ウェブゲーム 界鏡現象〜異界〜>


調査File.2 −川−
●始まり
 その日は朝からどんよりとしていた。
 窓の外を眺めつつヒヨリがぼーっとしていると、事務所のドアが開かれた。
「いらっしゃいませ」
 即座に営業スマイルを作ると、ヒヨリはソファをすすめ、やはり奥の部屋でぼーっとしていた所長の圭吾を呼ぶ。
「あ、あの…」
 口を開いたのは女性。母親だろうか。傍らにいる小学校4年生くらいの少年がじっとヒヨリの顔を見ている。
「最近この子がおかしな事を言い出しまして……」
「おかしな事?」
 首をかしげて聞き返した圭吾に、母親は少年を促すように背中を軽くつついた。
「誰かがみてるんだ、オレの事」
「誰かが…?」
「ええ、あの、その、最近急にお風呂に入るのを嫌がりまして、理由を問うたら、誰かが足を引っ張る、って言うんです。顔などを洗っている時も、鏡に人がうつってこっちを見てる、と……」
 要領を得ない少年の言葉に、母親が口早に告げる。
「父親は気のせいだろう、って言うんですけど、あまりに頻繁で……。気持ちが悪いですし、ここなら何か相談にのって下さる、って聞いたもので……」
 それに他より安いみたいですし……、と母親は口の中で言った。
「お風呂、洗顔……水、かな? 最近水場に遊びにいったりは?」
 ヒヨリの言葉に少年はイヤな顔をしてプイッと横を向く。
「行ってないよっ」
「この間近くの川で溺れてなくなった子がいて…それからは近づかないようにきつく言ってあるんです」
 困ったような顔で言う母親の横で、少年は居心地が悪そうに事務所の中を見回していた。
「とにかく、調べて貰えますか……?」
「ええ、勿論です」
 心配そうに圭吾を見た母親に、圭吾はにっこりと笑った。

【調査メモ】
母親:荻野恭子(おぎの・きょうこ) 32歳 息子:大地(だいち) 10歳
5日ほど前からお風呂に入りたがらなくなり、誰かがみてる、と訴えるようになった。
1週間ほど前に近くの川で溺死した子がいるらしい。
大地は川には近寄ってはいないらしい。

●本文
「ん〜、まぁこういった不思議な事件をこちらで扱って貰えた方が、案外武彦さん助かるかもね」
 依頼を聞きながら、同室の別の場所に座っていたシュライン・エマは呟く。
 室内には圭吾とヒヨリ、依頼人親子の他に、後4人の姿があった。
「こういった事件手伝うから、普通の事件、こっちに紹介してくれないかしらね」
「……してもいいけど、うちの『普通』の事件がくる事ってないと思うよ。だってサイキックリサーチだし♪」
 独り言に応えがあり、シュラインは目をパチパチさせた。
 見るとお茶を持ったヒヨリの姿。
「まぁ、そうよね……」
「でも万が一そういう危篤な人がいたら声かけるね♪」
「よろしく」
「ヒヨリ、こっちにもコーヒーのおかわり頼む」
「はいはーい」
 微苦笑したシュラインの後ろで、空になったコーヒーカップを持ち上げて真名神慶悟が言う。
 それにヒヨリは笑顔で頷いてから、依頼人親子にお茶を出す。
「水に関わりがあるわけですね……」
 静かに呟いたのはセレスティ・カーニンガム。
 某財閥の総帥にして、水霊使い。なおかつ占い師である。
 その占いで、何故かここが出たらしく、セレスティは事務所を訪れていた。
「この為に私はここに導かれたのかもしれませんね」
 そういって微笑む姿は一種芸術のようである。
「水鏡、という訳ですかね……」
「その可能性もありますね」
 思いついたことを口にした九尾桐伯に、セレスティが相づちをうった。
「大地くんには、その『見ている人』に心当たりはありませんか?」
 そうセレスティが訊ねると、大地は小さく首を左右に振った。
「水の縁を伝って少年に干渉しているのか。怯えているところを見ると、その呈はあまり元気のいいものではない様だ。水は死者に連なり、時として生者を引く。間違いが起こってからでは遅いからな」
 ヒヨリから3杯目のコーヒーを受け取り、慶悟は呟いた。
 そして小さく呪言を唱える。式神を不可視の状態にし、大地にはりつける。
「溺死したお子さんとは、面識があるのかしら?」
「いいえ…。うちの子は学年が違っていたので直接的な面識はなかったと思います」
「大地くんは?」
「知らない…」
「そう…それじゃ、その川は荻野さん宅付近にあるものなんですか?」
 手慣れた様子でシュラインが質問をしていく。
「近く、と言えば近いですが…。徒歩で10分くらいのところです」
「そこに自宅の水回りが関係している、という事は? 排水が流れ込んでいる、とか」
「そういった事はないと思います…詳しくはわかりませんが」
 思い出すように母親は首をかしげたが、思い当たることはなかったようだった。
「とりあえずその川と自宅の方をみてみましょうか」
 言って桐伯が立ち上がる。
「これだけの仲間がいる。大丈夫だ」
 同じく立ち上がった慶悟は、その大きな手を大地の頭に軽くのせた。

 セレスティは自分の車で地図を貰い、移動する。
 セレスティの本性は人魚。その為足が弱い。ステッキを使って歩くことはできるが、長距離の歩行は困難なのであった。
 それ故、普段は車椅子生活を送っている。
 他のメンバーは圭吾の車で目的地まで来ていた。
 しかしシュラインだけは調べ物があるから、と途中の図書館でおりた。
「ここが問題の川ですか」
 川を見回しながら桐伯が言う。その視界には川で魚釣りをしている、大地とあまりかわらない少年達の姿も入ってきた。
「結構遊んでるのがいるな」
 冬の川で何がつれるんだ? と珍しげに慶悟はつりをしている少年を眺めた。
 二人があたりを伺っている中、セレスティはじっと水面を見つめていた。
 本質を水におくセレスティにとって、水の事でわからないことはない、と言っても過言ではなかった。
「なぁ、ここで何がつれるんだ?」
 少年達に近づいて慶悟が訊ねると、少年達は笑う。
「なーんにもつれないよ」
「んじゃなんで釣り糸なんかたらしてるんだ?」
「なんとなく」
 理由はないらしい。
「おっさんと一緒にいるの大地じゃね?」
 慶悟とは逆側の少年達に声をかけようとした桐伯に、逆に声がかかった。
「お、おっさん…。ええ、荻野大地くんですね」
 困ったような笑みを浮かべつつ、お友達ですか? と訊ねると、少年達は頷いた。
「あいつこの間一緒にここでカード拾ってから全然こなくなったんだよなぁ」
「カード?」
「そそ。トレカだよ。今はやってるカードゲームの」
「という事は、大地くんは最近この川で遊んでるんですか?」
「うん」
 大地は最近川に遊びにきていた。しかしそれを隠していた。
 そういえば、と桐伯は顎を軽く指先でつまんだ。
 ヒヨリに水場に遊びに行った事は? ときかれて怒ったように「行ってない」と答えていた。
 もしかしてあれは、隠すためにあんな風にいったのではないだろうか。
「あれ結構いいカードだったから、オレも欲しかったのになぁ。大地にそういっておいてよ。健がほしがってたぞ、って」
「わかりました」
 答えてから桐伯は川岸に立って、決して川を見ようとしない大地の元へと戻った。

「霊的気配は今のところなし、か…。まぁ少しは在るけど、関係ありそうには思えねぇしな……」
 大地につけている式神以外で辺りを探らせるが、そういった気配は感じられなかった。
「霊は家に持って行かれのか。はたまた別のもんにくっついているのか……」
 その謎の答えはは、桐伯の言葉によってもたらされる。

「川にいついている浮遊霊が数体……。しかしこれは大地くんの事とは関係なさそうですね…」
 言ってセレスティは軽く水面に指を触れさせる。
 瞬間、汚染により弱っていた水霊達が歓喜の声をあげた。
「気休めにしかなりませんが……」
 言ったか言わないか。セレスティの指先が光に包まれ、川全体が淡く金色に光る。
 川にいた人たちは驚きに声も出なかった。
 しかしそれも一瞬の事で、すぐに光はおさまった。
 一体なにが起きたのか全く理解できなかったが、水霊たちだけがわかっていた。
 否、少しすれば皆も気づくだろう。川の変化に。
 すっかり汚染が消え、浮遊していた霊の姿も消えていた。
 その変化にいち早く気づいたのは慶悟の式神であった。

「えっと1週間くらい前だから、この辺りね」
 新聞の束をごそっともって、シュラインは椅子に腰をおろす。
 小さな地元の記事を手早く読んでいく。
 そして三つ目の新聞を見たとき、その記事はあった。
「カードゲームのカードが風にとばされて、それをとろうとして川に転落。頭部を川の中に不法投棄されていた粗大ゴミに強打し、病院に搬送されるが、まもなく死亡……」
 風間俊介(かざま・しゅんすけ)、当時12歳。
 それからお悔やみの欄をさぐると、簡単な住所が載っていた。
 住所から電話番号を調べ、そこに電話をかける。
「突然のお電話すみません……」
 相手は母親。子供が亡くなったばかりなので失礼がないように気をつけ、亡くなった子供の身体的特徴、家族構成などを聞く。そして他の兄弟がなにか妙な視線を感じる事があるかどうか訊ねてみたが、これはNOだった。
「他の兄弟に影響はなし……じゃあなんで縁もゆかりもない大地くんのところに出たりするのかしら……。もしかしてこの子じゃない? でも可能性的にはこの子よね……」
 荻野宅の水回りでも調べてみましょうか、とシュラインは図書館を後にした。

 シュラインが荻野宅についた頃、圭吾の車もちょうどついていた。
 そこで情報交換を行う。
「カード、か……、確か新聞記事にも載っていたわ。カードゲームのカードをとろうとして川に転落した、って。そのせいかしらね……」
「有力であることは間違いねぇな」
 先ほどから何かの気配を感じつつ、慶悟は首の後ろのあたり数度さする。
 まだ実態は見えない。気配だけしか感じない。
 それはセレスティも同じだった。
 何か水に関係ある感じがするが、それ以上まだはっきりと感じることはできない。
 霊はとても敏感で、侵入者があるとなりを潜める。そのせいだろうか。
「ほら、大地。そのカード持ってきなさい」
 母親に突かれて大地は自室へと向かう。
 大地は川に近づいていたことで車の中でさんざ怒られていた。その為ムスッとした表情のまま居間を出て行った。
 そして2階であがる足音が聞こえ、ドアを開ける音が聞こえた瞬間。
 息づかいは悲鳴にかわった。
「どうしました!?」
 入り口に近いところに座っていた桐伯がバッと立ち上がり、階段を駆け上がる。それに皆続く。
 部屋の前につくと、大地が廊下に腰をつけ、部屋の中を指さしていた。
「さがせ」
 慶悟の短い命令。それだけで式神が呼応して動く。
 部屋の中にはなにもなかった。否、普通の小学生の部屋らしい調度品はおかれていたが、悲鳴をあげて腰を抜かす程のものはなにもなかった。
「水のにおいがしますね」
 一人階下でセレスティが瞳を細めた。足が弱いの前述通り。
「なにかあったの?」
 優しくシュラインが問いかけると、大地はガタガタ震えながら、人が立っていた、と言った。
「返して、って……。そこに立ってたんだ!!」
 ようやくしぼりだした声。叫びと同時に嗚咽にかわる。母親は大地を抱きしめて、夢でも見ているかのような瞳で室内を見つめていた。
「返して、となるとやはりカードの事ですね……」
 締め切ってあったカーテンを桐伯があけると、勉強机の上におかれた一枚のカードが光る。
「これ、ですか?」
 その問いに大地は頷いた。
「どうやら霊はこのカードに宿っていて、水に関係するものがあると出てくるみたいだな……」
「でもこの部屋には水なんてないわよ?」
「それだけ相手もせっぱ詰まってる、ってこったろ」
「……」
 慶悟の言葉にシュラインは悲しげな瞳で桐伯の持つカードを見つめた。
「しかし、原因がわかれば救ってあげる事ができます」
 静かな口調でセレスティが言った。

 階下におり、テーブルの真ん中にカードをおく。
 慶悟は部屋の中に結界をはり、式神を立たせた。
 シュラインは台所をかりてコップに水をいれ、それをカードの横にそっと置いた。
 カードには糸がからまっていた。それは何かあった際にすぐに反応できるように、と桐伯のもの。
 テーブルの上におかれたコップにセレスティは指をいれる。するとその水は見た目には変わらないが、浄化されたものになった。
 荻野親子は何もできず、母親は息子を抱きしめたままソファの上に座っている。
 緊迫した空気が流れる中、慶悟が呪言をとなえはじめた。
 唱えはじめてから1分くらい経っただろうか。コップの水が急に泡立ちはじめ、水温はかわっていないのに水面は煮立っているようだった。
 そして唱え終わった瞬間、その姿は現れた。
 コップの上にぼーっと立つように、少年がじっと足下を見下ろしている。
 母親は大地を抱えたまま声にならない悲鳴をあげてソファの上に足をのせ、後ずさる。
「お前の望みはそのカードか?」
 慶悟の問いに少年は小さく頷いた。
「どうして驚かせるような真似をしたの?」
「返して……欲しかったから……」
「これは貴方のものですよ。持っていってください」
 言って桐伯は糸を巧みにあやつってカードを少年の手の上にのせる。
「もうこれで悪さはしませんよね?」
 優しい、包み込むような笑みでセレスティが微笑むと、少年はまた小さく頷いた。
「行き先は見えてるか?」
 再び慶悟に問われて少年は上を見上げ、首を左右にふる。
 それに慶悟は無言で頷き、呪言を唱える。
 すると少年の真上から光が降り注ぎ、それを少年は見上げた。
「ありが…とう……」
 少年はほのかな笑みを浮かべて、静かに消えた。
 原因さえわかれば力のある能力者がいるため、解決は早い。
 ようはそこにたどり着くまでが重要だ、と思う。
 無理矢理除霊してしまう事は簡単なのかもしれない。しかしそれをしたくない。それは皆思っている事だろう。
「あ、ありがとうございました」
 母親は腰を抜かしたまま4人に礼を言う。
「ほら、大地!」
「ありがとう……」
 消え入りそうなくらい小さな声で大地も礼を言った。
 そして見たテーブルの上からは、カードは勿論、コップの水すら消えていた。

●終わり
「カード、か……」
 帰ってきた4人を出迎えたヒヨリは、一人一人の好みにあった飲み物を出してから呟いた。
 それから何か思い出したように奥の部屋に入って、またでてきた。
「ヒヨリもね、カード持ってるんだよ!」
 バッとそれを得意そうにテーブルの上に広げる。
「おいおい、お前まで化けて出たりするなよな」
 イヤそうな顔でカードを見た慶悟に、一人は頬をふくらませる。
「ヒヨリそんな事しないもん!」
「そうよね、普段から持ち歩いてなければなくすこともないし」
「部屋の中でしまいなくす、って事もありますけど」
「そういう事もありますね」
 シュラインの言葉を混ぜっ返すように桐伯が言うと、それにセレスティが賛同するように笑みを浮かべた。
「大丈夫よ、そのときは圭吾にたたるから」
 えっへん、と胸をはっていったヒヨリの姿に、一同笑った。
 一人、圭吾だけが苦い顔で紅茶を飲んでいた。

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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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【整理番号 / PC名 / 性別 / 年齢 / 職業】

【0086/シュライン・エマ/女/26/翻訳家&幽霊作家+草間興信所事務員】
【0332/九尾・桐伯/男/27/バーテンダー/きゅうび・とうはく】
【0389/真名神・慶悟/男/20/陰陽師/まながみ・けいご】
【1883/セレスティ・カーニンガム/男/725/財閥総帥・占い師・水霊使い】

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■         ライター通信          ■
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 こんにちは&はじめまして、夜来聖です。
 セレスティさんは初めましてですね♪
 今回ちょっとOPに出した情報が少なすぎたかな、という感じで申し訳なかったです。
 桐伯さんの水鏡の話でも面白いな、と思ったんですが書いているうちに別方向へ……(汗)

 それではまたの機会にお目にかかれることを楽しみにしています。