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<東京怪談ウェブゲーム 界鏡現象〜異界〜>


新春・歌留太大会!

■□オープニング
 正月も数日過ぎた頃、古書店【天幻堂】で飼われている子猫・歌留太(かるた)の姿が消えた。
 数日待ってみるものの、一向に帰ってくる気配はない。
「迷子にでもなったのかのぅ……」
 心配する天幻老師(てんげんろうし)をよそに、住み込みバイト店員である刑部(おさかべ)・きつねはそっけなかった。
「雪に埋もれて遭難でもしてんじゃないの? 春になったら帰ってくるわよ」
 そう言ってこたつから動こうとしない。
 正月早々どうしようもない女である。
「仕方がない。あやつに探すのを手伝ってもらうか」
 老師は最初からきつねが協力するわけがないと踏んでいたようだ。
 常連であるイタリア人客、ダリオ・ベルディーニに電話をすると、ことのあらましを説明した。

 きつねはこたつに潜りながらそのやりとりを盗み聞きしていた。
 ダリオが快く老師の申し出を受け入れ歌留太捜索に乗りだすと知ると、ふと思いついたように張り紙を作りはじめる。

『歌留太救助要員ボシュウ。愛らしい子猫をイタリア男の魔の手から救おう!
 報酬ナシ。ボランティアが望ましい。
 その他・御用レジ店員話掛。』

 きつねはそれをいつもとは別の場所にひっそり貼っておくと、ニヤリと笑みを浮かべて再びこたつに潜りこんだ。


■□ 強面伊男を追え!
 こっそり張り出したにも関わらず、ボランティアの申し出は翌日には六名も出ていた。
 W・1105(だぶりゅー・いちいちぜろご)、新野(にいの)・サラ、楠木・茉莉奈(くすのき・まりな)、綾和泉・汐耶(あやいずみ・せきや)、シュライン・エマ、硝月・倉菜(しょうつき・くらな)。以上がそのメンバーである。
 きつねは歌留太を探しに行くと断って天幻老師に休みをもらうと、一同を引き連れて捜索に乗り出した。
「無報酬にも関わらず六人もの面々に助けてもらえるだなんて、アタシって人望厚いわよねー」
 見当違いのことをさらっと吐き捨て、きつねは皆に一枚の写真を見せた。
 そこには黒髪青眼で肌の白い男が写っている。撮影者を睨み付けるような三白眼が特徴と言えば特徴だろうか。
 写真を見る限りでは、あまり近づきたくない男という印象だ。
「歌留太を探してもらうのはもちろんだけど、この男、ダリオ・ベルディーニより先に確保して私のところへ連れてきて欲しいの。こいつ、店に来るたびに歌留太を追いかけ回してんのよ。こんな男に歌留太が捕まったらと思うと、アタシもう心配で心配で……!」
 そう言って目元にハンカチをあてるきつね。
 泣き真似であることはバレバレである。
 1105は戦闘用ゴーレムらしく彼女の言うことを単純に受け止めた。
「要はそいつをぶちのめして、歌留太っつー猫をてめぇに渡せばいいんだろ? 楽勝じゃねぇか」
 そう豪語してガチャリと装備を鳴らす。
 きつねは1105と遭遇した場合のダリオを哀れに思ったが、それ以上は考えないことにした。しょせんは他人事だ。
 張り紙の内容を信じダリオが悪者と思いこんでいる茉莉奈は、写真ときつねの説明を受け、更にその思いを強めたようだった。
 黒猫のマールを抱き寄せ、憤慨している。
「いかにも動物に悪さしそうな感じ〜。大丈夫よきつねさん! ダリオさんを見つけたら、私が説得してみせるから!」
 反対に、他の女性陣はきつねの言うことに半信半疑である。
「でもきつねさん。ベルディーニさんって、猫好きなんですよね……。本当に心配するほど悪い方なんですか……?」
「確かに怖そうな人だけど、猫が好きだから追いかけ回しているだけなんじゃないかしら」
 サラと倉菜はダリオが悪者と信じ切れずにいる。面識もないのだから当然だろう。
 特に、汐耶とシュラインがきつねに向ける目は冷たい。
「無事に歌留太君が見つかれば、誰が見つけようと良いと思いますけど」
「どう見ても……刑部さんが怪しい」
「なによー。アタシ何も企んでないわよ」
 きつねはすぐさま口を尖らせたが、それこそ何かあると言っているようなものである。
 ともあれ、各々の捜索指針は以下のようになった。
「俺はてめぇらのサポートをしてやるよ。敵は見つけ次第ぶっ飛ばせばいいんだろ?」
「ええと……私はかるかんを持って辺りを探してみます。皆さんよろしければ携帯電話の番号を教えて下さいませんか? その方が効率良く探すことができると思うんです」
「私はマールにお願いして歌留太ちゃんを探すね! 同じ猫だから探しやすいんじゃないかと思うの」
「私も、かるかんとミルクを持って探してみます。歌留太君の散歩道とか……この近辺の猫にもあたってみましょう」
「んー。私はベルディーニさんを試してみようかしら。それと刑部さん、歌留太くんの写真持ってる? あったら、それを持って探しに行くわ」
「イタリア男は怖そうだから避けて……とにかく仔猫を探します。その子がかるかん好きなら、私にも分けてください」
 六人はそれぞれ準備を整えると、担当区画を決めて方々へ散っていった。
「皆頑張ってね〜」
 笑顔で手を振るきつねを見、サラと汐耶が足を止める。
「何言ってるんですか。刑部さんも来るんですよ!」
「もちろん、探しに行きますよね?」
 二人に詰め寄られ、きつねは逃げるタイミングを失った。
「あああああせっかく老師に休みもらったのにいいいいぃぃぃぃ!!」
「さあ、一緒に歌留太くんを探しましょう!」
「泣くほど歌留太君が心配なんでしょう」
 それぞれに両腕を掴まれ、問答無用でずるずると引きずられていく。
 きつねの叫びは彼女らの姿が見えなくなるまで響いた。
 人間悪いことはできないものである。


■□ 伊男試し。
 その頃、時の人であるダリオ・ベルディーニは老師の依頼通り歌留太探しに精を出していた。
「歌留太ー。出てこい歌留太ー。老師が心配してるぞー。きつねも心配してるぞー、多分ー」
 かるかんを手に呼びかけて回っている。皆考えることは一緒らしい。
 三白眼は相変わらずだが、190cm近い長身をかがめながら子猫を探す様子からは危険人物という印象はうかがえない。むしろ滑稽味さえ感じられる。
 そして、そんなダリオを一番最初に発見したのはシュラインであった。
(ちゃんと店主さんの名前を出しているし、かるかんを持って探しているところを見ると、悪人には見えないんだけど……)
 とりあえず、当初の予定通りダリオを試すことにする。
 姿が見えないよう彼の死角に隠れ、ヴォイスコントロールで猫の声を真似る。
「みゃーん」
 シュラインの鳴き真似を聞くやいなや、ダリオはくわっと目を見開いた。
 ぴたっと足を止め、声のした方――つまりシュラインの隠れている方へ突撃してくる。
「歌留太ーーーーーー、今いくぞおおおおおぉ!!」
 その形相を見、さしものシュラインもその場を逃げ出した。その時、あらかじめ用意しておいたメモを置いていくことを忘れない。
 そのメモには、イタリア語で事のあらましや捜索妨害をされても暴れないようにとの注意書きが書かれている。語学に堪能なシュラインらしい気遣いだ。
 一瞬の後、ダリオは彼女が隠れていた茂みに埋もれて動かなくなった。しばらくして、がばっと顔を上げる。手にはメモを持っていた。
「これは……?」
 シュラインのメモを見つけたらしい。内容を読むやいなや、強面伊男はガタガタと震えだす。
「捜索妨害って何だ。まさかきつねとファミリーがグルになって俺を陥れようとしているのか!?」
 何やら違う方向に内容を理解したらしい。ちなみに、彼はわけあってイタリアマフィアに追われている身であったりする。
 「ギャー」という情けない声を上げながら走っていってしまった。
 追うわけにもいかず、そのままダリオを見送るシュライン。
「悪い人じゃなさそうなんだけど……あの様子じゃ、歌留太くんは逃げていってしまうんじゃないかしら……」
 その背中を見送りながら、シュラインは嘆息する。
 ダリオがきちんとメモの内容を把握してくれたのか疑わしい。
 念のため自分の足で老師の元へ行った方がいいだろう。今回のことはきつねが言い出したことだ。用心せねばなるまい。
 ともあれ、やるべきことはやった。後は歌留太を見つけて彼より先にきつねの元へ行くしかない。
 シュラインは歌留太の写真を取り出すと、周囲の民家や動物病院を探しに行くことにした。


■□ 伊男 vs 戦闘用ゴーレム
 ダリオがシュラインのメモを見て逃げ出した頃、1105と茉莉奈は黒猫マールの動物的カンを頼りに東京の街を奔走していた。
 1105は背中のブースターで短距離飛行が可能なのだ。茉莉奈は彼の腕にしがみつきながら周囲に目を走らせている。
 茉莉奈の腕にはマールが抱かれていた。1105が茉莉奈を抱え、茉莉奈がマールを抱えるさまは、一見微笑ましくもある。
 ふと、茉莉奈は視線の先に走る人影を見つけた。東京の裏路地を、大急ぎで駆けていく男がいる。
「あの走ってる人、ダリオさんじゃないかなぁ?」
 1105はすぐさまその男を捉え、先ほど見せられた写真と同一人物であることを確認する。
「ひゃはははははは! 見つけたぞダリオ・ベルディーニ!!」
 着地と同時に茉莉奈から手を離し、重斬剣「レギオン」を構える。この時点で、茉莉奈やマール、歌留太の捜索は1105の念頭から消えている。
 再度ブースターで軽く飛翔すると、落下と同時にダリオめがけて剣を振り下ろした。
 突然の襲撃にダリオは状況を理解していなかったに違いない。にも関わらず、彼は驚くべき身体能力で1105の攻撃を避けた。
 代わりに、重斬剣「レギオン」はアスファルトを深くえぐっている。攻撃が当たっていれば、ダリオなどひとたまりもなかっただろう。
「ぎゃーーーー! タスケテ歌留太ーーー!!」
 情けない声を上げながら更に逃走を図るダリオに舌打ちをし、1105は両肩に装備されている大型キャノン砲「スパイダー」を駆動。衝撃に備えて構え、ダリオの背中に狙いを定める。
「雑魚はとっととくたばりやがれエェ!!!」
 叫びと共に両キャノンによる連撃を放つ。轟音と共に路地周辺の建物に穴が空いた。建物内にいたであろう人間が幾人かその場を逃げ出していったが目もくれない。
 重要なのは任務の完遂である。
 視界が硝煙によってふさがれる頃になって、1105はようやく攻撃の手を止めた。
 辺りを見渡してみるも、ダリオらしき男の死体は確認できなかった。
 信じがたいことだが、あの攻撃の中を逃げきったらしい。
「チッ。逃したか……!」
 1105は忌々しそうに吐き捨てると、再度ダリオ殲滅の為ブースターを稼働させた。


■□ さらに、伊男 vs 魔法少女
「俺は歌留太を探してェだけなのに!」
 1105の攻撃を命からがら逃げおおせたダリオは、ひたすら入り組んだ路地を走っていた。
「待ちなさい!」
 その彼の頭上から声が響く。見上げると、建物の屋上に人影らしきものが見えた。逆光で顔は見えないが、声からして少女だろう。
 ちなみに、この少女は1105がダリオを攻撃している間に変身した茉莉奈である。
「可愛い動物に悪さをする人は、この魔法少女マリンが許さないんだから!」
 彼女はとうっ!というかけ声と共にダリオの目の前めがけて飛びおりる。
 すたっと華麗に着地すると、持っていたハンディカラオケマイクをビシィとダリオに突きつけた。
「私の歌を聴いて、大人しく改心しなさいっ!!」
 ダリオは突然現れた少女――アイドル風フリルワンピース(ミニ丈)着用、オプションにハンディカラオケマイク付――の出現に、またもや情けない声を上げる。
「てめえもファミリーの刺客だな!? ガキの姿で俺を惑わそうっていう寸法ならそうは行かねえぞ……!」
 顔に似合わず気の小さい男なのだ。言い捨てるなり、ダッシュで逃亡をはじめた。
 1105の攻撃を回避した反射神経といい、彼の脚力は賞賛に値する。
「あっ、逃げるなんて卑怯よ!!」
 茉莉奈はすかさずマイクを手に歌を歌う。
 ダリオが悪人であるかはさておき、彼女の歌は悪い心を持った人や妖怪を改心させることができるのだ。
 一瞬ダリオの足が崩れそうになるものの、だしっと地面を踏みつけ、持ちこたえる。
「ウオオォォー!! 俺は歌留太を探すんだーーーー!!」
 ダリオは耳を塞いで走り続けた。
 既に端正なイタリア男の表情からは威厳も風格も見られない。あるのはただ歌留太への執着だけである。
 恐るべき精神力。恐るべき歌留太愛。
「待ちなさいよ〜〜〜!」
 追いかけようとする茉莉奈の前に、それまでどこかへ行っていたマールが現れ行く手をさえぎった。
「にゃーん」
 どうやら歌留太の手がかりを掴んだらしい(茉莉奈は動物の言葉を理解できるのである)。
 優先すべきは歌留太の確保だ。茉莉奈は諦めてダリオの背中を見送ると、歌留太捜索要員メンバーへ連絡を取った。


■□ 歌留太、確保。
 ダリオが逃げ回っている頃、当の歌留太は途方に暮れていた。
 かるかんの匂いにつられて知らない人間の後をついていったところ、帰り道がわからなくなってしまったのである。
 それが数日前のことだ。以後うっかり野良猫の縄張りに踏み込んで逃げ回り、逃げた先では車に轢かれかけもした。帰り道がわからずに鳴いていたところ、子どもにいたずらされ散々な目にもあっていた。
 その上、ここ数日ロクなものを口にしていない。さすがにきつねの存在でさえ恋しく思えてくる。
 日頃しっかりしているとはいえ子猫は子猫。歌留太は弱々しい声で鳴くと、涙をこらえてとぼとぼと見知らぬ道を歩き出した。

 一方茉莉奈から連絡を受けたメンバーで、歌留太がいるであろうと思われる場所近くにいたのはサラ、汐耶、倉菜の三名だった。
 サラと汐耶に引きずられていたきつねも一緒である。
 四人はすぐさま合流すると周辺の捜索にあたった。数日前、歌留太が見知らぬ人間について歩いていたという情報が入ったのだ。
 最初はやる気なさげにしていたきつねだったが、茉莉奈からの一報を聞くなり積極的に歌留太を探すようになっていた。
(やっぱり、刑部さんも歌留太くんが心配なんですね……)
 サラはそんなきつねの様子を微笑ましく見守っている。
 しかし、汐耶はその様子を見ても疑わしげな視線を向けていた。
(これは絶対に何か企んでいるわね)
 損得勘定なしにきつねが行動的になるなど、これまでの付き合いを見る限り考えられない。
 そんな女性一行の思惑など知らない倉菜は、持っていたかるかんとミルクを手に嘆息した。
「この調子じゃ、いつまでたっても見つけられそうにないわ」
「私達がどれだけ探しても、歌留太くんが気づいてくれなければ見落としてしまう可能性もありますよね……」
 サラが不安げに頷く。そのセリフにきつねは眉をひそめた。
「何言ってんのよ、にーの。そんな弱音を吐いていたら、ダリオに先を越されるわよ」
 汐耶はきつねのセリフに引っかかりを覚えつつも思案する。
「何か目立つことをするというのはどうですか? 私達がむやみに探し歩くよりは、歌留太君に気づいてもらう方が確かに効率的かもしれません」
 汐耶の提案に、一同納得する。
 しばし検討した末、倉菜にヴァイオリンの即興演奏をしてもらうことにした。
 ちなみに彼女は楽器を持っていなかったので、すぐ傍にあった楽器店で事情を話し、店頭に飾られていたヴァイオリンを借りた。

 歌留太の耳にヴァイオリンの音が聞こえたのは、それからすぐのことだ。
 通常可愛がられる子猫とはいえ、何日も歩き回って薄汚れているものに手を差し伸べる人間は少ない。
 このまま店に帰れないのではと絶望していたところに、倉菜のヴァイオリンが響いてきた。
「歌留太は……よりテクノの方が……と…………」
 音色の傍ら、聞き慣れた女の声が聞こえてくる。
 途切れ途切れではっきりとは聞こえないが、それは忘れもしない同居人の声だ。
 歌留太はそれまでの疲れも忘れ、一直線に駆けだしていた。道行く人々が驚いて歌留太に道を譲る。
「あ、歌留太くん」
 最初に気づいたのはサラだ。倉菜の演奏によってできていた人だかりの変化に気づいたらしい。すぐに駆け寄って抱き上げる。
 続いて汐耶がミルクとかるかんを持ってサラの元へ走る。
 まさかこんなことで見つかると思っていなかったきつねは、歌留太を抱いて戻ってきた二人を見て複雑な表情をした。
 演奏を聴いていた人達も、子猫が見つかったとあって口々に労いの声をかける。
 きつねは歌留太を抱き上げ、その中心で縮こまっていた。こういった場面には慣れないのだろう。
 倉菜はそれを見て小さく微笑むと、続けて別の曲を奏で始めた。


■□ エンディング
 一同が【天幻堂】に戻る頃、あたりは暗くなり始めていた。
 発見された歌留太は、シュラインが手配した動物病院へ搬送されている。栄養失調になってはいたものの、点滴を打ったので心配せずとも大丈夫とのことだった。
 きつねとダリオが病院へ出向いているので、じき帰ってくるだろう。
 歌留太が見つかった後も、逃げ回っていたダリオと1105や茉莉奈の間で一悶着起こりかけたが、そこは天幻老師が丸く収めた。
 1105は最後までダリオを殲滅する気でいたようだが、最終的には任務完了の言葉に納得して帰っていった。
 なお、破壊された市内の被害について言及してはいけない。全ては貴い犠牲である。
 茉莉奈とマールは病院に付き添っていった。その後、きつねに命じられてダリオが家まで送ったはずである。
 強面のイタリア人に娘が送られて帰ってきたらご両親が驚きそうな気もするが、最終的にダリオ動物いじめ疑惑の疑いははれたようなので心配ないだろう。
 ヴァイオリン演奏で歌留太捜索に貢献した倉菜も、既に帰途についている。老師の協力を得、目的の本を手に満足げに帰っていった。

「それにしても、きつねさんは何をしたかったんでしょうね」
 店先で二人と一匹の帰りを待ちながら、汐耶がつぶやく。
 傍らに立っていたシュラインは、それを聞いていたずらっぽい笑みを浮かべた。
「彼女の思惑がどうあれ、今回は良い薬になったんじゃない?」
 歌留太発見の後、自ら病院についていくと言ったきつねを思い出す。
「何だかんだ言って、やっぱりきつねさんも歌留太くんが心配だったんですね」
 サラも嬉しそうにその言葉を肯定する。
 日頃天の邪鬼であるきつねが、わずかでも歌留太を思いやる行動を見せたのが嬉しいらしい。
 そこへ、夕飯を作りに台所へ籠もっていた老師が顔を出した。
「お嬢さん方。いつまでも外にいては風邪をひいてしまうじゃろう。シチューができたから、あやつらを待ちながら一足先に食べようじゃないか」
 三人は老師の申し出に顔を見合わせて笑うと、店の奥へ連れ立って行った。

 さて、結局のところきつねの真意であるが。
「結局、おまえ何を企んでたんだ」
 動物病院からの帰り道、ダリオは先を歩くきつねに問いかけた。
 彼女は安心して眠りについた歌留太を腕に、振り返らずに即答する。
「アンタがまんまと歌留太を発見したら、成功報酬独り占めじゃない」
「それの何が悪いんだよ」
 きつねは足を止めて振り返ると、しれっと答える。
「そんなの、見ていて面白くもなんともないでしょ」
 どういう理屈だ。というセリフをぐっと飲み込む。
 過程はどうあれ、歌留太は無事に帰ってきたのだ。
「やれやれ。"All's well that ends well."か……」
 ダリオは頭上に浮かぶ月を仰ぐと、きつねの後を追って歩き出した。



 Successful mission...?



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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)
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【2457/W・1105/男/446/戦闘用ゴーレム】
【2142/新野・サラ/女/28/某大学付属図書館司書】
【1421/楠木・茉莉奈/女/16/高校生(魔女っ子)】
【1449/綾和泉・汐耶/女/23/都立図書館司書】
【0086/シュライン・エマ/女/26/翻訳家&幽霊作家+草間興信所事務員】
【2194/硝月・倉菜/女/17/女子高生兼楽器職人(神聖都学園生徒)】

※発注申込順

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■         ライター通信
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 初めましての方も、お馴染みの方もこんにちは。
 「新春・歌留太大会!」へのご参加ありがとうございました。
 お届けが遅くなり、新春の時期を逃してしまい大変申し訳ありません。
 お待たせした分、色々と欲張ってみました。
 文字数がとんでもないことになっておりますが、少しでも楽しんで頂ければ幸いです。

>シュライン・エマさま
 「伊男」という略称があまりにもツボだったので採用させて頂きました(笑)
 裏方に徹してしまった感が否めませんが、描かれていない部分でシュラインさんにはだいぶ奔走して頂いているはずです。
 老師のシチューは、その労いの意味を込めて。
 また機会がありましたら宜しくお願いします(礼)

 それでは、ご縁がありましたらまたお会いしましょう。
 今宵も貴方の傍に素敵な闇が訪れますように。

 西荻 悠 拝