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<東京怪談・PCゲームノベル>


駅前マンションの怪

●神様からの依頼

「すみません。兄さんたち、もうすぐ帰ってくると思うんですけど……」
 その日真名神慶悟は仕事を探すべく草間興信所へと顔を出していたのだが、折悪しく零を残して全員出掛けていた。草間興信所の居候神様・桐鳳の探しものに付き合わされているのだと言う。
「いや、別に急ぐ用があるわけでもなし。のんびり待たせてもらうさ」
 と、零がお茶請けのお菓子を持って台所から戻ってきたちょうどその時。ガチャリと扉の音が響いた。
「あら、来てたのね」
 そう言ってまず最初に入ってきたのはシュライン・エマ。興信所の事務員である。最近はほとんどボランティアと化しているようだが。
「ちょうど良いや。お兄さんも手伝ってくれない?」
 続いて入ってきたのは十二か三歳くらいの少年――桐鳳である。
「なんだ、いきなり?」
 話が見えずに首を傾げると、最後に入ってきた武彦が小さな溜息をついた。
「帰り道に迷子の神様を見つけてな」
「放ってもおけなかったってわけか。怪奇事件はお断りなんじゃなかったのか?」
 思いきり怪奇事件担当の慶悟が言えたものではないが、からかい半分にそう告げると、武彦はいつもの定位置――自分のデスクに腰掛けつつ、苦笑した。
「そうなんだけどな……」
「迷子の子供を無視できるような冷たい人じゃないもんね、武彦さんは」
 にっこりと、子供らしい無邪気な表情で桐鳳が笑った。
「門松に導かれてやってきた年神様みたいだから、とりあえずは普通に送ってみようと思うのだけど……」
 通常は門松を焼くなどして神様を送り出すのだ。
「時期のこともあるし、現場があそこだからな」
 妖怪や怪奇現象が引き付けられやすい駅前マンションだ。普通に送り出しても帰り道がわからない可能性も考えておくべきだろう。
「門松は冥土の旅の一里塚……などと言うが、神がそれを標にして迷っていたのでは洒落にしかならないな。だが年初めに神を敬っておくのは悪い事ではない。手伝おう」
「そう言ってくれると助かるわ」
 こうして、シュラインと慶悟はともに駅前マンションに向かうこととなった。


●駅前マンションのどんど祭

 とりあえず二人がやってきたのは近場の神社である。
 迷子の少年が年神で、門松に導かれてやってきたのならば、どんど祭――正月の門松や古くなった取り替えられた注連縄(しめなわ)や神具、他の神社仏閣で付与された各種の守り札などをお祓いを受けた炎で燃やす、お炊き上げの祭事のことである。――で門松を燃やすことで帰り道を示すことはできないだろうかと考えたのだ。
 だが残念ながらすでに時期はずれ、どこの神社もすでに祭は終わっていた。
「うーん、となるとあとは私たちて直に焼くか、別の方法を考えないとね」
「一度その神様に会いに行くか?」
 できればある程度帰る方法を見つけ、安心させてあげられるようにしたいとの思いもあって先に神社を訪れたのだが……。
 まあ、終わってしまっているものは仕方がない。
 駅前マンションにやってくると、そこにはすでに先客がいた。
「こんにちわ」
 マンション入口でなにやらチラシを張っている天薙撫子と目が合って、シュラインと慶悟も笑顔で返す。
「こんにちわ、なんのチラシ?」
 言いつつ覗きこむと、それはどうやら駅前マンションでどんど祭をやるというお報せであるらしい。
「・……もしかして、そこの少年年神のためか?」
 慶悟の問いに、撫子はにっこりと微笑で頷いた。
「ええ。お二人もあの子をご存知だったんですか?」
「私たちもあの子の帰り道を探そうと思ってたのよ」
「放っておけるものでもないしな」
「でしたら、是非参加してくださいな。では、私は準備があるのでこれで失礼いたします」
 ぱたぱたと小走りにマンションに向かう撫子を見送って、コミュニティスペースの方へと向かった。
 と、そこにも先客が一人。・……というか、少年年神の傍に、可愛らしい人形のような少女が一人。
 ちなみに、外見の褒め言葉ではなく、言葉の通り――少女の姿は小さく、人形のような感じだったのだ。
「あら、楽しそうねえ」
 少女に遊び相手になってもらって、迷子の年神様は結構気が紛れている様子だった。
「こんにちわ〜」
 少女がテーブルの上からにっこりとお辞儀した。
「あんたもこの神様の帰り道を探してるのか?」
 その問いに、少女はふるふると首を横に振る。
「私はそういったことには詳しくありませんから……。でも、泣いているのを放ってもおけないので、準備が終わるまで一緒に遊んでいようかと」
 少女との遊びに参加するか、撫子の手伝いにまわるか少しばかり悩んだ二人であったが、結局。
 慶悟の式神を遊び仲間として数体置いて、二人は撫子の手伝いをするべく大家の部屋の方へと向かったのであった。


●年神様の御帰還

 急ぎの祭であったため、結局参加者は全部で五人――祭の企画者である天薙撫子と冠城琉人。撫子や琉人と同様、年神の帰り道を探すべく駅前マンションにやってきたシュライン・エマと真名神慶悟。偶然泣いている年神を目にして遊び相手にまわっていたセフィア・アウルゲートだ。
「それでは、始めましょうか」
 コミュニティスペースに置き去りになっていた門松を屋上に置いて、撫子がにっこりと宣言する。
「上手く帰り道が見つかれば良いのですけれどねえ」
 いつのまに用意したのか、屋上の一角になぜかお茶スペースができている。十数種類の茶葉に囲まれ、自身もお茶を飲みつつ、琉人がのんきに呟いた。
「見つからないの?」
 琉人の言葉を何故か悪い方に受け取って、年神の少年がぐすりと目に涙を溜め始める。
「大丈夫よ、そんなに泣かないで」
 シュラインの慰めを聞きつつ、慶悟が小さく息を吐く。
「神ならば、それなりの威厳を持たねばな。背筋を伸ばし毅然と構える。泣いていては神としての尊厳も台無しだ。だから泣かずに帰る方法を考える。良いな?」
 きっぱりとした声で言われて、年神のほうも納得したらしい。こくりと頷いて、涙を拭う。
「きっと大丈夫ですよ」
 年神に抱かれたままのデフォルメセフィアがにっこりと年神に笑いかけた。つられるようにして年神の少年も笑う。
「では、いきますよ」
 門松に火が点けられる。
 冬の強い風の中であったが、それは勢いよく燃えて、煙が天高くへと昇って行く。
「どう? 帰り道は見える?」
 シュラインの問いに、年神の少年は必死に煙と炎の行く先を見つめた。
 ふいに、少年の表情が明るくなった。
「見つかりました?」
 つられて表情を明るくした撫子に、年神の少年はこくこくと元気に頷く。
「それはよかった。ではこれはお土産にどうぞ」
 琉人オリジナルブレンドの日本茶の他数種類の茶葉をひょいと少年に手渡すと、少年はきょとんと茶葉を見つめて、琉人を見上げた。
「とても美味しいお茶ですから、是非みなさんで飲んでください」
 少年はぺこりっとお辞儀をして、ふわりと宙に舞いあがる。
「あ、手ごろなサイズ出すけど私を持ち帰られたら困ります〜」
 言われて、少年はぱっと慌てて手を離した。どうやらセフィアを抱いたままであったことをすっかり忘れていたらしい。
 少年はセフィアを離してから再度、深々とお辞儀をして、今度こそ。
 空高くへと飛び去っていった。

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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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整理番号|PC名|性別|年齢|職業

0086|シュライン・エマ   |女|26|翻訳家&幽霊作家+草間興信所事務員
0328|天薙撫子       |女|18|大学生(巫女)
0389|真名神慶悟      |男|20|陰陽師
2209|冠城琉人       |男|84|神父(悪魔狩り)
2334|セフィア・アウルゲート|女|316|古本屋

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■         ライター通信          ■
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 こんにちわ、日向 葵です。
 今回は依頼へのご参加ありがとうございました。
 すみません、〆切ギリギリ‥‥お年始の季節はとっくに過ぎてしまいましたねえ(涙)
 もともとお年始より少しずれた時期の話――1月下旬くらいを考えていたのですが、2月にまたがってしまったのはちょっと予想外でした。
 ちょぴりと風邪で寝込んでしまいまして。まだ寒い毎日が続きますが、皆様もどうぞ体調にはお気をつけくださいませ。

 それでは今回はこの辺で。
 またお会いする機会がありましたら、よろしくお願いいたします。