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<東京怪談ウェブゲーム ゴーストネットOFF>


とらわれの魔法使い
「どうしたらいいのでしょうか……って言われてもねえ」
 いつも通り、行きつけのインターネットカフェからゴーストネットOFFへ寄せられた投稿をチェックしていた雫だったが、「助けてください」と表題のついた投稿を見、眉を寄せた。
 以前あった投稿の中に、家に飾ってある幽霊画から幽霊が抜け出してきて、夜な夜な家の中を歩き回っている、というものがあった。
 それだけならばよくある話だったが、その幽霊のおかげで色々とトラブルが起こっているらしい。
 そんなわけで、知り合いの新米魔法使いに調査を依頼したのだったが――
 どうやら、失敗して、絵の中に取り込まれてしまったらしい。依頼人も困り果てて、再び雫に泣きついてきた、というわけだ。
「まったく、時人ちゃんてば……困っちゃうなぁ」
 時人ならばありえないとはいいきれない事態ではあったが、さすがに、放置しておくわけにもいかない。
 誰か行ってくれそうな候補を思い浮かべながら、雫はメールを送るべくメールソフトを立ち上げた。

「あれ、雫さんからメール? 珍しいな」
 学校からの帰り道、携帯電話に雫からメールが届いているのに気がついて、海原みなもは首を傾げた。
 不思議に思って開いてみると、どうやら、幽霊画の中に人が取り込まれてしまったのだという。
「……あたしにできるのかなぁ」
 みなもは細い眉を寄せてつぶやいた。
 だが、頼まれたからにはやるしかない。絵に取り込まれてしまったのを放っておくなんてかわいそうだ。
「早く行こうっと」
 メールで指定された依頼人の家へ急ぐべく、みなもは足を早めた。

 雫から届いたメールを受けて、依頼人の家へ集まったのは、尾神七重、セレスティ・カーニンガム、柚品弧月、海原みなもの4人だった。
 暗紅色の瞳をした銀髪の華奢な中学生男子と、線の細い銀髪青眼の財閥総帥、どこか飄々とした雰囲気の大学生、青い長い髪のセーラー服の中学生、それから今回絵の中にとらわれてしまった張本人である黒ローブ姿の少年の5人――という組み合わせはなんだか奇妙な組み合わせではあったが、こういった依頼を受けている人間にとってはよくあることなので、誰ひとりとして気にしている様子はない。
 依頼人である夫人は、問題が解決していたと思っていたのに今回のようなことになってしまったため、寝込んでしまっていて今はいない。絵の中に取り込まれてはいるものの、とりこまれた本人である朝野時人が事情を説明できるということで、5人は夫人から部屋を1つ借りて作戦会議をすることにしていた。
「それで、どうしてこんなことになったんです?」
 弧月が、半分透けた身体で椅子にちょこんと腰掛けている時人に訊ねた。
「えっと、そもそもは僕、セレスティさんの家からこの家まで絵を運んでほしい、って瀬名さんから頼まれてたんです。でもどうも、途中でなにか拾ってきちゃったみたいで……あは、絵の中に閉じ込められちゃって。出てはこられるんですけど、あんまり離れられないし。ちょっと困ってるんです」
「また、あの子が悪さをしているのですか?」
 セレスティが時人に訊ねる。時人はあわてて首を振った。
「あ、あの子は悪くありません! 僕、閉じ込められてからあの子といろいろ話とかしたんですけど……あの子、全然悪いことなんかしてないんです。なんか、絵に別の霊が取りついちゃったみたいなんですよ」
「……そうですか。それは少し厄介かもしれませんね」
「厄介って、どうしてですか?」
 セレスティの言葉に、みなもが首を傾げる。
「既に霊のとりついている絵にあとから取りついて、なおかつ他人を害することができるわけですから、かなりの力を持った霊なのではないでしょうか」
「あ、そっか、言われてみればそうですよね。う〜ん、あたし、本当に役に立てるのかな」
 みなもがしゅんと肩を落とした。ただの女子中学生でしかない自分にどこまで手伝いができるのか、だんだん不安になってくる。
「そんな! 来てくれただけでも嬉しいよ。海原さんみたいな人に会えるきっかけになったんだし、ちょっとだけラッキーだったかもとか」
 あわてて時人が力いっぱい主張する。
「……僕は?」
 それまで黙っていた七重が静かに問う。静かなだけにその怒りが透けて見えるようで、時人は自分の失言を少しだけ後悔した。
「七重くんに会えたのももちろん嬉しいよ! ていうか七重くんと会うのってはじめてだったよね。ちょっと感激してるよ〜」
 言いながら時人が七重へと手を差し出す。
 少し迷ったあとで、七重は無表情にその手を握り返す。
「なんだか、思っていたより深刻でもなさそうですね」
 それを見ていた弧月が苦笑した。
 深刻な依頼なのだろうかと思っていたのだが、取り込まれた本人もそんなに危機感を持っているわけではないらしい。
「まあ、一応、ちょっと探ってみますけど」
 そうして、弧月は立ち上がり、幽霊画に手を触れさせる。
 サイコメトリー能力を持っている弧月は、ものに手を触れさせると、そのものの持つ記憶を読み取ることができるのだ。
 4人の見守る中、弧月は意識を集中させる。
 弧月の中に、幽霊画のもつ記憶が流れこんでくる。
「なにかわかりましたか?」
 セレスティが弧月に訊ねた。弧月は振り返り、首を縦に振る。
「帰り道、事故現場を通って来たでしょう?」
「事故現場? ……うーん。覚えがないような……」
「俺の見たところによると、ここに来るまでの間に、道端に花の供えてある通りを歩いてきてるはずなんです。そこにいたのがくっついてきたんじゃないかな、と」
「……その幽霊と話ができればいいんですけど」
 時人の手をにぎにぎしたまま、七重が口にする。
「あ、あたし、幽霊さんの姿が見えるようにするのだったらできますよ!」
 ごそごそとカバンの中を探り、みなもがラベルのついていない目薬のような容器を取り出した。
「この中には霊水が入ってるんです。これをさせば、霊能力のない人でも幽霊さんを見ることができるようになると思います!」
 みなもがまずは自分の目にその霊水をさし、隣にいた七重に目薬の容器を渡す。霊水はセレスティ、弧月とまわって、またみなものもとへ戻ってくる。
 霊水をさしたあとで見てみると、時人の背中から糸のようなものが出ていて、幽霊画につながっているのが全員にわかった。絵を抱きしめるように、若い女の霊がはりついている。
 女の霊はほとんど普段着に近いかっこうで、買いものに出てきたかなにかしたままで亡くなったのではないかと思われた。
「これは……交通事故で亡くなった方の霊でしょうか」
 セレスティが口にする。
「多分、そうでしょうね」
 眉を寄せながら弧月が答えた。
 弧月は女子供にはめっぽう弱いのだ。
「え、なにか見えてるの?」
 時人はなにも見えていないらしく、あたりをきょろきょろと見回している。
「そこに、女の人の霊がいるんですよ」
 みなもが絵の方を指して教える。時人は目をぱちくりさせながら絵の方を見た。
「……やっぱりなにも。僕、幽霊とかそういうのは苦手みたいで」
「相性というものもやはりありますからね。あまり気に病まなくとも大丈夫ですよ」
 セレスティが優しくフォローを入れた。
「それで、どうして絵にとりついて、しかも時人くんを取り込んだりしたんだろう」
 七重が小さくつぶやく。
「そういえば、気になりますよね。時人さんは幽霊さんが見えてないみたいだから、なにか取りつかれるようなことをしたようにも見えないですし」
「心当たりはあるの?」
 七重が訊ねると、時人は首を横に振る。
「お話を聞いてみればいいのではないでしょうか。特に悪意があるようにも見えませんし……」
 言いながら、杖をついてセレスティが女の霊へと近づいていく。
「もしよろしかったら、どうしてこんなことをしたのか、お聞かせ願えませんか?」
『……あなたたち、私の姿が見えるの?』
 音というよりは、頭の中に直接響いて来るような感じで、女の声が響いた。
「そうです。もしもなにか心残りがあるようなら叶えます。だから、時人くんを解放してください」
 七重が静かに答える。
「そうですよ! あたしたちでできることだったら、がんばりますから。だから、もう、こんなことはやめてください。よくないですよ」
「そうですよ、俺たちで力になれることがあるんだったら言ってみてください」
 みなもや弧月も口々に同意する。それを聞いて、女の霊の顔がぱっと輝いた。
『実は……私には子供がいたんです。子供を置いて、買いものに出たときに、事故にあってしまって……それで子供が恋しかったときに、彼を見かけたものですから……つい』
「そうだったんですか……」
 みなもがしゅんとうなだれる。こういう話には弱いのだ。
「ですが、彼はあなたのお子さんではありませんし、こういったことはよくないのではありませんか?」
 セレスティがなだめるような口調で言う。
『それは……わかって、いるのですけど。ひとりではどうしても寂しくて』
 女の霊ははかなげに微笑んだ。
「まあ、気持ちはわからないでもないですね。どうしたものかなあ」
 弧月がぼやくような口調で言って、頭をかいた。
『……ねえ』
 そのとき、幽霊画の中から小さな子供が半分だけ顔を出した。
『僕じゃダメ?』
「ああ……あなたは」
 その子供を見て、セレスティが顔をほころばせた。
「誰ですか?」
 七重が首を傾げる。
「先日、私が最初に依頼を受けたときに、悪さをしていたという幽霊ですよ」
『ごめんなさい、迷惑かけたらダメだって思って静かにしてたんだけど……』
「いいえ、かまいませんよ」
 セレスティは笑顔で答える。少年は安堵したようにため息をつくと、絵の中からすっかり出てきて、女の霊と向かいあった。
『僕もひとりなんだ。だから、一緒にいようよ。お兄ちゃんのことは離してあげて』
 言いながら少年の差し出した手を、女の霊がそっとにぎる。
「よかったですね。その子も、もう寂しくないですよね」
 みなもが笑顔で言った。
「……よかった」
 七重は安堵したような表情を見せた。時人を絵の中に取り込んだという幽霊の意思を尊重しようと思っていただけに、女の霊にとって納得のいく結果になったことに七重は心底ほっとしていたのだった。
「本当によかったですね。これでもう、寂しくないですね」
 セレスティが言うと、子供の霊は照れくさそうな表情でうなずいた。
「それじゃ、これで一件落着……ってことでいいですか? とりあえず、家の人を驚かさなかったら、幽霊のひとりやふたり憑いてたってかまわないですよね」
 弧月が全員の顔を見回しながら言った。
 それに対して、全員が笑顔でうなずき返したのだった。

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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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【整理番号 / PC名 / 性別 / 年齢 / 職業】
【2557 / 尾神・七重 / 男性 / 14歳 / 中学生】
【1883 / セレスティ・カーニンガム / 男性 / 725歳 / 財閥総帥・占い師・水霊使い】
【1582 / 柚品・弧月 / 男性 / 22歳 / 大学生】
【1252 / 海原・みなも / 女性 / 13歳 / 中学生】

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■         ライター通信          ■
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 こんにちは、2度めの発注ありがとうございます。今回執筆を担当させていただきました、ライターの浅葉里樹です。
 前回はみなもさんの人魚としての能力をあまり生かせなかったので、今回はプレイングにあった「霊水」を他の方にも使っていただいてしまいました。このような形で使ってしまってよかったのかな……と少しドキドキしています。大丈夫でしたでしょうか。
 みなもさんは純粋で優しい方だろうなと思ったので、今回も、このような感じになりました。お楽しみいただけていれば大変嬉しく思います。
 もしよろしかったら、ご意見・ご感想・リクエストなど、ございましたらお寄せいただけますとありがたく思います。今回はありがとうございました。