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<PCシチュエーションノベル(ツイン)>


奇妙な出会い:居候は記憶をなくした神様?

「神威さん。ごはんですよ」
と、焔寿がある部屋をノックする。
「あぁ?…今行く…」
本来なら、白里焔寿の家には彼女と友達の猫2匹しかいない。
客なのか?それも違うようだ。
神威(かむい)と言われた20歳程度の青年は、焔寿の用意している朝食のにおいに誘われフラフラ食堂に向かった。
「おはようございます」
「ああ…おはよう」
彼はラフな服装で(父親の残していたものだが)、茶碗(大きさからは丼)と箸を手にとって、ガツガツ乱暴に食べる。
「また、ガッコウと言うところに行くのか?」
「はい」
「人混みなんか面倒なところなのによ?かわっているぜ」
「でも、楽しいですよ」
「へぇ〜へぇ〜へぇ〜」
と、神威はつい最近見た感心すると声の出るボタンを押す番組の真似をして焔寿を笑わせた。
「ふふふ、神威さんは、ゆっくりして下さいね」
「そのつもりだ…わざわざ外に出る気もねぇ…空気も汚いし…」
彼はなにか不満げに文句を言おうとしたが、
「しかし、俺をこうして居させてくれるお前には感謝している」
「はい、では後かたづけしてから出かけますから」
にっこり微笑みながら、焔寿は食堂から厨房に向かった。
「ああ、いってこい」
と、素っ気なく言ってから、未だ食べ足り無いのか、電子ジャーを空けて白飯が残ってないか見ている神威。
兄妹でもないし、親戚でもない。
焔寿と彼の関係とは何なのだろうか?
其れはある日のことだった。


白里焔寿は響カスミと下校していた。
音楽の話で盛り上がる。
「白里さんとは楽しい話が出来て嬉しいわ」
と、カスミはニコニコ顔である。
神聖都学園にいれば必ず怪奇や不思議な噂で、心安まる時はないのだ。
しかし、音楽の趣味など一緒の焔寿と一緒に帰る時間が出来ることは、彼女にとって幸せだった。
「先生に色々教えて頂けて嬉しいです」
「ありがとう白里さん」
途中、駅に通じる道と焔寿の家に通じる道に別れる交差点。
「また、明日ね♪」
「はい、さようなら」
と、カスミは手を振って、焔寿はお辞儀をして別れた。

焔寿は家に居る2匹の友達はどうしているかなと、家に向かう。
途中、やんちゃな紫猫が「にゃー」と鳴いてのお出迎え。
「ただいま」
焔寿がにっこりと微笑むと、紫の猫は彼女の肩に飛び乗り、頬をすり寄せる。
しかし、どこから出てきたのだろう?と考えても仕方ないので、家に向かう焔寿。
数メートル先で、焔寿と猫は異様な気を感じた。

「フ――――ッ」
猫が焔寿から降りて威圧の構えを見せ当たりを見渡す。
屋敷の中には綺麗に植えられている木々がある。その辺りから神域レベルの気を発していた。
「え?なに?」
焔寿は、猫をおいてその場所に向かった。
携帯用の術法用具もすぐ取り出せるように。
其処にいたのは、数百年前の服装で眠っている20歳前半の美青年だった。
頭から少し飛び出ている角らしき物体が2本、身体には、刀傷や矢を打ち込まれた傷跡もあり、服には、破けた呪符が付いている。
「誰…なんでしょう?」
戸惑いを隠せない焔寿。青年は未だ眠っていた。
このままでは、風邪を引くし…其れにどこかで見たことがという気概観を覚える。
不思議な気持ちである。
「あ、ど、どうしましょう」
おたおたしている焔寿。かといって、焔寿の力では、彼を家に運ぶことは出来ない。
そう言うときこそ、彼女の背後で活躍している黒子の出番となる。
全て手筈を整えているかのように、部屋を掃除し、眠っている青年にパジャマに着替えさせ(ナイトキャップ付き)、かつその部屋に寝かしてから、その場にいないように黒子達は消え去った。
その早さ、1分もかからなかった。
青年は風邪も引いてないし、ただ、気を寝言のように発散しているだけなので簡単な呪符で物が壊れないようにするのみ。
ひとまず、焔寿の不安(その1)は解決した。
不安(その2)である、彼が何者かを調べなくてはならない。神格級の気を放つ者であれば、静波家の記録を調べれば何か分かるはずと焔寿は思った。
母が此処に嫁いできたときに持ってきた、静宮家の記録を探すため、大きな屋敷をかけずり回った。なにぶん、幼いときに両親が亡くなったものだから、何処に何があるか分からないことが多いし、屋敷の大きさで一度は迷子になった事もある(その時親戚がいなかったらどうなっていたか)。今では殆どのことを把握しているので、未だ見つけていない秘密扉の発見ぐらいしか驚かなくなった。
「お父様も色々仕掛けていらっしゃったのね」
と、ぽつりと言う焔寿。
静宮家の神子歴史書を見つけるに3時間かかった。埃まみれの書庫から発見されたのだ(中には『ルルイエ異本』『ネクロノミコン』などもあったが…)。
其れを紐解く焔寿。
「そんな?」
彼女は驚いた。
この青年は、過去の古より生きる純血の鬼族。古き神々を祖先に持ち、かつて静宮家と戦い封印された闘神、「天津・神威(あまつ・かむい)」と言うのだ。
本来なら封印はその時代から数えてもまだ数百年以上効果は持続するはず。また、この屋敷がある土地で静宮家の先祖がこの鬼神と戦い封印したわけではない。
「いったい、どうして此処に?」
焔寿は考えるも、今の情報では何の手がかりも得られない。かといって親戚を呼び寄せることなどしたくはない。
「本人が起きてから事情を訊いた方が良いですね」
と、焔寿は決めた。
今までこの家で育っていたのだから、家主である自分で責任をとるべきという強い意志を持って。


神威は、見知らぬ天井を見て驚いている。
僅かながら過去の記憶があるようだが、この部屋の豪勢さに言葉も出なかった。其れに勝手に得体の知れない服を着せられているし、何か奇妙な帽子を被っている。
「なんじゃこりゃ?!」
寝心地は良いので、驚いても動けない。否、動きたくないと言うのが本音だ。ふかふかした気持ちよいベッドで又眠気を感じる。
その時、少女が現れた。
「…あ、起きましたか?」
と、湯気の立ったココア入りマグ2つとサンドイッチをトレイに乗せて焔寿が入ってきた。
「て、てめぇ誰だ?」
青年は、警戒して焔寿に訊く。
「この家に住んでいる白里焔寿と申します。私の庭であなたが倒れていたもので」
「……そうか…わりぃな…」
少し状況がつかめたのか、青年は警戒を解き、ナイトキャップをいじる。
「あの、お名前を聞かせて欲しいのですが」
テーブルにトレイを置いて、焔寿は彼に付いて色々訊ねることにした。
「名前…わからねぇ」
「?え?では、前にお住みになっているところは?」
「しらねぇな」
「何か覚えている事はありませんか?」
「いや全然」
焔寿の問いに全て首を振る神威。
このパターンはどう見ても記憶喪失。長い間、封印の所為で風化したか、封印が解けたときに彷徨い続けて、ショックで消し飛んだかだ。
まさか、過去宿敵だった鬼が、記憶喪失で再会してしまった。
本当なら、SFX超大作と迄行かないだろうが、宿命の対決がこの場で起こるはず…。
しかも、ココアの入ったマグとサンドイッチをマジマジ見つめて涎を垂らしている青年。
「どうぞ、…お召し上がり下さい」
「おお、いただく」
よほど腹が空いていたのか、一気にサンドイッチを頬張り、熱いココアを一気飲みする。
その、仕草たるや焔寿には恐ろしい鬼とは思えなかった。
「助かったぜ…。なんもしらねぇ俺に此処まで親切にしてくれるなんてな。…なんていえばいいのか、ありがとうよ」
呆然とする焔寿に礼をいう鬼。
実に奇妙なものだ。乱暴な所もあるが、恩義には応える誇りは鬼として、神として残しているようだ。
このままどうするべきか悩む焔寿。本当のことを告げても笑い飛ばされるかもしれない。
「あの、全てはっきりするまで此処に居ても構いませんよ」
「え?いいのか?」
戸惑う、青年。
「何処も行く当ても、ご自分のお名前も分からないようですからその間はいいですよ」
「ありがたい」
青年は、深々と礼をする。
「しかし、腹減った。今のモンでは足りねぇ。何か無いか?」
「あ、はい。でもその前にお名前を決めてよろしいですか?」
「お、そうだよな。名前がないとおまえ俺も不便だ」
「…えっと、「神威(かむい)」さんと、呼びますから」
「「神威」ね。わかった。焔寿、世話になる」
「はい。では、急いで用意してきますね」
焔寿は、部屋を出て食事の準備を始めるのだった。

暫くは、神威は猫と喧嘩して部屋をボロボロにしてしまったり、屋敷で迷子になってしまったりして、焔寿達に迷惑をかけていたが、いまでは皆と上手くやっているようだ。しかしあまり外には出たがらなかった。
屋敷の屋根に軽々と登り、焔寿が早く帰ってこないか見ている時もある。
「俺は何もわからねぇ…好きにさせて貰うさ」
神威は、自分の正体が分からぬ不安はあるが、今を生きようと考えていた。

「ただいま、神威さん!」
焔寿の声がする。学校から帰ってきたようだ。
「腹減った!早く何か作ってくれ!」
「まだ、時間未だですよ。おやつならありますけど?」
「それでもいい!」
他愛のない平和な会話。しかし、神子と神の奇妙な同居。これからどうなる事やら…。