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預り知らぬ過去の鳴動
■オープニング■
宵の口。
「今日はいい月夜ですね」
しみじみと言ったのは来客用ソファに座っている、草間武彦とほぼ同年代と思しき男。
客である。とは言え依頼人と言う意味ではない、私的な客だ。一応、常連。
バーテンダーの真咲御言。
「…仕事はどうした、真咲」
「休みです。今日だけはちょっと席を外してくれと紫藤に追っ払われまして」
「そうか」
「ところで、今日は王道と言う事でブルーマウンテンのブレンドですが、如何です?」
「…ああ、美味いよ」
「それは上々」
どこか悪戯っぽい、御言の笑みを含んだ瞳。
が。
次の瞬間、鋭い瞳に変わった。
「――零さんも伏せて!」
「え?」
何事か。武彦が思ったその時には御言はデスクの上に飛び乗っていた。武彦を押し倒す形で床に伏せ込む。次の瞬間、窓ガラスが派手な音を立てていた。小さな穴を中心に蜘蛛状の罅がガラス表面に走っている。武彦の飲んでいたブルーマウンテンのカップも、真っ二つに割れていた。中身が零れている。
黒い液体がつぅと伝い、絨毯に一滴、落ちた。
窓ガラスの弾痕と割れたコーヒーカップを直線で繋いだ、ちょうどその間に当たる場所に――つい今し方まで武彦の座っていた椅子がある。
――もし御言が、咄嗟に武彦を押し倒していなかったとしたら?
「…身に覚えはありますか」
厳しい声で御言は武彦に問う。
――今、明らかに狙撃された。
「無いとは言い切れんよ」
「探偵さんですもんね」
言いながら御言は武彦を壁際に押しやり、自分も物影に隠れる。
「…今の狙いは明らかに貴方でしたよ。
どうしましょうか?」
■動じない人々■
「今更何言ってるんですか、狙撃されたくらいで」
…1ほぇ〜。ですね。
と、何処から持って来たのか卓上用らしいてのひらサイズの丸いボタン――『驚きの泉』と言うテレビ番組から出た人気商品らしい「ほぇ〜ボタン」――をのほほんと一発叩きつつ、雪ノ下正風(ゆきのした・まさかぜ)は御言の淹れたブルーマウンテンを飲んでいた。
「…雪ノ下さんにかかると気が抜けますね」
苦笑混じりに溜息を吐きつつ、御言。
「でも……もう次は無さそう」
と、正風同様のほほんと――ブルーマウンテンのカップを傾けつつちらりと窓を見る、赤い髪を長く伸ばした青年がひとり。
五降臨時雨(ごこうりん・しぐれ)。
彼の隣に居た、同じ方向を見ている小柄な少年――石神月弥(いしがみ・つきや)も、中身の入ったカップを両手で持ったままで固まっていた。…驚いたのだろうか。
「うわー…ガラスとカップが割れてる…かわいそう」
ぽつりと言って、月弥は自分の持つカップに視線を落とす。
…それだけで、中身は飲まない。
「うん…かわいそう」
何故か同意する時雨。…果たして意味が通じているのだろうか。
「…で、狙われた当の草間さんに同情する方はいらっしゃらないと」
小さく肩を竦めて、御言。そして武彦より先に立ち上がると、撃たれた当のデスクを見に動いた。
「同情と言いますか。そろそろ慣れているんじゃないですか? 草間さんなら」
いい加減怪奇事件には片っ端から縁持ってますしねえ。結構洒落にならない危ない事件にも。
むしろ普通の事件じゃ物足りなくなってたり?
に、と笑いつつ、正風はあっさりそうのたまう。
「雪ノ下…お前、俺を何だと思ってる訳だ?」
「草間さんは我らが怪奇探偵ですよ」
あ、ひょっとして探偵じゃなかったりするんですか、そりゃまたびっくりだ。
ほぇほぇほぇ〜ほぇ〜。
「…それ、仕舞え」
壁に寄り掛かり座ったまま、がっくりと項垂れつつ、武彦。…立ち上がる気が失せた。
と、そこで――良いじゃないですか。こーいう気の抜けるおもちゃがあった方があまり深刻にならなくって済みますよ――などと平然と答える正風。
…一応、考えて行動を取ってはいるらしい。
「って、あのっ」
平然とほぇほぇ押しまくる正風や、のほほんとしている時雨に月弥、デスクから窓に寄る御言に――慌てて声を掛ける零。今あったのは窓の外からの狙撃だ。次がいつ来るか――その意識が、零にはある。
その顔に対し御言は小さく微笑んだ。
「専門の殺し屋さんである五降臨さんが次は無さそうだって仰ったでしょう。その通り、もう大丈夫ですよ」
「うん。…居ないと思う」
ずず、と珈琲を啜って、ん。とあっさりと頷く時雨。
「失敗したと思ったら……逃げるの、鉄則」
ね? とにこやかに時雨は御言から零を見る。
まだ何処かおろおろしている零を余所に、御言もはい。とあっさり頷いた。
「それに…どうも妙ですしね…」
「って…何か……妙な事…?」
「ここを見ればわかる事ですが」
と、とんとん、と御言はデスクを指先で叩いて示す。
「……………あ」
示されたそこを覗き込み、時雨。
「…ふむ」
同様に覗き込み、「ほぇ〜ボタン」をぺしぺし叩く正風。
ほぇ〜ほぇ〜と気の抜ける音が連発する。
「…あれ、弾が無いの?」
こちらも同様に見に来た月弥は、きょとんとした顔で呟いた。
その科白を聞き、武彦は意味ありげに溜息を吐く。
一同の視線がそちらに向いた。
が、その時。
こんこん、と玄関ドアが柔らかくノックされる音が響いた。この興信所、音が喧しいので常連の面子はあまりブザーは押さなくなっているが――代わりにドアをノックされる事は多い。そしてそろそろ叩き方で来訪者の種類がわかるようにもなってきている。今の音は――どちらかと言うと落ち着いた性格の年長者か。
そんなノックの直後、よいしょとばかりにドアが開けられる。
まずそこに居たのは鮮やかな緑の髪色をした小柄な少年。そしてその後ろ、透き通るような薄い青の瞳の男が立っていた。ノックをしたのはこちらのよう。一方の少年はぺこりと男に頭を下げておじさん、ありがとーなの、と告げ、今度は室内に向けて元気な声で挨拶をする。
「こんにちはなのー」
その声に気付き、武彦はひょいと玄関に顔を向けた。
「…お前は、藤井(ふじい)のところの」
「はーい。らんなの。えっとね、今日は持ち主さんにチーズケーキをくさまさんのところに持って行けって言われたから、持ってきたの。みんなで食べてなの」
と、らんと名乗った少年――藤井蘭(らん)は大きなケーキ箱を室内の誰にともなくずいと差し出し――停止した。
「あれ、なんでくさまさんゆかにすわってるの? それにゆかになんかとうめいなものがいっぱいおちてるの」
たたっと入ってきてケーキ箱をテーブルに置くと、蘭は興味深そうに武彦に駆け寄り、『とうめいなもの』に触れようとしゃがみ込み手を伸ばす。
が。
さすがにそれ以上は武彦も黙っては見ていなかった。
「止めておけ」
「…なんでなの」
「手を切るかもしれない。危ないから触るな」
「あぶないの? …わかったの。触らないの」
うん。と頷きぴょこんと立ち上がる蘭。
と、その後ろに立っていた、アクアマリンの如き瞳の――温厚そうな医者らしき男の方が蘭に続いて音も無く入って来ていた。
「…何やら派手に起きているようだね、草間君」
「ああ、城田(しろた)さん、か。どうしました」
「その科白はそっくりそのままきみに返したいね」
わたしはいつもの如く事件を求めて気紛れにここに来ただけの事。きみこそいったいどうしたのか。
静かな表情のまま、城田と呼ばれた男――城田京一(きょういち)は武彦の前で膝を折り座り込む。
「今日は珍しく煙草を喫ってはいないようだね。良い事だ」
「…ついさっき取り落としただけですよ」
「ならばついでだ。そのままで居てくれよ」
いつも言っていたな、その煙草を今すぐ消してくれるなら、力を貸すよと。
「力を貸す…ね。今回のこれはそれ程大した話じゃないんですが」
「狙撃されていながらそう言うかね? それも、実際の被害を見るに充分大した話になりそうだと思うが」
割れたガラスにカップは元より、こちらは未遂で済んでいるが…撃たれていたらきみはどうなっていたかな?
「そげき? ひがい? うたれる?」
きょとん、と首を傾げる蘭。
と、京一は疑問符を投げ掛ける蘭を振り返り、丁寧に噛み砕いて話し始めた。
「草間君が狙われてる、って事だ。きみの言う『とうめいなもの』はこの窓に嵌っていたもの。外から何かで撃たれて――草間君の事だから本当に『銃』で撃たれたのかどうかも怪しいと思うがね――飛び散った訳だ」
「くさまさんがねらわれてるの?」
「位置からしてそうなる。所長の草間君以外がそこに座る事は殆ど無いからな」
痕から考えて、随分正確な狙いに見えるね。
「そうなの? …た、たいへんなのー!!」
京一に言われ漸く事態に気付いた蘭はわたわたと慌て、割られた窓に寄り――ばたばたと背伸び。
「…いや、だから」
大事じゃないって。
力無くぐったりと座ったまま、改めて言い直す武彦。
だが大騒ぎを始める蘭はじめ――誰も聞いていない。
「どこからうったのかな? なんでうったのかな? だれがうったのかな? …見えないのー!!!」
と、蘭がじたばたしてるところで。
ひょい、と身体が持ち上げられた。
「ふぇ?」
急に眼の位置が高くなった蘭は、きょとん、として振り返った。
そこにあったのは優しく微笑む赤い髪と瞳――時雨。
「これで……見える…よね」
「おにいさん、ありがとーなの!」
元気に言ってのけ、時雨に抱き上げられた蘭は今度こそじーっと外を見遣る。
「植物さんたち、うったひと見てないかな…」
そして、うーん、と考え込みつつぼやいている。
「弾が無いとなると…そこからも『訊け』ないしなぁ」
こちらもまた、うーん、と悩みつつ窓から外を見上げ、月弥。
弾があれば元持ち主の事になるし、有力証言が得られたと思うんだけどなあ…。
こうなれば仕方無い、狙撃犯が居ただろう現場に行って『訊いて』みるのが一番か。
はぁ、と息を吐く。
京一も頷いた。
「確かに、蘭君やそちらの…」
と、月弥を目で示し停止する。示された月弥は早々に察し、問うように自分を指差した。それに対し京一は肯定するよう、静かに頷く。
「…俺は石神月弥です」
「有難う。…蘭君や月弥君の言う通り、弾道から狙撃地点を推測して現場に行ってみるしか無さそうだね」
言い切る京一。
と。
「…この角度だと一ヶ所しか有り得ない」
横合いから言いながら、武彦が漸く立ち直ったのか腰を浮かせ立ち上がる。
「草間君」
「道を挟んだ向かいの建物だ。一階分ぶち抜きでテナント募集になっているところがある」
そこ以外からは考え難い。…何物にも遮られないでここの中は見えるのはそこだけだ。
「それから…今俺を撃った相手は、杉下と言う男だよ」
仕方無さそうに、武彦はそう吐いた。
■有り得ない記憶■
「ほぅ? 心当たりがあるのかね?」
興味深そうに問う京一。
武彦は暫し考えるよう視線をさまよわせてから、頷く。
「あると言えばある」
だが…無いと言えば無い。
「…どう言う事かな」
「今俺を撃ったのは――『杉下神居』と言う男」
「何者だね?」
「わからない」
「…それで心当たりと言えるのか?」
「…とにかく、そうなんだ」
「…根拠は?」
「…無い」
「…草間君」
呆れたように、京一。
と。
「ねえねえ、色々言い合ってるより早く行った方が良いんじゃないかな?」
くいくい、と京一の服の裾を引っ張りつつ、月弥。
…すぐ行けばひょっとしたら調べるまでも無く犯人が確保出来るかもしれないよ、と訴える。
が。
「いや、無理だ」
即座に武彦が否定した。
「なんで?」
きょろん、と首を傾げる月弥。
「居やしない…はじめから」
「草間さん?」
「そうなんだ。はじめから誰も居ない…」
難しい顔でぽつりと言う武彦。
「…『杉下』などと言う男は存在しない」
「兄さん?」
「…いや、居るのかもしれない。だが俺は知らない。なのに俺の中の何かが――『杉下』のした事だと…そう確信している。他の可能性は切り捨てて良い。間違いない。…冷静になればそんな風に思う事がおかしいのはわかっている。だがどうしても、俺の中の何かがそう言っているんだ…。――…すまん。どうも俺は変になっているらしい」
「だったら余計に放ってはおけないね」
任せておくのが心配だ、と京一。
「でも…確かに…見ると…草間の言う通り…他の場所だと………無理」
蘭を床に下ろし、撫でるように、ぽん、と頭を軽く叩きつつ、時雨。
「窓の痕と…デスクの痕……急角度、だから…ここ斜め真っ直ぐ向こう…となると…草間の言うところ以外に…隙間、無い…」
そしておもむろにデスクの痕から窓の痕を繋ぐ形で弾道をなぞる。そして窓の外へ向けて指差した。
指差した先、そこにあるのは、道を挟んだ向かいの建物。
武彦の言った通り、テナント募集になっているらしい…一階分空いていると思しき場所。
「だから他の事も…全部、否定するのも…」
今、草間がそれ…言うまでに…殆ど外…見てなかったし。
…なのに合ってる、から。
「ところで…真咲…何で気付いたの」
と、そこで時雨はふと御言を見る。
ああ、と御言は彼の顔を見返した。
「理由は大した事ありませんよ。勘の領域です。殺気、とでも言いますか、そんなとても強い意志…想念」
それに似たものを窓の外から感じただけです。
銃で狙われたとはわかっていませんでした。ただ、窓の一番近くに居る人――あの場合では草間さん――が危険、とだけ判断が付いたまでです。零さんにだけ声を掛けたのも、彼女がちょうど草間さんのところに来よう、と言うところだったからに過ぎませんし。
「撃つ音とか聴こえたり…見えた訳…じゃ…ない?」
「…俺がこの耳で銃声を聴いた時点で草間さんは撃たれていると思います」
そこから動いて間に合う程、常人離れした反射神経を持ってはいませんよ。
御言はそう答え苦笑する。
「そ…っか。普通、そこまで出来ないんだっけ」
気付いても身体が動かないか。
あはは、と無邪気に笑い、時雨はぽりぽりと頭をかく。
「でもボクも…銃声聴こえなかった気がする…けど…あれ…?…聴こえた…かも」
どうだったっ…け? と時雨はふと考え込む。
「…それで良いのか、五降臨」
殺し屋ってのはその辺りはっきりしないと困る商売なんじゃない訳か?
やや呆れたように、武彦。
「だって草間…ボクより大きい…大人、だし」
ボク自身が…狙われた訳でも、無いし。あまり…気に、しなかった。
言い訳するように、時雨。
もし…月弥とか蘭が狙われたんだったら…話は別だけど。
何故か照れたような顔をすると、悪びれもせずにあっさりと武彦に。
「子供じゃなければ管轄外と言う事か」
はぁ、と武彦は溜息を吐く。
「大丈夫。きっと…鳥さんたちは……聴いてると思うから」
銃声なんて…大きな音がしたら。
サイレンサー…付きを使ってた…としても……いつもと違った事…は…きっと、見てる…よ。
に、と微笑んで、安心させるよう武彦に言う。
が。
武彦は頭を振った。
「そうじゃない」
「…え?」
「お前たちが、あいつを見つける必要も無いんだ」
「?」
「それ程大事にする必要は無い。俺だけ居れば良い」
これは俺の問題だ。
「…少なくとも、俺が居なくなりさえすればここは襲われる事は無い」
「言い切りますか?」
「ああ」
「…確かに、それはそうかもしれないが。だからと言ってわたしたちがきみを放っておくつもりもないとわかっているのかな」
特に、零君はとてもきみを心配しているよ。
「それは…」
「とにかく、良くわからない事を根拠に行動しようと言っているようでは困るね。うん。ひとまず私たちに任せてはくれないかな?」
「…城田さん」
「きみが自分が居ない限り危険が無いと言っているんだ。それは逆を言えば、わたしたちが勝手に何をしようと犯人は気にしない、と言う事にもなるだろう?」
「…」
「心配しなくて良いって。俺、つくも神だしね」
俺たちが調べてくるから。
…現場周辺の壁から聞いてくるからさ。
にこっ、と微笑む月弥。
「僕も行くなのー」
次いで、はいはーい、と元気に手を上げ、蘭も立候補。
「僕は通りすがりの植物さんにきいてみるのー。誰か見てるかもしれないのー!」
「…だったら…ボクも、行く…動物…特に鳥さんには聞く価値が…あると思う…から」
それに、大人が…キミひとりだと…ちょっと心許無い気がする。
と、時雨も最後に、付いて行こうと京一に向け口を開く。
京一は時雨のその科白に、小さく微笑んで見せてから改めて武彦を見た。
「…と、言う訳だ。さて、そこのふたりは…良かったら草間君が出て行かないように見張っていてはくれないかな?」
ひとりにしておくと何をするかわからないからね。
あっさりと身も蓋も無い事を言い、正風と御言に振る京一。
そして――草間君、きみはここから出ないように、と釘を刺し、立候補した月弥、蘭、時雨と共に、京一は玄関ドアの向こうに消えた。
はぁ、と武彦は再び溜息を吐く。
■■■
「…確かに城田さんの言う通りなんだがな」
心当たりと言って出したその事柄に何の根拠もない、だから調べなくては結局どうしようもない、と言う。その通り。わかっている。普通ならそれが道理だ。だが今回は――違う。
ひどく心に引っ掛かる何かがある。
何がどう、とは上手く言えないが。
「…止めても行きますか」
「………………ああ」
御言の科白に、ややあってから頷きつつ、武彦は正風を見る。
と。
「草間さんの問題なら、俺らが手を出す事じゃないでしょう?」
に、と正風の方でも平気な顔。
「…城田さんも、頼む人選を誤ったな」
ふ、と笑い、武彦。
「兄さん」
それでも心配げな、零の顔。
武彦は優しく笑って見せた。
「大丈夫だ。本当に心配しなくて良い」
ちょっとだけ出てくる。すぐに戻るから。
そう告げて。
…ゆっくりと玄関に向かう。そしてドアノブに手を掛け、回し――開こうとしたその瞬間に。
………………ドカァン、と凄まじい音を立て、爆発が起きた。
「兄さんっ!!」
「草間さん!?」
鋭い声が飛ぶが――間に合わない。
が。
…直後に、けほっ、けほっ、と咳込む声が届く。続いて煙の中、武彦の姿が現れた。煙に巻かれ、涙目にさえなっている。
「なんだ…こりゃ」
大丈夫ですか大丈夫ですかと慌てて武彦に駆け寄る零。
その後ろから、無事ですか、と声を掛けつつ御言も来ていた。
「…凄い音でしたね」
の、割には爆発自体は大した事ないようですが。
これは…随分と目的がわかりやすい。
「…何?」
「いえ、煙と音は凄いですが…爆発しても火は出てません」
一見、派手ですが…それ程強い威力を持たせてませんよ。命に関るような代物じゃありません。
「…どうやら、誰かが『ここから出て行くな』と草間さんに言っているようですね」
小さく肩を竦め、御言はあっさりと言う。
その後ろではほぇほぇほぇ〜と気の抜ける音がまたも連打され。御言に答えるように正風が「ほぇ〜ボタン」をべこべこ叩いている。そして意味ありげに、ちら、と武彦を見た。その姿を見て武彦はがっくり肩を落としている。この音、どうにも緊張感を途絶えさせる。
…取り敢えず、あまり深刻な話では無いようなのでそこまでは良いのだが。
但し。
派手な音に気付かれたか、程無くパトカーのサイレンと思しき音が近付いてきてしまった。
■■■
「…じゃあ、爆竹かなんか投げ込まれたって言い張る訳かい」
「そんなところだと思いますよ。お騒がせしてすみませんね」
「んじゃイタズラだな。…よし。俺ァ帰る」
と、御近所さんからの怪しい爆発の通報を受け来訪していた、中に居た面子から取り敢えずの話を聞いた刑事――よれよれのコートを着た四十絡みの痩身男は、あっさりと来客用ソファから立ち上がる。
ちら、と割れた窓やデスクの小さな焦げ痕を見ながらも、すぐに目を逸らして。
…明らかに銃撃でもされたような痕だと言うのに、平然と無視。
そしてそのまま、刑事は帰ろうと玄関に向かう。
ふと、その背中に武彦が声を掛けた。
「………………良いんですか?」
「何がだ?」
「…御仕事柄、引っ掛かる事があるんじゃないですか」
「気にして良いのかい?」
「…」
「実ァ俺の専門はどっちかっつぅとそっちなんだがな。今来たンは…適当に見回ってるところで爆発事故だとか何とか無線で言われやがって、草間興信所近くに居るなら行くだけ行って話聞いて来いって言われただけでな。ま、ここに来た本題の方が元々、俺の本来の仕事じゃねェ訳よ」
「なら」
火の点いていない煙草を銜えたまま、四十絡みの刑事は、に、と笑い掛ける。
「手前らがこっちに頼ろうとして来ないってこたァ、口出さねえ方が良いんじゃァねえのか? どうせ『草間興信所』だ。『俺たちの管轄じゃどーしよーもねェ事』にも散々手ェ出してるんだろ」
警察内部じゃ草間興信所やアトラスには手ェ出すなってそろそろ暗黙の了解出てンの知ってっか?
だーかーら俺なんぞに御鉢が回ってくる訳だがな。
「はぁ」
「…俺ァ厄介者でな。で、下手すりゃ怪奇絡み全部押し付けられそうな勢いなんだな、最近よ」
本当は管轄違いなマル暴の刑事な筈なんだがなァ。
ぽりぽりと指先で頭を掻きつつ、刑事――手帳には常磐千歳とあった――はひらひらと手を振る。
「つまりァデカっつぅ一匹狼の中でも特に一匹狼な気のあるマル暴デカの厄介者ならちィと違う泳がし方させても大して不快じゃないって事なんだろーがな、上の方はよ。…と、余計な話ィしたな。そろそろ失礼するわ」
その窓のこたァ、警察にゃ言わねえよ。面倒臭ェ。
じゃあな。
…と、それだけ残し、あっさりと刑事は去って行く。
■■■
「…あんな刑事も居るとはねえ」
ほほぇほぇほぇほぇ〜。
感心したように正風、「ほぇ〜ボタン」連打。
気が抜けたように武彦は項垂れる。
「…わかった。居ろって事だな。何があっても」
少々自棄気味に武彦は調査報告書を綴ったファイルを数冊引っ張り出し、テーブル上に放り出す。
「無いとは思うが…もし杉下の名前でもこの中の何処かにあったら…説得力は出るだろ」
「諦めましたか」
「ああ。大人しく城田さんたちを待つさ」
嘆息しつつ、ひとりファイルと格闘を始める武彦。
それは確かに、自身の中にある妙にあやふやな記憶の出所を確かめたいと言うのはある。
だが、そんなところで探しても見つからないだろう、とこれまた自分の中の確信に満ちた『何か』が言うのだ。
訳がわからない。
それでもここで黙ってただぼーっとして居るのも、嫌だ。
だから、武彦は探す。
「…確かに、今までの草間興信所の出来事以下の事件から探してみるのは無難かもしれませんね。…あ、また何かトリビアなネタが出たら「ほぇ〜ボタン」を押しますから♪」
と、本気なんだかふざけているのか…とにかく正風は武彦のバラ撒いたファイルをひとつ取り、おもむろに目を通し出す。
「じゃ、俺たちもやりますか」
零を見、こちらもファイルを取りつつ、御言。
はい、と頷き、零もファイルを見始めた。
暫し後。
「…実はついでに色々霊視もしてみてるんですがね…幾ら霊視しても草間さんがパチンコの山物語で三十万円すった事しかわかりませんね。…これは5ほぇ〜だ」
と、正風。
ほぇほぇほぇほぇほぇ〜。
がく。
過去の調査報告書を前にした状態で隠し事を脈絡無く暴露され――テーブルに突っ伏す武彦。
と、じー、っと零のつぶらな瞳が武彦を見つめていた。
「兄さん…そんな事…」
視線が痛い。
「…使い込みは色々と問題があるんじゃないでしょうか」
それも三十万って結構大きいですよ。
ファイルの棚に混ざっていた手紙…督促状やら請求書の束をたまたま見つけ、ふと御言。
「………………」
「草間さん?」
「…確かに何も言い訳は出来ない。…だがな、現時点で半分は何とか穴埋めしてある筈だ…て言うかな、それ結構前の話だぞ」
「白状しましたね」
「…お前は借金の取り立て屋か」
「近い事は昔してた事ありますよ」
あっさりと返す御言の科白に、げふ、と珈琲を噴きそうになる武彦。
そして何処からともなく…またもほぇほぇ連打されている。
「…それより。『杉下神居』と言う名前はやっぱり見当たらない気がしますが」
とんとんと書類を揃えつつ御言は言う。既に調べた書類の方が多い。
「…俺ははじめっから全部草間さんに任せておいても特に問題無いように思えるんですがねえ」
調査報告書をぺらりぺらりと眺めつつ正風はぽつり。
「撃たれた時…真咲さんの言う通り殺気に似たものは確かにありました。ですがね、同時に何か物凄く妙だったんですよ」
「…妙、ですか?」
ふと正風の顔を見上げ、零。
「いや、思いの強さの割に、それを発する元である存在の…『気』、自体がひどく希薄に感じたんだな。だからあまり切羽詰まって危険には思えなかった…草間さん、取り敢えず聞いておきますが、相手、人間ですか?」
「…その筈だよ」
「語調が弱いですが」
「…ああ。自信は全く無い」
何度も言ったろう、杉下神居の名前、言葉に出した事以上の事はわからない、何とも言えないと。
ひどく身近な相手な気はするんだが、それにしてはそれ以上の事がきっぱり頭に無いんだ。
…変な事を言っていると自覚はある。だがどうしても、譲る気になれない。
「そうですか。まぁそんな事もあるんでしょう」
ここは怪奇探偵・草間武彦の興信所な訳ですし。
わざわざそう言ってから、正風はひょい、と箱を出す。
「さて、雷おこしでも食いましょう。買ってきてあったんですが出しそびれてまして」
現場を見に行った方も何も無ければその内帰ってくるでしょうし、出しておきますよ。
と、テーブル上に雷おこしの箱を置いた時。
がちゃりと玄関ドアが開かれた。
「ただいまなのー」
真っ先にばたばたと走り込んできたのは蘭。
「あのね、がいろじゅさんがね、黒い人がいたの見てたの。でもへんなんだよ。とくちょうきくとね、ちょっとだけくさまさんににてるの」
「俺もおんなじ。特徴訊いて纏めたらどーも草間さんっぽい雰囲気の人だったって事になっちゃって。とにかく、銃片手にぶら下げた黒尽くめの男が来て、突然窓から撃ったんだって」
撃つと肩のところがちょっとずつ回る銃――りぼるばー、って言うんだっけ――を持ってたらしいよ。
その次に来たのは月弥。
そして。
「鳥さんたち…男は…見たけど…銃声、聴いてない…言ってた…」
それどころか、『何の音もしない男』だ…って。
本当にそこに居るのか――そこからして疑いたくなるような、って。
「…それから、現場にも…どうも痕跡らしきものはまったく無かったよ」
とは言え、わたし以外の人たちはそれなりに収穫があったようなので…場所が見当違いだったと言う訳では無さそうだがね。特に月弥君なんか、現場の壁から直接聴いていたようだし。
最後に、京一。
…漸く、皆が帰ってきた模様。
■草間武彦に似た男■
「…草間さんの心当たりってひょっとして合ってるのかな?」
蘭くんの聞き込みでも俺と似たような事が出たって話だし。と、月弥。不思議そうに小首を傾げて。
「うん。かみがたはちょっとちがうらしいけど、なんか、くさまさんみたいな、そんな背格好だって…」
この辺のがいろじゅさんなら、くさまさん当人のこともよく見かけてるから、信用できると思うのー。
月弥に頷いてから、他の面子にも一生懸命訴える、蘭。
「…ひとまず過去の記録に草間さんの仰った名前は今のところありませんでしたよ」
後、残っているのは雪ノ下さんの持っているファイルの中身だけです。
「…ん? ああ、確かに杉下神居って名前は見当たらなかったぞ?」
言って、正風はちょうどファイルを閉じる。ちょうど見終わった様子。
「そうですか。…念の為に『弾の残らない銃』を使いそうな方が居たかも調べてはみましたが…」
今回に関係ありそうな事件はありませんでしたね。
そんな特殊な『銃』はありませんでしたし、銃撃と似た技――風や氷で作った指弾やら飛礫のような術を使われた記録はありましたが、それを使う方は草間さんを恨みそうな立場にありませんし、そもそも現在、近くにはいらっしゃらないようです。
と、御言のその科白に月弥が頷いた。
「撃った人が使ったのは指弾じゃなくて銃は銃だったって言ってたよ」
「ボクも…聞いた。…電線で…撃つところも…見てた…って言ってたから、詳しく聞いてみた…けど…撃鉄と銃爪、連動してないみたいだった…つまり…シングルアクションの古い型…の、リボルバー銃、かな?」
で、狙撃仕様に長いバレル付けてたみたいだった…よ。
「それとね、あのね、がいろじゅさんね、そのひと一瞬くさまさんだと思ったみたいなの」
でも良く見たら違うって気付いて、なんだろー、きょうだいさんかなぁ、って見ていたみたい。
「…それ程似ていたと」
「そう言ってたの。でもなんかちょっとこわいひとにみえたって。でねでね、銃を片手にぶら下げたまんま歩道を歩いてて、そのまんますーって消えちゃったんだって」
いきなり消えちゃったらしいの、びっくりなのー、と、強く訴えたいのか、大きく両手を広げて、蘭。
「そう、か」
武彦は蘭の声を聞き、ふ、と小さく笑う。
「何笑ってるのかね、草間君」
「そうだろうな、と思っただけだ。使われたのも、五降臨の言う通りの銃だしな」
「…え?」
「あいつが持っているのは…リボルバーの元祖と言える、コルトシングルアクションアーミー――ピースメーカーと言った方が通りは良いか――をベースに、ある男によって造られたオリジナルの銃だ」
「それも、さっき言っていた『杉下』と言う名前と同じところからの記憶かな?」
「…そうです」
「つまり、この件は…はじめに草間君の言った通りだった、と言う事になるのかね」
「…やっと納得してくれましたか?」
大した話じゃ無い、と。
それに、いきなり消える人間相手では何ともしようがないでしょう?
ちら、と京一はじめ室内の面子を見上げつつ武彦が告げる。
「納得は出来ないよ。だが、きみが怪奇探偵だと言う事まで考えると、それもありなのか…と譲歩はすべきかとも思えるがね」
「俺も納得はしてないさ」
「ほう?」
「だが、どう言う訳か変な確信はあるんだよ。あいつは顔を見せに来ただけだ、と」
俺の様子を、見に。
…確信にも似た何かがそう言わせるんだ。
と、武彦は難しい顔をする。
「ですが、さっき玄関で…」
兄さんがドアを開いたら、爆発が。
「爆…発?」
ん? と訝しげに首を傾げる時雨。
え、とびっくりする月弥に蘭。
が。
「…それは別件だと思いますよ」
すっぱりと却下。
「でも真咲…そんな偶然、考え難い…」
狙撃された上に、爆発まであったんじゃ…。と、時雨は考え込むが、すぐにはたと気付いて顔を上げる。
「ってあれ、でも、玄関…壊れてない…よね…?」
「そのくらい軽い爆発でした」
音が派手だったので警察が来てしまいましたがね。悪戯か何かと思ってすぐに帰りましたが。
五降臨さんは、殺そうとして何か爆発物を仕掛けたとしたら…その程度の威力で済むと思いますか?
「うん。確かに…思えない…」
でもそうなるとそれってなんだろう…。
「他の事件が絡んでるって事は?」
「さぁ」
場所が草間興信所ですしねえ。あるかもしれません。
さっぱり、とでも言いたげに両手を上げて、正風。
でも確かに大事に取る必要は無いと思いますよ。狙撃の方と違って、誰かを傷付けようって腹の『気』は感じませんでしたから。ひとまず狙撃を仕掛けたのとは別人だと思いますよ。と真面目に続ける。
「まぁ、大事に至らなかったんだからそれはさて置いて」
ここは、草間君の心当たりと言う方を改めて確り聞くべきかな。
と、京一は武彦を見た。
が。
武彦は頭を振った。
「良いんだ」
「ん?」
「もう、今回の事に関連した同じ件で、あんな騒ぎになる事は――何も起きないから」
これ以上、俺を気遣ってくれなくても良い。
「…そろそろ何度も言っているがね。どうしてそう言い切れる?」
「あいつの目的は、忘れるな、と俺に言い聞かせに来た、それだけ」
ただ一度だけ、忘れるな、と。
そう言っているだけの事。
そう。
もう二度と――同じ原因での、同じような事は――何も起きやしない。
大丈夫なんだよ。
俺が今、知ってさえいるなら。
それだけで。
俺の為に――俺の知る筈の無い記憶を残そうとしたのだと。
それだけなんだ。
信用してくれなくても良い。
と、最後、武彦は疲れたように苦笑した。
それを見て、処置無し、とばかりに京一は嘆息する。
まぁ、仕方は無いのかと思って来てはいるが。
何故ならここに居るのは…何と言っても、『怪奇探偵』だから。
【了】
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登場人物(この物語に登場した人物の一覧)
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■整理番号/PC名
性別/年齢/職業
■1564/五降臨・時雨(ごこうりん・しぐれ)
男/25歳/殺し屋
■0391/雪ノ下・正風(ゆきのした・まさかぜ)
男/22歳/オカルト作家
■2585/城田・京一(しろた・きょういち)
男/44歳/医師
■2269/石神・月弥(いしがみ・つきや)
男/100歳/つくも神
■2163/藤井・蘭(ふじい・らん)
男/1歳/藤井家の居候
※表記は発注の順番になってます
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※以下、公式外のNPC
■杉下・神居(すぎした・かむい)
男/?歳/詳細不明
■真咲・御言(しんざき・みこと)
男/32歳/バー『暁闇』のバーテンダー兼用心棒・元IO2捜査官
■常磐・千歳(ときわ・ちとせ)
男/46歳/警視庁捜査四課(マル暴)の警部補
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ライター通信
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いつもお世話になっております深海残月です。
常連さんも再びの御参加の方も初めましての方も、御参加有難う御座いました。
今年も宜しくお願い致します。
※ひとつ御注意。
公式頁に同時納品されているのは12人と思われますが、話を書くに当たりこちらでちょっと分けさせて頂きまして、今回は3人、4人、5人と分けてそれぞれ全然別の話にさせて頂きました。…途中に部分的に個別があるのでは無く、全面的に違う話が三種類になってます(そのせいで…ただでさえ遅いのに更に余計に納品が遅くなったとも言います/汗)。同じ「預り知らぬ過去の鳴動」に参加していても、登場人物欄に居ない人とは一切関り合ってはいません。
が、お渡しした以外の二種類の話を見ると、別の角度から理解が深まる可能性があったりもします。
…って、『杉下神居』の正体に関して、なので…疾うに察されているかもしれませんが。
改めまして。
今回は…初めましての方でなければ…見て頂いた時点でわかるかと存じますが、今まで私がやっていた調査依頼とは少々趣が違っていたりします。
――何と言いますか、『当方の異界をターゲットに置きながら、明確に異界では無い』話になっておりまして。
異界の準備段階とでも言いましょうか。
これは異界だろうと判断下さった方も多かったようですが…出した窓口が草間興信所である通り、この話は『通常の東京怪談』の範疇に含めています。
やはり少々紛らわしかったようですね。
すみません。
…実は今回、『わざと』紛らわしくしたと言う部分もありまして(汗)
今回はさすがに苦情が出るのを覚悟しております…。
また、今回、なにやら折角頂いたプレイングがあまり関係なくなってきてしまった部分も多かったりします…。
いえ、草間武彦が初っ端から心当たりの名前を口走っていたり(→様々なアプローチで心当たりを思い出してもらおうと言うお話がこの時点であまり意味が/汗)、撃ち込まれた筈の銃弾が何故か見当たらない(→銃弾から割り出す、と言うお話もこの時点で以下略/汗)、と言う事情から…。一応オープニング時点で「残されているべき弾の存在」には一切触れてなかった筈なんですが…言い訳ですね(汗)
とにかくそこもまた申し訳無かったと(謝)
………………実は初めから真っ当な話になる予定じゃなかったんです。今回。
まずは前提として。
…『通常怪談では草間武彦はこの狙撃犯の正体を知りません』。
ですが、『当方異界での草間武彦(ディテクター)は狙撃犯の正体を明確に知っています』。
現在の東京怪談内では界鏡現象が起きています。
即ち、各人にとって、別の現実が存在したりもします。
そして、東京怪談に存在するPCの方々は。
界鏡現象で分かたれた何処の世界にでも関れるようになっていると思います。
…で、NPCの方はと言うと、別の世界――異界でも、そこに存在したなら、同一人物は同一人物なんです。
それぞれ、通常怪談とは少しずつ、もしくは大きく違えた歴史を辿ってはいますが。
本質的には同一人物でも、性格やら過去やら様々な要素により、殆ど別人のようになっている事もあります。
で。
特に当方異界に話を持って来ますと、世界観的なものは通常怪談と殆ど違いがありません。
が、あくまで『殆ど』違いが無いと言う事で。
反面、『微妙に違う部分』はちびちびとたくさんあったりします。
実は今回出しました草間武彦の過去と言うのはそこの『微妙な違い』に関る部分です。
通常怪談では界鏡現象、異界の存在はどう取り扱うつもりか――と言う部分を今回は出してみた訳でして。
なので今回、この場所(草間興信所調査依頼)での草間武彦の記憶も必然的にあやふやな訳で。
このあやふやさ、紛らわしさを通常怪談と当方異界の関り方の前提にしたい部分もあるので、異界の話を動かす前に、事前に「他の調査依頼」としてこんな話をやらせて頂きました。
通常怪談のNPCに当方異界の話を持ち掛けたり、逆に当方異界のNPCに通常怪談の話を持ち掛けますと、この双方の記憶の中で「確りしているもの」と「妙にあやふやになっているもの」の二種類の記憶がある事になります。
即ち、通常怪談では当方異界での、当方異界では通常怪談での出来事が「夢か幻の中のような印象でだけ」記憶にある場合もあるんです。双方で共通している出来事に関してはその辺りの不都合は特に無く何も問題は無いですが、「違っている」出来事に関しては…どちらに聞いても全然知らなくは無いですがその場合、その出来事が起きていない側の世界からは信用に足るような確りした証言は一切聞く事が出来ません。
具体例としては今回の事件に関する草間武彦の反応か、PCゲームノベル『味見と言うより毒見〜解決編』でやらかしました、前振り編である草間興信所×2に関するNPCの反応のような感じになります。
…って、これを草間興信所でやるのはちょっぴり反則技のような気もしますけど(笑)
こんな感じで、異界以外の調査機関でも時々異界ターゲットの話を出して行くと思います。
遅筆な癖にわざわざ手間の掛かる事やらかして風呂敷広げてます(汗)
…と、本文以外まで長々と申し訳ありませんでした(ある意味毎度ですが/汗)
その事もあり、またなんですが…(汗)個別のライター通信は省略させて頂きたいと…。
少なくとも対価分は楽しんで頂けていれば…幸いなのですが。
では、また機会がありましたらその時は…。
深海残月 拝
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