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<東京怪談ノベル(シングル)>


時空移動屋台 発進!

あやかし荘の管理人室。午後のワイドショーを見る管理人の膝に小さな女の子。
のどかないつもの風景だ。
そろそろCMと言う頃、女の子が顔を上げた。
「のお、そろそろおやつにでもせぬか?」
「じゃあ、お茶でも入れるわね。」
「ああ、頼む…。とっておきの大福がまだ残っていたはずじゃ。一緒に食べようぞ。」
管理人の膝からぴょん、と飛び降りると背伸びして、彼女は茶箪笥の戸を開けた。
台所から戻ってきた管理人の少女は首をかしげる。
「どうしたの?嬉璃?」
少女の質問はもっともだった。
なぜなら嬉璃と呼ばれた彼女はいつの間にか椅子をを持ち出し、茶箪笥の中身をすべて部屋中に散らかしていたからだ。
「ない!ナイ!無い!!!」
「だから、何が?どうしたの?嬉璃。」
「…大事にとっておいた大福がな〜〜〜〜い!!」
悲鳴にも似た絶叫が管理人室を飛び越え、あやかし荘全体に響き渡ったという。

「ふう、やっぱりお茶受けは大福に限るのお。」
仕込みも終わり、開店時間までのささやかな和みのひと時。
本郷・源は屋台のコンロで湯を沸かし、緑茶(玉露)を啜っていた。
「邪魔するぞ…。源…。」
「おお、嬉璃どの、開店はまだじゃ。おでんもまだ煮えておらんが、まあ茶でもいかがかの?」
この時間には珍しい常連に屋台店主である源は席と、茶を勧めた。
だが、勧められた客、嬉璃はそれになんの感情も、反応も示さなかった。屋台の机の上に目をやって…。
「源、それは…?」
問いかけられた源は、特に気にせず答える。
「ああ、大福じゃ。最後の一個。いかが?」
「…それは、どこで買ってきたのか、聞いてもよいか?源。」
俯いた嬉璃の声に「何かが」漂っていることに源は気付かない。
「悪いが知らんのじゃ。あやかし荘の戸棚にあったので貰ってきた。美味いから、わしも知りた…。」
ご・ご・ご・ごおぉぉ…。
嬉璃の背後が闇に染まった。漫画だったら背後に黒い影が巻き起こり、そんな効果音が鳴り響いたであろう。
絵でお見せできないのが残念である。
「き…嬉璃…どの、い、一体?」
「…やはり、おんしであったか…。…源。わしの…大事な…大福を喰らいおったのは!!」
「わし…の?あ、あれは嬉璃殿の大福だったのか??」
普段ならふてぶてしいまでに、ふてぶてしい流石の源も、思わず只ならぬ気配に腰を引く。源の言葉など耳に入らないかのように嬉璃は呟き続ける。
「わしの…イチゴ大福。わしの…ティラミス大福。笹屋の一個200円、せっかく…一緒に…食べようと…思ったのにぃ!!」
ぐおん!!
「うわっ!!!嬉璃殿、何を!!」
地の奥から何かが唸るような音が鳴った。まるで直下型地震が屋台を襲ったかのような衝撃に、源は屋台にしがみ付いた。
「許さん!!不思議時空発生装置…発動!!開け!!お座敷時空!!」
「ぎょえええっ!!」
突如開かれた謎の時空。足元にが消え、源は抵抗さえもできずに吸い込まれた。
「た・たすけてえええ〜〜〜。」
情けないまでの声は、無情に闇に消える。巾着の口を絞るように空間の入り口は閉じていき
けぷっ!
何やら謎な音と共に消失。残る嬉璃はフンと鼻を鳴らし腰に手を当てた。
「食べ物の恨みは恐ろしいと知れ。明日までその中で反省するのじゃな…。」
心配そうに鳴く猫、そして、湯気を立てるおでん鍋を残し、嬉璃は去っていく。
嗚呼…源と、おでんの運命はいずこ…。

「うわあああっ!!」
ふっ…。
永劫とも思える落下の恐怖をしばらく味わった後、源は、何かから開放されるような感覚と共に宙に浮かんだ。
「ふうう…なのじゃ。」
小さくないため息をついた。
周囲はどこか、いつも淡い空気が漂うあやかし荘と同じ感じがする。だが、周囲の色は闇。
「たかが大福で、あれほど怒らんでもよいのに…。まあ、仕方が無いか…。」
食べ物の恨みがいかに恐ろしいかは身を持って知っている。
同じ事をされたら、自分は獣…いや、とりあえずそれ以上は呟かず、源は腕時計に目をやった。
PM4:30…
「まずい!!急がないと夕方の営業に間に合わないのじゃ。嬉璃殿は明日まで、と言うておったが一日たりとも仕事を休むわけにはいかぬ!
我がおでんを待つものがいる限り!!」
だが、出口はおろか、居場所さえ解らない、この空間で…どうしたらいいか…。
「よおし、こおなったら一か八か!なのじゃ。」
腕時計のリューズをぴんと弾いた。腕時計が変化して、マイク付きの発信機となる。
「おでん屋台【蛸忠】FX-03!!出動!!」

その頃、嬉璃は帰ろうとする背後、怪しい物音を聞き振り返った。
「な、何じゃ??」
信じられない光景を目にし、嬉璃の声は上擦った。店主を失い無人の(二匹の猫はいたとしても)はずの屋台が、ゆっくりと動き出す。
そして…電信柱の影に、吸い込まれるように消えていった。
「?不思議お座敷空間が動いた?源め…いったい何を…?」
囁かれた問いに答えるものはいなかった。

バシュッ!!
空間を切り裂き、飛び込んできたおでん屋台【蛸忠】FX-03は、ゆっくりと空を舞うと、源の前へと降り立った。
まるでベテランパイロットが操縦するような軟着陸だ。屋台からぴょん!小さな影が二つ源の胸に飛び込んだ。
「おお、よく来てくれた…。二匹とも無事じゃったか…。」
自分の所に来てくれた。猫達の頭をなで嬉しそうに息をつくと、源は空間をもう一度見回した。
おでん屋台【蛸忠】FX-03が入ってきた場所は覚えた。かすかに座標が動きあそこをつけば脱出は可能かもしれない。だが…。
「う〜む、出力が足りん!!」
いかにおでん屋台【蛸忠】FX-03とはいえ、一体の能力で千年の時を経た妖怪が怒り心頭で作り出した空間は破れない。
時間は無情に流れていく…。このままでは…!
「え〜〜い、最後の手段じゃ。焼き鳥屋台【鳳凰】DXとラーメン屋台【豚八戒】G-1来い!!!」
発信機に怒鳴った源の声に、望みに答えるようにさっき、屋台【蛸忠】FX-03が入ってきた場所から、さらに2台の屋台が飛び込んできた。
出入り口となった空間の揺らぎは、さらに大きくなっている。あと少し力を加えれば脱出できるかもしれない。
源は決心するように二匹の猫達に向かって頷いた。
焼き鳥屋台【鳳凰】DXと、ラーメン屋台【豚八戒】G-1それぞれに猫達がするりと滑り込む。
中央の屋台【蛸忠】FX-03に乗り込むのは、同然源だ。
「行くぞ!時間が無い、文字数も無い。手早く行くぞ!!」
「ニャアア!!×2」

源の号令と一緒に、3台の屋台は動き始めた。焼き鳥屋台【鳳凰】DXが中央線から包丁で切り裂かれるように真っ二つになった。
見るとラーメン屋台【豚八戒】の方も、同じように動いている…。
「今こそ、3つの力が一つになるとき…合体じゃ!!」
コックピットのボタンを迷わず押した。耳を押さえたくなる騒音が耳につき、やがて「それ」は動き出した。
「闇を切り裂く、退魔の光。変形合体ロボ、蛸鳳戒!!」
木造屋台に手と、足が生えた変形合体…、人型のロボット…と言っていいのか謎なその存在は立ち上がり、構えた。腰に力を入れるように…。
「さあ、行くぞ、ビーストス○ッシャー!!」
ぐおっ!!
爆音と共に走る変形合体ロボは、空間のゆがみにいきなり飛び込んだ。
ゆがみと、押し付けられるような激しい重力に、源の身体が悲鳴を上げる。
「も、もう…だ…め…っ。」
黒い閃光に包まれ…そのまま源は意識を…失った。

「やれやれ、世話の書ける店主じゃのお…。」
グワバッ!
跳ね起きた源は、囁かれた声の主を探った。そこには…一番、顔を合わせられない存在。
嬉璃が…いた。
「嬉璃殿…すまぬ。そなたの大福を…。」
「まあ、よいわ。早く、開店の準備でもするがよい…。」
お座敷時空を力技でぶち破ってきた源に、嬉璃は呆れ顔で微笑む。
源は大慌てで準備をするが…その手をぴたりととめて、タッパを手に取った。
大根、がんも、ちくわ、はんぺん、福袋。あふれんばかりのおでんが詰められ、蓋をされ、差し出される。
「お詫びにはならんかもしれんが、今日はおごりじゃ。向こうで食べてくれ。」
「…解った。だが、もうするでないぞ…。」
釘をさす嬉璃に源は、小さく頷いて答えたのだった。
「すまなかった…。これからも…よろしくのお。」

それから数日後…
「だ、誰じゃああ!!わしのとっておきの大好物。いもようかんとあんこ玉を喰らいおったのはあ!!」
「ふう、やっぱりお茶には、ようかんに限るのお。おっ、嬉璃殿…。」
「おぬし〜〜!また!!!」
「ぎしぇえ〜〜!」

話は落ちず…、続かない。

これもまた、あやかし荘のごく平凡な、一日である。
平凡かどうか、意見が分かれるところであったとしても…。

※ライターより
納品が遅れて申し訳ありません。
少しでも楽しんで頂ければ幸いです。