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<東京怪談ウェブゲーム あやかし荘>


世界にひとつだけの部屋?



正月気分もすっかり抜け、世間では成人式も終わった頃。
またいつものやや平凡でやや非凡な生活がはじまったあやかし荘に一人の少女が訪ねて来た。
管理人の因幡恵より年下っぽいその少女は…訪ねて来るなり、
あやかし荘の”とある部屋”に住みたいと言ってきたのだった。
「お願いします!家賃はちゃんと払いますから!!」
「え、でもそういわれましてもあの部屋には今住人の方が…」
「そこをなんとか移動してもらえませんかっ?!アタシ、どーしてもあの部屋に住みたいんですッ!!!」
「でもですね…」
因幡恵は少女の勢いに押されて一歩後退する。
髪の毛をショッキングピンクに染めて結い上げた髪の少女は一歩詰め寄って握り拳を作り。
「そう言わずに!!お金ならあるんです!こう見えてもお金持ちだし!
それにそれにっ…管理人さんのお手伝いだってやりますから!!」
「いえ…ですから、今住んでらっしゃる方の了解を取らないと…」
「じゃあ取ってください!!」
「で、でも…」
因幡恵は視線を彷徨わせる。
空き部屋はいくつもあるし、部屋の質の差は場所が違うだけでそれ以外はあまり無い。
普通の住人だったらもしかしたら話せば移動してくれるかもしれない…。
しかし…。
「あの部屋に住んでおるのはここでも有名な頑固一徹な”ぢぢい”ぢゃからなあ…」
「嬉璃さん!」
困り果てていた因幡恵に、部屋から出てきた嬉璃が声をかけたのだった。
そう。少女が住みたがっている部屋にはガンコでヘンクツでイジワルで有名な、
推定年齢80歳の元気なおじーさんが住んでいるのだ。
特に何もなくとも、接するのが色々と難しい住人であると言うのに…
立ち退いてくれと言うのだから、「はいそうですか」と頷くとは思えない。
「しかし、おんしは何故そこまでしてあの部屋に住みたいのぢゃ?」
「そうですよ!部屋なら他にいっぱいありますよ?」
「いいえッ!あの部屋じゃなきゃダメなんですッ!!
だって…世界に一つだけしかないんですもの…あんな素敵な名前の部屋!!」
「はあ?」
少女は目を輝かせながら叫ぶと、徐にカバンから某有名人の写真入りウチワを取り出した。
「だからっ!なんとしてでも今の住人さんに部屋を移動してもらってください!!」
少女が住みたがっている部屋の名前は【須磨州間(すますま)】。
それの何がこの少女を駆り立てるのか…因幡恵には理解できなかった。




「―――と、言うわけなんです…」
因幡・恵はほとほと困り果てた顔をして、目の前に座る三人に溜め息をついた。
その三人というのは、仕事が休みであやかし荘を訪ねて来ていた、相澤・蓮(あいざわ・れん)、
たまたま近くを通りかかり、騒ぎを聞いてやってきた綾和泉・汐耶(あやいずみ・せきや)、
あやかし荘の住人への用事を済ませて帰ろうとしていた大覚寺・次郎(だいかくじ・じろう)の三人である。
三人は恵から話を聞くと、顔を揃えて肩を竦めあった。
「それで…恵ちゃん、その少女は今どこにいるんだい?」
「えっと、嬉璃さんと一緒にいるはずです」
「困ったわね…なんと言えばいいかしら、出直してらっしゃい…と言いたいところだけれど…」
「私にはとてもそんな事言えません…!というか言えない雰囲気なので…」
「まあ恵ちゃんは優しいからなあ」
蓮はう〜ん…と、口元に手を添えながらしばし考え。
「よし!じゃあここは一つ…この俺がそのお嬢ちゃんを説得してみよう!」
「え?」
「そうね、私も相澤さんに賛成です」
「恵ちゃんも大変だよなあ…管理人としてこんな仕事もしなきゃいけないんだから…ま、俺に任せなって!」
蓮はそう言ってウインク一つ。
嬉璃と少女のいる部屋…と、言っても隣の部屋なのだがに向かっていった。
「それじゃあ…俺はその、山田さんの部屋に行ってみます」
次郎が、ちょうどここの住人の為にと持ってきていた某有名和菓子店の”ねりきり”を手にして立ち上がる。
「俺、お爺さんとかの相手するの慣れてるし…一応話してみておいた方がいいと思うので…」
「でも…山田さんって、私でも話を聞いてくれないくらいの方で…」
戸惑いながら言う恵の言葉に、次郎は優しげに笑みを作って。
「大丈夫ですよ…その時はまた戻ってきますから」
そう告げて、山田の『須磨州間』へ向かう為に部屋を後にしたのだった。



「よぉ!須磨州間に住みたいってお嬢ちゃんはいるかい?」
「アタシよ!アナタ須磨州間の人?!変わってくれるの?!」
蓮が部屋に入るなり、少女はぱっと立ち上がって目を輝かせながら聞いてくる。
自分は住人ではないという事を蓮が伝えると、チッと小さく舌打ちをして…座布団の上に座った。
嬉璃が一緒にいると聞いていたのだが、姿は見えなかった。
「えー…と、俺は相澤って言ってここにちょっと縁のある者なんだが…話を聞いてくれるか?」
「なに?須磨州間のこと?」
「まあそうだ。お嬢ちゃんが…その、自分の好きな芸能人に関係する部屋に住みたいって気持ちはわかるぜ?
俺だって、”ハイツ・叶美香”とかあったらそりゃあ住んでみたいな〜とは思うぜ?
芸能人に惚れ込んじまうってのもよ〜くわかる!けどよ…その事で、他人様に迷惑かけるってのは…」
「アンタ…彼女いないでしょ?」
「な…そ、それが何か関係あるのか?!」
「ウ・ザ・イ!話長いのよバーカ!そんなんじゃ女にもてないわよ!」
十歳以上は確実に年齢の離れている少女に、”ウザイ”呼ばわりされて…蓮は一瞬固まる。
沸々とした怒りが微妙に込み上げてくるのだが…なんとか思い止まって笑みを作った。
蓮は子供は好きなのだ。それに、相手は芸能人に入れ込んでちょっと周りが見えてないだけの少女なのだ。
「ま、まあな…いいぜ、ウザくっても…でもまあとりあえず話聞いてくれよ?な?
その〜えっと、須磨州間だっけ?そりゃあ空き部屋だったら管理人の恵ちゃんも喜んで貸してくれるとは思うぜ?
けどな、今は先に住んでいる爺さんがいるわけだ…それをどこかに行ってくれって言うのは…」
「だから!お金ならいっくらでも出すつってるでしょ!
ここよりもっと高級でバリアフリーマンションだって用意してあげるわよ!何が文句あるのよ!?」
「…あのなあ!いいかげんにしろよ!?なんでもお金で解決出来ると思ったら…!」
お金さえ出せばいいと思っている少女のあんまりな発言に、蓮は思わず大きな声をあげる。
その声に、少女はビクッと体を震わせたかと思うと…
「―――っうわあああん!!」
大粒の涙を流しながら大声で泣き始めたのだ。当然、うろたえる蓮。
「そ、そんな泣かなくても…悪かった…ちょっと俺が言い過ぎた…!
ごめんな?いや、俺はさ、そんなに住みたいんなら自分で説得してみたらどうかなって思うんだ?」
困り果ててオロオロとする蓮。しかし少女は泣き止む様子はなく、それどころか益々大声で泣き始め…
「嘘泣きはそれくらいにしたらどうかしら?」
部屋の戸を開けて、凛とした声が聞こえてくる。
蓮が振り返ると、汐耶が腰に手を添えてあきれたように立っていた。
「え?え?嘘泣き?」
「相澤さん、騙されちゃ駄目ですよ?まあ、気持ちはわかりますけど…」
汐耶はつかつかと部屋に入ってくると、泣きじゃくっている少女の前に膝をついて座った。
「そういうわけだから、きちんと話をしましょう」
きっぱりと言う汐耶の声を聞いて、それまで大声で泣いていたはずの少女がピタリと声をあげるのを止め、
そして心底不満そうな顔をして汐耶を睨みつけていた。涙など、どこにも見えない。
「な、なんだ…俺を騙したのか!?」
「うっさいバカ!アンタみたいな男、泣けば騙されるのくらい見たらわかるわよ」
ふふん!と鼻先で蓮をせせら笑う。呆れるやら悔しいやら情けないやら、蓮は自分が泣きたい気持ちになった。
「キミ…ちょっといいかしら?」
「なによ!?」
「お金の事を何度も口にしているようだけど、そのお金はキミが稼いだものじゃないわよね?
お父さんかお母さんのお金でしょう?もしここに住めたとしてもその後はどうするの?」
「パパもママも好きに使っていって言ってるわよ!そうじゃなきゃ言うもんですか!」
「あのね…でもキミのお父さんもお母さんも、ここに住む事はいいとは言ってないんじゃないかしら?
マンションやアパートとかに住むにはね、家賃だけじゃないの。敷金、礼金、その他生活費諸々かかるんだから…
それを全て自分で稼げるようになってからいらっしゃい」
「なによ!偉そうに!!」
「偉そうにしてもいいと思うわよ?この点に関しては…私は高校時代には学費を、
二十歳を過ぎてからは生活費をきちんと自分で稼いでいるから。だから誰にも恥じない生活をしているつもりよ」
汐耶のはっきりとした言葉に、少女は口篭もる。
どこか優しい面を見せる蓮に大してはどこかバカにしたような態度をとっていたものの…
厳しさを見せている汐耶に対してはどう対応すればいいのかわからないようだった。
もしかしたら、今まで誰からもこうやって厳しく気持ちが入った”叱り”を受けた事が無いのかもしれない…
ふと、蓮と汐耶がそう思った時。
「失礼します」
次郎の声がして部屋の戸が開く。そして、次郎と…見知らぬ老人が並んで部屋に入って来た。
紹介するまでも無く、その老人が”須磨州間の住人”の山田である事はわかった。



「おまえか、わしの部屋に住みたいと言うとる奴は!」
山田は入るなり、少女を一喝する。
蓮と汐耶が、邪魔をしてはいけないだろうとその場から立ち上がり、山田の後ろに下がると…
「わしゃお前に言いたい事がある!」
「な、なによっ!?」
「お前は”ふぁん”として恥ずかしくはないのか!」
「は…?」
「おまえのその態度!お前の大好きな”きむたく”や”しんご”が喜ぶと思うのか!?」
老人の口から出てきた言葉に、蓮と汐耶は思わず顔を見合わせる。
それは少女も同じで、まさか自分の目の前に居る80歳くらいのお爺さんから、
自分の好きな人たちの名前が出てくるとは思っていなかったらしい。
「な、なによ…そんな事…」
「わしは悲しい!おまえのような奴がふぁんじゃなどと…!!”なかいくん”に申しわけない!」
「―――な…」
少女は口をあんぐりと開いたままで、山田を見つめた。
「お前さん、やたらとお金、お金と言うとるそうじゃが…働いて稼いでおるわけじゃなかろうが!
ええか。どうしても住みたいと言うなら、お前さんの両親を連れてくるんじゃ!それが条件じゃ!」
「そんなことっ…なんでやらなきゃなんないのよ!」
「叱ってやるんじゃ!!」
食って掛かる少女に、山田はそれ以上の声で怒鳴り返した。
老人の”一喝”と言うものはそれだけでかなりの迫力があるものなのだが、
山田の風貌も手伝って…それはかなり恐ろしい形相だった。
今度こそ、少女の目に本物の涙が浮かび始める。
「この大覚寺さんや相澤さん、綾和泉さん…それに恵ちゃんの話も聞いたじゃろ?
おまえさんはちぃとばかり周りが見えなくなっとる。お金も大事じゃ…そりゃ金はあるに越したこたあない…
今は年金で生活しとるもんでの…わしじゃって、娘たちに好きなものを買ってやりたかった…それは出来なかったがの?」
寂しそうに笑いながら山田が呟く。
「じゃからの、お前さんの両親がお前さんに好きなものを買ってやりたいと思ったり、
欲しいものは何でも手に入るよういい思いをさせてやろうと思っておることもよーくわかるんじゃ…しかしの…」
少女の前に山田はしゃがむと、優しい目をして見つめながら…
「ちょっとおまえさんへの愛情の表現を間違っとるだけじゃ」
少女の手を取り、ぽんぽんと軽く叩きながら告げた。
それまでのちょっと恐いイメージはなく、どこにでもいるような…やさしげなお爺さんの顔で。
蓮と汐耶、そしてそれを見ていた恵は吃驚した表情でその様子を見つめていた。
山田は、少女の目をじっと見つめながら…
「それにの…遊びに来るだけなら、わしゃいつでも歓迎じゃよ…?”すますま”の話もしたいしの」
少女の頭を優しく何度も撫でたのだった。
「なあ、皆さん方…この子はちっとばかし知らない事が多いだけじゃ許してやってくれ」
「え?そりゃあ別に俺はそんな許すも許さないも…」
例え女にもてないときっぱり言われたとしても、少しはショックで腹も立ったが。
「私は山田さんがそれでいいと仰るなら…彼女も冷静になればわかって下さると思いますし…」
男の前で嘘泣きをしてみたりする強かさは汐耶も呆れるものがあったが。
「俺はまあ、元々子供の言う事だと思っていますし…」
山田と少女が仲違いをする事がなければ良いな…と次郎は思っているわけで。
「そういうわけじゃ。ほれ、もう泣かずとも良い!」
「なによっ…みんなしてっ…アタシ、何も悪い事してないのにっ…」
「そうじゃな。悪いのはお前さんにちゃんとした言葉遣いや常識を教えておらんまわりの者達じゃ」
「うるさい!バカ!もう嫌い!”すますま”だってもう嫌い!関係無い!もう帰る!」
パチン!と、軽い音がして少女がはっと言葉を止める。山田が厳しい顔をして、少女の頬を叩いたのだ。
ビックリした顔で、目の前の老人を見つめる。
人生ではじめて誰かに叩かれたのかもしれない…いや、おそらくそうなのだろう。
「嫌いだなんて言うもんじゃない!悲しいじゃろうが!わしに部屋を出て行けというくらい好きなら…
その好きを貫き通さなくてどうするんじゃ!ほれ、とりあえずわしの部屋に来い…」
山田はそう言うと、呆然としたままの少女の手を引いて…須磨州間へと戻って行ったのだった。




「いや〜!次郎君は凄いねえ…!」
「相澤さんの狼狽する姿、見てみたかったですね」
「それは言わない約束だって!汐耶ちゃんに見られただけでも俺は恥ずかしいって言うのに…」
「大丈夫ですよ?私、誰にも言いませんから」
恵の部屋の座卓を囲み、お茶をすすりながらふふっと、笑みを浮かる汐耶。
座卓の上には、次郎が持参した和菓子が置いてあった。
結局、あの後。
少女は『須磨州間』で三十分ほど山田と話をしていたようだった。
何を話し、今回の事を納得したのか諦めたのかわからないが…恵達には何も言わずあやかし荘を出て行った。
少し寂しそうに、山田がそれを見送っていたのがどうにも印象的だった。
「山田の爺さん…そんなに頑固やヘンクツでもなかったみたいだけど?」
「そうですよね?私も因幡さんの話を聞いて、もっと恐い方なのかと思ってました」
「えっ…そんな事ないんですよ?ホントに、いつもはもっと…」
恵はお茶の葉を変えながら、首を傾げて困った表情を浮かべていた。
「俺もそんなに説得したわけでもないんですけどね…?
和菓子を差し上げて、ちょっとだけテレビの話をしたくらいですから」
「そうそう。芸能人の話題に詳しかった事も私、少し驚いたわ」
「なんでも趣味はインターネットらしくて部屋にはADSLも引いてらっしゃいましたよ?」
「へえ〜!近代的な爺さんだな…」
和気藹々と会話を続ける三人。
途切れずに続いている会話の後ろで、恵の部屋に近づいてくる足音があった。
それは、トタトタトタトタと規則正しい音をたてて―――
「ねえアンタ達!アタシ、あの部屋におじーちゃんと一緒に住む事になったから!引越し手伝って!」
突如、飛び込んできた少女に、全員は驚いて思わずお茶を吹き出したのだった。



<おわり>


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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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【1449/綾和泉・汐耶(あやいずみ・せきや)/女性/23歳/都立図書館司書】
【2295/相澤・蓮(あいざわ・れん)/男性/29歳/しがないサラリーマン】
【2605/大覚寺・次郎(だいかくじ・じろう)/男性/26歳/会社員】

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■         ライター通信          ■
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こんにちわ。
この度は、「須磨州間」のエピソードにご参加いただきありがとうございました。
皆さんのプレイングのお陰で、少女の説得と山田さんへの相談という形に仕上がりました。
オープニングをご覧になった皆さんのプレイングが楽しみだったのですが、
お陰様で綺麗な話にまとめる事ができました。ありがとうございます。
また、綾和泉様と相澤様が少女の説得、大覚寺様が山田さんへの相談という事で、
個別になっておりますので、それぞれの様子を読んでみるのも面白いかなと思います。

参加して下さった皆さんに楽しんでいただけたら幸いです。
また皆様にどこかでお会いできるのを楽しみにしております。


:::::安曇あずみ:::::


>相澤・蓮様
こんにちわ。またお会いできて嬉しいですv
相澤さんと恵ちゃんのやり取りを書くのがどんどん楽しくなっています。
今回、ちょっと少女に嫌な感じに言われてしまう役どころになってしまいましたが(^^;
楽しんでいただけていたら嬉しいです。またお会いできるのを楽しみにしております。

※誤字脱字の無いよう細心の注意をしておりますが、もしありましたら申し訳ありません。
※ご意見・ご感想等お待ちしております。<(_ _)>