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<東京怪談ノベル(シングル)>


不得手なミッション


 ぴしっと装甲に亀裂が入ったとき、W・1105 (だぶりゅー・いちいちぜろご)は自分の理性も吹き飛んだことが分かった。
「ふっふっふ、とうとう俺を怒らせたみたいだな!」
 じゃきっと装備したのは、大型のキャノン砲「スパイダー」。
 目はすっかりイってしまっていた。



◆ 鬼の少女

 1105の任務はある少女とその護衛の女剣士を死守することだった。
 強襲型で作られている1105は守備は向かない。
 再三不向きだと訴えたにも関わらず、聞き届けられなかった。
 それだけでも腹立たしいのに、相手がまた悪かった。
「むーかーつーくー!! あーマジむかつく!! 何だよ、これっ?!!!」
 1105は重斬剣「レギオン」を振り回している。びゅんびゅんと飛び回るうるさい虫を叩き落とそうと躍起になっていた。
 どうやら彼女たちは陰陽道に追われているらしい。しきりに紙状の小さな式神が飛んできて、邪魔をする。奴らはぺたっと身体に張り付いて自縛するのだ。
「すまないが! もう少し穏便に振り回せないのか?!」
「だったら自分でやれよ!」
「私も出来る限りやっている!」
 女剣士は素早い身のこなしで近付いた式神を切り裂く。1105にはない洗練された動きだ。
 先ほど、メガライフル「ホーネット」をぶっ放したら、女剣士に物凄い剣幕で怒られた。
 一緒に巻き込まれそうになったのだから、怒りは最もだと認めてもいい。
 だから、護衛の任務は嫌だと言ったのに。
 1105はますます拗ねた気分になってくる。
 そして、この式神攻撃だ。倒しても倒しても、術者自身には影響がないため、止まることがない。
「むーかーつーくー! こんなちっちゃいのじゃなくてでかく来いよ、でかく!」
「やめてくれないか、W・1105。本当に来たらどうする。」
「俺がやっつけてやるさ。派手にばばんと。」
「小さく細かくも頼む。」
「あーもー苦手なんだって。ゴーレムにも得て不得手があるんだよっ! むしろ長所と短所掛け合わせてあるばっかなんだから!」
 ぐだぐだ言っている間に、どんどん式神が増えていく。
 まるで羽虫のようだ。いや、イナゴの大群かもしれない。
 空を黒く埋め尽くすように、襲い掛かってくる。
 あまりに小さい的に、1105も対処のしようがない。全てをまとめて燃やしたいところだ。
「きゃぁっ!!」
 少女の悲鳴が聞こえてくる。
「ちっ! 何してんだ、女!」
 死守せよ、と言われても視界から外れてしまうこともある。
 1105がはっとして振り返ったとき、同時に女剣士の叫び声が響いた。
「姫様っ!!」
 一瞬閃光が煌いたと思った瞬間、周囲を飛んでいた大量の式神が青い炎に包まれて燃えた。
「う、え?」
 1105も目を丸くしてその様子を見る。
 さっきまで普通の少女に見えたのだが、いつの間にか頭に見慣れぬ角が生えていた。
「……何だ?」
「鬼です。わたくしは鬼の血を引いているんです。」
 少女は哀しそうに呟く。女剣士が少女を慰めるように肩に手を回した。



◆ 陰陽道

 特に詳しい話を聞きたいとも思っていなかった1105は、その一言で納得してしまった。
「だから陰陽道なんかが追ってくるんだな。あいつらは排他的だからなあ。」
「……気味悪くありませんか?」
「なんで? 俺ゴーレムだぞ。関係ないだろ。」
 あっけらかんとした1105に、少女の固く強張った表情が緩む。
「ありがとうございます。」
「なんで礼を言われるのか分かんねえ。」
 心底不思議そうに1105は首を傾げた。
 力の放出が止まると、少女の角はすっとなくなった。
「それよりも次の攻撃に備えないとな。マジで今度はでかいのを送ってくるかもしれないし。」
「鬼の結界まで持ちこたえてくれればいい。そこに逃げ込めば、奴らも姫様に手出しはできなくなるから。」
「気楽に言ってくれるぜ全く。」
「確かにそうだな。あの程度の式神に梃子摺っていたような奴だし。」
「だーかーらー、俺はあの手の敵は苦手なんだって言ってるだろう! それに小娘がそんな能力があるならさっさとやっつけてくれればよかったんだ!」
「姫様はまだ人間だ。鬼の結界の外でこの力を使うと、心身ともに鬼になってしまう。」
 女剣士が必死に言い募る意味が1105には分からない。
 使えるものを使わなくてどうするのだ、と思うのだ。
「来ました!」
 少女の鋭い声が飛ぶ。
「護法童子っ!」
 女剣士の悲鳴から、相手が強いことが分かる。
 護法童子は先ほどの紙の式神とは違い、質量が大きい。1105はにやりと唇を舐めた。
 「レギオン」を構え、護法童子と対峙した。



 女剣士が怯えたくらい護法童子は強かった。1105は楽しくて仕方がない。
 さっきまで本当にいらいらするような戦いしか出来なかったのだ。
 これで帳消しにしてもいいくらい高揚していた。
 「ホーネット」と「レギオン」の波状攻撃にも護法童子はよく耐える。奴の攻撃は、全てシールド「ガーゼ」で防いだ。
 護法童子の持つ、金の錫状と「レギオン」がぶつかって鈍い金属音が鳴る。
 重斬剣を持ってしても、折れないそれに、何で出来ているのだろうかと無駄なことを考えたりした。
 自分が優勢であるほど楽しいのは当たり前だ。
 だから、1105は自分が傷つくのは許せなかった。
 護法童子の錫状が1105を掠っていく。
 ぴしっと装甲に亀裂が入ったとき、1105は自分の理性も吹き飛んだことが分かった。
「ふっふっふ、とうとう俺を怒らせたみたいだな!」
 じゃきっと装備したのは、大型のキャノン砲「スパイダー」。
 目はすっかりイってしまっていた。



◆ 大爆発

 さすがの護法童子も「スパイダー」の威力の前に消し飛んだ。
 1105の武器の凄まじさに、少女と女剣士が腰を抜かして驚いている。
「おい……教えろよ。」
「え……?」
 怯えたように少女が1105を見上げる。
「あの腐れ陰陽道、どこにいやがる? どこからこいつら送って来やがるんだ?」
「そ、それは……。」
 少女はちらりと女剣士を振り返った。能力を使っていいか、視線で訪ねているのだろう。
 あと少し女剣士が頷くのが遅かったら、まず、この2人から血祭りに上げていた。
「方角は北西。ここから10キロ離れた山の中です。」
「了解!」
 1105はブースターを噴かすと、空に飛び上がった。少しの間しか飛べないが、一刻も早くその場にたどり着きたい。
 そう、1105は強襲型のゴーレムなのだ。場所さえ分かればあとは襲うだけだ。
 待っていろ。完膚なきまでに叩きのめしてやる。
 1105の頭の中から、少女と女剣士の護衛などすっかり吹き飛んでいた。
 少女の言った通りの場所に庵を見つけ、逃げる間さえ与えず、その庵ごと破壊し尽くしたのだった。



 1105が術者を倒している間に、少女と女剣士は無事結界にたどり着いていた。



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