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<東京怪談ウェブゲーム アンティークショップ・レン>


童話劇 〜状況を受け入れたシンデレラ〜

東京のとあるところに、とても不思議な物ばかりがあるお店があります。
「いらっしゃい。良く来てくれたね」
薄暗いアンティークショップの中で、ゆっくりと白い煙が細く天井に昇っています。
店の主、碧摩 蓮はとても負けん気の強そうな視線をこちらに向けて、煙管を吸いました。
「実はね、また変わっちまった本を見つけてね」
少し肩を竦めて蓮は後ろの本棚から豪華な装飾本を取り出しました。
表紙には『シンデレラ』と書かれています。
蓮の持つ曰くつきの物の一つ。不思議なカードは絵本や小説、童話など様々な本に作用して、その中のキャラクターを変えてしまうのです。
なんでも、本好きだった人の気持ちが固まってそうさせるのだとか・・・
でも、どのキャラクターがどう変化したのかは読んでみるまで判らないのだそうです。
「今度も変化したのは主人公さ。……随分、掃除好きみたいだねぇ」
シンデレラの本を見ながら、ぽつりと蓮は言いました。
シンデレラのお話は皆さん知っていると思いますので、説明は割愛させて頂きますが、どうやら、シンデレラは継母や姉たちの意地悪を二つ返事で嫌な顔もせずにしているというのです。
朝は日も昇る前から起き出し、家を掃除し、朝食の用意。
昼も掃除をしたり庭の手入れをしたりと、今の自分の状況が当たり前だと受け入れているのです。
「……まるで、ロボットみたいだねぇ。ま、どういう風に話が矯正されるのか……楽しみにしてるよ」
にやり、と蓮は不敵に微笑んでそう言ったのでした。

‐‐‐‐‐‐‐

あるところに、シンデレラという可愛らしい少女がいました。
継母やその姉たちに毎日意地悪をされるシンデレラですが、嫌な顔一つせず、朝から晩まで働いていました。
そんなシンデレラが特に好きなのは掃除で、毎日掃除された家は隅から隅までピカピカなのです。
「素晴らしい掃除の腕ですよね」
ほぅ、と感嘆の溜息を一つ吐いて磨き上げられた長い廊下を見た継母【海原・みなも】は言いました。
「これでは、ケチのつけようがありませんね」
シンデレラの姉U【セレスティ・カーミンガム】も苦笑を浮かべながら廊下を見ました。
そんな二人の着ている豪華なドレスもフリルに染み一つ無く、綺麗に洗濯されたもの。
糸のもつれもありません。
「良くお似合いです、セレスティさん」
ほぅ、とまた溜息を吐き、継母はうっとりとした顔で姉Uに言いました。
「それに引き換え……えっと……」
ぐるり、と首を動かした継母は仏頂面をしている姉T【忌引・弔爾】に何か言おうとして、でもなんと言っていいものか分からず、口篭ってしまいました。
「……なんだよ。はっきり言えよ」
「えっと……似合っていますよ、忌引さん」
「嘘付け。こんなむさ苦しい男にドレスなんか似合う訳ねーだろがっ!」
作り笑顔でそう言った継母に間髪いれずつっこむ姉T。
それでも姉Tの最大の救いは彼が莫迦刀と呼んでいる存在がいないことでしょう。
「で、シンデレラは今どこに?」
姉Uは周りを見渡して首を小さく傾げました。
「今はお庭にいます」
「はぁ……熱心な事だねぇ」
窓の外を見ると、シンデレラは掃き掃除をしていました。
煤汚れた頭巾をかぶり、古い服を来たシンデレラはせっせと箒を動かしています。
「こんにちは」
そんなシンデレラに声をかける一人の女性。
魔法使い【シュライン・エマ】はにっこり微笑むとシンデレラの側にやって来ました。
「あ、こんにちは。……何か御用でしょうか?」
「えぇ。貴方に聞きたい事があって来たの」
「私に?」
不思議そうに首を傾げるシンデレラ。
「お掃除は好き?お掃除は楽しい?」
いきなりの質問にシンデレラはしばらく瞬きをしていたが、やがてこくりと頷いた。
「はい。お掃除は好きですし、汚れていた所が綺麗になるのは楽しいです」
「そう……」
意味あり気に頷く魔法使い。
そんな魔法使いの姿を見つけ、家の中から継母たちが出て来ました。
シンデレラと魔法使いの話を聞いた姉Uは困ったような笑みを小さく浮かべて呟きました。
「本当に掃除が好きなのですか……」
「まぁ、好きなら別にそれでいいが……こう、掃除の邪魔されたりよ」
と言いつつ、掃き集められた落ち葉を軽く蹴り、姉Tは仏頂面をさらに深くしてシンデレラに言いました。
「したら、キレねーか?俺だったらキレて死んでるが」
だけれど、シンデレラは顔色ひとつ変えずに再び掃き集めて言いました。
「時々吹く風の方がもっと吹き散らかしてしまいますから」
「いや、そう言う問題じゃねー気がするんだが……」
呆れたように頭を掻いた姉Tに変わって、魔法使いが言いました。
「ねぇ、シンデレラ。お城へ行く気はない?」
「お城、ですか?どうしてですか?」
首を傾げるシンデレラに魔法使いはにっこり笑いました。
「今夜お城で舞踏会があるの。それに、お城の方がお掃除するところたくさんあるからやりがいあると思うわよ」
その言葉にシンデレラは納得したように頷きました。
「お城のお掃除ですね。私、頑張ります」
「いや、違うだろ……」
「何にしても、お城へ行きましょう。海原さん、お着替え手伝って上げてください」
シンデレラは継母に促されて、ドレスに着替えに家へと入っていきました。
「さぁ……王子様がお待ちかねよ」
遠くに見えるお城を見上げ、魔法使いは呟きました。

「遅い!もう、待ちくたびれちゃったわ」
天井の高いお城の大広間。
豪華なシャンデリアに綺麗に着飾った人々。おいしそうな食事などが並んだその真ん中で見目麗しい王子【イヴ・ソマリア】が頬を膨らませて待っていました。
「ごめんなさいね」
「で、シンデレラは?」
首を伸ばしてシンデレラの姿を探す王子様に微笑み、魔法使いは一歩横へ動きました。
後ろにいた姉Tと継母に押し出され、王子様にぺこんと頭を下げました。
元から可愛らしい容姿を持つシンデレラは今、綺麗に髪を纏められて、綺麗なドレスを着ています。
「貴方が、シンデレラね」
「はいっ!あの、私は、お掃除だって聞いてきたんですけど……でも、こんな……」
きょろきょろと落ち着き無く周囲を見渡しながら、王子様に弁解するシンデレラ。
そんな彼女に王子様は大きく手を横に振りました。
「ダーメダメ!そんな考え、ダメよ。お掃除も良いけど、たまには綺麗な格好してダンス踊らなきゃ。貴方もこういう事興味あるでしょ?」
「……それは、無いと言えば嘘になりますけど」
もごもごと口の中で答えるシンデレラの肩に姉Uが優しく手を置きました。
「それで良いんですよ。新たな状況を受け入れる事は悪い事ではありません」
にっこりと微笑みかけてくれる姉Uに、不安そうな顔を向けるシンデレラですが、少しその表情は柔らかくなってきています。
「ところで、王子様。王子様はシンデレラさんの事をどう思いますか?」
「どうって?」
継母の問いに首を傾げる王子様に、継母は真剣な顔で詰め寄ります。
「シンデレラさんの事、好きですか?ちゃんと、愛して下さいますか?」
「な、何を言ってるんですかっ!お継母さま!」
頬を赤くし、俯いてしまったシンデレラに真面目な顔で継母は言います。
「大事な事です。シンデレラさんの幸せの為にも」
「私の、幸せ……」
「……ま、初対面で愛してますっつーのも嘘臭い話だけどな。ひとつ踊って来たらどうだ?」
側にあったオードブルを適当に口に放り込みながら言った姉Tの言葉に、皆頷きました。
「では、シンデレラ。わたくしと踊って頂けますか?」
静かにシンデレラに右手を差し出し、跪く王子様。
しばらく戸惑っていたシンデレラだが、魔法使いたちの頷きに促され、王子様の手を取った。
「あの、喜んで」
静かに流れ始める音楽。
広間の中央へ進み、微笑みながら向かい合う二人。
ゆっくり、ワルツを踊りだしました。

‐‐‐‐‐‐‐

「おかえり」
薄暗く煙草の匂いのする室内。
そこで、蓮が本を片手に立っていた。
本を開き、音読を始める。
「シンデレラは継母や姉たち、魔法使いに見守られながら王子様と、幸せにいつまでもいつまでも踊り続けました」
薄っすらと笑みを浮かべる。
「このシンデレラにはガラスの靴なんて必要なかったようだねぇ。良い事った。ご苦労さん」
本は静かに壁の本棚へ納められた。

『シンデレラ』了
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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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【整理番号 / PC名 / 性別 / 年齢 / 職業】

【0086/シュライン・エマ/女/26歳/翻訳家&幽霊作家+草間興信所事務員】
【1252/海原・みなも/女/13歳/中学生】
【1548/イヴ・ソマリア/女/502歳/アイドル歌手兼異世界調査員】
【0845/忌引・弔爾/男/25歳/無職】
【1883/セレスティ・カーミンガム/男/725歳/財閥総帥・占い師・水霊使い】

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■         ライター通信          ■
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どうも、壬生ナギサです。
お届けが遅くなり申し訳ありません。
今年は期日内納品を心がけていたのですが……もうすでに(吐血)
こんなへたれライターですが、どうぞ宜しくお願いします。