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<東京怪談ウェブゲーム 神聖都学園>


鏡と子ネコの冒険日誌

 彼女たちに許されたスペースはほんの二畳ほど。
 そこから一歩でも出れば、回りは全て質の悪い幽霊というあまり置かれたくない状況だった。
「ごめんね、私が行こうって言った所為で」
「雫ちゃんの所為じゃないよ、それにみんなが気付いてすぐに来てくれるから」
 発端はいつものように怪奇現象が好きな雫が手に入れた情報。
 旧校舎にある何かを封印している鏡には、死んだ人の姿が映るという噂。
 すぐに行ける距離と、放課後という時間が雫を向かわせる理由には十分だった。
 けれど何かがあってはいけないと同行すると言ったのが三日月リリィと、帰るところを呼び止められたメノウ。
 彼女が同行していなければ、リリィと雫ははもっと酷い状況になっていただろう。
 それほどにこの旧校舎にいる何かは、よくない物の固まりのようだった。
「結界は張りましたので、動かない限りは問題はありません」
「よかった……」
「メノウちゃんが居てくれて助かったわ」
 雫を落ち着かせるようにリリィが抱き締めるすぐ後ろでは、メノウが黒板や床に何かを書き込んでいく。
「今の内に説明しておきます。校舎ごと壊す事も考えましたが、あまり強い力を使うと鏡が旧校舎に張っている結界が崩壊します」
「そうすると?」
「この鏡は周囲の怨霊を取り込む役目をになっていたようですから、中にいる物が一斉に出てくるか……もしくは取り込もうとして私たち事飲み込んでしまうか。どちらにせよ無事ではすみませんので」
 メノウがリリィの携帯に何かを書き込んで、差し出す。
「連絡を取ってください、出来るだけ手短に」
「ありがとう、メノウちゃん」
「いいえ、私は結界を広げるのに集中させていたたきますから」
 慣れた番号を押すと相手は慌ててこっちに向かうと言っていた。
「もうすぐだから、頑張ろうね」
 パチリと携帯を閉じながら、きっと今頃心底慌てているに違いないと、そんな事を考えた。

【硝月・倉菜】

 助けを求める連絡が倉菜の元へも回り、少し状況を聞いただけでもただごとではない様子に急いで旧校舎へと向かう事にした。
 その前に一度。
 倉菜は自らが作り出したバイオリンを奏で、調子が万全かを確かめる。
 部屋を満たす音色。
 確かに倉菜は運動能力も除霊能力も優れている。
 天性の感で扱った事がない楽器でも弾きこなす事だって可能。
 けれどそれで過信していい訳ではけしてない、何があるか解らないし、こうして日常的な行為をする事で客観的に事態を見渡す事も出来るはずだ。
 人の命がかかっている。
 何時だって起こりうる事は想像し。考えておかなければならない。
 こうした冷静さは、物事を見通す事は物の本質を見抜き、性格に模写する事が可能な下地でもあった。
 弾き終えたバイオリンも無に返してから、倉菜は学園へと向かう。
 集まると聞かされたのは、問題の旧校舎のすぐ近くに立てられた職員室。
 集まる前に一度見上げた旧校舎からは酷い嫌な気配。
 五感全てが危険だと告げている。
 通い慣れた学園内であるはずなのに、今まで気付く事がなかったのが不思議なほどだ。
 その鏡が何か関係しているのかも知れないが、今は不用意に立ち入る気にならない。
 その旧校舎から背を向けると、まるで背後が知らない場所のように感じられ、もう一度だけ旧校舎を見上げる。
 日常的なその場所は……その日常から最もかけ離れた場所に思えてならない。
「急ぎますか……」
 今度こそ倉菜は真っ直ぐに明かりの灯る職員室へと向かった。

 ■1

 ここに集まったのは、メノウとリリィの保護者でもある綾泉汐耶と盛岬りょう、ナハトも既に人の姿で同席している。
 そしてりょうに呼ばれたのが光月羽澄とシュライン・エマ。
 そしてリリィと同じように、メノウが力を用い、雫が呼び寄せたのが榊船亜真知と硝月倉菜。
 今はこれで全員と言いたいところだが、もう一人。
 響カスミ。彼女はどう考えてもこの件には不向きだ、いまもその事を物語るかのように閉じこめられた少女達の原因を聞くか聞くまいかオロオロしている。
 聞いたらきっと、噂の通りに気絶するに違いないから、そっとしておいたほうがいいだろう。
「警察は呼ばなくていいんで、先生は落ち着いてください」
「でっ、でも……そのっ」
 埒が明かない。
「わあっ!」
「きゃーーーーーーー!!??」
 りょうの一声でカスミは緊張の糸が切れたのか会えなく気絶。
「酷い事するわね」
 目を回して倒れたカスミを受け止め多量に、羽澄が半眼で忠告。
「いいだろ、時間無いんだし」
「きっと覚えてないでしょうし」
「それもそうね」
 汐耶とシュラインがカスミをソファーに寝かし、上から毛布を掛けておく。
「少々強引な手段ですが、このほうがよろしいですわね。こちら側の世界は、あまり知らなくてもよろしい事ですから」
 物静かな口調に潜む亜真知の言葉は、事実だ。
 この東京の、学園には知らなくていい事なんてきっとたくさんある。
「早く助けてあげないとね」
「りょう、校舎の地図は揃った」
「ああ、ここに」
 取りだした地図で何処にいるか、最短距離を選択しようとしたところに倉菜が待ったをかける。
「私は今すぐに模型作れるますから、立体的なほうが行動しやすいと思います」
「そう、じゃあお願いね」
 地図を見てから、倉菜は目を閉じ手を何もないテーブルの上へとかざす。
 意識を集中させるだけでテーブルの上に透明な校舎の骨組みが作られ、部屋ができ、壁が作られていく。
 早送りで作り出される校舎は最後に意識を集中させると色が付き窓から見える旧校舎そっくりに作られた。
「出来ました」
「凄いわね」
 本当に良くできている。
 木造作りの校舎は、3階建てで文字に例えるのならカタカナのコの様な形状。
「私が聞いた話では鏡がある場所に行くまでは何か条件が必要だとか」
「条件……もう少しヒントがあればいいですが」
「そうね、全部を捜すには意外に広いし」
 校舎の模型をのぞき込み、亜真知が何かに気付いたようだった。
「ここ、少しおかしくはないですか?」
「そう言えばそうね」
 地図と比べて、奇妙な配置で壁に区切られている箇所がある。
 場所にすれば、三階のちょうどコの字の先端の向かい合ったような部分。
「どちらかに居そうですね」
 気配を探るも、怨霊の気配や何かが妨害しているらしく上手く位置をつかめない。
「少し、待って……」
 羽澄が窓を開き、旧校舎見下ろし意識を集中させる。
 前に鈴を渡したから、強すぎる怨霊や何かの気配から自分が知っている方へと意識を集中させる。
 異なる振動。
 例え回り重を気配でかき消されていたとしても、遠くか近いか程度は十分に解る。
「ここから奥の方。そこにリリィちゃんはいるわ」
「そうか……」
 これで何処にいるのかは解った。
「分けたほうがいいわね、戦力が別れるのは危険だけど……」
 シュラインの意見はもっともだ。
「私もそれに賛成です、別れた方が怨霊が固まる事はないと思いますから」
「それに、もう片方の部屋も気にかかりますし」
「そうですね。助けたら合図して、もう片方が脱出するまで引き寄せると言う事で構いませんな」
 倉菜の言葉に全員覚悟も決めておく。
 優先するべきは、人命だ。
 意見がまとまったところで、羽澄が鈴を取りだし全員に配る。
「お守り代わりよ、よかったら持ってて。合図に出来るから」
「ありがとうございます」
「他には、何かある?」
 シュラインの手の中で、リンとなる鈴。
「では一つ聞いて置いて欲しい事が」
 亜真知が調べた事をかいつまんで説明し始める。
「元々旧校舎が会った土地には、気の流れの強い土地だったそうです。 そこで何か儀式めいた事を行ったようで、手に負えず封印したものと思われます」
「今集まってる怨霊は?」
「恐らくは気の流れに引かれてきたか、眠っている物の封印が溶けかけたことで気配に引かれてきたかのどちらかと」
「この際ですから、キッチリ封印する成り片を付けるなりしておいたほうがいいですね」
「そうですね、多少は荒事になっても、補修できますから」
「解ったわ、じゃあ行きましょう」
 そして、作戦スタート。

 ■2

 まず雫、リリィ、メノウが居る方へ向かうのが羽澄と汐耶、そしてりょうとナハト。
 そしてもう一方に行くのは確かめたい事、やりたい事があるというシュラインと倉菜と亜真知。
 出来るだけ手短に住ませたつもりだが、思っていた以上に時間は経過していたらしい。
 校舎内に漂っている怨霊の類が数を増し、何かに憑依し腐食していたり共食いを始めより力をましている。
 出来るだけ刺激したくないのだが、これでは実力行使も使わざるを追えない。
 校舎を前に、ぞわりと泡立つような気配。
 体の芯から冷えるような感覚に気合いを入れ直し、校舎を見上げる。
 結界が目に見えるほどにまで具現化して、その下にある木で出来ているはずの校舎がまるで生き物のような……羽化する直前のさなぎを見ているような気がした。
「電気が生きてて安心しました」
「でも流石に電気は無理みたいね」
「ご安心なさってください、シュライン様はわたくしがお守り致しますから」
「ありがとう。それじゃぁ、行きましょうか。ナハトもよろしくね」
「わかってる」
 校舎に駆け込み、向かう先は職員室のある方角。
「校舎も怨霊に取り込まれかけているようですね、お気を付け下さい」
「出来るだけ校舎を刺激しないほうがいいみたいですね」
 連絡手段が多いほうがいいとこちらにナハトは回されたのだが、実際はほぼ荷物持ちだ。
 それだけ亜真知の動きは見事なものなのである。
 暗闇を移動する動きに微塵のぶれもなく、すれ違い様に無へと返す。
 傍目にはゆったりした動きに見えるのに、その実行動の迅速さは信じられないほどに素早い。
「凄いですね」
「倉菜様も素晴らしい腕ですわ」
 事実。
 倉菜が作り出した刀を闇を切り裂くが如き早さで一閃するたびに、怨霊は両断、浄化されていく。
 しなやかな手首の動きで払われる刀の動きが奏でる音は楽器を演奏するようだと錯覚しそうだ。
 このメンバー、見た目に反して実に戦闘力が高い。
 おかげでなんの苦もなく地図上にあった壁際へと到着する事が出来た。
「簡単にですがこの辺りに小さな場を作りましたので、向こう側に出る事が出来る道を捜す事に専念する事に致しましょう」
 陰の気に満ちた廊下を呪術の法則を用いて陽の気に直したのだ。
 この手段は一時的なものである。
 擬似的に作り出した正常な気という物は、海に開いた穴のようなものであり、陰の気が集まりやすくなるのだ。
 むしろこちらに集めてもいいのだが、いまは壁の向こうに集める方法を捜さないとならないからそれが済んでから引き寄せるという手段も取れる。
「何か仕掛けがあるのかも知れません」
「そうね、やっぱり気になるのはなんの条件かという事だけど……」
 何かあるのかと暗い廊下を見つめる。
 視界の中にあるのはただの壁であり、特に目だった異常は何もないと思われたが……。
「あら?」
 気付いてしまえば簡単な事。
 ここに入れたのは雫やリリィやメノウ。
 少し目線を下げ、子供であったらと考えれば良かったのだ。
 足下の薄い壁が開くようになっていて、向こうに抜け道がある。
 ただし、そのサイズは子供用。
「多少狭いけど、私たちでも通れない事はなさそうね」
「結界を張っておきますので、安心してお通り下さい」
「……俺は?」
 ただしナハトは除く。
「ここで待っていてください」
「仕方ないわよね」
「わかった」
 倉菜、シュライン、亜真知の順で狭い通路を通り抜けた場所にあったのはなんの変哲もない通路だ。
 すぐ側にあるドアを開いた場所には鏡と……可愛らしい三毛の子ネコ。
 三人の姿に気付いたらしくナァと一鳴き。
「……悪い気配はしませんが」
「かといって、普通のネコとも思えないけど……」
「ここを護る式神のようですわ」
 亜真知が子猫の方に手を差し伸べてそっと微笑む。
「こんばんは、少しお話を聞いてもよろしいですか?」
「ウニァ〜」
「構わないそうです、ご安心なさってください」
 意思は通じているようで、亜真知の通訳で子猫から詳しく話を聞く。
「儀式をしたと言うお話は先ほど説明いたしましたけれど、詳しく知っているようです」
 そしてまた一鳴きしてから、亜真知が説明を始める。
「切っ掛けはこの学園の怪奇部で実験をした事だそうですが、大事になってしまったそうで……対になる物をそろえて封印なされたそうです」
「それでここと向こう側に対になるように部屋があったんですね」
「でもどうやって隠せたのかしら」
 子供だけで隠せる事手はないから、きっと教員も手伝っていると考えていいだろう。
「え? 同じ物をそろえただけでは不安で……三つ目の鏡もあるのですか?」
 通訳しながらでは時間がかかると判断したのか、亜真知が一通り話を聞いてから短くまとめる。
「どうやら三つの鏡を回る事で封印の役割をはたいていたそうですが、一つが倒れてしまったようです」
 ここにあるのは無事だから、倒れたのは他二つの内どちらかだろう。
「同じように結界を張り直したほうがいいのかしら」
「でも鏡では危険な気もしますね」
 結界を張り直しても、また何かの切っ掛けで崩れたら同じ事の繰り返しだ。
「それでしたら、封印の方法は同じ事をして循環させるという方法をとっていますから、まったく同じでなくても構わないのではないでしょうか?」
「鍵と一緒ね、他がやらないような事」
「そうなりますね」
 三という数字で他が出来ない事と言えば、直ぐに出来そうな事がある。
「音を封印にすると言う事は可能でしょうか」
 シュラインに倉菜に羽澄。
 この三人でなら、きっと他には絶対に出せない音を作る事も可能だ。
「試してみる価値はありそうですね」
「でしたら一度鏡の結界を解いて……様子を見ながら張り直すと言う事に致しましょう」
 後は鏡のある場所に行って、どうタイミングを合わせるか。
「向こうには羽澄ちゃんが行ってるから……私が三つ目に行くわ」
「大丈夫ですか?」
「ナハトもいるし、サポートと合図はお願いね」
「わかりました、ではそちらはお任せします」
 羽澄に連絡を取らなければならないのだが、向こうは大丈夫だろうか。
 そんな時にタイミング良くかかってくる電話。
「はい、もしもし?」
 相手は汐耶から。

□□□

 ……向こうには人数が増えていたとの事。
「私たちが向かってる間に、直接校舎に行った子が他にいたみたいです」
 御影瑠璃花と海原みあおと楠木瑠璃花の三人。
「………増えたな」
「でもそのおかげで連絡できたみたいで……」
「とにかくおりましょうか」
「そうですね」
 今度は汐耶、羽澄の純でおり……開いて貰った窓から中へとはいる。
「お姉さん」
「頑張ったわね、メノウちゃん」
 汐耶がそう言いながら、メノウの髪を撫でる様子は微笑ましい。
「みんな、怪我とか無い」
「はい、大丈夫です」
「もちろんっ!」
「よかったーーー」
 ホッとした様子の女の子達に安心している中、りょうが最後に降りてくる。
「リリは……」
 屋根にぶら下がり、窓枠から降りかけたりょうを慌てて止めにはいる。
「待って!」
「動いちゃダメです」
「とまってっ」
「窓! 窓!!」
「へっ……わっ!?」
 突然しまりかけた窓を、りょうが足で止める。
「ああ……危なかった」
「……どういう事だ?」
 怪訝な表情のまま、りょうはそう尋ねた。

 話をまとめると、今まで出れなかったのはドアが勝手に閉まり閉じこめられた状態にあった訳なのだが。どうやらドアだけではなくこの旧校舎全体が、一つの生き物のようになっているそうだ。
 よってドアを壊せば同時に校舎全体に被害が及び、入れ物が無くなってしまえば中にいる怨霊の類は全て外に出てしまうと言うわけである。
「窓は平気だと思うのですが……」
「そうならないって可能性、無いしね」
「可能性の一つとして、入ってきた箇所が開かなくなると言う事もあり得ますから」
 なんにせよ、不安は少なく保険は多いに越した事はない。
「と言う訳みたいだから、りょうはそこにいてね」
「わーったよ……」
 つっかえ棒代わりにされているりょうは置いといて。
 雫がここに来る前に見つけたのだという地図をみせて貰う。
 ここに来る前に解っていた事だが、今いる場所とその反対側。そして地下にもう一カ所印が付けてあると言うこと。

□□□

「三つある事に意味があるみたいですね」
「これからそこに行ってみようと思うんだけど……羽澄ちゃんはそこにいて、やって欲しい事があるから」
 電話を繋いだままの羽澄が、簡単にあった事を説明する。
『解ったわ、会わせるのは可能だから……でもシュラインさんは大丈夫?』
 音がどうのではなく、心配なのは三つめの鏡に行くまでと言う事だろう。
「平気よ、ナハトにも来てもらうから……心配だったら誰かに来てもらって」
『でしたら私が行きます』
 どうやら向こうは汐耶が向こうに行くと言うことで話がまとまったようだ。
 三つ目の鏡までは三毛猫が案内すると言うことで、シュラインをナハトがいたところまで送ってから亜真知と倉菜は校内放送のある職員室に移動する事にした。
「後は出れるのかって事だけど……」
 向こうの部屋の二の舞では目も当てられない。
「それでしたらご安心なさってください」
 亜真知が扉に手をかざし、サッとその上を撫でる。
「少し作り替えましたから、通れますよ」
「ありがとう」
 後は予定通り。

 ■3

 ここは事前に調べている、放送できるように、倉菜はこちら側に来る事を選んだのだ。
 電気が生きている事は確認している。
「建物が古くてちゃんとした放送室はなかったですけど、これも同じです」
 隠し部屋のすぐ隣にある職員室で、持ち込んだマイクをコンセントに差し込みスイッチを入れた。
「入っているようですわ」
「良かった」
 回りの安全を確認し、具現化したヴァイオリン肩に乗せ、弓を引く。
 なめらかな手首と真っ直ぐな姿勢が作り出すのは浄化の音色。
 音が届く場所は大分数が減らせるはずだ。 その間に亜真知はここへと持ち出した鏡……もちろん安全であると言う事を確認しての行動である。
 手にした鏡は揃ってさえいれば封印の効果を生んでいたのだろう。
 けれど一つが崩れてしまったために、中途半端な結果を生み……逆の効果を生んでしまったのである。
「私にも見せてもらっていいですか?」
「どうぞご覧になって下さい」
 演奏を続けながら、倉菜も鏡に視線を移して鏡と封印の構造をその目で見抜く。
「鏡は……普通の鏡ですね」
「純粋に三つあったものを選んだと思われますわ」
「変わった封印ですが良くできてますね、急場しのぎのような気もしますけど」
 鏡を媒介に、たりない力を補い流れを分散。そして鏡の性質を利用して集まった力を反射させているのだ。
 まるで良くできた数学の答えをみているような封印。
 無駄がない。
「完全な封印をみてみたかったですね」
「同じ物は見れませんが、歌えばにたような状態になると思いますよ」
「そうですわね」
 きっと、何事もなければ持った事だろう封印。
 そんな気配。
 だがゆっくり出来ていたのはここまでだった。
 突然鳴り出した携帯電話。
 演奏している倉菜に変わり亜真知が応対する。
「どうかなさいました?」
 話を聞いた亜真知が驚いたように顔を上げる。
「大変、雫様のいるお部屋の装置が壊れているそうで、大変な事になっているようです。ナハト様が様子を見に行ったそうですが……」
「それは……っ」
 その部屋だけ壊れていたとしたら、逆にその部屋に怨霊を集める事になってしまう。
 急いで演奏を止め、振り向きかけた倉菜を亜真知がそっと手で制す。
「いけませんわ、ここでの役目がございますから、様子を見るのはわたくしが」
 言いかけた言葉を途中で切り、亜真知がドアをみると倉菜も扉の向こう側にいる何かの存在に気付いたようだった。
「すぐに向かわせてくれる気はなさそうですね」
「元居たお部屋にも戻らないとなりませんし」
 すぐ近くにいる大きな何か。
 一際強い気配を放つ物は、ここに眠っていた何かの正体。
 ドクリと脈打つドアを食い潰し、ぎょろりと大きな目で二人を睨み付けたのは怨霊の固まりの鬼だった。
「ちょうどいいですね、きっと……あの鬼を狙えば他の怨霊もここに集まると思います」
 スッと刀を振る倉菜に亜真知も同意する。
「それは良い考えですわね」
 鬼の体を構成するのは沢山の怨霊。
 ダメージを与えればきっと回復のために怨霊を呼ぶに違いない。
「「行きます!」」
 重なる声。
 そして始まる剣戟。古から伝わる神道の秘術。
 天井に着きそうな体で動きにくいと言う事はなく、想像以上に素早い動きをするが大きすぎる体は逆に言えば狙いやすい物だ。
 振り下ろされた腕をかいくぐった倉菜は下から上へと刀を振り上げ、両断した腕を亜真知が消滅させ回復の為に呼び寄せられた怨霊も消滅させる。
 流れるような動作で鬼を切り、よってきた怨霊達を浄霊させていく。
「キリが……無いですね」
 次から次えと無尽蔵に沸いては再生する体。
 このままでは消耗戦は確実だ。
 まだ持つとは言っても、体力は温存しておきたいしあまり刺激して何かが起こるかの所為も排除しないとならない。
 あくまでここで目を引く事が目的なのだ。
「このまま終わらせたいですが、いま目の前にいるモノは本体ではありません。結局は封印するしかなさそうですわ」
 取りだした呪札を宙に放り、印を刻んで鬼へと貼り付ける。
「ーーーーーーーーーッァァァァ!!!」
 長い断末魔。
 藻掻く鬼を倉菜が刀で壁に縫いつけて動きを止め、藻掻く腕が体を掠める前に距離を取る。
 繰り返される再生。
 尚も再生を続けようとすれば自然にここに怨霊が集まる事になる為、他の場所にいる音量も大分減るはずだ。
 念のために亜真知が鬼の回りに、ウトからはでられないように細工をほど越した結界を張っておく。
「これで、新たに結界を張れば鬼も消えるはずですわ」
「そうですね……向こうは平気でしょうか?」
 きっと電話でも様子は聞ける、けれどきっと……大丈夫だと言う気がしたのだ。
「視てみますわ」
「お願いします」
 亜真知が術を使い、手元にある鏡で向こう側の様子を確かめる。
「大丈夫だったようです、放送も治ったようですから準備が整うまでお願い致します」
「良かった……」
 助けも間に合ったようほっと胸をなで下ろす。
 再び倉菜はヴァイオリンを構え、浄化の音色を流し始めた。
 準備が整う間。
 例え僅かではあっても休める事が出来るようにと。


 一段落している間に、今度こそしっかりと封印をかけ直さないとならない。
 今度こそ解ける事がないように、そのためにはタイミングが重要だ。
 離れた三カ所で寸分の狂いもなく同じ行動を取る事が重要なのである。
「時計も合わせましたわ」
「カウントダウンはお願いします」
 すでに鏡の部屋で準備は整っている。後はあわせるだけだ。
 放送で音楽を流すという事は出来なかったから頼りは携帯電話だけだが……音に関しては3人揃ってエキスパートだ。
 何も問題はないだろう。
「はい、お任せ下さい」
 時計を見つめる僅かな沈黙。
「始まったようです。5秒前、3.2.1……」
 亜真知の秒読みで倉菜が歌い始めた。
 鏡の封印から、形の見えないはずの歌が封印へと変化していく。
 同じ早さ。
 同じ音程。
 寸分来るわぬ音色は旧校舎をゆっくりと巡り、螺旋のように循環し上昇している。
 二度と聞きく事のない音。
 鏡のように形に残るものではないけれど……絶対に消えないだろう。

 一夜限りの夜の夢。

 それは、ここにいる全員が感じた事だ。

 ■4

 封印をかけ直し、静けさが戻った校舎内。
 出来る限り壊さないようにはしたが、やはり所々は怨霊に食われていたり、焦げたりしている。
 そこを見て回りながら直している間に気付いたのは、ここの校舎が本当に大切に使われていたのだという事。
 例えばそれは修繕の後だったり、長い間使い込まれていた事であったり。
「しっかり直さないと行けませんね」
 例え何かがこの校舎にあっても、何かがあった部屋を隠す事しかしなかった理由が今ならよく解る。
 ここで学んでいただろう生徒達は、きっとここが大切だったのだ。
 勉強したり、遊んだり。
 大切な思い出の詰まった場所。
 今夜ここで奏でた音色が忘れる事が出来ないのと同じように。
 昔この場所で鏡を使った封印を同時に行い持続させているのは、何よりも強い感情。
「ナァーオ」
 呼んだのは、あの子猫。
「どうしたの?」
 振り返りった倉菜の足にすり寄ってきた子猫をそっと撫でる。
 その瞬間に見えたのは、昔の光景。
 楽しそうな子供達の思い出。
「……そう」
 きっとこの子猫は子供達の思い出と共に、ここで生きていたのだ。
「お疲れさま」
「ニャゥ」
 これからはきっとまたゆっくりとした時を刻むのだろう。
 今夜の出来事も、きっとどこかに記憶されるのだ。
 ある夜の子猫の冒険日誌。



     【終わり】

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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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【整理番号 / PC名 / 性別 / 年齢 / 職業】

【0086/シュライン・エマ/女性/26歳/翻訳家&幽霊作家+草間興信所事務員】
【1282/光月・羽澄/女性/18歳/高校生・歌手・調達屋胡弓堂バイト店員】
【1316/御影・瑠璃花/女性/11歳/お嬢様・モデル】
【1415/海原・みあお/女性/13歳/小学生】
【1421/楠木・茉莉奈/女性/16歳/高校生(魔女っ子)】
【1449/綾和泉・汐耶 /女性/23歳/司書 】
【1593/榊船・亜真知/女性/999歳/超高位次元知的生命体・・・神さま!?】
【2194/硝月・倉菜/女性/17歳/女子高生兼楽器職人(神聖都学園生徒)】

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■         ライター通信          ■
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参加していただいた皆様、読んでいただいた皆様ありがとうございました。
ええと、今回の分け方は混乱しそうなので数字などを付けてみたり、他の部分が解るようにと話の間に回想風な物を入れてみたりしましたが……とりあえず分けますと。

・オープニングとエンディング全員個別。
■前半
・職員室で集まったかた。
(シュラインさんと羽澄ちゃんと汐耶さんと亜真知さんと倉菜さん)
・校舎内に直接きたかた。
(瑠璃花ちゃんとみあおゃんと茉莉奈ちゃん)
■中間
・救出に向かう(羽澄ちゃんと汐耶さん)
・サポート(シュラインさんと亜真知さんと倉菜さん)
・引き続き(瑠璃花ちゃんとみあおゃんと茉莉奈ちゃん)
■後半
・(羽澄ちゃんとみあおちゃんと茉莉奈ちゃん)
・(シュラインさんと汐耶さんと瑠璃花ちゃん)
・(亜真知さんと倉菜さん)

と言う形です。
あと個人によって多少違ってたりする場合もあります。

今回は最多人数にチャレンジ。
分けた部部のも時間も色々と自己記録を作ったような気がします。
書いてた本人はとても楽しかったですが、少しでも楽しんでいただけたら幸いです。

それでは、またお会い出来たら幸いです。