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<東京怪談ウェブゲーム 神聖都学園>


鏡と子ネコの冒険日誌

 彼女たちに許されたスペースはほんの二畳ほど。
 そこから一歩でも出れば、回りは全て質の悪い幽霊というあまり置かれたくない状況だった。
「ごめんね、私が行こうって言った所為で」
「雫ちゃんの所為じゃないよ、それにみんなが気付いてすぐに来てくれるから」
 発端はいつものように怪奇現象が好きな雫が手に入れた情報。
 旧校舎にある何かを封印している鏡には、死んだ人の姿が映るという噂。
 すぐに行ける距離と、放課後という時間が雫を向かわせる理由には十分だった。
 けれど何かがあってはいけないと同行すると言ったのが三日月リリィと、帰るところを呼び止められたメノウ。
 彼女が同行していなければ、リリィと雫ははもっと酷い状況になっていただろう。
 それほどにこの旧校舎にいる何かは、よくない物の固まりのようだった。
「結界は張りましたので、動かない限りは問題はありません」
「よかった……」
「メノウちゃんが居てくれて助かったわ」
 雫を落ち着かせるようにリリィが抱き締めるすぐ後ろでは、メノウが黒板や床に何かを書き込んでいく。
「今の内に説明しておきます。校舎ごと壊す事も考えましたが、あまり強い力を使うと鏡が旧校舎に張っている結界が崩壊します」
「そうすると?」
「この鏡は周囲の怨霊を取り込む役目をになっていたようですから、中にいる物が一斉に出てくるか……もしくは取り込もうとして私たち事飲み込んでしまうか。どちらにせよ無事ではすみませんので」
 メノウがリリィの携帯に何かを書き込んで、差し出す。
「連絡を取ってください、出来るだけ手短に」
「ありがとう、メノウちゃん」
「いいえ、私は結界を広げるのに集中させていたたきますから」
 慣れた番号を押すと相手は慌ててこっちに向かうと言っていた。
「もうすぐだから、頑張ろうね」
 パチリと携帯を閉じながら、きっと今頃心底慌てているに違いないと、そんな事を考えた。

【御影・瑠璃花】

 空を覆うのは薄闇。
 神聖都学園付近を車で通る頃に、瑠璃花は妙に辺りの気配がざわつく事に気付き窓の外を見つめていた。
「榊、スピードを少し落としてくださいな」
「かしこまりました」
 学園内部、フェンス越しに見えるのは見知った顔。
「まあ、雫さまですわ。皆さんで何処にいらっしゃるのでしょうか?」
 雫を先頭に、リリィとメノウが帰り支度そのままにどこかへと向かっていくのが解った。
 可愛らしい仕草で首を傾げ、既に通り過ぎて見えなくなってしまっていた三人の姿だったが、雫が楽しげ立ったことは解った。
「何か面白い事でもあるのでしょうか……? 榊、止めてください」
「はっ」
 素早瑠璃花の意志をくみ取り、一番近い入り口へと向かってくれる。
 静かに開かれた扉から、瑠璃花はヌイグルミを抱え、スカートの裾が翻らない様なしととやかで優雅な動作で車から降り三人が向かった方へ。
 後を追うに連れ、指先が冷えるような気配が強くなる。
 付いた先は旧校舎。
 既に先客が居たようで魔法少女のような服を着た楠木茉莉奈と黒猫のマール。
 元気で可愛らしい海原みあお。

 ■1

 とりあえずここにいるのはこれで全員だ。
「みんなはどうして?」
 みあおの言葉に茉莉奈と瑠璃花が答える。
「雫ちゃんのホームページで鏡の噂が乗ってるって書き込みをみて、それから助けが来たの」
「わたくしも今朝、見ましたわ。鏡の噂ですね」
「あちゃー、見逃してたかも。みあお調べてみる」
 携帯からでも、掲示板なら見る事が出来る。
 それを捜しているみあおに茉莉奈が。
「みあおちゃんはどうしてここに?」
「うーん、暇つぶしだったんだけどね。あった!」
 本当に事件が起こってしまったという訳だ。
「わたくしが見た書き込みと、あまり情報は増えていないようですわね」
 集まった情報はどれも同じようなもの。
 旧校舎には何かが封印されている鏡があるり、その鏡は死んだ人の姿が映るという噂。
 それだけなら何処にでもあるような怪談話だった。
 けれどこうして問題の旧校舎前に来て見ればはっきりと異常が見て取れる。
 校舎の回りにうっすらと張られた幕のような結界。もっと詳しく言うのなら、その幕はまるで生き物を護る膜のような気配がするのだ。
 中に包まれている旧校舎からは、生き物のようにすら見えるし、中をうごめく物は血液か何かだろうか。
 そんな思考を思い浮かべながらそっと瑠璃花は手を伸ばし、止める。
「お気をつけ下さい、場が不安定になっております」
「ええ、解っています」
 けれど、この中にいるのだと思うと少し不安になったのだ。
 出来る事なら早く行ってあげたい。
「でも校舎のどこにいるのかな」
「そうだよね。マール、解る?」
 茉莉奈の問いにマールはにゃおと弱く鳴く。
「もう少し近づかないと解らないみたい」
「では、考えてみましょうか」
 解っているだけでも話をまとめてみる。
 鏡の噂を聞き、書き込みをしてその日の夕方に旧校舎に行ったと言う事はきっとなにか今まで解っていない事を見つけたのだ。
 そして学校内の事だからと向かったと言う事かも知れないが、掲示板に詳しい事を残さないで向かった事に関係しているかも知れない。
 そして向かった先で何かが起こり……事件は起こったのだ。
「書き込みに何かヒント無いかな?」
「もう一度読んでみましょうか、茉莉奈さまは何かお聞きしていませんか」
 電話で呼び出されたと言う事だから、ヒントにはなるだろう。
「そう言えば私なら平気だって」
「みあおも平気だっていってたよ」
「……平気な方とそうでない方がいらっしゃるのでしょうか?」
 瑠璃花は悩みつつ小首を傾げるが、そうこうしている間にも背後からの気配は強くなっている。
「行ってみよう、そうじゃないと解らない事きっとあるよ」
「そうですわね」
「がんばろうっ!」
 決意を新たにしてから、瑠璃花は榊の方に振り返りお願いをしておく。
「榊は他の方にこの事をお伝え願えないでしょうか」
「……かしこまりました」
 心配そうではあったが、彼は瑠璃花を信用し執務を忠実にこなす事にしたようだ。
 それに、誰かがこの件を伝える必要があるのも事実である。
 折り目正しく礼をしてから去っていく榊を見送り、三人は旧校舎の入り口の前に立つ。
「行こう……」
 ゆっくりと手を伸ばし、結界を抜けドアを開き、古い匂いのする旧校舎内へと足を踏み入れた。
 真っ暗な校舎内に漂う怨霊の類。
 みなもも瑠璃花も自己防衛できる力を有していたし、茉莉奈も歌を歌う事で近づく怨霊を寄せ付けない事状況は作り出せている。
「これなら、進めそうだね」
「うん、後は直接雫達の所に行って……鏡をどうにかしないとね」
 回り重に漂う怨霊のうめき声。
「……携帯通じないみたい」
 恐らくは回りを漂うものと結界の所為で電波が届かなくなっているのだろう。
 これでも恐怖に捕らわれず、明るくいられるのは茉莉奈の歌のおかげだ。
「一緒に歌おっ」
「そうだね」
「では……」
 三人で奏でる歌。
 こうしていれば気は紛れる。
 それ以上に本人達の知らない内に、それぞれの能力が偶然にも加算されて居たりする。
 鎮める力。
 結界。
 幸運。
 彼女たちが移動する箇所だけ、暗闇に光りが灯ったように僅かに明るく輝く。
 その日かりにの中に混ざっているのは瑠璃花が無意識に呼び寄せている光の精霊。
 とりあえずで進んでいるように見えて、みあおの幸運が作用したのかゆっくりながらも確実に目標へと近づいていた。
 校舎の3階。行き止まりまで来たところでマールが茉莉奈にニャァと鳴く。
「ここ?」
 何かあるのかも知れないと思い見回すとみあおが何かを見つけたようだ。
「これ、向こう側に付いてるみたいだよ」
 下の方にあるために、この中で一番小柄なみあおだからこそ見つけられたのだろう。
「ここを通ったようですわね」
「そっか、だから私たちじゃないと駄目だったんだ」
 ここはきっと小柄でなければ通り抜ける事は出来ない。
「行ってみましょう」
「そうですわね」
「みあおが先行くねっ」
 するすると穴を抜けて行くみあおに茉莉奈と瑠璃花も続く。
 穴の先は細い通路になっていて、奥にはドアが一つ。
「あの奥、でしょうか?」
「行ってみれば解るよ」
「うん、じゃあ開けてみよう」
 そっと手を伸ばし、扉を開く。
 妨害一つ無く開いたドアに黒板の前にいた雫やリリィとメノウが驚いたように顔を上げる。
「どうしてここに!」
「良かった、皆様無事でしたんですね」
「何かあったみたいだからきちゃったっ」
 変身を解き、雫達のほうへと駆け寄っていく。
「もうだいじょーぶ!」
「よかっ……」
 ホッとしかけた雫の中で、メノウが慌てて顔を上げる。
「待って、ドアは閉めないでくださ……」
 その忠告は、僅かに遅かった。
 バンッ!
 誰一人触れていない扉が、見えざる手に妨害されるように勢い良く閉じる。
「ああああああ!」
 その悲鳴に、脳裏をよぎるのは嫌な予感。
「えええっ!」
「あ、あかないよ!」
 みあおと茉莉奈は嫌な予感がしつつも扉を引いてみるがびくともしない。
 むしろ、ドアや壁全体が嬉しげに鼓動を拍った来さえした。
「どういう事でしょうか?」
「現在は鏡の封印が解けた所為で、鏡に捕らわれていた怨霊が溢れ校舎を体として取り込んだようなのです。つまり今私たちは怨霊の体内にいると言う事になります」
「それってつまり私たちも閉じこめられちゃったの?」
「……そう、みたい」
 茉莉奈の問いにリリィは雫を抱き締めながらこくりとうなずいた。

 ■2 

「あ、でもドアなら壊せば……」
「それを私も考えましたが、ドアを壊すと校舎も壊れます。今は一つの物となりつつありますから……そうすると入れ物が無くなった怨霊は町に出てしまいます」
 それは非常にまずい。
 これだけのりょうの怨霊の類がその外に溢れれば大変な事になる。
「困りましたね……」
「でも来てくださってありがとうございます。私の属性は負でしたので、皆さんが来てくださったおかげで大分楽になりましたから」
 ホッとしたようなメノウは、結界を広げる手を休め何かを施した電話をかける。
「そっか、汐耶さんに……」
「はい、私もお姉さんに、連絡をようと思いまして」
「あっ、じゃあみあおも調べてみるから電波届く様にしてもらっていいかな?」
「どうぞ……これで出来るはずです」
 携帯で情報を集める傍らで、瑠璃花が問題の鏡を見せて貰う。
「これが問題の鏡ですか」
「うん、気を付けてね。瑠璃花ちゃん」
「どんな事になってるか聞かせてもらってもいいかな」
 茉莉奈に質問に、雫が今解っている事だけでもと説明を始めた。
 事の発端は鏡の事が噂になっていた事でもあるのだが、図書館で旧校舎事を調べていたら鏡のありかが書かれている地図を見つけた事。
 今いる場所とその反対側。そして地下にもう一カ所印が付けてある。
「鏡ほかにもあるみたいだね」
「あっ、本当だ! ここと……三カ所」
「そうなの、私も気になってて」
 みあおがさした場所に茉莉奈と……人数が増えてすっかり元気を取り戻した雫も反応する。
「無理しちゃダメだよ」
「エヘへ、つい血が騒いじゃって」
 苦笑する雫に茉莉奈も注意はしたが……ちょっとしたミステリに気持ちは解らないでもない。
 校舎の形は、カタカナのコの様な形。
 今いる場所はそのコの字の下の部分の先端部分だと考えてもらえれば解りやすいだろう。
「そっちにも行ってみる? そしたら何か解るかも」
「でも危ないよ」
「ドアは閉まったままだし……」
「だったら窓は?」
「そちらはもうわたくしが確かめましたわ」
 瑠璃花が開いた窓を閉め、ため息をこぼす。
「開いたんだ!?」
「そちらはダメでした」
 開く事は開くが、外は林に面しているようで急な斜面になっている。
 足が滑りでもしたら危険だ。
 恐らくは……外に面しているから閉じこめる事が出来ないのかも知れないが、外が急斜面では一緒だと理解しているのかも知れない。
「それにここに残る方がいないと、窓を開いたままにしていたら中の物がでてしまいますから」
 今は正属性のおかげで部屋の中の怨霊の数は減っているが……廊下を通ってきた時に見た物が大量に外にでてきたら間違いなく街は大惨事である。
 ここはおとなしく助けを求めるかどうにかしないとダメなのだろうか。
 ほかに手がある事はあるだろうが……あくまでも最後の手段として取っておきたい。
 そう考えがま止まりかけた時。
「待ってください、いま上にお姉さんが来ているそうです」
 なんて良いタイミング。
 綾和泉汐耶と光月羽澄とりょうが上にいるそうだ。
「窓を開けて欲しいそうです」
 電話を切ったメノウが窓を開くとすぐに汐耶と羽澄が降りて来る。
「お姉さん」
「頑張ったわね、メノウちゃん」
 汐耶がそう言いながら、メノウの髪を撫でる様子は微笑ましい。
「みんな、怪我とか無い」
「はい、大丈夫です」
「もちろんっ!」
「よかったーーー」
 ホッとした様子の女の子達に安心している中、りょうが最後に降りてくる。
「リリは……」
 屋根にぶら下がり、窓枠から降りかけたりょうを慌てて止めにはいる。
「待って!」
「動いちゃダメです」
「とまってっ」
「窓! 窓!!」
「へっ……わっ!?」
 突然しまりかけた窓を、りょうが足で止める。
「ああ……危なかった」
「……どういう事だ?」
 怪訝な表情のまま、りょうはそう尋ねた。


 話をまとめると、今まで出れなかったのはドアが勝手に閉まり閉じこめられた状態にあった訳なのだが。どうやらドアだけではなくこの旧校舎全体が、一つの生き物のようになっているのだ。
 よってドアを壊せば同時に校舎全体に被害が及び、入れ物が無くなってしまえば中にいる怨霊の類は全て外に出てしまうと言うわけである。
「窓は平気だと思うのですが……」
「そうならないって可能性、無いしね」
「可能性の一つとして、入ってきた箇所が開かなくなると言う事もあり得ますから」
 なんにせよ、不安は少なく保険は多いに越した事はない。
「と言う訳みたいだから、りょうはそこにいてね」
「わーったよ……」
 つっかえ棒代わりにされているりょうはリリィに任せて置いて、雫がここに来る前に見つけたのだという地図とメモをみて貰う。
 今いる場所とその反対側。そして地下にもう一カ所印が付けてある。
「鏡は、三つあると考えたほうがいいみたいですね」
「シュラインさん達にも言っておくわ」
「まあ、他の方も来ていらっしゃるのですね」
 結構大事になっているのかも知れないと、瑠璃花やみあおは顔を見合わせた。
「後でどうするか考えないとだね」
「そうだよね」
 茉莉奈もそこに加わるが、今はそれどころではない。
 ほかに来ているのはシュライン・エマと榊船亜真知と硝月倉菜。ナハトも向こうにいるそうだ。
「所でさっき言っていた鏡は?」
「これです」
 汐耶の問いに、メノウが鏡を指し示す。
 特にこの鏡が破損はしていないところを見ると、どうやら問題があるのは他の二つの鏡どちらかだろう。
「シュラインさん達の方でも色々あったみたい」
 電話を繋いだまま羽澄が、簡潔ににあった事を説明する。

□□□

 すぐ側にあるドアを開いた場所には鏡と……可愛らしい三毛の子ネコ。
 三人の姿に気付いたらしくナァと一鳴き。
「……悪い気配はしませんが」
「かといって、普通のネコとも思えないけど……」
「ここを護る式神のようですわ」
 亜真知が子猫の方に手を差し伸べてそっと微笑む。
「こんばんは、少しお話を聞いてもよろしいですか?」
「ウニァ〜」
「構わないそうです、ご安心なさってください」
 意思は通じているようで、亜真知の通訳で子猫から詳しく話を聞く。
「儀式をしたと言うお話は先ほど説明いたしましたけれど、詳しく知っているようです」
 そしてまた一鳴きしてから、亜真知一通り話を聞いてから短くまとめる。
「どうやら三つの鏡を回る事で封印の役割をはたいていたそうですが、一つが倒れてしまったようです」
 ここにあるのは無事だから、倒れたのは他二つの内どちらかだろう。
「同じように結界を張り直したほうがいいのかしら」
「でも鏡では危険な気もしますね」
 結界を張り直しても、また何かの切っ掛けで崩れたら同じ事の繰り返しだ。
「それでしたら、封印の方法は同じ事をして循環させるという方法をとっていますから、まったく同じでなくても構わないのではないでしょうか?」
「鍵と一緒ね、他がやらないような事」
「そうなりますね」
 三という数字で他が出来ない事と言えば、直ぐに出来そうな事がある。
「音を封印にすると言う事は可能でしょうか」
 シュラインに倉菜に羽澄。
 この三人でなら、きっと他には絶対に出せない音を作る事も可能だ。
「試してみる価値はありそうですね」
「でしたら一度鏡の結界を解いて……様子を見ながら張り直すと言う事に致しましょう」
 後は鏡のある場所に行って、どうタイミングを合わせるか。
「向こうには羽澄ちゃんが行ってるから……私が三つ目に行くわ」
「大丈夫ですか?」
「ナハトもいるし、サポートと合図はお願いね」
「わかりました、ではそちらはお任せします」
 羽澄に連絡を取らなければならないのだが、向こうは大丈夫だろうか。
 そんな時にタイミング良くかかってくる電話。
「はい、もしもし?」

□□□

 おおよそ向こうの状況は解った。
「会わせるのは可能だから……でもシュラインさんは大丈夫?」
 音がどうのではなく、心配なのは三つめの鏡に行くまでと言う事。
『平気よ、ナハトにも来てもらうから……心配だったら誰かに来てもらって』
「でしたら私が行きます」
「私も行きます」
「わたくしもお役に立てる事があると思うので、ご一緒させてください」
 汐耶に続き、メノウと瑠璃花も行くという。
「そう、ありがとう」

 ■3

 目的の場所までは地図もあったし、放送を使った倉菜の流すヴァイオリンの音色のおかげで何事もなくたどり着く事が出来た。
 その部屋は地下にあり、中には倒れた鏡が一つのがらんとした部屋。
「早かったわね」
 すぐにシュラインとナハトも到着し、作業を始める。
「どうして落ちたのかしら?」
 壁ぎわに置かれたた鏡が置いてあったと思われる台はしっかりしている。
「とにかく一度結界をちゃんと解いたほうがいいですね、怨霊が集まってきた原因は中途半端に解けた事のようですから」
 鏡が落ちてしまった所為で、結界であるはずの鏡が逆に呼び寄せてしまったのだろう。
「見せていただいてもよろしいですか」
「どうぞ」
 瑠璃花が鏡を受け取り、埃のついた表面を綺麗にするとまるで古さを感じさせないその鏡。
「なんだか変わった封印ですわ」
 真っ直ぐに鏡をのぞき込んで映るのは瑠璃花の顔。小首を傾げると、鏡の中の瑠璃花も同じように動き、サラと髪が軽やかに揺れた。
 出来る事なら普段は使っては行けないと言う力をほんの少しだけ解放させる。
 流れ込む感覚には回りの怨霊の物も混ざっていたため、慎重に行動していたが……スッと引き寄せられるようにその真実へとたどり着く。
「あら」
「何か解ったの?」
 鏡から伝わる波動や感覚、そう言ったモノが伝わってくるのだが……これ単体で考えると封印にしては不安定な気がするのだ。
「はい、三つ全部の鏡を結びますと逆三角形になりますでしょう、変わった封印だと思いまして」
 確かに、安定とはほど遠い気きがする。
「それは奇数封印ですね」
「解るの、メノウちゃん?」
「はい簡単に説明しますと奇数という限りあるモノと定義されていたり、何かあったりと不安定であるとも言われてます。ここは陰陽道や西洋の術などでも色々とあるのですが、今は時間がないので省かせていただきます。あとは……」
「後は?」
 先を促す汐耶にメノウが悩みつつ子猫を見下ろす。
「三階に二つの鏡、地下に一つの鏡。つまりここが封印のコントロールをしていると思いますが、どうして鏡が倒れたのでしょうか。封印自体はしっかりかかっていたようなのに」
「ニャァ」
 説明するように子猫がシュラインの足下で一鳴き。
「何かあったの?」
 尋ねてみても、残念ながらシュラインにはネコの言葉は解らない。それは汐耶とメノウも同様だ。
「ナハトは解らないのですか?」
「少し、なら」
 なんとなくよぎったのは、本当に解るのはきっと少しじゃないだろうと言う事。
 まあ、大の男がネコと話すのがいやだったという可能性は高い。
「わたくしも言ってる事が解りますわ、ご安心なさってください」
 何故解るのかと聞かれたら、それは瑠璃花だからと言いたいところだが……この子猫は式神のようなものだ。
 波長が合いさえすればこそ会話は可能である。
 話を聞く瑠璃花が、まあと驚いたように口元へと手を当てる。
「そうだっのですか……」
 ゴロゴロと喉を鳴らす子猫の喉を撫でながら、カタリと鏡を台の上へと戻す。
「奇数封印になさったのは、ここの気の流れが一定すぎ怨霊が集まってくるのを防ぐためだったそうです。力を解放してしまえばここには集まらなくなる。つまり開く事で、封印したのですわ」
 封印は物に何かを閉じる事であるが、あえて安定している物に安定しない結界を使う事でここを護っていたのだ。
「けれどそれはやっぱり不安定である事は解ってらした様です、ですからきっとここの封印をかけ直せる人がいるようにと地図とこのネコさんを残したんだと思います」
「ニャァ」
 ついで一鳴きした途端、瑠璃花とナハトが言葉を無くす。
「どうしたの?」
「ええと……その」
 困った様子の瑠璃花に変わり、ナハトが呻く。
「自分たちでなんとか出来ないのは解っていた事だから、一定年数を過ぎてからなんとか出来そうな物が来たらら、封印が解けるようになっていたようだ」
 何て他人任せ。
「………困った方ですね」
「本当にね」
 子供のした事と言えばそれまでだが、誰かを巻き込む事前提である当たりは確信犯的だ。
「まあ、とにかく始めたほうがいいわね」
「そうですね。まずは一度結界を解いて、そのタイミングで再封印と言うことで」
「結界を解くのは私がやります」
「わたくしもお手伝いしますわ」
 まとまりかけた時、ナハトが顔を上げる。
 同時に鳴り響く携帯。
「どうかなさったのですか」
「はい、シュラインで……え?」
 慌てたように上を見上げる。
 今まで流れていた、倉菜のヴァイオリンの音が止まったのだ。
 何かあったとしか思えない。
「羽澄ちゃん達が大変みたい」
 言うが早いか、ナハトが走り出す。
「俺が行く、後は任せた!」
 この時点で既に守りを固める事を考えたら最少人数だ。
 音が無くなった事で、ゆっくりとここにも怨霊が入り込みつつある。
「出来るだけ離れないでください」
 怨霊達を封印する汐耶をメノウも手伝い除霊する。
「何があったんですか?」
「スピーカーが壊れてあっちに怨霊が集まったみたい」
「わたくしたちに何かできる事は………」
「みんなを信じましょう、話では大丈夫みたいだから」
 ここで、やらなければならない事があるのだ。とっさの行動で動いて被害を増やす訳には行かない。
「え、みあおちゃんが囮になって、それを助けるためにりょうさんが変わりに外に飛び出していった!?」
「なんでこう次から次へと」
 問題をややこしくするのだろう。護ろうという気持ちは解るが、動けない立場としては気が気ではない。
 思わず頭を抱えるシュラインと汐耶に瑠璃花がパッと顔を上げる。
「外……そうですわ」
 瑠璃花も外へ、秘書の榊へと連絡をいれた。
「すぐに解ると……はい、はい。お願い致します」
 手短に用件を伝えた瑠璃花の言葉を待つ。
「大丈夫そうですわ、榊が外で夜倉木様とお会いしたそうで、すぐにお手伝いに向かうとの事です」
 それならきっと大丈夫だろう。
「みんなも何とかなったみたい……ナハトも向かったって言ってたわ」
 携帯を握りしめたままのシュラインにホット胸をなで下ろす。
「よかった」
「ええ、本当に……」
「……なんか疲れました」
 再開される音色に安心しかかったが、すぐにまだ終わっていない事を思い出す。
「もう一息よ、がんばりましょう」
「はい」
 微笑むシュラインに声を合わせてうなずいた。


 一段落している間に、今度こそしっかりと封印をかけ直さないとならない。
 今度こそ解ける事がないように、そのためにはタイミングが重要だ。
 離れた三カ所で寸分の狂いもなく同じ行動を取る事が重要なのである。
「時計も合わせたから、あとは同じ早さで唄えばいいのね」
 倉菜が演奏できなくなるから、合わせるとしたら頼りは携帯電話だけだが……音に関しては3人揃ってエキスパートだ。
 何も問題はないだろう。
「頑張って下さいませ」
「準備はよろしいですか?」
 うなずいたのを確認してから、メノウが鏡の封印を崩しにかかったのを合図に汐耶が新たな封印を構築していく。
「では、始めます」
「5秒前、3.2.1……」
 瑠璃花の秒読みでシュラインが歌い始めた。
 鏡の封印から、形の見えないはずの歌が封印へと変化していく。
 同じ早さ。
 同じ音程。
 寸分来るわぬ音色は旧校舎をゆっくりと巡り、螺旋のように循環し上昇している。
 二度と聞きく事のない音。
 鏡のように形に残るものではないけれど……絶対に消えないだろう。

 一夜限りの夜の夢。

 それは、ここにいる全員が感じた事だ。

 ■4

 封印をかけ直し、静けさが戻った校舎前。
 いまは事件の後始末をしていたり、少しばかり休憩をしていたりしている。
「封印をかけた生徒、調べますか?」
「……やめておきますわ」
「はい、あとは今夜の事は公にしない方向で進めます」
「お願い致します」
 極めて迅速な行動は頼りになる。
 最低限の会話だけで、事足りるのだから。
 再び旧校舎を見上げても、もう嫌な感じは全くなかった。
 今は眠りについている。
 だから、このままそっと静かなままでいて欲しかった。
 消して騒ぎ立てる事はなく、事件が解決したいま深く詮索する必要もないだろう。
 そっと校舎に触れると伝わってくるのは暖かい気配。
「ごくろうさまでした」
 きっとこの校舎は、これからもここにあり続けるのだろう。
「瑠璃花ちゃん」
「はい、なんでしょう」
「こっちは一段落したから、少し休みましょう」
「そうですわね」
 くるりと向きを変え、みんながいる方へと向かった。
「瑠璃花ちゃんもどうぞ」
「いただきます」
 シュラインが持ってきたお茶を飲んで会話を楽しむ。
 校舎が安息を取り戻したように、瑠璃花が望む空間はきっとこれから向かう場所なのだから。

 この後、雫達は先生や親に注意されたり、翌朝学校に遅刻しかけたりと色々あるのだが……。
 今夜の子猫たちと鏡にまつわる冒険はこれでお終い。



     【めでたし・めでたし】

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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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【整理番号 / PC名 / 性別 / 年齢 / 職業】

【0086/シュライン・エマ/女性/26歳/翻訳家&幽霊作家+草間興信所事務員】
【1282/光月・羽澄/女性/18歳/高校生・歌手・調達屋胡弓堂バイト店員】
【1316/御影・瑠璃花/女性/11歳/お嬢様・モデル】
【1415/海原・みあお/女性/13歳/小学生】
【1421/楠木・茉莉奈/女性/16歳/高校生(魔女っ子)】
【1449/綾和泉・汐耶 /女性/23歳/司書 】
【1593/榊船・亜真知/女性/999歳/超高位次元知的生命体・・・神さま!?】
【2194/硝月・倉菜/女性/17歳/女子高生兼楽器職人(神聖都学園生徒)】

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■         ライター通信          ■
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参加していただいた皆様、読んでいただいた皆様ありがとうございました。
ええと、今回の分け方は混乱しそうなので数字などを付けてみたり、他の部分が解るようにと話の間に回想風な物を入れてみたりしましたが……とりあえず分けますと。

・オープニングとエンディング全員個別。
■前半
・職員室で集まったかた。
(シュラインさんと羽澄ちゃんと汐耶さんと亜真知さんと倉菜さん)
・校舎内に直接きたかた。
(瑠璃花ちゃんとみあおゃんと茉莉奈ちゃん)
■中間
・救出に向かう(羽澄ちゃんと汐耶さん)
・サポート(シュラインさんと亜真知さんと倉菜さん)
・引き続き(瑠璃花ちゃんとみあおゃんと茉莉奈ちゃん)
■後半
・(羽澄ちゃんとみあおちゃんと茉莉奈ちゃん)
・(シュラインさんと汐耶さんと瑠璃花ちゃん)
・(亜真知さんと倉菜さん)

と言う形です。
あと個人によって多少違ってたりする場合もあります。

今回は最多人数にチャレンジ。
分けた部部のも時間も色々と自己記録を作ったような気がします。
書いてた本人はとても楽しかったですが、少しでも楽しんでいただけたら幸いです。

それでは、またお会い出来たら幸いです。