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<東京怪談ウェブゲーム アトラス編集部>


あぁ、憧れの寿退社!?

1.
碇麗香は今日、何十回目かの溜息をついた。
デスクの中にしまわれた背広姿のロマンスグレーな男性の写真。
行くべきか・・行かざるべきか。
約束の日は明日・・・。

「どうしたんですか?編集長・・」
三下忠雄は恐る恐る麗香へ聞いた。
「なんでもないわ。ちょっと考え事をしていただけよ」
麗香はそう言うと三下に「今日中に記事の草稿だけでもやっておきなさいよ」と指示を与えると自分は帰り支度を始めた。
「は、はい!」
三下は踵を返した。
と、麗香のデスクに綺麗にまとめられていた書類に体当たりをかまし、ばら撒いた。
「・・・」
「あぁ!すいませんすいません!!」
冷たい麗香の視線に三下が慌ててばら撒いた書類をかき集める。
「・・あれ?これは・・」

−1月24日 15:00 高急グランドホテル レストラン −

「!!」
三下が何気なく眺めていたメモを麗香がひったくった。
「うわ!どどど・・」
「ひ、人の物は勝手に見ないでちょうだい」
麗香らしくなく口ごもり、三下を叱るでもなく足早に編集部から去っていった。

1月24日・・・明日の3時・・・。
三下はとりあえず、誰かに相談してみることにした。


2.
そんな三下から電話を受け取ったのは、明日は久しぶりのオフだという武田隆之(たけだたかゆき)だった。
「・・あのな、三下。悪いけど俺、写真雑誌のカメラマンじゃねえんだけど。そんなスクープカメラマンみたいなこと期待されてもだな・・いや、まあ時間なら空いてるしカメラもあるけどよ」
『なんか、編集長変なんですよ!武田さんなら度胸もあるし、ぼ、僕だけじゃ不安なんです!』
「・・まぁ、予定は空けといてやるから。とりあえず泣くな。男に泣きつかれても気持ち悪いだけだ」
『あ、ありがとうございまふ〜ずずっ』
電話越しに三下の鼻をすする音が聞こえ、武田は明日のオフが潰れる事を覚悟したのだった・・。


3.
1月24日。PM2:10 高急ホテルロビー。
「つうか、編集長もまだ二十代後半だ。デートや見合いの予定があっても別におかしくないだろ。なんで俺がフォーカスしないといけないんだよ」
三下との待ち合わせ場所、三下を目の前に武田はぼやいていた。
本当は今日は色々とやりたいことがあった。

たまったクロスワードの本を片っ端から解く・・はずだったんだがなぁ・・。

「そ、そんな!編集長がもしお見合いして結婚したら、僕、僕・・」
ジワリと涙を目に溜めて、こう続けた。
「編集部の方針変更でクビになっちゃいます〜!」

いや、おまえが今クビ切られてねぇのが奇跡だと思うんだけどな・・。

と武田は思ったが、あえて言葉には出さなかった。
「あれ?三下ではないか」
と、1人の女性が三下に声を掛けた。
「あぁ、矢塚さん。今日はまたどうしてこんなところに?」
「知り合いの結婚式に呼ばれていたんだ。で、三下は何故ここに?」
矢塚と呼ばれた女性・矢塚朱姫(やつかあけひ)は三下から簡単な説明を受けた。
「麗香さんの結婚式っ!?」
「わわ・・こ、声が大き・・」
朱姫は何故か三下からの説明をそう誤解したらしい。
「で、です、から・・」
朱姫にガクガクと体をゆすぶられながらも健気に誤解を解こうとする三下。
だが、朱姫はまったく聞いていない様子。

中々綺麗な顔だけあって頑固者らしい。

いろんなタイプを見てきた武田はそう朱姫を判断した。
「あの・・矢塚さん?き、聞いてますか??」
三下が目を回しつつ、朱姫にそう聞いた。
が、朱姫はまったくそれらを聞き流し、こう力説した。
「私が麗香さんの後をつける!そして、麗香さんの様子をチェックし、もし麗香さんが困っているのならそれが何であれぶち壊す!もし、そうでなく彼女の幸せに直結する出来事なら、影からこっそり見守る!邪魔しそうな輩がいれば阻止する!これしかない!」
「や・・矢塚さん?」
自分の世界を語りだした朱姫に武田はただ呆然とする。
そして、朱姫はとどめを三下に刺した。
「三下はその為の助手だから、拉致だ」
「・・えぇええぇぇぇえええ!!!」

・・ということは、俺もか?
まぁ、暇つぶしみたいなもんだしなぁ・・と武田は軽く溜息をついた。


3.
PM2:30 同場所。

「し!」

武田は三下の頭を押さえつけ、ソファに身を隠すようにしゃがんだ。
朱姫も同じくササッとソファに身を隠した。
武田は入り口のほうを指差して静かにするようにと人差し指を口に当てた。
その指の先には今回のターゲット、碇麗香が着物姿でそこにいたのだ。
武田はそーっと三下を従え、麗香の傍に近づいた。
と、麗香が急に後ろを振り向こうとした!

「三下!観葉植物のフリだ!」

とっさに武田がそう言うと、三下は精一杯観葉植物のフリをした。
武田はそんな三下を横目に傍にあった彫刻の後ろで同じ格好をしてカモフラージュした。

何も言ってこない・・バレなかったか・・?

慎重に、武田は麗香のいた方向を覗いた。
麗香はフロントでなにやら話した後、エレベーターへと乗り込んでいくところだった。
「あ、エレベーターに乗りますよ」
「それよりもまずフロントで何を話していたのか聞いた方がいいんじゃないか?」
ダッシュで三下がフロントに聞き込みに行く。
「武田さ〜ん、矢塚さ〜ん、編集長は35階のレストランに行ったみたいですぅ〜」
嬉々として戻ってくる三下に、先ほどまでボーっと麗香に見とれていた朱姫が我に帰った。
「よし!行くぞ!」
3人はエレベーターに乗り込んだ。


4.
PM2:50 高急ホテルレストラン。
ワンフロア全部をレストランとしており、昼夜ともに絶好の景色を提供しつつ料理を食べさせようと計画された高急ホテル目玉のレストランである。
麗香はそのレストランの一番奥に入り口を背に座っていた。
「よし、入るぞ」
朱姫を先頭に、3人はレストランへと潜入した。
はたから見たら、さぞ訳の分からない団体であっただろう。
結婚式に出ていた朱姫はドレスアップした姿だったのだが、三下はいつものようなちょっとぼろっちいスーツ姿。
武田は筋肉質のその腕を堂々と出し、肩からはカメラ、腰には使い込まれた茶色いウェストバッグ。
・・誰がこの3人を理解できるというのだろうか?
が、客である以上その関係を堂々と聞くことは不可能。
席に着いた3人にウェイトレスがオーダーを取りに来た。

「い、いらっしゃ〜いませ〜。ご注文は〜?」

「え、えぇっと僕は・・こ、コーラで・・」
三下がうつむいたまま一番安そうな商品名を口にした。
「では、私はアイリッシュカフェを」
朱姫はメニューを見て気になったものを注文した。
「じゃあ俺はミネラルウォーターを」
武田はマイペースに自分の欲しいものを注文した。
「いや、それはないんじゃ・・」
と、三下が突っ込みを入れようとしたそのとき、ウェイトレスは言った。
「え〜っと、六甲・アルプス・富士山・・がございますが〜」
「・・あるのか」
朱姫は素直に感心した。
「じゃあ六甲で」
武田がそう言うとウェイトレスは長い茶色の髪を揺らしつつ下がっていった。


5.
「お待たせしたかしら?」
「いえ、お待ちしてました。初めまして、碇麗香です」
「初めまして、冬月と申します」
オーダー品が来て間もなく、その声は聞こえた。
武田は神経を全神経を集中させた。

んー、編集長の相手にしちゃ、ちょっと・・いやだいぶ年上?

声だけで武田はそう判断した。
と一生懸命麗香たちを見ようとしていた朱姫が言った。
「移動しよう。ここからじゃ何もわからない」
丁度、麗香の斜め後ろあたりに通路があった。その通路にはつい立がある。
そこが丁度いいだろうと朱姫が指をさして指示した。
と、なぜか同じ場所にもう1人男がコソコソとやってきた。
その後から先ほどオーダーを聞きに来たウェイトレス・・。

『あ』

無言ではあったが、確かに皆の口はその言葉を刻んでいた。
「・・冬月さんはね、商社で海外などを飛び回っておられるのよ。明日からも海外に行かれるの」
おそらく仲人であろう老女が相手の男をそう紹介した。
「そうなんですか。大変なお仕事でしょうね」
いつもの麗香の口調とは打って変わったおしとやかさ。
「麗香さんは雑誌の編集長さんでね、才色兼備で有名なんですのよ」
老女は敢えて相手の良いところしか言わない。

まぁ、あの編集長のことだから分かっているとは思うが、結婚ってのはよぉ〜く考えてからしたほうがいいぜ。
・・相談ならいくらでも乗ってやるからよ。

などと、考えていた武田の肘を三下がツンツンと突付いた。
・・忘れていた。ここに自分が来た理由を。
武田はカメラを構えた。
上手くピントが合うと、相手はやはりそれ相当に麗香よりも年上の男であった。
カシャっと思わず、武田は反射的にシャッターを切った。

あ、マズイ・・。

と、物凄く嫌な予感が武田の中を走りぬけた。

「あなた達・・ここで何をしているのかしら?」

碇麗香の静かな怒りに満ちた顔が武田達を見下ろしていた・・。


6.
「申し訳ないのですが、お返事は後日ということで」
にこりと営業スマイルで麗香はそう言って三下の首根っこを引っつかみ、三下に呼ばれた4人は高級ホテルを強制的に後にさせられた。

「結婚するのですか?」
月刊アトラス編集部。
三下を散々泣かせた後、着物姿の麗香を目の前に朱姫はまっすぐな瞳をそらさずにそう聞いた。
「・・今日のお見合いは社長の顔を立てただけで特に結婚するつもりはないわ」
「でーもー、その場で断らなかったですよねぇ?碇さーん?」
ニヤニヤとウェイトレスに変装していた丈峯楓香(たけみねふうか)は麗香の返答を促した。
「商社のエリートのようですし、少々年上という点を差し引いてもかなりの掘り出し物だと思いますよ」
あくまでも冷静に、功刀渉(くぬぎあゆむ)は珈琲を1口飲んだ。
「・・・」
麗香は目を閉じて考え込んでいた。
どうやら少々心が揺れているらしい。
「写真できたぞ」
そこに武田は戻ってきた。
実はここにくる途中で楓香が写真を現像するように泣きついてきたので渋々現像に行っていたのだ。
・・たった1枚の写真のために。
だが、武田はその1枚を見せることをためらっていた。
「どうかしたのか?」
朱姫が不思議そうに武田に聞いた。
武田は意を決し、黙って写真の入った袋を麗香へと投げた。
麗香は、その袋から写真を取り出した。

・・途端、麗香は固まった・・。

「な、なに??」
楓香は固まった麗香の手から写真を奪い取った。
その後ろから功刀、朱姫もその写真を覗きこんだ。
そこには・・

「写っちまってんだよなぁ・・どう見ても外国の女と子供がさぁ・・」

またヤバイもんを撮っちまった、と武田は思った。
正直な話、いくら年上だろうと本人がよけりゃいいだろうと思っていた。
さらには結婚式には呼んでくれれば、結婚式のポートレートぐらい撮影してやるつもりでいた。
だが、こんなものを見せてしまった以上・・・。
「わ・・私、ちょっと・・」
麗香がふらふらと電話の受話器を取り、どこかへ電話を掛け始めた。
これで当分、三下のクビはなしか・・。
だが、果たしてこれが本当によかったといえる話なのであろうか?
武田は微妙に悩んでいた・・。

その後、碇麗香の仕事に対するパワーがさらに増したことを、ここに追記しておく。



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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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【整理番号 / PC名 / 性別 / 年齢 / 職業】

2152 / 丈峯・楓香 / 女 / 15 / 高校生

2346 / 功刀・渉 / 男 / 29 / 建築家:交渉屋

0550 / 矢塚・朱姫 / 女 / 17 / 高校生

1466 / 武田・隆之 / 男 / 35 / カメラマン

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■         ライター通信          ■
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武田隆之様

初めまして、とーいと申します。
この度は『あぁ、憧れの寿退社!?』へのご参加ありがとうございます。
今回は尾行メインでしたので、プレイングに忠実に作らせていただきました。
が、朱姫様と武田様は三下使役の関係でご一緒していただきました。
武田様はお任せしていただけるとのことで、少々振り回させていただきました。
色々と楽しい設定をお持ちだったのでオチに使わせていただきました。ありがとうございました。
それでは、またお会いできる日を楽しみにしております。