 |
運命を見るサイト
Preview
――運命って知ってる？
怪奇系サイトの老舗になりつつあるゴーストネット。
その掲示板では、今日も様々な話題が書き込まれては消えていく。ちょっとした話題など、すぐに流れていくといった状況だ。
だが、ここ最近とある一つの噂が掲示板上を賑わせていた。
『――運命って知ってる？』
最初の書き込みは、そんな文章から始まったらしい。
タイトル：【運命って知ってる？】
投稿者：アッコ 2004/XX/XX 01:23:34
私の友達が、この前波乗りしてたら変なサイトを見つけたんだって。なんでも貴方の運命が解るっていうヤツなんだけど。
最初は友達もよくある占いサイトかと思ったらしいんだけど、なんとそこはその人が生まれてから死ぬまでの間に起きる出来事を全て教えてくれるみないなのよ。
やり方は簡単なのよ。生年月日と名前と血液型、あと生まれた場所をホームページに書き込んで送信するだけみたい。そうすれば画面上に全部表れるみたい。
さすがに友達はやらなかったみたいだけどね。後でアドレス聞いて私もアクセスしようとしたんだけど、どうやらアドレス忘れちゃったみたいなんだよね〜 おまけに履歴にも残ってなかったから、実は私も半信半疑なんだ。
もし、他の人でこのサイトを見つけたって人がいたら、是非教えてね。
私……自分の運命が知りたいから…………
この内容に、俺も見たとか、私も知ってる、なんていう書き込みが日毎に増えてきたようだ。ただ、書き込む人達は誰も運命を見たことはない人達で、実際に試した人の書き込みはなかった。
おまけにアドレスを控えようとしても何故か控える事が出来なかったらしい。
「……変な話」
画面を覗く雫が、ぽつりと呟く。
この書き込みが流れて随分経つが、運命を知った人がどうなったのかまでは解らない。全ては蚊帳の外からの言動ばかりで、その内容を知る事は出来ない。
おまけに、彼女は最初に書き込みをした人物が気になっていた。
「運命ってやっぱ知りたいものなのかな？」
どう思う？
そう言って、雫は後ろにいた人達に問い掛けた。
◇
自室の書斎で、パソコンの画面を眺めていたセレスティ・カーニンガムは、緩やかに溜息をついた。
男女問わず虜にすると言われる美貌の顔が、やや憂い気に曇る。そんな表情すら美しいと思える彼の口から、少し呆れ混じりの呟きが漏れた。
「どうしてこんな下らないコトが流行るのでしょうね」
丁寧な物言いだが、不信感は拭い切れてない。
運命。未来。
確かに予め知りたがるのは、古今東西の人間の願望だ。それはいつの時代でも、だ。
長い年月を生きてきたセレスティには、それがよく解っている。
「でも、予め知ることが出来ても、知ってしまった運命を受け入れる人は殆どいないのですけどね」
自分は知っている。
運命に立ち向かえるのは、余程の心の強さを持った人くらいだと。
「書き込みが無いのは、おそらく……」
降り掛かる不幸を知って、立ち直れないのかも知れない。
人の運の量は一定だという説がある。幸福が訪れるのと同じ割合で、不幸も必ず訪れるのだ。
セレスティは、画面に映る掲示板を眺めながら、ふと思った。
「生まれてから死ぬまでの運命――それでも、未来は不確定なままだと思いますよ」
そう、仮に運命が全て分かったとしても。
『全てを知る』という未来を選択した時点で、既に書かれている運命とは違っている筈なのだから。
重要なのは。
「自分がどのように生きるか、と思いますので」
自分以外は誰もいない部屋でそう呟いて、彼はあることを思いついて席を立った。傍らに立てかけていたステッキを手に取り、足を引きずるようにして書棚の方へ歩く。
本性が人魚であるが故、どうしても足が弱い。
だから、普段は車椅子を使って生活をしているのだが、こうして部屋の中などの短い距離ならばステッキを使って歩くようにしている。
棚に並んだ背表紙を視線で追い、目当てのものを見つけるとゆっくりと手を伸ばして一冊の本を手に取った。
表紙には、先日亡くなったとある有名人の、笑顔の写真が使われている。その人の人生全てが詰まっている一冊の本。
ライフヒストリー。
そう呼ばれる類の書籍だ。
「生年月日で運命が分かるのいうのなら、実際に本当かどうか確かめてみましょうか」
すでに亡くなっている人のデータを使って。
自分の情報を試すつもりは、セレスティにはなかった。
さすがに、占い師である自分が、自身の事を知るのに他者の占いの力を借りるのは、どこか釈然としないものがあった。
それに。
「なんだか奇妙な予感がしますからね」
――それは占い師としての、彼の勘だった。
DATA.3 生〜History of other life〜
パソコンの画面を眺めながら、マウスを何度かクリックしていく。
……目当てのサイトはまだ見つからない。
「根気との勝負ですね」
呟く声に疲労の色はない。
ふと気がつけば、時計の針はすでに夕刻を指していた。正味、一日中パソコンの前に座っていたことになる。
が、元々財閥総帥としての仕事は、部屋の中が殆どだ。
特に疲れたというわけではないが……。
「さすがに手掛かり無し、というのは気が滅入りますね。なにか条件があるのでしょうか？」
偶然とはいえ件のサイトを見つけた者と、自分との違い。
よもや人であるかないか、なのだろうか。それならば、自分は絶対に見つける事が出来ないだろう。
なにしろ７００年以上も生きた人魚なのだから。
――さて。
「どうしましょうかねえ……」
長い髪を静かに撫でながら、少しだけ思案に耽る。
ある程度の掲示板を探してみたが、そのサイトのアドレスを直接記憶する事は不可能のようだ。メモに控えておけばそのメモを失くし、アドレスを登録すればいつのまにかデータが消えている。どこか他の掲示板に書き込んでみても、すぐに文字化けしてしまう始末だ。
結局、一度遭遇した人も、再びの偶然を待つしかなかった。
その点において、明らかに何かの存在の介入が感じられる。
それは意図した悪意なのか、或いは。
「仕方ないですね。うまくいくかどうかは分かりませんが……試してみますか」
そう言葉を乗せて、セレスティは軽く目を閉じた。スッと伸ばした手をパソコンの画面に触れさせる。
微かな電子音。僅かにパチッと静電気が走る。
そして彼は、心を集中した――。
セレスティの持つ能力の一つに、『リーディング』と呼ばれる力がある。その手に触れるだけで、その物質が所有する情報を読み取る事が出来る能力だ。
勿論、なんでもという訳ではない。
いわゆる書籍や情報保有物と言われる無機物だけだ。
その能力で、今彼はパソコンに触れている。通常ならば、そのパソコンが保有する情報のみが読み取れる。
だが、今回は違う。
彼が読もうとしているのは、パソコンに繋がっている回線から流れてくるであろう電子の流れ。つまり――膨大に広がる電子の海、インターネットの世界そのものを読み取ろうとしていた。
今まで、そんなコトはしたことがない。
そもそも出来るのかどうかすら不明だ。
だが、手掛かりが乏しい以上、やれるべき事は全てやっておきたかった。
力を解放してからしばらくの後。
不意に訪れた脳裏に浮かぶ文字。続けざま、セレスティの中に流れ込む膨大なデータ。まさに広大な世界そのものを読み取っているような感覚。
「……くっ…」
さすがに流れ込んでくる量の桁が違う。
普段ならばなんでもなく使いこなす力だが、今は気を抜くことが出来ない。下手をすれば発狂する程のデータなのだから。
頬を、一筋の汗が流れて落ちる。
文字通り、現実ではないもう一つの世界。その中で必要なものはたった一つ。
砂漠の中のほんの一粒を、彼は懸命に探る。
やがて――。
ハッと目を見開く。
ほぼ無意識のマウス操作。
そして――開かれたページ。
特大の文字で「貴方の運命、お教えします」と書かれたメッセージ。黒を基調にした、いかにも占いっぽい内容が、画面の中に広がっている。
「これ、ですね……」
ようやく探し当てた件のサイト。
ドッと押し寄せる疲労に肩を落としながらも、セレスティは画面に映るサイトを眺めた。
一見すると、どこにでもあるような占いサイトだ。特におかしな様子はない。普通の人達が何の気ナシに試してみようと思っても仕方ない作りだ。
が、よくよく眺めていると、ちょっとした勘のようなものが働くのに気付く。
悪意、とは違う。
どちらかというと、誰もが持つ好奇心を疼かせるようなもの。うまく言葉に出来ないが、そういうものが何故かヒシヒシと感じ取れた。
「さて……それでは試してみましょうか」
先程本棚から抜いた某有名人のライフヒストリーが書かれた本。そこに書かれてある通りにサイトの方に書き込んでいく。
最後に生まれた場所を記入し、矢印を『送信』ボタンの上に持っていく。
「さて。鬼が出るか、邪が出るか……」
言い終えると同時に、セレスティの指がマウスボタンを押した。
ピッという小さな電子音。
画面が変わり、送信中のメッセージが表示される。グルグルと回転するマークは、次の画面を読み込み中である証。
グルグル。グルグル。
――待つこと、数分。
ひょっとして失敗でしょうか、そう口ごもった瞬間。
ようやく次の画面が表示された。
そこに示されたメッセージを見て、セレスティは軽く目を瞠った。ある意味予想通りというか、予想外だったとでもいうか。
そこには、赤い文字でこう書かれていた。
『申し訳ありません。ご登録の人物は既にお亡くなりになっている為、未来を表示する事が出来ませんでした。改めて生きている人の情報をご登録下さい』
………しばしの沈黙。
「なるほど、そう来ましたか」
確かにこのメッセージはあり得る事だろう。既に死んでいる人間に未来も何もないのだから。
が、さすがにここで自分のデータを登録出来るかといえば、また別の話だ。
「さすがにこれ以上、確かめる事は出来ませんね」
赤く点滅する文字をぼんやり眺めながら、セレスティは軽く溜息を吐いた。本当に運命が分かるのかどうか、という判断ならば、半々といったところであ。
実際死んでしまった人達のデータは、前もって登録してあったのかもしれない。ただ、リーディングをしている最中に感じた、奇妙な違和感がこれ以上の深入りを躊躇わせた。
「しょうがないですね。今回はこの辺で――」
言いかけて。
セレスティは、バッと後ろを振り向いた。
別にそこには誰もいない。
が、何かの気配を彼は確かに感じていた――――
◇
静かに。
未来を見通す目が、脳裏に映像を浮かべる。
「――ええ、ではその通りにお願いします」
電話を通じて指示を与えるセレスティ。
あれから数日。普段と変わらない日常が過ぎていった。折しも、仕事自体が忙しくなった為、件の噂について思い出すことは殆どなくなっていた。
だが、時折ふとした拍子に脳裏を過ぎるのは。
（……あれは、視線……？）
何かが自分を見ていたのを、自分は確かに感じていた。
あの視線は、いったいなんだったのか。
が。
あれっきり、噂の方は下火になっていき、今ではもう殆ど聞かれなくなっていた。そうやって都市伝説の類は、普段の日常の中に埋まっていくのだろう。
仕方ない、と思うと同時に。
「……今度は逃がしませんよ」
誰にともなしに呟いて、セレスティは再び職務に戻る。
どこかで、なにかが。
――――笑ったような気がした……。
□■■■■■■□■■■■■■■■■■■■■■■■■■□
■ 登場人物（この物語に登場した人物の一覧） ■
□■■■■■■□■■■■■■■■■■■■■■■■■■□
1883／セレスティ・カーニンガム／男／725／財閥総帥・占い師・水霊占い
□■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■□
■ ライター通信 ■
□■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■□
ライターの葉月十一です。
今回は、参加していただき、ありがとうございました。また、随分と遅くなってしまい、申し訳ありませんでした。
今回はそれぞれのプレイングを考慮した結果、個別という形になりました。
いかがだったでしょうか。
●セレスティ・カーニンガム様
初めまして。
この度は自分の依頼に参加していただき、ありがとうございました。
今回のプレイングは「他者のデータをかける」という形でしたのでああいう結果になってしまいましたが、いかがだったでしょうか？
悪意、とやらの関連も多少醸し出してみたのですが、今一歩踏み込めていませんでしたのでああいう結末になってしまいました。また、口調や仕種等で気になった点がありましたら、遠慮なくテラコンよりご意見下さい。
それではまた、機会がありましたらよろしくお願いします。
|
|
 |
