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<東京怪談ウェブゲーム ゴーストネットOFF>


運命を見るサイト

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 ――運命って知ってる?

 怪奇系サイトの老舗になりつつあるゴーストネット。
 その掲示板では、今日も様々な話題が書き込まれては消えていく。ちょっとした話題など、すぐに流れていくといった状況だ。
 だが、ここ最近とある一つの噂が掲示板上を賑わせていた。
『――運命って知ってる?』
 最初の書き込みは、そんな文章から始まったらしい。


タイトル:【運命って知ってる?】
投稿者:アッコ 2004/XX/XX 01:23:34
私の友達が、この前波乗りしてたら変なサイトを見つけたんだって。なんでも貴方の運命が解るっていうヤツなんだけど。
最初は友達もよくある占いサイトかと思ったらしいんだけど、なんとそこはその人が生まれてから死ぬまでの間に起きる出来事を全て教えてくれるみないなのよ。
やり方は簡単なのよ。生年月日と名前と血液型、あと生まれた場所をホームページに書き込んで送信するだけみたい。そうすれば画面上に全部表れるみたい。
さすがに友達はやらなかったみたいだけどね。後でアドレス聞いて私もアクセスしようとしたんだけど、どうやらアドレス忘れちゃったみたいなんだよね〜 おまけに履歴にも残ってなかったから、実は私も半信半疑なんだ。
もし、他の人でこのサイトを見つけたって人がいたら、是非教えてね。

私……自分の運命が知りたいから…………


 この内容に、俺も見たとか、私も知ってる、なんていう書き込みが日毎に増えてきたようだ。ただ、書き込む人達は誰も運命を見たことはない人達で、実際に試した人の書き込みはなかった。
 おまけにアドレスを控えようとしても何故か控える事が出来なかったらしい。
「……変な話」
 画面を覗く雫が、ぽつりと呟く。
 この書き込みが流れて随分経つが、運命を知った人がどうなったのかまでは解らない。全ては蚊帳の外からの言動ばかりで、その内容を知る事は出来ない。
 おまけに、彼女は最初に書き込みをした人物が気になっていた。
「運命ってやっぱ知りたいものなのかな?」
 どう思う?
 そう言って、雫は後ろにいた人達に問い掛けた。




「へぇ、これからの運命が分かる? よく出来てるねぇ」
 ひょいと横から画面を覗き込み、掲示板の書き込みを斜め読みしていく藍原和馬(あいはら・かずま)。
 いきなり隣から顔を突っ込まれ、雫は少しどきまぎしていた。
 なにせ相手は屈強な体付きのいい大人だ。背広にネクタイという出で立ちだが、どう見てもサラリーマンには見えない雰囲気を纏っている。
 ドキドキは、すぐに警戒心へと変わった。
「おいおい、んなに怖がる事ないだろ? 折角人が試してやろうって言ってんだしな」
「え?」
 目を丸くする雫に、和馬は思わず苦笑した。
 確かに自分の見てくれと、運命を知る占いじゃあ、イメージが到底結びつきそうもないだろう。その事を誰よりも熟知している彼だが、別に運命ってヤツを知りたい訳じゃない。
 大体、これからの事が全部分かってしまったら。
(……つまんねーだろうが)
 長い時を生きた自分でも、未来に何があるか分からないからこそ退屈しのぎにもなるし、時にはいい刺激にもなる。
(そこ! 九百年も生きててるくせに、なんつうツッコミはなしだぜ。何年生きたって、人生には予想もつかない事が山ほどあらぁな)
「本当に貴方が?」
「ああ。アドレスが控えられねーってのがちょっと胡散臭いしな。いい退屈しのぎにはなるんじゃねえか」
 軽い口調。
 あくまでも自分が勝手にやるんだ、というスタンス。
 女性には優しく、をモットーとする和馬は、例え中学生の少女と言えど気を使う事を忘れない。仮に何かあったとしても、雫に負担させてしまう事を善しとは出来ない性分だった。
 そのまま隣の席に座り、まずは超大手の検索サイトにアクセスする。
「じゃあ……お任せしちゃおっかな?」
「おお、任せとけって。とりあえずは占いサイトを適当に回ってみるか」
 パチパチと叩くキーボード。
 その手付きから、パソコンの扱いにだいぶ慣れている事が分かる。
 じっと見つめる雫の視線を受けながら、和馬は広大なネットの海へとダイブした。


DATA.4 偽〜FAKE Game〜
「ふむ……」
 どれだけのページをクリックしたか。
 目当てのページはまだ見つからず、訪れたのはまたもや「運命を知るサイト」の噂が書き込まれた掲示板だった。
「ちっ、またか」
 軽く舌打ちし、苛立たしげにキーボードを叩く。
 ブラインドタッチとは到底言い難いが、それでもネットゲームで多少は慣らした指使い。カチカチと鳴り響く音が、今の和馬の心情を物語っていた。
「もう、そんなに乱暴にしないでよ」
 隣で見ていた雫の注意する声。
 ……ピクリとキーを打つ手が止まる。バツの悪さに残っていたコーヒーを一気に飲み干した。
「ったく、いい加減にしろよなあ」
 苛立ちを含んだ呟き。
 別に雫に対してではない。画面の向こうの、『何か』に対して。
 そもそも、最初に聞いたときから胡散臭さを感じていたが、ここにきてますますその確信は強くなっていく。獣人としての優れた五感が、ちりちりと得も言われぬ警告を発していた。
 そもそも、アドレスが控えられないってのも奇妙な話だ。
 特定のプロバイダに属しているのなら、そうそう変更できる訳がない。よくあるアドレスを自由に取得できるホームページを利用したところで、そう簡単ではないだろう。
(だいいち、いちいちURLを変えるのも面倒だろ?)
 胸中に浮かぶ疑問。
 そんなことを普通の人間がしているとは、およそ考えられない。
 ならばその占いサイトを発信している輩ってのは、自ずと限られてくる筈だ。すなわち――超常の存在。仮に一般人だとしても、特異な能力を持った者。
「まあ嫌な予感は最初っからだったから、別段気にしねえけどな」
「……え?」
 和馬の声に反応した雫が思わず問い返すが、別段答える訳でもなく再びサイト検索へと没頭する。
 とはいえ、さすがに手掛かりなしでこれ以上の検索は不可能に近い。
「いっそ、ネットの中にダイブ出来りゃあよかったんだがな」
 ふと出た言葉。
 まあ、今更言ったところで始まらない。無い物ねだりは自分の趣味じゃない。
 さてどうするか、と思案に耽ろうとした時。
「……あ」
 微かな呟き。
 思わず、といった感じのその声に、和馬は隣の席へ顔を覗かせた。
「どうした?」
「これ……」
 茫然と画面を指差す雫。そこに記されている文字は、確かにさっきまで自分達が探していたものと同じもの。
 特大の文字で「貴方の運命、お教えします」と書かれたメッセージ。黒を基調にした、いかにも占いっぽい内容が、画面の中に広がっている。
「……どうやったんだ?」
「わかんない。ただ、適当にマウスをクリックしてただけなのよ」
「なんだそりゃ?」
 和馬が雫の顔を見る。
 どうやら本気で驚いているらしい。紛れもなく偶然という事か。
「やれやれ、なんの脈絡もないんだな、ホントに」
 なにか規則のようなものがあるのか、と考えてもいたのだが、どうやらそれこそ偶然と運に過ぎないものなのだろうか。
 あるいは。
(――俺のように人間じゃないヤツには遭遇出来ない、とか?)
「……まあ、いいさ。おい、ちょっとどいてろ」
 雫をその席を出させ、代わりに和馬が座る。元から自分に任せると言っていた彼女は、素直に席を立ったが、さすがに心配なのか後ろから覗き込める位置に立った。
 別に気になることもなかったので、和馬は雫の好きにさせた。
「さて……どうなるかな」
 画面を眺めながら、和馬が不適に笑う。
 別に本当の事を入力するつもりはない。そもそも自分の運命なんて、知りたくもないからな。
「生まれた場所も入れるってのは、変わってるな。ま、適当に東京でいいのかね?」
 キーを叩き、入力欄を次々と埋めていく。鼻歌でも歌っているかのような気楽さだ。
 その反面、後ろで見守る雫の面持ちは真剣だ。どうやら画面から伝わってくる何かを、彼女なりに感じ取っているようだ。
 かくいう和馬自身も、表面上の気の抜けた顔とは裏腹に、内心はかなり緊張していた。

 ――伝わってくるのだ。
 画面を通じて、その向こうにいる『連中』の圧倒的な気配を。

 成る程。
 確かにこれは、『本物』かもしれない。このサイトに情報を登録してしまえば、本当にその人の運命が全て判ってしまうだろう。
 そう確信させる何かがあった。
 だからこそ、あくまでも表面は何気ない風を装わなければならない。
(……嬢ちゃんが心配するしな)
 思わず零れる苦笑。
 そうして登録を終えてから、和馬は躊躇わずに送信ボタンを押した。
 小さな電子音。画面が切り替わり、送信中のメッセージを示す。グルグルと回転するマークは、次の画面を読み込んでいる証。

 ――――刹那。

 和馬の周囲の一切が闇に転じた。
「!?」
 咄嗟に立ち上がる。ガタッと音を立てて椅子が倒れた。
 慌てて辺りを見渡すと、自分以外は誰もいない。ふと振り返れば、さっき倒れたはずの椅子さえなくなっている。
 そして、感じる気配。
 ハッと振り向いた瞬間、強烈な衝撃が和馬を襲った。咄嗟に身体を捩り、直撃を避けたものの多少のダメージが腹に残る。
 僅かに片膝をつき、顔を上げてみるがそこには誰もいない。
 が、衝撃に込められた意志を彼は感じていた。
 ――去ね、と。
 そうは言っても、訳も分からずこのまま為すがままというのは性が合わない。一太刀なりとも反撃を喰らわせておきたいところだ。
 ネクタイを軽く緩め、ワイシャツの首もとのボタンを外す。
 自分に眠る力――古より連なる獣人の血を解放しようと、気合いを集中しようとした、その時。

「――藍原さん!」
 雫の声が耳に届く。
 同時に、周囲は元の世界を取り戻した。
 慌てて振り向けば、雫が心配そうに自分を見ていた。
「……これは」
「藍原さん、どうしたんですか? 急に立ち上がったりして」
 彼女の言葉に和馬は納得する。どうやら先程の闇は、自分しか見えなかったようだ。なんとなく助けられた感がして、少し気恥ずかしい感じだったが。
「ああ、いや……なんでもねえ。と、そうだ画面は――」
 思い出してパソコンを見れば、そこには真っ黒な画面があるだけだ。
 なんだ、と疑問に思うより先に、雫が答える。
「あのね、藍原さんがいきなり立ち上がったのと同時に、パソコンの方がいきなり電源が落ちちゃったの。私、ビックリしてもう一回電源入れようとしたんだけど、うんともすんともいわなくて……」
 つまり壊れた、と。
 ということは、さっきの闇がなんらかの影響を与えたって事か。
 ふむ、と一度頷いた後、和馬はふとあることに気付いた。
 今、自分が座ってるのはネットカフェの席。パソコンは当然お店のもので、自分のじゃない。最初は雫が座っていたが、今は自分が座っている。
 と、いうことは………。

「ちょっとまてええええ――――ッ!!」

 その時。
 和馬の絶叫がお店中に響いたという。





 あれから数日。
 インターネットカフェのカウンターの『内側』に座る和馬の姿があった。ぶすくれた表情で重い溜息を何度も吐いては、後ろにいた店長に頭をはたかれる始末。
 が、勿論文句を言う権利はない。
 ただ黙って甘んじるだけだ。

「くっそー、なんだってんだよ」
 結局、パソコンはそのままオシャカになってしまい、その弁償として彼はそのままこのネットカフェでバイトをする事になった。
 最初は雫も手伝うと言っていたのだが、さすがに未成年――しかも中学生はマズイだろう。和馬は勿論、店長もそう言って彼女の申し出を断った。
 そして、和馬は弁償代分のバイトに励む事になった。

 あれから何度かネットに繋げているが、二度と例のサイトを見ることはなかった。掲示板での噂も徐々に下火になっていき、そのうち数多の噂と同じように日々の日常の中に埋もれていくのだろう。
 それはそれでいい。
 所詮、未来なんか知ったところでろくなもんじゃないからな。
 ただ一つ、和馬は大声で叫びたい事柄があった。
 それは。

「――パソコン代、てめえが弁償しやがれっ!」

 余計な出費と労働に、彼は心の底から怒りをぶつけたくなったのだった。


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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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1533/相原・和馬(あいはら・かずま)/男/920/フリーター(何でも屋)

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■         ライター通信          ■
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ライターの葉月十一です。
今回は、参加していただき、ありがとうございました。また、随分と遅くなってしまい、申し訳ありませんでした。
今回はそれぞれのプレイングを考慮した結果、個別という形になりました。
いかがだったでしょうか。

●藍原和馬様
初めまして。
この度は自分の依頼に参加していただき、ありがとうございました。
今回のプレイングを参照した結果、一番内側に近付いたノベルになったと思われますが、如何でしょうか?
口調や仕種等で気になった点がありましたら、遠慮なくテラコンよりご意見下さい。
それではまた、機会がありましたらよろしくお願いします。