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<東京怪談ウェブゲーム 神聖都学園>


鏡と子ネコの冒険日誌

 彼女たちに許されたスペースはほんの二畳ほど。
 そこから一歩でも出れば、回りは全て質の悪い幽霊というあまり置かれたくない状況だった。
「ごめんね、私が行こうって言った所為で」
「雫ちゃんの所為じゃないよ、それにみんなが気付いてすぐに来てくれるから」
 発端はいつものように怪奇現象が好きな雫が手に入れた情報。
 旧校舎にある何かを封印している鏡には、死んだ人の姿が映るという噂。
 すぐに行ける距離と、放課後という時間が雫を向かわせる理由には十分だった。
 けれど何かがあってはいけないと同行すると言ったのが三日月リリィと、帰るところを呼び止められたメノウ。
 彼女が同行していなければ、リリィと雫ははもっと酷い状況になっていただろう。
 それほどにこの旧校舎にいる何かは、よくない物の固まりのようだった。
「結界は張りましたので、動かない限りは問題はありません」
「よかった……」
「メノウちゃんが居てくれて助かったわ」
 雫を落ち着かせるようにリリィが抱き締めるすぐ後ろでは、メノウが黒板や床に何かを書き込んでいく。
「今の内に説明しておきます。校舎ごと壊す事も考えましたが、あまり強い力を使うと鏡が旧校舎に張っている結界が崩壊します」
「そうすると?」
「この鏡は周囲の怨霊を取り込む役目をになっていたようですから、中にいる物が一斉に出てくるか……もしくは取り込もうとして私たち事飲み込んでしまうか。どちらにせよ無事ではすみませんので」
 メノウがリリィの携帯に何かを書き込んで、差し出す。
「連絡を取ってください、出来るだけ手短に」
「ありがとう、メノウちゃん」
「いいえ、私は結界を広げるのに集中させていたたきますから」
 慣れた番号を押すと相手は慌ててこっちに向かうと言っていた。
「もうすぐだから、頑張ろうね」
 パチリと携帯を閉じながら、きっと今頃心底慌てているに違いないと、そんな事を考えた。

【綾和泉・汐耶】

 仕事中、汐耶が勤めている図書館に学校から連絡が入ったのは少し前の事。
「メノウちゃんが……はい、すぐに向かいます」
 慌てたりょうから状況を説明された事をまとめる。現在旧校舎で、メノウは雫とリリィと一緒に閉じこめられた状態にあるらしい。
「解りました、すぐに向かいます」
 受話器を置いて一呼吸。
 ここで自分が慌てても仕方がない、話を聞く限り今メノウが結界を張り、雫とリリィを護っているそうだ。
「すみませんでした」
「何かあったんですか?」
「はい、妹が熱を出したので早退させていただいてよろしいでしょうか」
 流石に怨霊と言った話は出せるはずがない、この図書館にも不可思議な現象はあるから理解は得られるかも知れないが、心配もかける事になる。
「構いませんよ。もうすぐ終わりますから、後は私たちで大丈夫です」
「ありがとうございます」
 軽く頭を下げてから、汐耶は帰る支度をし学園へと向かった。
 教えられたのは話にでてきた旧校舎に最も近い校舎の職員室。
 それでも多少の距離はあるというのに、嫌な気配だけは解る。メノウ達の事が気になったが、今どうなっているかの話を聞かなくてはならない。
 職員室に向かう途中、前を走るりょうの姿に気付き声をかけようとしたが。
「リリィの家族の盛岬で……っ!?」
 ゴッ!
「きゃあ!」
 慌てすぎていたのか、職員室の入り口に頭をぶつけ、中から聞こえる悲鳴。
「何をしてるんですか?」
「いっ……っ!!」
「あ、あああ〜」
 額を抑えしゃがむりょうと、更に混乱が深まった様子の教師、響カスミ。
 この三人の中では汐耶が一番年下なのだが……余計に落ち着かないとならないと本気でそう思った。

 ■1

 ここに集まったのは、メノウとリリィの保護者でもある綾泉汐耶と盛岬りょう、ナハトも既に人の姿で同席している。
 そしてりょうに呼ばれたのが光月羽澄とシュライン・エマ。
 そしてリリィと同じように、メノウが力を用い、雫が呼び寄せたのが榊船亜真知と硝月倉菜。
 今はこれで全員と言いたいところだが、もう一人。
 響カスミ。彼女はどう考えてもこの件には不向きだ、いまもその事を物語るかのように閉じこめられた少女達の原因を聞くか聞くまいかオロオロしている。
 聞いたらきっと、噂の通りに気絶するに違いないから、そっとしておいたほうがいいだろう。
「警察は呼ばなくていいんで、先生は落ち着いてください」
「でっ、でも……そのっ」
 埒が明かない。
「わあっ!」
「きゃーーーーーーー!!??」
 りょうの一声でカスミは緊張の糸が切れたのかあえなく気絶。
「酷い事するわね」
 目を回して倒れたカスミを受け止め多量に、羽澄が半眼で忠告。
「いいだろ、時間無いんだし」
「きっと覚えてないでしょうし」
「それもそうね」
 汐耶とシュラインがカスミをソファーに寝かし、上から毛布を掛けておく。
「少々強引な手段ですが、このほうがよろしいですわね。こちら側の世界は、あまり知らなくてもよろしい事ですから」
 物静かな口調に潜む亜真知の言葉は、紛れもない事実。
 この東京の、この学園には知らなくていい事なんてきっとたくさんある。
「早くみんなを助けてあげないとね」
 シュラインに同意し、羽澄が崎補とたんんでいた事をりょうに尋ねる。
「校舎の地図は見つかった」
「ああ、ここに」
 取りだした地図で何処にいるか、最短距離を選択しようとしたところに倉菜が待ったをかける。
「私でしたら今すぐに模型作れるますから、立体的なほうが行動しやすいと思います」
「そう、じゃあお願いね」
 地図を見てから、倉菜は目を閉じ手を何もないテーブルの上へとかざす。
 意識を集中させるだけでテーブルの上に透明な校舎の骨組みが作られ、部屋ができ、壁が作られていく。
 早送りで作り出される校舎は最後に意識を集中させると色が付き窓から見える旧校舎そっくりに作られた。
「出来ました」
「凄いわね」
 本当に良くできている。
 木造作りの校舎は、3階建てで文字に例えるのならカタカナの『コ』の様な形状。
「私が聞いた話では鏡がある場所に行くまでは何か条件が必要だとか」
「条件……もう少しヒントがあればいいですが」
「そうね、全部を捜すには意外に広いし」
 校舎の模型をのぞき込み、亜真知が何かに気付いたようだった。
「ここ、少しおかしくはないですか?」
「そう言えばそうね」
 地図と比べて、奇妙な配置で壁に区切られている箇所がある。
 場所にすれば、三階のちょうどコの字の先端の向かい合ったような部分。
「どちらかに居そうですね」
 気配を探るも、怨霊の気配や何かが妨害しているらしく上手く位置をつかめない。
「少し待って」
 羽澄が窓を開き、旧校舎見下ろし意識を集中させる。
 前にリリィに鈴を渡したから、強すぎる怨霊や何かの気配の中から自分が知っている方へと意識を集中させる。
 異なる振動。
 例え回り重を気配でかき消されていたとしても、遠くか近いか程度は十分に解る。
「ここから奥の方。そこにリリィちゃんはいるわ」
「そうか……」
 これで何処にいるのかは解った。
「分けたほうがいいかしら、戦力が別れるのは危険だけど……」
 シュラインの意見はもっともだ。
「私もそれに賛成です、別れた方が怨霊が固まる事はないと思いますから」
「それに、もう片方の部屋も気にかかりますし」
「そうですね。助けたら合図して、もう片方が脱出するまで引き寄せると言う事で構いませんな」
 倉菜の言葉に全員覚悟も決めておく。
 優先するべきは、人命だ。
 意見がまとまったところで、羽澄が鈴を取りだし全員に配る。
「お守り代わりよ、よかったら持ってて。合図に出来るから」
「ありがとうございます」
「他には、何かある?」
 シュラインの手の中で、リンとなる鈴。
「では一つ聞いて置いて欲しい事が」
 亜真知が調べた事をかいつまんで説明し始める。
「元々旧校舎が会った土地には、気の流れの強い土地だったそうです。 そこで何か儀式めいた事を行ったようで、手に負えず封印したものと思われます」
「今集まってる怨霊は?」
「恐らくは気の流れに引かれてきたか、眠っている物の封印が溶けかけたことで気配に引かれてきたかのどちらかと」
「この際ですから、キッチリ封印する成り片を付けるなりしておいたほうがいいですね」
「そうですね、多少は荒事になっても、補修できますから」
「解ったわ、じゃあ行きましょう」
 そして、作戦スタート。

 ■2

 まず雫、リリィ、メノウが居る方へ向かうのが羽澄と汐耶、そしてりょうとナハト。
 そしてもう一方に行くのは確かめたい事、やりたい事があるというシュラインと倉菜と亜真知。
 出来るだけ手短に住ませたつもりだが、思っていた以上に時間は経過していたらしい。
 校舎内に漂っている怨霊の類が数を増し、何かに憑依し腐食していたり共食いを始めより力をましている。
 出来るだけ刺激したくないのだが、これでは実力行使も使わざるを追えない。
 校舎を前に、ぞわりと泡立つような気配。
 体の芯から冷えるような感覚に気合いを入れ直し、校舎を見上げる。
 結界が目に見えるほどにまで具現化して、その下にある木で出来ているはずの校舎がまるで生き物のような……羽化する直前のさなぎを見ているような気がした。
「急いだ方が、いいですね」
「そうね、早く行ってあげないと」
 汐耶とりょうは、自らがこちらに来たいと言って選んだのである。
 理由はあきらか。
 普通に見える汐耶も、見て動揺してると解るりょうも同じく。
 やっぱり心配なのだ。
「きっと、今頃待ってるだろうしな」
 ちなみに、建物も怨霊と混じりつつあるから、あまり大きな技は使わないほうがいい。とは亜真知からの忠告。
 それをしっかり意識してから、りょうを先頭に三人で一気に暗い建物の中へと駆け込んだ。
 前は羽澄とりょうに任せ、汐耶は横や背後から来る物を消滅させていく。
「集まってきたけど、全力出さないでねっ」
 軽く壁を焦がしそうになっているりょうに、羽澄がオーバーキルだと忠告を入れる。
 他に注意しながら、全体的に狙うのではなく、その個体のみを的確に狙らう様子はまだまだ余裕だと言うことだ。
「解ってるよ、建物が危ないって事だろ!?」
「そうじゃなくて、帰りもあるからペース配分に気を付けてくださいと言う事です」
「無駄が多すぎるわ」
 汐耶と羽澄の二人から一斉に言われ、澁い顔をする。
 確かに能力完全な制御が出来ていない事が今解ったところで、どうにもならないものは本人が解っている事だろう。
 けれど今は焦りがある分、余計に力が入りすぎている。
「わーってる。行きは俺らにまかせてろよ、封印の時何があるか解らないし」
「それもそうね、だから……ここは私たちに任せて」
「では、よろしくお願いします」
 羽澄の能力でなら、こうして話しているだけでも力は行使できるが……今は相手が相手であるだけにより集中しておきたい。
 りょうの背後から、目の前にいる怨霊の類へと意識を注ぎ、歌を奏でる。
 紡ぐは言霊。
 降りそそぐ光は消滅を呼ぶかけら。
 暗い廊下に赤と青の色彩がきらめき、触れる霊を焼いていく。
 靴音まで全て利用した、無駄の全くない動き。
「すっげ……」
「盛岬さん」
「あ、ああ、わりぃ」
 いつの間にか追い越されていたりょうが羽澄を慌てて追いかける。
「あんま先行くなって、怪我とかしたらどうすんだよ」
「心配してくれるの、ありがとね」
「あのなぁ……」
 微笑む羽澄に、りょうがため息を漏らすがどちらも手を抜いている訳ではない。
 階段を駆け上がり、廊下を通り……思っていたほど時間をかけずに到着できたのは幸運だっただろう。
「ここからが問題ですね」
「どうやって向こうに行ったかって事だな」
 怨霊は羽澄とりょうに任せ、汐耶は何か通路がないかと辺りを調べる。
 これもまた、向こうに部屋があると解れば意外に簡単に見つかった。
 先に通っていたおかげでもあるだろう。
「……ここでしょうか?」
 汐耶がしゃがんだ目の前には、子供一人が通れるような小さな穴。
「それでしょうね」
 子供でなければ通れない。
 シュラインは言っていた、その部屋に行くためには何か条件があると。
 雫もリリィもメノウも、全員小柄だ。
「……俺、絶対無理なんだけど」
「見れば解るわ」
「私も、少し辛いですね……」
 無理をすれば通れない事はないかも知れないが……その間無防備すぎる。
「結局は他の手を考えないと駄目ね」
「それなら、上を通るのはどうでしょうか?」
 屋根づたいでなら、行動も余り制限されない。
 上に昇る時と足下に気を付ければいい。
 近くの窓を開けると、外の霊は内部の物よりもずっと力の弱い物のようだった。
「行けそうだ」
 りょうが最初に上がり、大丈夫だと合図を送り手を伸ばす。
 窓の外は林に面していて、ちょっとした急斜面で落ちたら危険だ。出来るだけ下を見ないように……けれど注意はしながら上へと昇る。
 念のためと、窓にはこちら側から開ける細工をして閉じておく。
「後は……」
「待ってください」
 歩きかけたりょうを制止、汐耶が携帯を取り出す。
「誰から?」
 その疑問も解らないではなかった、何しろ今は携帯が通じない箇所にいるのだから。
 相手はと言うと……。
「メノウちゃんです」
「へ?」
「大丈夫、そう、よかった……今近くにいて、え? 他にもいる?」
「どういう事?」
 疑問に思ったが、話が終わるのを待つ。
「とりあえず、すぐにそっちに行くわ」
 そうして電話を切り、顔を上げる。
「私たちが向かってる間に、直接校舎に行った子が他にいたみたいです」
 御影瑠璃花と海原みあおと楠木瑠璃花の三人。
「………増えたな」
「でもそのおかげで連絡できたみたいで……」
「とにかくおりましょうか」
「そうですね」
 今度は汐耶、羽澄の純でおり……開いて貰った窓から中へとはいる。
「お姉さん」
「頑張ったわね、メノウちゃん」
 汐耶がそう言いながら、メノウの髪を撫でる様子は微笑ましい。
「みんな、怪我とか無い」
「はい、大丈夫です」
「もちろんっ!」
「よかったーーー」
 ホッとした様子の女の子達に安心している中、りょうが最後に降りてくる。
「リリは……」
 屋根にぶら下がり、窓枠から降りかけたりょうを慌てて止めにはいる。
「待って!」
「動いちゃダメです」
「とまってっ」
「窓! 窓!!」
「へっ……わっ!?」
 突然しまりかけた窓を、りょうが足で止める。
「ああ……危なかった」
「……どういう事だ?」
 怪訝な表情のまま、りょうはそう尋ねた。


 話をまとめると、今まで出れなかったのはドアが勝手に閉まり閉じこめられた状態にあった訳なのだが。どうやらドアだけではなくこの旧校舎全体が、一つの生き物のようになっているそうだ。
 よってドアを壊せば同時に校舎全体に被害が及び、入れ物が無くなってしまえば中にいる怨霊の類は全て外に出てしまうと言うわけである。
「窓は平気だと思うのですが……」
「そうならないって可能性、無いしね」
「可能性の一つとして、入ってきた箇所が開かなくなると言う事もあり得ますから」
 なんにせよ、不安は少なく保険は多いに越した事はない。
「と言う訳みたいだから、りょうはそこにいてね」
「わーったよ……」
 つっかえ棒代わりにされているりょうは置いといて。
 雫がここに来る前に見つけたのだという地図をみせて貰う。
 ここに来る前に解っていた事だが、今いる場所とその反対側。そして地下にもう一カ所印が付けてある。
「鏡は、三つあると考えたほうがいいみたいですね」
「シュラインさん達にも言っておくわ」
「まあ、他の方も来ていらっしゃるのですね」
 結構大事になっているのかも知れないと、瑠璃花やみあおは顔を見合わせた。
「後でどうするか考えないとだね」
「そうだよね」
 茉莉奈もそこに加わるが、今はそれどころではない。
「所でさっき言っていた鏡は?」
「これです」
 汐耶の問いに、メノウが鏡を指し示す。
 特にこの鏡が破損はしていないところを見ると、どうやら問題があるのは他の二つの鏡どちらかだろう。
「シュラインさん達の方でも色々あったみたい」
 電話を切った羽澄が、簡潔にあった事を説明する。

□□□

 シュラインと亜真知と倉菜が部屋に付いた時に見たのは鏡と……可愛らしい三毛の子ネコ。
 三人の姿に気付いたらしくナァと一鳴き。
「……悪い気配はしませんが」
「かといって、普通のネコとも思えないけど……」
「ここを護る式神のようですわ」
 亜真知が子猫の方に手を差し伸べてそっと微笑む。
「こんばんは、少しお話を聞いてもよろしいですか?」
「ウニァ〜」
「構わないそうです、ご安心なさってください」
 意思は通じているようで、亜真知の通訳で子猫から詳しく話を聞く。
「儀式をしたと言うお話は先ほど説明いたしましたけれど、詳しく知っているようです」
 そしてまた一鳴きしてから、亜真知一通り話を聞いてから短くまとめる。
「どうやら三つの鏡を回る事で封印の役割をはたいていたそうですが、一つが倒れてしまったようです」
 ここにあるのは無事だから、倒れたのは他二つの内どちらかだろう。
「同じように結界を張り直したほうがいいのかしら」
「でも鏡では危険な気もしますね」
 結界を張り直しても、また何かの切っ掛けで崩れたら同じ事の繰り返しだ。
「それでしたら、封印の方法は同じ事をして循環させるという方法をとっていますから、まったく同じでなくても構わないのではないでしょうか?」
「鍵と一緒ね、他がやらないような事」
「そうなりますね」
 三という数字で他が出来ない事と言えば、直ぐに出来そうな事がある。
「音を封印にすると言う事は可能でしょうか」
 シュラインに倉菜に羽澄。
 この三人でなら、きっと他には絶対に出せない音を作る事も可能だ。
「試してみる価値はありそうですね」
「でしたら一度鏡の結界を解いて……様子を見ながら張り直すと言う事に致しましょう」
 後は鏡のある場所に行って、どうタイミングを合わせるか。
「向こうには羽澄ちゃんが行ってるから……私が三つ目に行くわ」
「大丈夫ですか?」
「ナハトもいるし、サポートと合図はお願いね」
「わかりました、ではそちらはお任せします」
 羽澄に連絡を取らなければならないのだが、向こうは大丈夫だろうか。
 そんな時にタイミング良くかかってくる電話。
「はい、もしもし?」

□□□

 おおよそ向こうの状況は解った。 
「会わせるのは可能だから……でもシュラインさんは大丈夫?」
 音がどうのではなく、心配なのは三つめの鏡に行くまでと言う事。
『平気よ、ナハトにも来てもらうから……心配だったら誰かに来てもらって』
「でしたら私が行きます」
「私も行きます」
「わたくしもお役に立てる事があると思うので、ご一緒させてください」
 汐耶に続き、メノウと瑠璃花も行くという。
「そう、ありがとう」

 ■3

 目的の場所までは地図もあったし、放送を使った倉菜の流すヴァイオリンの音色のおかげで何事もなくたどり着く事が出来た。
 その部屋は地下にあり、中には倒れた鏡が一つのがらんとした部屋。
「早かったわね」
 すぐにシュラインとナハトも到着し、作業を始める。
「どうして落ちたのかしら?」
 壁ぎわに置かれたた鏡が置いてあったと思われる台はしっかりしている。
「とにかく一度結界をちゃんと解いたほうがいいですね、怨霊が集まってきた原因は中途半端に解けた事のようですから」
 鏡が落ちてしまった所為で、結界であるはずの鏡が逆に呼び寄せてしまったのだろう。
「見せていただいてもよろしいですか」
「どうぞ」
 瑠璃花が鏡を受け取り、埃のついた表面を綺麗にするとまるで古さを感じさせないその鏡。
「なんだか変わった封印ですわ」
 真っ直ぐに鏡をのぞき込んで映るのは瑠璃花の顔。小首を傾げると、鏡の中の瑠璃花も同じように動き、サラと髪が軽やかに揺れた。
「あら」
「何か解ったの?」
 鏡から伝わる波動や感覚、そう言ったモノが伝わってくるのだが……これ単体で考えると封印にしては不安定な気がするのだ。
「はい、三つ全部の鏡を結びますと逆三角形になりますでしょう、変わった封印だと思いまして」
 確かに、安定とはほど遠い気きがする。
「それは奇数封印ですね」
「解るの、メノウちゃん?」
「はい簡単に説明しますと奇数という限りあるモノと定義されていたり、何かあったりと不安定であるとも言われてます。ここは陰陽道や西洋の術などでも色々とあるのですが、今は時間がないので省かせていただきます。あとは……」
「後は?」
 先を促す汐耶にメノウが悩みつつ子猫を見下ろす。
「三階に二つの鏡、地下に一つの鏡。つまりここが封印のコントロールをしていると思いますが、どうして鏡が倒れたのでしょうか。封印自体はしっかりかかっていたようなのに」
「ニャァ」
 説明するように子猫がシュラインの足下で一鳴き。
「何かあったの?」
 尋ねてみても、残念ながらシュラインにはネコの言葉は解らない。それは汐耶とメノウも同様だ。
「ナハトは解らないのですか?」
「少し、なら」
 なんとなくよぎったのは、本当に解るのはきっと少しじゃないだろうと言う事。
 まあ、大の男がネコと話すのがいやだったという可能性は高い。
「わたくしも言ってる事が解りますわ、ご安心なさってください」
 何故解るのかと聞かれたら、それは瑠璃花だからと言いたいところだが……この子猫は式神のようなものだ。
 波長が合いさえすればこそ、会話は可能である。
 話を聞く瑠璃花が、まあと驚いたように口元へと手を当てる。
「そうだっのですか……」
 ゴロゴロと喉を鳴らす子猫の喉を撫でながら、カタリと鏡を台の上へと戻す。
「奇数封印になさったのは、ここの気の流れが一定すぎ怨霊が集まってくるのを防ぐためだったそうです。力を解放してしまえばここには集まらなくなる。つまり開く事で、封印したのですわ」
 封印は物に何かを閉じる事であるが、あえて安定している物に安定しない結界を使う事でここを護っていたのだ。
「けれどそれはやっぱり不安定である事は解ってらした様です、ですからきっとここの封印をかけ直せる人がいるようにと地図とこのネコさんを残したんだと思いますわ」
「ニャァ」
 ついで一鳴きした途端、瑠璃花とナハトが言葉を無くす。
「どうしたの?」
「ええと……その」
 困った様子の瑠璃花に変わり、ナハトが呻く。
「自分たちでなんとか出来ないのは解っていた事だから、一定年数を過ぎてからなんとか出来そうな物が来たらら、封印が解けるようになっていたようだ」
 何て他人任せ。
「………困った方ですね」
「本当にね」
 子供のした事と言えばそれまでだが、誰かを巻き込む事前提である当たりは確信犯的だ。
「まあ、とにかく始めたほうがいいわね」
「そうですね。まずは一度結界を解いて、そのタイミングで再封印と言うことで」
「結界を解くのは私がやります」
「わたくしもお手伝いしますわ」
 まとまりかけた時、ナハトが顔を上げる。
 同時に鳴り響く携帯。
「どうかなさったのですか」
「はい、シュラインで……え?」
 慌てたように上を見上げる。
 今まで流れていた、倉菜のヴァイオリンの音が止まったのだ。
 何かあったとしか思えない。
「羽澄ちゃん達が大変みたい」
 言うが早いか、ナハトが走り出す。
「俺が行く、後は任せた!」
 この時点で既に守りを固める事を考えたら最少人数だ。
 音が無くなった事で、ゆっくりとここにも怨霊が入り込みつつある。
「出来るだけ離れないでください」
 怨霊達を封印する汐耶をメノウも手伝い除霊する。
「何があったんですか?」
「スピーカーが壊れてあっちに怨霊が集まったみたい」
「わたくしたちに何かできる事は………」
「みんなを信じましょう、話では大丈夫みたいだから」
 ここで、やらなければならない事があるのだ。とっさの行動で動いて被害を増やす訳には行かない。
「え、みあおちゃんが囮になって、それを助けるためにりょうさんが変わりに外に飛び出していった!?」
「なんでこう次から次へと」
 問題をややこしくするのだろう。護ろうという気持ちは解るが、動けない立場としては気が気ではない。
 思わず頭を抱えるシュラインと汐耶に瑠璃花がパッと顔を上げる。
「外……そうですわ」
 瑠璃花も外へ、秘書の榊へと連絡をいれた。
「すぐに解ると……はい、はい。お願い致します」
 手短に用件を伝えた瑠璃花の言葉を待つ。
「大丈夫そうですわ、榊が外で夜倉木様とお会いしたそうで、すぐにお手伝いに向かうとの事です」
 それならきっと大丈夫だろう。
「みんなも何とかなったみたい……ナハトも向かったって言ってたわ」
 携帯を握りしめたままのシュラインにホット胸をなで下ろす。
「よかった」
「ええ、本当に……」
「……なんか疲れました」
 再開される音色に安心しかかったが、すぐにまだ終わっていない事を思い出す。
「もう一息よ、がんばりましょう」
「はい」
 微笑むシュラインに声を合わせてうなずいた。


 一段落している間に、今度こそしっかりと封印をかけ直さないとならない。
 今度こそ解ける事がないように、そのためにはタイミングが重要だ。
 離れた三カ所で寸分の狂いもなく同じ行動を取る事が重要なのである。
「時計も合わせたから、あとは同じ早さで唄えばいいのね」
 倉菜が演奏できなくなるから、合わせるとしたら頼りは携帯電話だけだが……音に関しては3人揃ってエキスパートだ。
 何も問題はないだろう。
「頑張って下さいませ」
「準備はよろしいですか?」
 うなずいたのを確認してから、メノウが鏡の封印を崩しにかかったのを合図に汐耶が新たな封印を構築していく。
「では、始めます」
「5秒前、3.2.1……」
 瑠璃花の秒読みでシュラインが歌い始めた。
 鏡の封印から、形の見えないはずの歌が封印へと変化していく。
 同じ早さ。
 同じ音程。
 寸分来るわぬ音色は旧校舎をゆっくりと巡り、螺旋のように循環し上昇している。
 二度と聞きく事のない音。
 鏡のように形に残るものではないけれど……絶対に消えないだろう。

 一夜限りの夜の夢。

 それは、ここにいる全員が感じた事だ。

 ■4

 封印をかけ直し、静けさが戻った校舎前。
「お疲れさま、メノウちゃん」
「はい」
 ホッとしたように、汐耶の隣でシュラインが作ってくれたおにぎりを食べている。
 あの鏡は、今では役目を終え封印その物が封印されただの鏡だ。
 けれどここにあったほうが良いきがして、丁寧に布でくるみ旧校舎に三つ一緒に置かれている。
「メノウちゃん」
 そこに駆け寄ってきたリリィが、ちょっと頭を下げる。
「ありがとう助けてくれて」
「………いえ」
 面と向かってお礼を言われた事に、照れたように下を向く。
「今度は普通に遊ぼうね」
「はい」
 リリィを見送ってから、メノウが汐耶を見上げる。
「私も、彼女のように迎えに来てくれる人がいて嬉しかったんです」
 思い出したのは、部屋に降りた時のホッとしたような顔。
 リリィの保護者は解りやすいほどの行動だから、心配されているという実感がわきやすいだろう。
「メノウちゃんが無事で本当に良かった」
「その……心配してくれて、ありがとうございます」
「家族だから、当然でしょう」
「はい」
 大切な、妹なのだから。
 耳まで真っ赤にしてうつむくメノウの髪を撫で手ながら、今はがんばった事を褒めてあげよう。
 こうして、子猫の冒険は終わりを告げた。



     【終わり】

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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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【整理番号 / PC名 / 性別 / 年齢 / 職業】

【0086/シュライン・エマ/女性/26歳/翻訳家&幽霊作家+草間興信所事務員】
【1282/光月・羽澄/女性/18歳/高校生・歌手・調達屋胡弓堂バイト店員】
【1316/御影・瑠璃花/女性/11歳/お嬢様・モデル】
【1415/海原・みあお/女性/13歳/小学生】
【1421/楠木・茉莉奈/女性/16歳/高校生(魔女っ子)】
【1449/綾和泉・汐耶 /女性/23歳/司書 】
【1593/榊船・亜真知/女性/999歳/超高位次元知的生命体・・・神さま!?】
【2194/硝月・倉菜/女性/17歳/女子高生兼楽器職人(神聖都学園生徒)】

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■         ライター通信          ■
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参加していただいた皆様、読んでいただいた皆様ありがとうございました。
ええと、今回の分け方は混乱しそうなので数字などを付けてみたり、他の部分が解るようにと話の間に回想風な物を入れてみたりしましたが……とりあえず分けますと。

・オープニングとエンディング全員個別。
■前半
・職員室で集まったかた。
(シュラインさんと羽澄ちゃんと汐耶さんと亜真知さんと倉菜さん)
・校舎内に直接きたかた。
(瑠璃花ちゃんとみあおゃんと茉莉奈ちゃん)
■中間
・救出に向かう(羽澄ちゃんと汐耶さん)
・サポート(シュラインさんと亜真知さんと倉菜さん)
・引き続き(瑠璃花ちゃんとみあおゃんと茉莉奈ちゃん)
■後半
・(羽澄ちゃんとみあおちゃんと茉莉奈ちゃん)
・(シュラインさんと汐耶さんと瑠璃花ちゃん)
・(亜真知さんと倉菜さん)

と言う形です。
あと個人によって多少違ってたりする場合もあります。

今回は最多人数にチャレンジ。
分けた部部のも時間も色々と自己記録を作ったような気がします。
書いてた本人はとても楽しかったですが、少しでも楽しんでいただけたら幸いです。

それでは、またお会い出来たら幸いです。