コミュニティトップへ
高峰心霊学研究所トップへ 最新レポート クリエーター別で見る 商品別一覧 ゲームノベル・ゲームコミックを見る 前のページへ

<東京怪談・PCゲームノベル>


妖精さんいらっしゃい♪〜節分ver

●騒ぎのきっかけ

 今日も今日とて、お騒がせ妖精コンビは面白いものを探して仲良く空を飛んでいた。
「鬼なのっ。鬼がいるのーっ!」
「でも嘘っこなの」
 二人が見つけたのは、住宅街の一角にある小さな広場。
 鬼のお面をかぶった人間が、小さな子供たちに追いかけられていた。
 どちらかといえばもの知らずな妖精コンビも、鬼の存在くらいは知っている。ただし、実在の、本物の鬼の方である。
 つまりやっぱり人間社会の常識を知らない妖精コンビは、どうして人間が鬼の真似っこをするのかわからなかったのだ。
「どうするの?」
「行ってみるの〜っ」
 ひゅんっと広場の中ほどまで飛んでいって、嘘っこの鬼を眺めてみる。
「ねねねね。なんで鬼なの?」
「なんで真似っこ?」
 残念ながらその人間は妖精コンビの姿を見ることができなかった。
 だがしかし。
 そこには、子供たちがいた。まだ世間を知らず、絵本の話を頭っから信じるような幼い子供たちが。
「うわあ、かわいいっ」
 そう言ったのは誰だったろう。
 あっという間に節分は鬼ごっこへと変わってしまった。
「きゃーっ!」
「逃げるのーっ!」
 子供というのは容赦がない。こっちの都合かまわず引っ張るわ抱きつくわで痛いし汚れるし。
 退屈は嫌いだが、小さな子供のおもちゃになるのはもっと嫌いなのだ。
「やーんっ、やーんっ」
「触っちゃ嫌なの〜」
 高度を上げればいいものを、焦っているのか妖精コンビは全速力で飛ぶだけである。
 そして。
 妖精コンビは広場を出て、歩道の方へと飛んでいく。
 ……妖精たちを追いかける子供らを引き連れたまま。


●買い物の途中で

 今日は節分ということで、草間興信所でも豆まきをやることになっていた。――やることを決めたのは武彦ではなく、興信所を溜まり場と勘違いしているのではないかと思える調査員たちであるが。
 その買い出しのため、商店街に向かう途中、シュライン・エマは妙なものを目にして足を止めた。
 通りの向こうをヒュッと飛んでいった小さな影。一瞬のことでよく見えなかったが、声にははっきりと聞き覚えがあった。
「今通りすぎていったのって、あの二人よねえ……」
 ウェルとテクス。退屈嫌いのはた迷惑妖精コンビである。いつまでたっても本人は無自覚なのである意味たちが悪い。
 そしてその後に続くは幼稚園児から小学校低学年くらいまでの子供たち十数名。
 どうもいつもと様子が違うと思ったら……どうやら妖精コンビはあの子供たちに追い掛け回されているらしい。
 一体何があったのやら。
「……止めないと危ないわね」
 妖精に夢中になっているらしく注意力散漫な子供らの様子に、シュラインは小さく呟いてから小走りに駆け出した。


●子供たちの行進

「あら?」
「え?」
 妖精コンビを追い掛けて十字路を曲がった所で、見知った人物と顔を合わせて、二人は互いに声をあげた。
 真名神慶悟とシュライン・エマ。
「あんたもあれを追い掛けているのか?」
 子供の足だからすぐに追いつけるだろうが、ずいぶんと先を走っている一団を指差して問うと、シュラインからは肯定の返事が返ってきた。
「あのまま放っておいたら危ないわ」
「……確かに」
 妖精に夢中になって周囲への注意力が皆無の子供たちを見て、二人は早々とその場を駆け出した。
「とりあえず先に式神に行ってもらっている。ある程度のフォローはできるだろう」
「助かるわ。とにかく早くあの行進を止めないと」
 予想通り、二人はすぐに子供たちに追いつくことができた。
 大人二人に止められて、飛び去って行く妖精の後ろ姿を未練たっぷりに見つめる子供たち。
「あ、ちょっと待って」
 子供たちを止めるので手は一杯。妖精には声をかけるだけとなったのだが、妖精のほうはまったく気付いていない様子。
「追い掛けてきちゃいやなのぉ〜っ」
 叫びつつ、必死に飛んで行く。
「妖精の方は俺が引きうけよう」
 慶悟が言って、先ほどまで子供たちの追走に使っていた式神を妖精の方へと飛ばす。
「整列っ!」
 まだ騒ぎ続ける子供たちに、シュラインはまず一喝。その迫力に子供らは一斉にシュラインの前に並んだ。
「はい、よくできました」
 子供たちが泣き出す前にと、シュラインはニッコリ笑って子供たちの頭を撫でた。
 シュラインは子供たちと視線を合わせてしゃがみ込むと、真剣な表情で子供たちに向き合う。
「もし自分が車に追いかけられたら、自分の何倍も大きくて力の強い生物につかまれて引張られたら…・‥どう思う?」
 ゆっくりとした口調に、子供たちは素直に考えて答えを出した。
「こわい……とおもう」
「うん。こーんなおおきいのにおっかけられたらこわいよね」
「ええ、そうね。妖精さんたちから見たら、きみたちもとっても大きいのよ?」
 言われて、子供たちは不安げに顔を見合わせた。言われるまでそんなこと思いつきもしなかったのだろう。
「そうねえ……。シャボン玉扱うくらい優しくじゃないと、怖がって逃げてしまうわよ」
 子供たちから一斉に不満の声と、そして反省らしき態度が見えた。
「それじゃあ、次に妖精さんを見掛けたら、優しくできるわよね」
 にっこり微笑むと、子供たちからは一斉に良い子の返事がかえってきた。


●妖精探し

 子供たちを広場に送ったところ、なんとまだ戻ってきていない子供たちがいるらしい。元いた人数を知らないのだから気付かなかったのも仕方がないが、おそらく妖精たちがはぐれた時に、子供たちも二分されたのだろう。
「とりあえず、どういう道筋を辿ったか教えてもらえるかしら?」
 ウェル――テクスがいないと騒いでいたから、こっちはウェルなんだろう。……外見からは見分けがつかないが―――に尋ねると、ウェルはうーんと悩み込んでしまった。
「夢中で逃げていたのなら、道筋を覚えていなくとも無理はないだろう」
 式神を使って空中からの探索を続けつつ、慶悟が苦笑した。
「テクスぅ、テクスぅ〜」
 延々と泣き続けるウェルを宥め、二人はとりあえず自分たちが最初に妖精を発見した場所に向かってみることにした。
「私が見た時はまだ二人いたのよ」
「俺が最初に見た時もまだ二人いた」
 お互いに最初の発見ポイントを確認して――と、その時だ。
 道の向こうから、ウェルと同じ姿の少女・テクスと、金髪に赤い瞳の小さな少女――人形が空を飛んでいるような感じだ――二人がこちらに向かって飛んできた。
「いたーーっ! テクスぅ、良かったのぉ〜〜」
「ウェルぅ〜〜」
 抱き合って再会を喜ぶ二人。そんな光景の脇をすり抜けて、金髪の少女が二人の前でぴたりと制止した。
「あのお…。こっちの妖精さんを追いかけてた子供たちがいるのですけど……私では運べないんです」
「運べない?」
「疲れて寝てしまっているの」
「わかった、その子たちは俺たちで連れていこう」


 ――こうして、節分の騒ぎは収まった。
 子供たちを全員親元に返し、妖精たちの住処である小さな公園に帰ったのち。
 三人は節分をやりたいと言い出した妖精たち――豆まきや鬼の真似をするのは何故なのかと尋ねられたのだ――に付き合い、公園では五人によるささやかな豆まきが実行された。
 妖精コンビにとって大変な一日ではあったが、楽しい豆まきが終わる頃にははぐれたことなどすっかり頭から追い出されていたらしく、二人は満面の笑みで帰路につく三人を見送ったのだった。

□■■■■■■□■■■■■■■■■■■■■■■■■■□
■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
□■■■■■■□■■■■■■■■■■■■■■■■■■□
整理番号|PC名|性別|年齢|職業

0389|真名神慶悟|20|陰陽師

0086|シュライン・エマ|26|翻訳家&幽霊作家+草間興信所事務員

2334|セフィア・アウルゲート|316|古本屋

□■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■□
■         ライター通信          ■
□■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■□

 こんにちわ、日向 葵です。
 毎度お世話になっております、今回は依頼にご参加いただきありがとうございました。
 初めて、妖精たちの台詞以外の場所で二人の名前を出したような気がします…。
 いつも『妖精コンビ』でまとめて表記だったので(笑)
 初めて別行動となった二人ですが、皆様のおかげで無事再会できました。
 どうもお疲れ様でした〜。

 それでは、この辺で失礼いたします。
 またお会いする機会がありましたら、どうぞよろしくお願いします。