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気の早いサンタクロース
「うーん、今日もいっぱい着てるわぁ♪ どれからチェックしようかしら〜」
怪談投稿サイトゴーストネットOFF管理人である瀬名雫は、今日も行きつけのインターネットカフェで投稿のチェックにいそしんでいた。
そこそこモテる雫ではあるが、彼女にとっては、恋愛よりも怪奇現象の方がずっと心を燃え上がらせてくれるのだから仕方がない。
「ん、あれ、なんだろう……今の時期にサンタ?」
投稿をひとつひとつ念入りにチェックしていた雫だったが、ふと、ある投稿に目を止めて眉を寄せた。
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血まみれサンタの噂
近頃、町で、サンタクロースが出没しているそうです。
そのサンタクロースは髭も袋も真っ赤で、会うと殺されてしまうそうです。
背負った袋の中には、プレゼントじゃなくて武器が入っていて、ものすごく強いんだそうです。
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つたない、慌てた調子の伺える投稿だったが、それだけに真実味があった。
クリスマスシーズンはもうとっくに過ぎているのにサンタクロース、というところが少々引っかかったが、しらべてみてもいいかもしれない。
「でもあたしが調べるにはちょっとなあ……あ、そうだ、誰かに調べてもらおうっと」
明るく言いながら、雫は調査に行ってくれそうな知人の顔を思い浮かべた。
「……さて、と。どうするかな」
月守神狼は雫からの依頼を受けたあと、首を傾げて考え込んだ。
携帯電話に入ったメールによると、血まみれサンタ、というのは近頃はやりはじめた都市伝説の一種らしい。
「まあ、考え込んでてもしょうがない、か」
携帯電話をポケットにつっこみ、神狼は伸びをする。三つ編みにした長い黒髪をぴょこんとはねさせると、聞き込みに行くべく歩き出した。
神狼が向かった先は、小学校の通学路として指定されている通りだった。こういう噂は、子供を中心に広がるものだ。
「ねえねえ、ちょっと、『血まみれサンタ』について聞きたいんだけど」
少し怪しいだろうというのはわかっていながらも、神狼は歩いていた二人連れの男の子に声をかけた。
「え? なんで?」
男の子のうちの片方が、目をぱちくりさせながら首を傾げる。
「実はちょっとねー、学校の課題で、今、小学校で流行ってる噂話を集めてるんだ。なんでもいいんだけど、知ってることがあったら教えてくれない? どの辺りに出る、とか、どんな時間帯に出る、とか」
「そうなんだ。中学生って大変なんだなー」
男の子はどうやら神狼のことを中学生だと誤解したらしく、警戒することもなく答えてくる。
「なんか、別にどこに出るとかいうのが決まってるわけじゃないらしいよね」
「うん、そうそう。人通りの少ない場所に出るらしいよね」
「夜、暗くなってからが多いって言ってた。イトコの友達のお姉ちゃんが、サンタに会ってケガしたんだって。一緒にいた友達は殺されちゃって、それで、ショックで部屋から出てこなくなったって聞いた」
「え? ちょっと待って、実際に会った人がいるの?」
神狼は男の子の言葉をさえぎってたずねる。
「うん、そうだよ。えーっと、たしかね……」
男の子は難しい顔をしながら、そう離れていない通りの名を口にする。広い通りではあるが、あまり人の通らない、静かな場所だ。
「ありがとう!」
もしかしたら、そこに行けばなにか手がかりがつかめるかもしれない。神狼はその通りへ向けて走り出した。
「おや?」
子供の悲鳴が聞こえたような気がして、狗朗は振り返った。
見ると、なにやら真っ赤な服を着た、赤い大きな袋を背負った男が、斧を振りかぶっている。
どうやら、あれが噂の血まみれサンタというやつらしい。
巨体の陰に隠れて見えないが、子供が襲われているのだろう。やはり、この場合は助けるのが筋なのだろうか……そう思って狗朗がそちらへ向かいかけると、サンタの前に詰襟姿の小柄な少年が飛び出してくる。
「おい、なにやってるんだよ!?」
少年は両手を広げてなにかをかばうような仕種をする。
「えいっ!」
そこへ、子供の声が重なって、なにか符のようなものが飛ぶ。符は斧に当たると小さな爆発を起こして、サンタはよろめく。
「我、汝在るが様を禁ずる!」
そしてそこへ、凛とした声が響いた。そちらの方へ目をやると、着崩したスーツ姿の青年が符を指先に挟んで、サンタの方へと向けていた。それは動きを縛る禁呪であるため、サンタは石になってしまったかのようにそのままの体勢で身体を硬直させると、アスファルトの上にどうと倒れた。
「へえ、なかなかやるねぇ」
場にそぐわない笑みを浮かべながら、狗朗は口笛を鳴らした。
そこへ、腕が獣のようになった黒髪の少女と、鮮やかな赤い髪をした青年が駆けつける。
「ちょっとキミ、大丈夫!?」
「う、うん」
少女が、詰襟の少年のうしろにいた子供に駆け寄る。子供は小さくうなずく。
「あんたが噂の血まみれサンタ、か」
赤毛の青年が髪をかきあげながら、サンタに向かって言う。
どうやら、彼らも雫に頼まれてサンタを探していたようだ。狗朗はそう判断すると、5人の方へと近づいていった。
「……なるほどね。つまり、全員、雫ちゃんから頼まれたり、噂を聞きつけたりしてコイツを探していた――と。そういうこと?」
怯えていた誠を落ち着かせたあとで、神狼は全員を見回して言った。
サンタは金髪の陰陽師こと慶悟が捕縛してくれているため、とりあえずは自己紹介でも――ということになり、お互いに血まみれサンタを探していた目的や名前などを教えあったのだった。
「ああ。もし、本当にそんなのがいるとしたら、どんな理由があっても悪いヤツに違いないからな」
吠音が倒れたままのサンタを見下ろしながら言う。サンタは動けないのか、暗い瞳で吠音をじっとにらみつけている。
「凶悪犯罪者、っていうよりは、幽霊かなにかみたいだけどな」
ぼそり、と慶悟が言う。
「幽霊かなにか?」
きょとんとした様子で鋼が首を傾げる。
「うん……その人、生きてる人間じゃない、と思う」
誠が小さな声で言う。
「わかるの?」
神狼が訊ねると、誠は小さくうなずく。そういえば、家が寺だといっていたから、そういったことには詳しいのかもしれない。
「確かに……人間とは少し違うニオイがするねぇ」
狗朗が鼻をひくつかせながら言う。
「ああ。それに少しおかしいな。確かに、動きは縛ってあるが……口をきけない、っていうことはないはずだ」
「え? だったら、なんでコイツ、一言もしゃべらないんだ?」
鋼は混乱してきたらしく、眉をぎゅっと寄せている。
「すごくイヤな感じもするし……そいつ、悪霊かも」
ぶる、と震えて誠が言う。
「悪霊にしては妙だがな。これだけはっきりした形の悪霊なら、口もきけないわけもないだろうし……」
「じゃあ、なんなんだよ!」
慶悟の言葉に、鋼が叫ぶ。
「俺に聞かれてもな……参ったな」
困ったような顔をして慶悟が言う。
「これだけの邪念の塊なんだ、悪霊ってことでいいんじゃないか?」
吠音が乱暴な意見を口にする。
「とりあえず、なにか言ったら?」
神狼はサンタに向かって話し掛けた。
すると、サンタは乱杭歯を剥き出しにして、まるで獣のような形相で神狼をにらんでくる。
「まあ……効果があるかどうかはわからんが」
念のため、とつぶやきながら、慶悟が符をサンタの額に貼る。
「なんだ、それ?」
「正気鎮心――まあ、つまりは、心を正気に戻す符だ」
「へえ」
訊ねる鋼に、慶悟は丁寧に説明している。その様子は、お兄さんと弟、というような雰囲気で、見ていてなんだか微笑ましい。
「……でも、別に、変わらないね」
神狼のうしろに隠れていた誠が、ちょこんと顔を出して言う。
「貼る符を間違えてるんじゃねぇか?」
冗談めかして狗朗が言う。慶悟が眉をつり上げて狗朗を見る。
「間違えるわけがないだろう?」
「……間違いのない人間なんていない、ってな」
「おい、仲間割れはやめろって!」
狗朗と慶悟の間に、鋼が割って入る。小さな身体で長身の男ふたりの間に割って入るさまははたで見ていてもなにやら微笑ましく、当人たちもそれで毒気を抜かれてしまったようだった。
「……まあ、正気にも戻らない、人間でもない、口もきけない……。邪念かなにかのかたまり、ってことだな。浄化しておけば問題ないだろ」
吠音がまたも気の早いことを口にする。
「まあ……いいんじゃない?」
今度は神狼も同意した。
ここまで来ると、他の人間も特に反対する理由はないようだ。吠音に向かってうなずき返す。
先ほど聞いたところによると、吠音は龍神を祀る一族の末裔なのだそうだ。吠音は目を閉じ、両手で印のようなものを組む。
すると、吠音に向かってどこからともなく水が集まってくる。それは次第によりあつまって、水の龍の姿となって吠音にまとわりつく。
吠音がサンタに向かって手をかざすと、しゅうしゅうと泡をたててサンタが薄れていく。
はじめは真っ赤だったサンタの姿は次第に薄い赤になり、そしてついには空気の中へと消えていく。
「……終わった、のか?」
鋼が訊ねる。
「ああ。浄化した。やっぱり悪霊みたいなものだったみたいだな」
吠音はあっさりうなずく。
「そういうもんなのか……」
不思議そうな顔で鋼がうなずく。
「まあ、とりあえずはこれで事件解決、ってわけだしな。いいんじゃねぇの?」
狗朗が鋼の頭をわしゃわしゃとなでた。
「う、うわっ」
鋼はじたじたと暴れるが、狗朗はいっこうに気にした様子もない。
「……子供みたい」
ぼそ、と誠がつっこみを入れる。
「誰が……!」
鋼がくわっと目を見開く。その様子が子供っぽいのだろう、と神狼も思ったが、さすがにそれは口に出さずにおいた。
「さて、それじゃ、雫のところに報告に行くか」
ぱんぱん、とまるで先生よろしく慶悟が手を叩いた。
6人が去ってからしばらくして――
先ほど浄化された邪気とは別の邪気が寄り集まって、薄いもやのような姿をした人型が形作られる。
それは、ゆっくりと歩き出した。
人の心の奥にひそむ“陰”の部分はけして消えることはない。だから、“それ”は何度でも生まれるのだ。
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■ 登場人物(この物語に登場した人物の一覧) ■
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【整理番号 / PC名 / 性別 / 年齢 / 職業】
【1336 / 月守・神狼 / 女 / 16 / 学生】
【2619 / 龍神・吠音 / 男 / 19 / プロボクサー】
【2621 / 天川・狗朗 / 男 / 23 / DJ】
【2662 / 遠野・誠 / 男 / 12 / 小学生陰陽師】
【2239 / 不城・鋼 / 男 / 17 / 元総番(現在普通の高校生)】
【0389 / 真名神・慶悟 / 男 / 23 / 陰陽師】
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■ ライター通信 ■
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はじめまして、発注ありがとうございます。今回、執筆の方を担当させていただきました、ライターの浅葉里樹と申します。
神狼さんはさばさばした感じの口調の女性なのかな、ということで、あまり女っぽくなく、その中にも可愛らしさを出して、というのを心がけてみました。いかがでしたでしょうか。
一人称に関しては、プレイング欄では「私」となっておりましたので、そちらの方を優先させていただきました。もしもキャラクターシートの方が優先のおつもりでしたら申しわけありません。
今回はややダークな感じのシナリオを、ということで、このような感じになりました。お楽しみいただけていれば、大変嬉しく思います。
もしよろしかったら、ご意見・ご感想・リクエストなどがございましたら、お寄せいただけると喜びます。ありがとうございました。
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