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音楽室の怪3:血まみれのピアノ
Prologue
ありふれた怪談話は神聖都学園でも多い。
しかし、真実を知りたい者は多いことも事実だ。
第4音楽室のピアノで今度のコンクールに向けて練習していた高等部女子篠原あかりが、練習中にいきなり鍵盤から赤い液体が出て驚いたという話をしたことからその噂は広まった。実際見に行った者は、何の変哲のないピアノと判断し、気の迷いとして片付ける。あかり自身はそのショックで暫く学校に来ないそうだ。家に連絡しても居ないので謎は深まる。
数日後のことだ。
夜、警備員が第4音楽室で何かのしたたる音を聞いて、その部屋を開けた。
其処には…学校を休んでいたはずの篠原あかりがピアノの中で血まみれになって死んでいるのを目撃したのだ。
警察が呼ばれ、第4音楽室は立ち入り禁止となる。
事故死か他殺なのか分からない。
雫としては、この事件を怪奇現象として見ていた。女の勘でも経験から来る「何か」が働いたと言うことだろう。真相を突き止めるべく彼女は動いた。
立ち入り禁止となった第4音楽室。今もなお、鑑識班や刑事が現場を調べている。野次馬を中に入らせない様に、所轄や教諭もガードしていた。
「まさか、死人が出るなんて」
という、野次馬の声。
篠原あかりは単に普通の音楽部部員。そう単にそれだけだった。普通にピアノが好きで、素質があるのは確かだが人より頭一つ程度ピアノ演奏が上手く、私生活では友人も居るし至って現在では極普通の高校生なのだ。
響カスミはそれでも、生徒を思う事は変わりなくショックのあまり準備室で泣いていた。
その姿を、雫はドアの隙間から目にしている。
「私が、私があの子を…」
責任を感じているカスミの姿は、雫にとっても辛い。
「先生真犯人捕まえてみせます…絶対」
と、彼女は小声で拳を握りしめ誓った。
§1
「確かに残留霊気は感じるが…茜、詳しく霊視出来る?」
義昭が音楽室のある棟を見下ろせる棟の屋上で遠くから見て茜に尋ねる。
「さすが、現場に入らないと難しいよ…」
「う〜ん」
2人が神聖都に編入した理由は此処にある。地場的に霊的要素が強いこの学園で、こういった重大事件が起こる事を懸念したエルハンドの指示だったのだ。いきなりだったために2人は驚いたが。そして、もう一つ理由はある。
「はぁ、はぁ、…織田さんに茜ちゃん!やっと…見つけた」
息を切らして雫がやってきた。
そう、この怪奇事件好きの瀬名雫の護衛も務める事になっている。紅一文字事件から関わってから、ずっと事件では一緒だ。彼女は必ず危険なところに向かう。そのためには、常にいる能力者が必要となるとエルハンドは判断したのだろう。余談であるが、水面下では三角関係であるが(義昭がはっきりしないため)、今では仲良し3人組で通っている。
「雫ちゃん」
茜は不安そうにライバルであり親友の名を呼ぶ。
「絶対、真相を…突き止めないと…これは絶対何かの怪奇現象だよ!」
おもしろがっている様子はない雫。手や身体が震えているのがはっきり分かった。
「うん、分かった。無理はしないでね」
と、茜は雫を優しく抱きしめる。雫はその中で静かに泣いていた。泣いている理由は何となく分かるので訊かない茜。
「今回、誰が助けに来てくれる?事によっては夜忍び込むか、コネで現場検証に入れるか検討しないと」
冷静に義昭が2人に尋ねた。
「うん、倉菜さん、デルフェスさんに蓮也君だよ」
と茜が、答える。
「さっき、みあおちゃんから『来る』ってメールが」
「…そうか…しかし、茂枝萌は応援拒否したんだよな?」
「うん…関わりたくないって」
「…ふむ…了解」
「何かあっさり納得してるわね?」
茜は義昭に訊く。
「厄介事に付き合うのは勘弁だと言う事だし、命に関わる事件だ。手を引いた方が賢い。霊感や能力がないひとはね」
「それも…そうね…」
少し風が吹いた。
一方、現場では少し不思議な感じのする黒服の女性が中に入り、調査している。
「この件に関しては、我々に…おまかせ願えないかしら」
「…分かりました。一応警備の方は私たちの方で…」
「悟られないようにお願いしますわね」
黒服の女性は更に付け足す。
「あと、2人、楽器に関して詳しい人物にこのピアノを鑑定して貰うわ。その許可をいただきたいの」
「分かりました」
10分後、その2人が現れた。硝月倉菜と鹿沼デルフェスだ。倉菜は、祖父のコネ、デルフェスは教師経由からこの女性の許可が下りたそうだ。
2人とも若すぎるので、刑事は眉を潜める。しかし、黒服の女性には逆らえない。
「ではお願いします」
女性は2人に、鑑識と同じように手袋と特殊シューズを履いてもらい、ピアノを鑑定する。
「このピアノ曰く付きではないようですわね。現在のメーカー製ですわね」
「5年前に修理されているわ、デルフェスさん」
実はピアノは、かなり頑丈に作られている。常に鍵盤を叩く衝撃は小さいモノの、蓄積されれば劣化するのは当たり前だ。ピアノ線も、年月で衰える。そのために数年に1度は修理されるか、ピアノ専門リサイクル業者に売る。そして職人達の手で直され、また新品と同じ音色に戻るのだ。
倉菜は、ピアノの他に天井を見る。血のようなシミはない。この辺も既に鑑識がチェックしているので分かりやすい。どうも天井からこぼれた何かの液体が鍵盤に落ちてきて、其れが血に見えたと言う事はないようだ。
「済みません、被害者の方…篠原あかりさんの死に方、交友関係を詳しく教えてくれませんか?」
黒服の女性に小声で訊く倉菜。
「良いけど…まぁ、あの子も関わっているようだから…後でデータ渡すわね」
渋々ながら同じように小声で了承する女性。
「あの子?」
「あ、こっちの話です」
30分以上かけての鑑定では、特に何もなかった(と言う事にした)。
その一部始終を、窓にそわそわわくわくして居座っていた小鳥が居たのを誰も気が付かなかった。
§2
まず、篠原あかりの交友関係を調べる亜真知。ネットハッキングで情報を手に入れようとパソコンを使ってみるが…、何と何もないではないか?何処にも警察サイトで事件情報が載っていない。
「そんな?」
その後ろで、ロイヤルミルクティを飲んでいる義昭が言う。
「インターネットに繋がって無くてローカルエリアネットワークや専用回線でも踏み台不可能環境にしている隔離場所もあるよ。多分此処の所轄ってネットは繋がってないかもね。全部、認可された特殊メディアか、昔のOSで情報交換しているかもね」
「こんな時代に?ネットに繋がらない警察署があるのですか?」
「そう、特に亜真知ちゃんがしている事や、ウィルス対策のためだから」
「むー、こうなったらIO2のサーバから無理矢理…」
「だめ!だめ!だめ!」
ムキになる亜真知を必死に止める義昭。其れを見て苦笑しているのは、既に黒服の女性から情報メディアを譲り受けた倉菜とデルフェスであった。
出番がないのでご機嫌斜めの亜真知サマもくわえ、部室に集まる一行。まとめると被害者のあかりについては以下の事が分かった。
後数週間後にコンクールがあるため楽譜を用意して練習していたが、ピアノが血まみれになる瞬間を見て一時的発狂。休んだ理由は、血まみれになったピアノの印象が強く、一時発狂の後遺症で寝込んでいた事。死に方は、四肢を恐ろしく鋭利な刃物により分断され、ピアノの内部に詰め込まれていた。遺留品や彼女の家を調べたのだが、演奏する楽譜が見あたらない。交友関係も極普通で、コレといった手がかりになる事はない。
噂については、この神聖都にはその手の話しは多くあるためこの情報には入っていなかった。多すぎるため選出中だという。おそらく此の事件で噂や伝説が出来上がるので信憑性はないと言っても良い。
「では、鍵になりそうなうわさ話について…考えない方が良いのね?それより、楽譜がないのが気になるわ」
倉菜は言う。雫も自分のサイトで検索してもこの事件発声後の噂には嘘ネタが多いという確証が得られているため頷いた。
「と…なると…」
皆は考える。其れよりか、既に行き先と情報提供出来る人物は決まっている。
「音楽魔神様ですね」
亜真知がニコリと言う。しっかりお茶セットも用意している。
「音痴魔神か…」
蓮也と義昭はもの凄くため息をついた。
「…今は…外国人墓地にいないみたいだな」
探知機・義昭が言う。
「では又探さなきゃ行けないのね」
と、倉菜。
「俺は行きたくないぞ、女性が行った方が良い」
蓮也は行くのを拒否。
「でも彼が居そうな所って何処だろうね?」
茜が首を傾げる。
雫が学園で手に入れた怪奇スポットのうわさ話をまとめて、今自由に出入り出来る場所のデータを義昭に渡した。
「何?」
「あの人が居そうな場所…案内お願いします!」
「わかった」
音楽魔神は嫌いだが、どうこう言っている場合ではない。
「いく人は誰だ?」
と、義昭は真剣に皆に尋ねた。
参加するのは、亜真知と倉菜だという。
「よし決まり、放課後がいいだろう」
§3
夜…みあおはこっそり、学園に忍び込む。答えは簡単部外者だからだ。
雫から情報を得たとき、彼女ははしゃいで真ん中の姉に叱られたほどである。
彼女はこう言ったのだ。
「やっと“らしい”話だね!」
うきうき笑っていれば、誰だって怒るわけで。
それでも真剣なのだが好奇心が勝っているため、終始笑顔。前もって鳥になって現場を見ていたのだから今度は実際にそのピアノを見ることだ。流石に、被害者の事はよく分からない。しかし、色々な可能性を考えた。
過去のピアニストの怨念。もしくは、ライバルのけ落としによる、複雑なトリック殺人で鍵盤に毒付き刃物が仕込まれており、其れによって死亡…等々と考えている。実際は見てからでないと分からないが…。
現場にすんなり着いたみあお。しかし夜になるまで消去法で考えていくと、現場検証の時、刃物らしいあとは鍵盤から見付からなかったそうだ。だとすると呪いか怨念か。情報不足を補うために、雫に情報提供のメールを前もって出していたのだが、返事が来ない。何かあったのだろうかと心配してしまう。
「何しているの!」
といきなり声がした。
「あ、ゴメンなさ…あ、雫」
「来ないなぁと思っていたら、案の定だったね…忍び込みそうな勢いってお姉さんから聞いたから」
と、教室の入り口で懐中電灯をモーリス信号の様に点滅させる雫だった。
「ごめんなさいぃ〜」
「織田さん達が残留霊気を確認しているけど、そのピアノ自身には何もないって」
「何もない?どうして?」
「分かっていたら、くろうしないよう。だから今、首つり桜の前で皆がいるよ」
「ふ〜ん。あの音楽を楽しめずに自殺したとか言う人達がこぞって自殺する古い桜?」
みあおが訊くと頷く雫。
「そこに、最後の頼みの綱が居るの…」
「そうなんだ〜」
そして、2人は第4音楽室を後にした。
首つり桜は完全に枯れている。しかし、切り倒そうとすると必ず業者が謎の事故に遭うため、そのままになっている。これは事実で有名な話である。しかし、「切り倒す」など撤去しない限り全く害がないため、放置されている。一部の音楽部員では神木として敬っているそうだ。
その桜の幹に、ご丁寧にドアが作られていた。
「…やっぱりこの魔神のやる事、アレに似ている…」
と、義昭が言う。苦笑しているのもよく分かる。
ドアには「魔神の地下聖堂入り口〜ノックされたし〜解放時間:21:00〜4:00」
と看板が掛けられている。
ドアをノックすると、自動的に開く。中には不思議な材質で出来た下り階段があった。
「足下気を付けてね」
義昭が先頭、倉菜、亜真知が後に続く。
「みあおもいきたい〜!」
お気楽鳥娘が大声を上げる。皆の視線が痛い…。
「うう…」
苦笑しながら義昭がこういった。
「おとなしく、そして気を付けて付いてくるなら良いよ」
「うん」
すぐ、明るい笑顔になったみあおだった。
螺旋階段…。どんどん石造りの洋風の地下に向かう感じになる。じめじめした石(らしき)の階段。途中、倉菜が足を滑らしてしまう。
「きゃ!」
転げ落ちそうなところ、義昭が上手く彼女を抱き留めた。
「危ない、危ない」
「あ、ありがとう。」
礼を言う倉菜。しかし、抱き留め方に問題があった。かなり顔が近づいていたのだ。
亜真知もみあおも軽やかに、降りていくなか。
「茜(様)や雫(様)が知ったらどうなる事か」
と、冷やかしてみる。
「事故、事故。硝月を怪我させたほうが、怖い」
義昭は平然と反論した。
「で、でも、もう大丈夫だから…」
「あ、ゴメンゴメン」
少し赤面気味の倉菜。敢えて鈍感な振りをしているのか天然なのか分からない表情の義昭は彼女が安心して階段を下りられるようにエスコートする。
そして最下層。アーチが見えてきた。不思議な光の神秘的な聖堂。
「失礼します〜魔神居る?」
と、義昭が声をかける。
「あ、あそこじゃない?」
倉菜が指さした。
奥の方で、棺桶にすわって魔神は、なにか悩んでいるようだった。周りには紙を丸めた所謂没作品が転がっている。
「おお、美しき美女達に…馬鹿剣客か」
「一言多いぞ、音痴魔神」
「織田君…」
「分かっているよ…」
倉菜が言うと、彼は聖堂から出て行った。それでも、螺旋階段のところですわっているだけだが。
「またあったの、倉菜に亜真知、そしてお嬢ちゃん」
「お久しぶりです」
と、お茶会が早速行われる。
倉菜が料理研究会で作ったお菓子と紅茶、亜真知もテーブルなど用意して簡単な雑談となった。
「パイプオルガンが弾けました。ありがとうございます」
倉菜が、魔神に礼を述べる。
「なに、余はたいした事はしておらぬ。オルガンも気分が良かったろうよ」
魔神は満足げに言った。音楽に精通する存在だけあり、共感が持てるのだろう。
「さて、そなたらがここに来たという事は何か事件があったのだな?」
と、魔神はティーカップを置き、真面目な顔をした。
「ピアノが人を殺した」
と、螺旋階段に座っている義昭が言う。亜真知達も頷く。そして皆は事のあらましを教え、心当たりがないか訊いた。
音楽魔神は、未だ完全覚醒していないため少し欠伸をしかけたがかみ殺し、
「…ピアノ…そのピアノ自身は只のピアノなのだな?」
「はい、残留霊気はあっても、『足跡』と言うべき物がありませんでしたわ。ただ、楽譜がないのです」
「楽譜がない…?」
「はい」
「うむむ」
「う〜ん」
皆は考えている。
すると、
「私(余)の推理から…」
魔神と倉菜の声が重なる。
倉菜が目で魔神を見つめると…
「転移可能の、悪魔であろうな。巧妙に、そして残酷に人の魂を喰らう奴だ」
魔神はそう言った。
魔神と会ったこの日には、それらしき悪魔の気配はなく、一度引き上げる。
魔神は別れ際に、
「余は又どこかにいる。ただ、助言のみだけだが…。気を付けろ。数字とその楽譜の存在を」
と言い残すと、ドアを閉め、首つり桜の地下聖堂は忽然と消えたのだった。
§4
楽譜探しに明け暮れるも進展が見られないまま、日が経つ。当然、外側から第4音楽室を霊視するのだが何の手がかりもない。ただ、噂がどんどん広まることで、何か異常な体験をする生徒をみかける。水道水が血に見えたり、第4音楽室の近くを通り過ぎた者(一般人あたり)は謎の奇病にかかったりと、深刻化しているようだ。
データを調べると、みあおと亜真知が奇妙な事に気付く。
「下一桁の数字が4…」
「あかりさん、たしか4組?」
「今奇病で寝ている人は…4組か14歳…数字の4に関わっている」
集まっている皆は、今までの事件を照合する。
血の色の水が出た蛇口は第4音楽室にあるものだった。
第4音楽室を通り過ぎた者で奇病にかかっている者の年齢は14か24、もしくはクラスは4組。またはD(4番目)」
「ということは…」
「「その楽譜が4階位悪魔召還のものだった?」」
しかし皆は首を傾げる。
被害者のあかりがなぜ悪魔召還の4楽章を奏でるつもりだったのか。入手方法は?既に悪魔に殺された以上、魂は食われている。
謎が増えた…。
「単に拾って気に入ってしまったと言うのも考えられないか?」
蓮也が言う。
「既に音楽魔神様も居ない事ですし…」
亜真知は困った顔をする。
「現場…夜…霊視しよう。既に悪魔の4楽章が終わっているのなら…あの辺りで非探知状態にいるのかも」
茜が、言う。
それ以外に道はなさそうだ。
夜…カスミの許可を得て、一行は校門前に集まった。
「どうなるのでしょうか…」
デルフェスは、雫を守るように立っている。
義昭は、何故かキョロキョロしていた。亜真知もである。
「他に何か居そうだな?」
「え?」
雫は驚く
「え?本当に!?」
みあおはドキドキわくわくしている。
今回はこの2人の感情が同じではないのが印象的だ。
「幽霊でない事を祈るよ」
「そうですわね」
亜真知が言う。
デルフェスは、雫にこういった。
「前の事件、覚えておりますか?」
「うん」
2人が会話している内容は、繰り返される悪夢の事だろう。
「でも、雫様は絶対見たいと思っていますね。わたくしが守ります」
「ありがとう…」
雫は、デルフェスの服を強く握った。
そして…茜と亜真知が霊視を行う為に第4音楽室に入る。護衛のための義昭、真剣を持った倉菜、臨機応変の行動が出来る蓮也が第4音楽室に入った。数日間何度も霊視を試みていたが、きっかけが分かった時点で容易である。非探知されないように仕組まれているのなら、其れを解けばいい。亜真知が解呪し茜が即座に霊視を試みた。
その瞬間、酷いラップ音と異臭が起こる。それは教室全体に広がり、廊下まで漏れた。雫やみあおは、その異臭に耐えられなくなり、昏倒しかけるが、デルフェスが即座に換石の術で異臭中毒になる前に止める。
「逃げて!」
茜が叫んだ。倉菜は何とか持ちこたえている。未だ姿が見えない敵、デルフェスは何かに気付いて急いで倉菜を庇う。
爪がデルフェスを襲った。ドレスは破けたが、身体に傷はない。
蓮也は、ピアノに「ガス吸入器」と書いた。異臭は其れによって吸い込まれる。
「茜!」
「わかったよしちゃん」
石になっているみあおと雫、概念操者の蓮也を逃がすため結界をはる。
「数は4!4ずくめの悪魔?」
倉菜は、相手の数を見抜く。
「浄化か、封印だな…」
『水晶』を召還し、神格覚醒した義昭。
「私も戦うわ…音楽を…音楽を利用し人を殺すなんて許せない!」
デルフェスらを逃がすために、壁になる義昭と倉菜。亜真知はカチューシャを弓に変えた。
悪魔は、謎の言葉で叫ぶように2人に襲いかかる。
「異臭と幻覚…そして呪文疑似能力に人間が害となる効果、強制変化の耐性…絶対封印浄化結界?!」
倉菜は刀で攻撃を受け流して相手の能力を見抜いたが驚いた。
「封印するなら解呪しってのか!」
義昭は困った顔をする。
天空剣でも、一応欠点はある、複数の技の複合にはかなりの負荷がかかるのだ。
「天魔断絶…2回か、玄武と朱雀って…きつ〜…」
と1人で呟き、一匹を弱らして、一匹の精神攻撃呪文を耐えた。
異臭が消えた事で、デルフェスは換石の術を解呪し
「雫様、みあお様、急いで逃げてください!」
「え?う、うん」
2人は事の重大さを理解し、その場を走った。しかし、悪魔が一匹空間転移して襲いかかってくる。
「しまった!」
換石の術も間に合わない!
悲鳴とガラスが割れる音。
そのあとに、悪魔の醜い叫び声がした。
「萌…いえヴィルトカッツェ様?」
ガラスを割って入ってきたのはIO2のNINJAの少女ヴィルトカッツェだった。
見事に、魔力付与されたブーツのキックが悪魔にクリーンヒットしている。悪魔は暫く動けないようだ。
雫の方からは、ヴィルトカッツェの顔が見えない。
「速く逃げて」
と、色っぽい女性の声が、ヴィルトカッツェのNINJAから聞こえる。マイクの雑音が入っている。
雫はその通りに従い、呆けているみあおを引っ張って逃げた。
「遅くなってごめんなさい」
彼女は、高周波ブレードを構え、悪魔と対峙した。
「数はこっちが有利になったって事か…」
亜真知は、理力変化を使い結界を解呪し、一匹の力を弱め、茜が封印する。
倉菜は、不安定ながらも、力を出し惜しみせず。魔神変化していき、魔力を活性化させて完全に仕留めた。身体の変化は目立ってないので本人は安堵しているが、あとで義昭にコントロールの手助けが必要だろうと思っている。
ヴィルトカッツェは、デルフェスが盾になってくれることで、自分のペースを保ちつつ確実に弱めて言った。最終的に。サイキックアローを60連発撃ち込み、悪魔を行動不能にした。状況をすぐ把握した義昭は、心おきなく一気に天魔断絶を放って、一匹消滅させた。
残った封印した悪魔と弱くなった悪魔は、亜真知と茜により、完全浄化される。義昭は倉菜の魔力を抑えるために、「封の技」でサポートした。
「なんとか皆、怪我はなくて済んだな…よかった…」
義昭はそう言うと、彼の神格が消える。と共に、気を失った。一番近くにいた倉菜が彼を抱きとめ、倒れるところを助けた。
「結構無茶する人なのね」
「そうなの…」
倉菜の言葉に、音楽室入り口で苦笑する茜だった。
廊下では、
「萌様、今のうちに」
デルフェスがヴィルトカッツェ…茂枝萌に言う。その意味が分かったので、彼女はそのまま去っていった。今は茂枝萌の正体を知る人間を増やせないための適切な行動だとデルフェスは思ったのだ。
幸い、派手な戦いをした割にはガラス窓が割れた程度。亜真知が理力で修繕し、蓮也が書いた文字もさっぱり消して、前の事故当時の状態に戻す。
義昭が目覚めるには結構時間がかかるそうなので、暫く蓮也が負ぶって、神聖都から離れてからタクシーを呼び、長谷神社まで送る事になる。
結局楽譜は一体何だったのか、何処に消えたのか分からないが、さらに被害が大きくなる前に、悪魔を倒せた事はよかっただろう。
Epilog
IO2の事務所。
渡辺美佐は今回のデータをみて、ため息をついた。
「あのクラブおかげで、お仕事減っちゃいそう…でも…」
ため息をつくが、
「萌ちゃんのことも考えると…あの時はデルフェスさんの言う事が正しいのかしら?」
そう、仕事をしっかりこなせなかったため、茂枝萌の代わりに大目玉を食らったのだ。
「でも、はやく片付ける事が出来たので萌ちゃんと一緒に楽しい時間が出来たからいいかな♪」
鼻歌を歌って、残りの作業に取りかかった。
放課後の神聖都。
織田義昭は、暫く自宅で寝ているようだ。飛ばしすぎたためか、地獄の筋肉痛で動けないらしい。その事を聞いた倉菜やみあおは苦笑する。茜はため息だ。
「無茶する人ね」
「多分こうだよ、格好いいとこみせたいな〜って無意識に考えたんじゃない?そうすると人ってオーバーアクションするんだって!」
みあおが笑う。
「結構載りやすいタイプだから、よしちゃん…」
4:00に全員が第4音楽室に集まった。義昭は筋肉痛をおしてまで来たのに皆は心配する。
「では始めましょう」
カスミが、指揮棒を持つ。倉菜はバイオリン、亜真知がデルフェスの持ってきた上質のピアノで、篠原あかりの為のレクイエムを奏でる。茜と雫、デルフェスは歌い、カスミは指揮をとった。蓮也とみあおは、其れを聴いて黙祷する。
義昭は、そのレクイエムを聞きながら…悪魔に食われたの篠原あかりの魂のかけらを見つけ出し「天空剣・封の技・意志封印」で綺麗な青い宝石にした。
「良かったな。完全に食われていなくて…アイツらの胃の中は苦しかったろう…。完全に魂が元に戻るまで…辛抱してくれ…」
彼はその宝石を大事に握った。
茂枝萌は、その音楽を聞きながら、外で何かを探していた。
霊探知器が激しく反応する。
「…これかな?」
木々が生い茂る中に古ぼけた本を見つける。ぱらぱらめくると楽譜のようだ。
微かに、本から音が聞こえるのも気持ち悪い。正体を知らなかったら良い曲だと思ってしまうところだろう。
「美佐さん、チェックお願い」
「OK………ビンゴよ。呪物反応と召還魔力反応を確認したわ」
「じゃ、これ…お願いね」
「分かったわ、萌ちゃん」
萌は本を体呪物特殊コーティングボックスに収め、音楽室を少し見てから、学園を去った。
事件は、猟奇殺人の一つとして扱わる。情報規制でかなり有耶無耶にされ、殆ど新聞、ニュースで取りざたされる事はなかった。実際その方が良いのだと、この事件に関わった者は思っているだろう。
Fin
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■ 登場人物(この物語に登場した人物の一覧) ■
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【1415 海原・みあお 13 女 小学生】
【1593 榊船・亜真知 999 女 超高位次元知的生命体・・・神さま!?】
【2181 鹿沼・デルフェス 463 女 アンティークショップの店員】
【2194 硝月・倉菜 17 女 女子高生兼楽器職人】
【2276 御影・蓮也 18 男 高校生 概念操者】
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■ ライター通信 ■
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滝照直樹です
『音楽室の怪3:血まみれのピアノ』に参加していただきありがとうございます。
今回は、何と同じメンバーという構成でしたので、驚きとともに、感謝しております。
また、殆どの方が音楽魔神をご存じという事もライター冥利に尽きます。
では、又機会が有ればお会いしましょう。
滝照直樹拝
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