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<東京怪談ウェブゲーム 草間興信所>


君がそこにいた

1.
「お母さんを、助けて欲しいの」

防災頭巾にモンペを穿き、おかっぱ頭の少女・・・。
明らかにどこをどう見ても普通ではない。
草間武彦は頭を抱えた。
どうしていつも俺のところにはろくな依頼人が来ないのだろうか?と。
「私の大事なものをお母さんに届けて欲しいの」
少女はなおも続ける。
「私が死んだのは戦争のせいなのに、お母さん、自分のせいだと思っているの。私がお母さんを嫌いって言っちゃったから・・・。だから私の大事なものを見つけて渡して欲しいの」
草間は聞いた。
「その大事なものってのはどこにあるんだ?」
「お母さんが仕舞いこんでしまって、どこにあるか分からないの。きっとお母さんの家にあるはずなの」
「・・・とりあえず、探し物に強そうなヤツに頼んでやる。それでいいか?」

2.
草間から電話を受けたのは丁度、草間興信所への道を歩いているときだった。
暇な時の習慣と化した草間興信所行き・・。
そして、丁度探し物の依頼ということで柚品弧月(ゆしなこげつ)に白羽の矢を立てたのだと草間が携帯の向こうで言った。
「10分ほどでそちらにつくと思います」
柚品はそういうと電話を切り、少し早足になった。
草間興信所のあるビルに入ると一段抜かしで階段を上っていく。
と、草間興信所から声が聞こえた。
「大丈夫!お姉ちゃん達が絶対見つけてあげるから!だから、もう泣かないで?」
どうやら『お姉ちゃん達』と言うからには今回のメンバーは女性ばかりのようだ。
・・まぁ、それならそれで特に不都合があるわけではないのだが。
「あのー、遅くなりましたが『お兄さん』も付け加えておいてください・・」
がちゃりとドアノブに手を掛け、柚品は草間興信所に入った。
中にはシュライン・エマ、丈峯楓香(たけみねふうか)、観巫和(みかなぎ)あげはが小さな少女を囲むように話を聞いていた。


3.
柚品は女性陣に軽く説明を受けた。
少女の名前が『こゆき』であること。母親は今病院にいること。
説明を聞き終わると、4人はこゆきの案内でこゆきの母親の家へと向かった。
母親の家はこの東京では数少ないであろう戦後すぐに作られたような古ぼけた長屋の一角にあった。
鍵は掛かっておらず、家の中も生活の途中で家主が突然不在になったであろうことを物語っていた。
「お母さん、突然倒れたの」
こゆきが誰に語るでもなく、そう言った。
「私、お母さんが倒れるのを見ていたの。でも、何もできなくて・・。近所の人が発見してくれるまで、お母さんはずっと私にごめんなさいって言って・・」
こゆきは言葉を詰まらせた。
「泣かないで。あなたの大事なものを探してお母様に届けてあげる。その為に私達はここに来たんだもの」
エマはこゆきの頭を軽く撫でた。
ゆっくりと深呼吸をしてこゆきは「うん」と頷いた。
柚品は家をぐるりと見回ってみた。
押入れが一箇所、同じく天袋が一箇所、そして屋外に物置らしき物が見えた。
「ねぇ、お母さんがどこに仕舞いこんだか分かるかな?なんか、手当たり次第探すの家捜しみたいだから」
楓香が家の中をざっと見回してこゆきに訊いた。
「押入れの中に入れたの」
「押入れは1箇所・・。ならば、簡単に見つかりそうですね」
柚品はニコリと笑った。
が、押入れを開けた柚品は前言を撤回せざるを得なかった。
なぜなら、押入れの中は崩れんばかりに押し詰められた物で埋め尽くされていたからだ。
「・・こ、これはすごいかも・・」
楓香からそのきっちり詰められた物に思わず素直な感想がこぼれた。
「千里の道も一歩から・・ですね。頑張りましょう、楓香ちゃん」
あげはがポンと楓香の方を叩いて励ました。
意外とぎっちり詰め込まれた荷物の山、崩れないように慎重に運び出さねば。
柚品は押し入れの中から荷物を出し始めた。


4.
押入れの物を出していると、柚品はあることに気がついた。
それは詰め込まれていたダンボールの一つ一つに、中に入っている物とそれらを詰めた日付がキチンと明記されているということだった。
そして、それらは一見無造作に入れられているようで実際は他の物に寄りかかったり崩れたりはしていなかった。

かなり几帳面な母親なんだな。

無駄にダンボールの中身を調べる必要もなく、押入れの中から次々にダンボールは運び出された。
と、柚品は先ほどまで出していたダンボールとは明らかに違うダンボールを見つけた。
「これ・・無記入です」
押入れの奥が見え始めた直後、そのボロボロのダンボールは見つかった。
「・・開けますよ?」
慎重な面持ちで柚品はそう声を掛けた。皆が黙って頷いた。
ダンボールを開けると、中からは色々な物が出てきた。
手作りらしき人形、お手玉、おはじき。
小さな子供服に木彫りの手鏡、髪を梳いていたであろうクシや着物を崩して作られた小さなお守り。
柚品が一つ一つを手に取り、精神を集中させた。
その一つ一つが確かにこゆきの物であったという記憶を次々に見せた。
手作りの人形に喜ぶこゆき、母に髪を梳いてもらい幸せそうなこゆき。
だが、その記憶の最後は全てこの箱に入れた時の母親の記憶・・。

もしかしたら・・・。

無記入のダンボールに手をおき、柚品はサイコメトリーをかけた。
この品物全てに共通する、母親の記憶を探る為に・・・。
「これ・・これ!私の大切なもの!!」
こゆきがダンボールに駆け寄った。
「これ、全部持っていく!そしたらお母さん、わかってくれると思うの!」
嬉しそうにこゆきが笑った。
だが・・・
「それは、やめた方がいいかもしれません」
柚品は静かに首を振った。
「・・どうしてかしら?何か問題があるの?」
あまりに唐突な柚品の言葉にエマは面食らった。
「問題・・というか、お母さんにとってこゆきちゃんの大切にしていた物は少々思い入れが強すぎると思うんです」
柚品は一つ一つ言葉を選んだ。
それは柚品がそれを言うか言うまいか悩んでいる証拠だった。
エマは言葉を待った。
楓香やあげはも柚品の言葉を待っている。
柚品は決断した。
「・・すべてのダンボールに内容物を記入するほど几帳面な人が、何故この箱だけ無記入なんでしょう?」


5.
「わからないよ!そんなの全然わからない!」
こゆきがブルブルと頭を振って泣きじゃくる。
エマが柚品の言葉の真意をわかってくれたのか、ゆっくりと話し始めた。
「いい?あなたのお母様はあなたを亡くしたことで、とても大きな傷を負ってしまったの。そして、あなたの大切にしていたものを全てこの箱の中に仕舞って忘れてしまおうとなさった・・。でも、思い出と呼ぶにはあまりにも辛すぎて、あなたの名前を書くことすらできなかった。・・推測にすぎないけど、柚品さんはそれを見たんでしょう?」
エマに促され、柚品は静かに首を縦に動かした。
「・・じゃあ、お母さん・・お母さん助けられないの?」
涙をポロポロと流しながらこゆきは、柚品とエマを見た。
「まだ、大切なものあるじゃない」と楓香がポツリと言った。
「私もそう思います」あげはがにこりと笑った。
2人はニコニコとしたまま、こゆきに言った。

「お母さんが大切にしてるのはきっと、こゆきちゃんの宝物じゃなくて、こゆきちゃん自身だと思うのよ」
「お母さんは貴女に逢う事が出来たらきっと喜んでくれると思うの。子供は何ものにも代え難い宝だ、っていいますから」

2人の言葉に、柚品は目を瞑った。

確かに、それが一番だろうな・・。

「お母さんのいる病院、わかりますか?」
柚品はニコリと笑ってこゆきに訊いた。
「わからなければ調べるだけよ。興信所事務員ですもの、それくらいは簡単だわ」
エマがニコリと笑い、柚品の言葉に答えた。
「でも、お母さん、私がこうしてここにいること信じてくれるのかな?」
こゆきが、不安そうに訊いた。
柚品は「もちろん」と言った後にさらに続けた。

「だって君はそこに確かにいるんだから。いくらでも俺達が君の口になってあげるさ」

4人は同時にその言葉を口にしていた。



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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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【整理番号 / PC名 / 性別 / 年齢 / 職業】

0086 / シュライン・エマ / 女 / 26 /翻訳家&幽霊作家+草間興信所事務員

2152 / 丈峯・楓香 / 女 / 15 /高校生

1582 / 柚品・弧月 / 男 / 22 /大学生

2129 / 観巫和・あげは / 女 / 19 /甘味処【和(なごみ)】の店主

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■         ライター通信          ■
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柚品弧月様

再びお会いできて光栄です。
この度は『君がそこにいた』へのご参加ありがとうございます。
物語は母親に会う前で終わっておりますが、皆様が少女・こゆきへ思いやりと優しさを持って接してくださった時点でハッピーエンドになっていると思います。
柚品様も書いていたことなのですが、思い出の品と言う物にはそれぞれに思い入れがありひとつに絞れないことが多々あると思います。
こゆきの思いや、行動を教えてあげることがやはり母親にとって一番嬉しいことかな・・と思います。
優しさの溢れるプレイングで嬉しかったです。
それでは、またお会いできる日を楽しみにしております。
とーいでした。